第102話 美少女精霊からお姫様抱っこ!? 狙撃犯のエルフを吊るし上げ、いざ隠れ里へ乗り込め!
クロリスが魔力で切り拓いた、左右に綺麗に分かれた木々の道。
そこを突き進んだ俺たちの目に、異様な光景が飛び込んできた。
禍々しい黒い茨の蔦。
それに全身を雁字搦めにされ、血塗れで逆さに吊るされたエルフの男。
そして、その横で同じく蔦に拘束されて泣き叫ぶ風の精霊。
「おい……あれは、何だ!?」
サイコが目を見張り、声を荒らげる。
「ああ、ソウタに矢を放ったエルフと、その矢を運んだ風の子よ。逃げようとしたから、とりあえずあそこに拘束しておいたわ」
俺を抱っこしたまま、クロリスが淡々と、だけど凍りつくような冷徹な声で答えた。
「な、何だと……!?」
「あいつらが……ソウタ様を傷つけようとした、万死に値する輩……っ!」
それを聞いた瞬間、サイコの顔が怒りで引きつり、背中の大剣へと手を伸ばす。
ジュネの瞳にも激しい怒りの炎が灯り、即座に迎撃の呪文を唱え始めた。
だが、クロリスの冷たい声がそれを遮る。
「ダメよ。これは私の獲物なんだから。……私に任せて?」
ピキピキと音を立てて、サイコの両手首に細い蔦が絡みつく。
それは「手を出すな」という、精霊からの絶対的な警告だった。
(……チッ。強引にこの蔦を引き千切って、あの生意気なエルフの首を撥ねることもできるが……。そもそも矢を防いで敵を瞬時に捕らえたのはクロリスだ。ここは彼女の面を立てて任せるか。しかし、いつもボーっとしているだけの女かと思ってたが……中々やりやがるな)
「――分かった。クロリス、お前に任せる」
サイコは強引に両手を引き剥がして蔦を千切ると、大剣をダラリと下ろした。
その目は、完全にクロリスの実力を認め、値踏みするものへと変わっている。
一方、ジュネの頭上には、まだ高密度の魔法陣が浮かび上がっていた。
「ジュネ、怒るのはいいけれど、それよりもソウタを見てて貰おうかな?」
そう言って、クロリスは腕の中にいた俺を、ジュネへとひょいっと手渡す。
「えっ、ええ!? ソ、ソウタ様!?」
慌てて俺を受け止めるジュネ。
彼女の動揺に合わせるように、頭上の凶悪な魔法陣は霧散していった。
「ふう……ありがと。いくら何でもお姫様抱っこは恥ずかしすぎるよ。このままエルフの村まで運ばれたらどうしようかと思った……」
ジュネの腕に抱きしめられながら、俺は情けなく息を吐く。
情けないことに、恐怖のあまりまだ腰が抜けていて立ち上がれない。
「だって、ソウタの回復を待っていたら、あいつらへの『お仕置き』が遅くなるでしょ?」
「とは言ってもさぁ……」
クロリスと俺がそんな会話をしていると、後ろから遅れていたブリュンヌ、ナナミ、モモカが息を切らせて追いついてきた。
「ナナミ! ちょうどいいところに! 特上の回復薬を出してくれ。なるべく……その、美味しいやつね!」
「もう、ソウタは本当に我が儘なんだから。普通、ポーションの味なんて二の次だよ?」
ナナミは呆れたようにため息をつきつつも、表情はひどく甘やかすような笑みを浮かべている。
彼女がマジックバッグから取り出したのは、ナナミにしか作れない特製の「めちゃくちゃ美味しい特級回復薬」だ。
「ありがとう!」
受け取り、ゴクゴクと一気に飲み干す。
美味い。ジュースみたいだ。
空になったビンを手際よく自分のマジックバッグに収納する。
「いや、味がイマイチの回復薬って、こういう時に一気飲みするのがキツイんだよ。……おっと、効いてきた。ありがと、これで歩けるよ」
ジュネの華奢な肩を借りて、ようやく立ち上がることができた。
足元の感覚を確かめながら、俺はしっかりと一歩を踏み出し、吊るされたエルフの前に立つ。
「コイツが、俺を狙撃したやつか……。クロリス、この後どうするんだ?」
「勿論、このまま綺麗さっぱり許してあげるわけないじゃない。責任者を出させて、きっちり責任を取ってもらいましょう?」
「と言うことは……このままエルフの村に乗り込むんだな?」
「そうそう。ソウタを殺そうとしたんだもの。ただで済むと思ったら大間違いよ?」
クロリスの言葉に、後ろの面々が殺気をみなぎらせて同調する。
「そうですね! ソウタ様を狙った罪、徹底的に責任を取らせましょう!」
「賛成! ギタギタにしてやる!」
「聖者様を襲った罰です。一族もろとも、相応の報いを受けてもらいましょう」
ジュネ、モモカ、そして獣人のブリュンヌは、エルフの村を滅ぼす勢いで乗り込む気満々だ。
「え〜……本当にいくの? ソウタが無事だったんだから、そこまで事を荒立てなくても……」
平和主義なナナミはちょっと嫌そうに身を引く。
だが、周囲のヒロインやサイコたちの「絶対に殺す」というガチな目線に圧され、だんだんと声が小さくなっていく。
最後は、微かに聞こえるか聞こえないか分からないくらいの音量でブツブツと呟いていた。
「何を言ってるんだ。売られた喧嘩は、相手が消えてなくなるまで買い叩くのが鉄則だろ?」
ナナミの呟きを耳聡く拾ったサイコが、獰猛な笑みを浮かべる。
彼は自分の身の丈を超えるほど巨大な大剣を、まるでおもちゃのように軽々と肩に担ぎ直すと、木々の道の先――エルフの隠れ里がある方角を冷酷に見据えた。
「――さあ、行こうぜ。クソエルフどものツラを拝みにさ」
主人公ソウタを脅かした代償は、あまりにも重い。
怒れる最強の身内たちが、ついに傲慢なエルフの里の門を叩く――!




