第105話 「僕を殺そうとした挙句、騙すつもりだったんだね?」ソウタの冷酷なガチ詰めに、エルフの守り神が完全崩壊する
「……で、さっき君は『この森を差し上げる代わりに、我々に手を出さないでほしい』と言ったよね」
俺――ソウタは、冷徹な笑みを崩さないまま、里のドリアードの少女を指差した。
「質問なんだけどさ。その『我々』って、具体的に誰のこと?」
「――っ!?」
ドリアードの少女が、絵に描いたようにギクッと身体を強張らせる。
その丸分かりのリアクションを見て、俺の確信は「勝利」へと変わった。
「おやおや、ビンゴか。まさか『この森に住む精霊とエルフ全体』なんて言わないよね? 君が最初に言った、森に住んでる私達と、手出しを禁じる『我々』じゃ、主語の範囲が全く違うよね?」
「それは……っ……」
少女は完全に言葉を失い、青ざめた顔でガタガタと震え出した。
「はぁ……。要するにさ、君はクロリスの主人がサイコだと思い込んでいたわけだ。つまり、森の所有権を譲る代わりに、サイコを精霊契約の呪縛で縛り、精霊とエルフへの一切の攻撃を封じる計画だった。まあ、森を返せば呪縛は消えるんだろうけど、サイコがそんなまどろっこしい事をする前に、精霊契約の『大精霊の罰』で彼を呪い殺すつもりだったんだよね?」
「……え?」
「ははは! 悪巧みのところ悪いが、俺は精霊契約の因果ごと大剣で斬れるぜ?」
サイコが何でもないことのように笑い飛ばす。
「えええええええ!?」
ドリアードの少女の口から、今度こそ絶望の悲鳴が上がった。
契約の概念そのものを斬り裂くバケモノが実在するなど、神話の時代でも聞いたことがない。
「だよねぇ……。つまりさ、精霊やエルフが今後、サイコと敵対したり……いや、サイコを裏から暗殺しようとしたとしても、サイコ側からは一切手出しができない『絶対無敵の安全圏』を都合よく作りたかったわけでしょ?」
「ひ、酷い……っ!」
「ソウタ様を殺そうとした挙句、そんな汚い罠で騙そうとするなんて……!」
俺の解説を聞いたモモカとジュネが、一気に凄まじい殺気を放ち、ドリアードの少女を睨みつける。
「それだけじゃない。何の条件も無しに精霊とエルフをここに住まわせるという事は、逆に言うと、後から僕たちが君たちを『追い出すことができない』契約を結ばせようとしたよね?」
「クッ……!」
少女は悔しそうに唇を噛み締め、俯く。
「いや、何もしない無害な人を追い出す気は最初からないよ? でもさ、僕たちを狙撃したような敵対者が今後現れても、僕たちの意思で追放すらできないなんて……そんな縛りプレイの森を貰って、僕たちに何のメリットがあるの?」
「…………」
「どうせ君たちは、クロリスが同じドリアードだから、森を開拓して住処を荒らすような真似はしないと踏んだんでしょ。まあ、開拓なんて面倒なことする気はないけどさ。だから君たちは、森の名義を僕に変えるだけで、今まで通り何一つ変わらない安全で快適な生活が送れるわけだ」
エルフたちの中に、明確な動揺が走る。
完全に、この引きこもり採取士の男にすべての思考を先読みされ、手のひらの上で転がされているのだと、誰もが思い知らされた。
「それどころか……この森の『防衛戦力』までタダで手に入れるつもりだったのかな? 森が僕の所有物になれば、外部の敵が森を侵略してきた時、僕たちの最強の仲間が勝手に森を守ってくれると考えたんでしょ?」
「い、いや……そこまでは……っ」
「でも、結果的に契約の構造上、そうなっちゃうよね?」
「いや……っ、そ、そうかも……しれません……」
ドリアードの少女は、完全に蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、涙目になっていた。
「自分たちは今まで通りノーリスクで生活できて、国家最高峰の戦力も増強できて、今より遥かに安全に暮らしていけるようになる……。凄いね、至れり尽くせりじゃないか」
冷たく言い放ち、俺は一歩、彼女へと歩み寄る。
「あのさ、勘違いしないでほしいんだけど。君たちから契約で『貰わなくても』、僕たちは力尽くでここに居座ることはできるし、森ごとすべてを奪い取ることもできるんだよ。そっちの方が何の制約もなくて、僕たちにとってはメリットが大きい」
ごくり、と老村長が絶望の生唾を飲み込んだ。
「どうせすべて奪われる結末になるならと、『差し出します』と殊勝なフリをして、自分たちに都合の良い奴隷契約を結ばせようとするなんて……。君たち、僕を殺そうとしたことを本当に反省してるの? これっぽっちも償う気があるとは思えないんだけど」
俺の最後の宣告が、静まり返った広場に冷酷に響き渡った。
「――なるほどな。つまり、コイツらは全員、反省の色のねえ『敵』ってことだな!」
サイコが獰猛にニヤリと笑い、大剣を両手でガチリと構え直す。
空間が裂けるような凶悪な威圧感が、エルフたちに襲いかかった。
「そっかぁ……。ちっとも反省してなかったんだね。森をくれるって言葉に、そんな薄汚い裏があったなんてさ」
クロリスが心底がっかりしたような表情を浮かべる。
だが次の瞬間、彼女の全身から濃厚すぎる漆黒の魔力が溢れ出し、沸々と怒りが沸騰し始めた。森の木々が、彼女の怒りに呼応して一斉に枯れ始める。
「ソウタ様を殺そうとしたうえに、そんな卑劣な罠で騙そうとするなんて……」
ジュネが凍りつくような声で呟くと同時だった。
ゴォォォォォォッッッ!!!
エルフの隠れ里全体、空のすべてを覆い尽くすほどの、見たこともない巨大で禍々しい「神代級の超高密度魔法陣」が上空に出現した。
発動すれば、この森ごと跡形もなく消滅する規模の、終末の魔法。
「ひぃっ……あ、あああ……っ!!!」
里の守り神であるドリアードの少女は、その圧倒的な終末の光景を前に、完全に腰を抜かして地面に尻もちをついた。
もう、言い訳の言葉すら、恐怖で何一つ出てこなかった。




