第104話 最強エルフの「森をあげるから許して」という甘い罠? 主人公ソウタの超現実的なガチ詰めが始まる
「貴女のご主人様を殺そうとしたお詫びに、この森の権利をすべて貴女のご主人様に差し上げます。しかし、私たちには行く場所がありませんので、どうかここに住むことだけはお許しください……。また、これをもって我々に手を出さないと約束していただけますか?」
里の守り神であるドリアードの少女からそう提案され、クロリスは「わぁ、大収穫!」とばかりに満面の笑みを浮かべている。
だが、俺――ソウタは、その甘い言葉に騙されるほどおめでたい頭はしていなかった。
(おいおい、ちょっと待てよ……。一見すると俺たちが得をする最高の提案に見えるけど、これ、とんでもない裏があるんじゃねえか?)
一瞬で冷静になった俺は、この契約の「穴」を瞬時に読み解く。
「クロリス、ちょっと待て。早まるな。……何点か確認させてくれ」
俺が前に出ると、怯えていた里のドリアードの少女が、不思議そうに首を傾げた。
「……貴方は?」
「ああ、俺はクロリスの主人で、さっきお前らのエルフに殺されそうになった本人。名前はソウタだ。俺にこの森をくれるって言うんだろ? 悪いけど、そんな大雑把な契約じゃダメだ。穴がありすぎる」
相手が非力そうな少女の姿だと分かった瞬間、これまでの恐怖がどこかへ吹き飛び、俄然勢いが増す俺。小心者特有の、相手を見て態度を変えるスキルがフル稼働していた。
「むむむ……っ」
ドリアードの少女は、まるで苦虫を噛み潰したような顔になり、俺のすぐ後ろに立つサイコをチラリと見た。
(えっ……? 高位のドリアードの主人って、あの『全てを斬り裂く者』じゃないの……!? この弱そうな人間が主人……!?)
少女の視線に気づいたサイコが、ニヤリと獰猛に笑う。
「ん? 俺か? 俺はソウタの護衛のサイコだ。ソウタの敵は、全員まとめて細切れにしてやるからな?」
へへん、と鼻息も荒く少女を見下ろすサイコ。その圧倒的な覇気に、ドリアードの少女はヒッと小さく悲鳴を上げた。
「まず、最初の質問だ。この契約を俺たちが破ったら、一体どうなる?」
俺の問いに、俺を溺愛するクロリスが即座に割り込んで答える。
「ん〜、これは上位の精霊契約になるから、もし破ったら『大精霊』から直接、消滅レベルの罰が与えられるわね。だからエルフ側は絶対に破れないわよ。安心して、ソウタ!」
「なるほど、相手は破る気がないからいいんだよ。問題は、俺たちがうっかり条件を破ってしまったらマズイってことだろ?」
「まあ、マズイことになるわね。魂ごと魂魄を消し飛ばされるくらいかしら?」
「はん! 相手が大精霊だか何だか知らねえが、心配するな。ソウタに手ぇ出すなら、その大精霊ってやつも俺がこの大剣で斬り殺してやるよ。なぁ?」
サイコが物騒極まりないことを平然と言い放つ。
「そだね。サイコだったら本当に大精霊ごと斬れそうだね」
「えっ……!?」
サイコの狂った発言を、俺が当然のように肯定した瞬間、里のドリアードの少女は完全に絶句した。神を斬ると断言する男と、それを信頼する主人のコンビ。狂っているのはエルフではなく、この人間たちの方ではないかと、彼女の顔が恐怖で引きつっていく。
「よしよし、それはそれとしてだ。そもそも、この森が『精霊のモノ』だって、他の種族――特に人間は認めているのか? 俺たちが譲り受けたつもりになっても、周りの国が認めなきゃ意味がないだろ。特に人間の国が認めてなきゃ、俺たちが『不法占拠だ』って言われて侵略されかねない」
俺の極めて現実的な指摘に、地面に倒れていた老村長セメレが、ふらふらと立ち上がりながら必死に弁明を始めた。
「はぁ……はぁ……! そ、それに関しては大丈夫でございます……! 我々は隠れ里として身を潜めてはおりますが、時折、細々と近隣の人間たちと貴重な素材の取引をしております。ゆえに、近隣の国々もこの森が我々エルフの領域であることは、公式に承知しております……!」
村長は乱れた髭を拭い、少しだけエルフのプライドを取り戻したように胸を張った。
「もっとも、万が一どこぞの人間の国がこの森を攻めようとしてきても、人間如きに我々高貴なるエルフが負けはしませんがな!」
「本当? 蹴飛ばされてヘロヘロになってるおじいさんが言っても、全然強そうには見えないけどなぁ」
クロリスに一撃でボコられた爺さん相手なら、どこまでも強気になれる俺。容赦ない煽りを叩き込む。
「ぐっ……! せ、精霊が、精霊たちさえ一緒に戦ってくれれば、人間の軍勢が何万人来ようと、好き勝手にはさせませぬ!」
「そう言えば、さっきから周りに精霊が一匹もいないね。どうしたの?」
俺が不思議に思って尋ねると、クロリスがくすくすと意地の悪い笑い声を上げた。
「あははは! 私とサイコの殺気(魔力)を怖がって、みんな次元の隙間に隠れちゃってるみたいね〜」
間髪入れず、サイコがフンッと鼻を鳴らして大剣を地面に突き立てる。
「けっ! 精霊なんか居なくたって、人間の軍勢が何万人来ようが、俺が全員この場で斬り殺してやるよ。大丈夫だソウタ、不法占拠だろうが何だろうが、文句を言う奴の首を全員撥ねれば、それが新しい法律だろ?」
うんうんと自己解決して頷くサイコ。
(……本当にこの男、ハンパねえな。流石は原作の『彷徨う裏ボス』だ。サイコが味方にいる時点で、不法占拠だろうが何だろうが誰も俺たちを裁けないっていうね……!)
護衛の圧倒的な戦闘力に胃を痛めつつも、俺は姿勢を正し、ドリアードの少女を真っ直ぐに見据えた。
「ふむ。まあ、外政的な問題はサイコが力尽くで解決できるからいいよ。……ここからが本題だ」
俺の目が、ギロリと鋭く光る。エルフたちの裏の企みを暴くための、真の交渉がここから始まる――!




