第103話 最強エルフの里にノーモーション突入! 村長が秒で土下座する中、さらにヤバい事実が発覚する
(うーん。ラノベの定番だと、こういうエルフの隠れ里って『迷いの結界』とかがあって簡単に入れないはずなんだけどな……。やけにあっさり入れちゃったぞ?)
丸太の高い塀に囲まれた里の敷地に一歩足を踏み入れながら、俺――ソウタは小さく独り言を呟いた。
すると、足元を並走していた雷獣のリャンゾウが、呆れたように耳をぴくつかせる。
(キュ? 主、何言ってるキュ。結界なら、ちゃんと張ってあったキュよ? クロリスが作った道が、跡形もなくぶち抜いただけだキュ)
(うほっ。マジか……。流石はクロリス、やることが容赦ないな)
(ソウタのレベ上げと共に、クロリスの格もとんでもない領域まで上がってるキュからね)
(なるほどねぇ……。俺が知らないうちに、うちの美少女たちはどんどん規格外になってるわけだ)
そんな会話をしつつ進むが、里の正面には門番の姿すらない。
それどころか、頑丈そうな門も完全に開放されている。
「門番が一人もいないね。門も開きっぱなしだし……何だか怪しくない?」
ナナミが周囲を警戒しながら、不安そうに口にする。
すると、索敵スキルを持つモモカが前方を指差した。
「いや、罠じゃなさそうだよ。……広場らしい場所に、村の連中が全員集まってる」
「ふふふ。そう、抵抗は無駄だと分かって、大人しく諦めたのね」
クロリスが不敵な笑みを浮かべる。その背後から立ち上る魔力は、完全に魔王のそれだ。
そのまましばらく歩くと、開けた広場へと到着した。
そこには、この里に住むエルフたちが総出で集まっていた。
だが、誰一人として武器を構えていない。それどころか、一言の声も発せず、ただ生唾を飲み込んで、心配そうにジッと俺たちを見詰めている。
俺たちの到着を確認すると、人混みを掻き分けるようにして一人の老エルフが前に現れた。
「……儂がこの里の村長をしている、セメレと申します。この度は――」
「おい。お前ら、俺たちの『敵』か?」
村長の言葉を遮り、サイコが前に躍り出た。
自分の身の丈より大きな大剣を、まるでおもちゃのように軽々と肩に担ぎ直し、冷酷な眼光でエルフたちを威圧する。
(って言うか、俺をいきなり狙撃してきた時点で完全に敵だよね。まあ、あいつの単独犯って可能性もミリくらいはあり得るか……?)
そう考えつつも、何百人ものエルフから一斉に視線を浴びるプレッシャーに耐えかねて、俺はそっとモモカの背中に隠れるように位置取りをした。
一方、老村長セメレは、サイコの凄まじい威圧感と、その後ろで殺気を放つジュネ(魔族)を見て、ガタガタと膝を震わせる。
(こ、この御方がドリアード様の言っていた『全てを斬り裂く者』か……っ! 恐ろしいほどの闘気……! 逆らえば一瞬で里が消滅するぞ……!)
村長は即座に両手を高く上げ、戦意がないことを全力でアピール。
そして、エルフのプライドなど微塵も感じさせない速度で、地面に額を擦り付けた。
ノーモーションの超高速土下座である。
「て、て、敵ではありませぬ……っ! 此度のことは完全に不幸な行き違い……! 我々が貴方様に手を出すことは金輪際ありませぬ! 深く、深くお詫び申し上げます! どうか、どうかこの里の者たちの命だけは、何卒お助けを――!」
「――退け!!」
「ひええええ!?」
ドカッッッ!!!
突如として、クロリスの無慈悲な前蹴りが村長の顔面に炸裂した。
哀れな村長は、そのまま地面を転がっていく。
「責任者あああ! 出て来なさい!! エルフの分際で、しゃしゃり出て仕切ってんじゃないわよ!!」
サイコの横を堂々と通り抜け、世界樹の若木に向かって大声を上げるクロリス。
彼女の後ろには、先ほど拘束された狙撃犯のエルフと風の精霊が、ボロ雑巾のように地面へ投げ飛ばされていた。
(そうだそうだ、行き違いとかいうレベルで人を殺そうとしやがって! ……しかし、今日のクロリスは過激っていうか、完全にヤクザの殴り込みだな)
と、心の中でだけ、誰にも聞こえないように文句を言う俺だった。
すると――。
「す、すいません……ごめんなさいぃ……っ」
世界樹のふもとの地面から、申し訳なさそうに項垂れながら、一人のドリアードの少女がふわふわと浮かび上がってきた。
この里の守り神である精霊だ。
「あんたがこの森の精霊(責任者)かい」
クロリスは腕組みをし、上から目線で少女を睨みつける。
「私の一番大切な……大好きなご主人様を殺そうとしたことについて、一体どう責任を取ってくれるんだい?」
「はぁ……っ。貴女様のご主人様を殺そうとしたお詫びに……こ、この森のすべての権利を、貴女様のご主人様に『差し上げます』……!」
怯える少女の口から、とんでもない提案が飛び出した。
「ただし……私たちエルフと精霊は、この森を出て行くと本当に行く場所がないので、どうかここに住むことだけはお許しください……! また、我々に手を下さないと、約束していただけますか……?」
「え!? この森、丸ごとくれるの!?」
その言葉を聞いた瞬間、クロリスの表情がパッと華やぐ。
満面の凶悪な笑顔になり、「ねえソウタ、領地ゲットだよ! 良いよね!?」と言わんばかりの顔で俺に振り向いた。
(……ん? 待て待て待て。森を丸ごと貰うってことは……)
「ダメだダメだダメだ! クロリス、騙されるなよ!!!」
あまりの超展開に、それまでの緊張感もどこかへ吹き飛んでしまい、俺は思わずクロリスに向かって全力でツッコミの叫び声を上げていた。




