第101話 エルフの守り神「相手は私より格上だし、さらに『全てを斬り裂く者』までブチ切れて向かってきてるから無理ぃぃぃ!」
「精霊が、一匹もいなくなるなど……!」
エルフの隠れ里。
村長は青ざめた顔で屋敷を飛び出し、里の中心にそびえる『世界樹』へと走った。
この里の世界樹は、まだ若木だ。
だが、その若木にはこの里の守り神である「ドリアード」が宿っている。
エルフたちは彼女を崇拝していたが――当の精霊側はそんなこと微塵も思っていない。
精霊から見れば、エルフなどただの「都合の良い従者」に過ぎないのだ。
「ドリアード様! 里の精霊たちが消え去りました! 一体何が起きたのですか!?」
村長が世界樹にすがりつき、必死に問いかける。
すると、幹から美しい木々の精霊――ドリアードが姿を現した。
「ふむ……。どうやら、この森に『外部のドリアード』が立ち寄ったようだな。それをエルフの男と風の精霊が、愚かにも襲撃して怒らせてしまったらしい」
「な、何と……! エルフの不祥事ですか! 早くお怒りを鎮めねば……!」
「うむ。この森の精霊たちも、彼女の高すぎる神格と怒りに怯えて、すべて隠れてしまったのだ」
村長は冷や汗を流し、守り神に頭を下げた。
「ドリアード様! どうかその、流れのドリアード様のお怒りを鎮めるよう、お話し合いをしていただけませんか!?」
「無茶を言うな。気配からして、私など足元にも及ばない『遥か上位の存在』だぞ? 我が頼んだところで、聞き届けてくれる保障などない」
「そ、そんな……! ですが、相手が高位の精霊であれば、なおさら人間の言うことなど聞き入れないはずです! お話だけでも、どうか……!」
「チッ……風の精霊も原因の一端のようだし、仕方ない。話しかけるだけだぞ?」
「ありがとうございます!」
村長がホッと胸をなでおろした、その瞬間。
「ひぃ……ッ!? い、嫌よ! ダメ、ダメダメ! 絶対にダメぇぇぇ!!!」
さっきまで傲然としていた里のドリアードが、突然ガタガタと震え出し、顔面を蒼白にした。
「ど、どうされたのですか!?」
「す、全てを斬り裂く者も……あの『最強の魔族』も一緒に怒って、こちらに向かって来ている! あ奴は誰にも止められん! 敵はすべて肉片に変えられるのだ! ひゃああああ! おかあさああああん!」
「――なっ!? 全てを斬り裂く者……!?」
里の守り神は涙目で絶叫すると、世界樹の幹の中へと文字通り逃げ隠れてしまった。
エルフの村長は、その場にただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
◇
一方、その頃。
怒りに燃えるソウタ一行。
「クロリス! 敵はどっちだ!?」
サイコが怒りを隠そうともせず、大剣を引き抜いて怒鳴る。
「あちらだな。……少し待て」
クロリスが冷徹な声で何かつぶやき、細い指でエルフの里の方向を指差した。
ズズズズズズン……ッ!!!
その瞬間、指し示した方角の地面が激しく揺れる。
生い茂っていた大木たちが、まるでモーセの海割りのように左右へとひとりでに動き、真っ直ぐな大街道を作り出したのだ。
「私に付いてきて」
クロリスは、腰を抜かしているソウタをひょいっと抱き上げると、そのまま宙へと浮かび上がった。
(ひゃ、ひゃあああ!? 俺、美少女精霊に完全なお姫様抱っこされてるんですけど!?)
ソウタの心中など露知らず、クロリスは超高速で動き出した道を進む。
「ピィ!」
青い鳥のブルが鋭く鳴いて先導し、
「おう! ぶち殺してやる!」
「ソウタ様を狙った罪、命で償わせます!」
サイコとジュネが、凄まじい殺気を放ちながらクロリスの後を追う。
「(絶対に許さないキュ……!)」
聖獣リャンゾウが、全身に雷光をまとって爆走する。
そして、その後ろを追うブリュンヌ、モモカ、ナナミ。
特にサイコ(魔族)の放つ「すべてを斬り裂く」禍々しい闘気が、森の木々を無自覚に消滅させていた。
最強のブチ切れ集団が、傲慢なエルフの里へと容赦なく進撃を開始した――。




