6話 大炎上
冷静になってくれた神官長様。どうして溶けたのか。それを知るためにも話を聞かないといけないんだけど……
……
この状況を全て、何者かによる行動と思っているのどうしたらいい?
と、とにかく、みんなを助ける手がかりだよね。そう、手がかり。
白い壁は、黒くなっている。エレが魔法具で補強してくれている。神殿が崩れるという事にはならずに済みそう。後でフィルに頼めばいいから。
「白はまた塗っておけばいいと思うの」
「感謝いたします。創世姫様」
「うん……えっと……その……何か聞こうとしたけど忘れた! 」
そっかぁ。忘れたんだね。えらいね、ちゃんと言えて。素直なエレを撫でてあげようとしたら、隣からとんでもない圧を感じた。気にせずに撫でるんだけど。
ミドゥの機嫌でエレを甘やかさなくなるとかないから。
エレは「ふにゅふにゅ。」ってかわいい。エレの愛しさにやられたんだろう。神官長様も、にこやかに「忘れてしまわれましたか。」なんて言っている。僕らがおんなじ事を言ってもそうはならない。
これは、エレの特権だね。
「神官長、あの、どうして凍った状態から抜け出せたんですか」
「知らん。神殿が燃えているのが見えて勝手に動けるようになっただけだ! 」
相変わらず、訳わかんない。この人ほんとにさ、どれだけ伝説作れば気が済むんだろう。以前、神殿の権威を利用しようとした連中が襲った。とか聞いた事あるんだ。その時も、他の神官達が洗脳される中、一人だけ『情けない姿を創世姫様に見せられるか! 』とか言って、洗脳魔法を退けたらしい。ミドゥが話していた。
この人を当てにしたらだめかも。一般人の思考してない。当然のように言っているあたり、気づいてすらなさそう。
「……ヴィーだと溶かすはむりか。どうする? 」
「ふぇ⁉︎ ……えっと、みんなが神官長様みたいに、自力で溶かせるように促す」
フォルがエレに振ったのは、今回の任務の説明で言っていたから疑問はない。エレの回答の方は別だけど。それをできると本気で思っているんだろうか。
……ふと、壁の方を見る。
白色の壁だったのに、焼けこげて黒くなった壁は、まるで僕らのよう。でも、壊れてはいないんだ。ここから、白に変える方法はどこかにあるはず。
「……全員はむりかもしれない。本人の強さにもよるから。でも、エレの方法は使えるかも」
「使える? みんなかみんな、神官長様のような化け物じゃないよ? 」
「うん。わかってる。だから、これも賭けだよ。根っこの部分にある強さ。それを引っこ抜くんだ。根っこの意思で、自ら打ち破ってもらう」
……だいぶ、むりがある。けど、決して不可能というわけじゃない。なんでだろう。とても懐かしいや。
わずかな可能性の中を狙うフォルに、僕らはついていくよ。翠色の瞳は、どこまでも強く気高い。美しいそれに、見惚れる人は数知れず。
見惚れる……
……
……
……そうだ⁉︎
見惚れさせればいいんだ! 強力な想いを生み出す。僕らにはそれができる。愛の神魔聖である僕とミドゥなら。
フォルの賭け。その勝利の可能性を少しでも上げるために、僕らは選択を思考する。
「ミドゥ」
「うん。フォル、ぼくらにも考えがある。その賭けに勝つために」
「わかった。想いの方は任せるよ。エレとイシュにも頼みたい事があるけどいいかな」
エレとイシュが顔を合わせる。答えなんて、考える事ない。すでに出ているんだろう。二人がフォルの方を見て頷いた。
「防御魔法かけてくれない? 溶かすのに炎は必要だと思うから」
エレはきょとん。イシュは理解。エレの方は、炎を使う理由と、防御魔法を使う理由。どっちについてわかっていないんだろう。両方かもしれないけど。
でも、ごめん。エレに説明している暇はないから。意味わからないという顔をしながらも、エレは収納魔法から魔法杖を取り出している。ぎゅっと握るその愛らしい手に、イシュが触れている。頬を赤らめて。
少し息が荒いのは気のせいで済ませていいんだろうか。ちょっと妹の教育によろしくないんでやめてもらえますかね。とか言っていいんだろうか。
……一応これでも、魔聖姫だから、言いづらいんだよなぁ。しかも、エレもイシュだいすきだから。
ピンクの光……二人で一つの魔法杖を使うとか初めてだよ。おんなじものならわかるけどさ。君ら系統一緒なだけで、使ってるもん違うでしょ。エレは神聖術でイシュは魔法なんだから。
そんなツッコミをしてくれるゼロがいない。ほんわか空気が二人の間に流れている。
そして、それを見ているミドゥがなんか怖い。僕に抱きついて離れないんだ。
この後の共同作業大丈夫かな。僕の方が失敗しそう。ミドゥはいいかもしれないけど。
「……君らも、頼める? 」
「うん……たぶん」
なぜか息ぴったり。何も合図なんてしていない。なのに、術と魔法の発動が同時。一秒の狂いもない。ほんとさ、隣の恐怖心どうすてばいいの? 同時にする必要性がないからって、合図しなかったんだよ?
ハートの光。みんなに愛を届けと、降り注ぐピンクの雨。
これで準備はできた。あとは、炎で溶かすだけ。成功すれば、みんなは動けるようになる。
神官長様が祈りを捧げている。今どこに祈ろうと、結果は変わらないというのに。一人の祈りじゃ、ね。
まぁ、目に見えない何かに頼りたくもなるか。こんな状況だと
僕らも、変わんない。結局は、愛という目に見えないものに頼ろうとしているんだから。魔力や神聖力もそうか。目に見えない何か。それは変わりない。
「ヴィー、頼める? 」
「……いいが、また」
「まっ、大丈夫だろ。失敗したらしたで、オレとフォルでどうにかできんだ」
それは最終手段だけどね。氷が溶けさえすれば、どうにかできる。
さっきの失敗があってか、人相手に使うのを躊躇しているヴィー。
こういう時に軽く考えられる方が異常なのかもしれない。
ギューみたいにね。
「……ヴィー、エレのお願い。創世姫の愛した……エレの愛したこの場所を守りたいの。この場所に住む人を守りたいの。だから、協力して」
「……わかった」
さすがはエレ。創世姫の願い。エレ以外には簡単に口にできない言葉だ。エレは当人だから。
ぬいぐるヴィーがヴィーに進化した。
赤い光が周囲に広がる。
予想はしていたけど、やっぱり燃えた。大炎上。エレとイシュの防御魔法のおかげで、凍っている人達は守られている。完全に悪影響がないとは言い切れないけど。
黄金の光の蝶。久々に見た。巨大な黄金の蝶が舞う。もし、僕らの推測が正しく、全てが成功していれば、みんな動き始めるはず……
……
……
……
誰一人として、動かない。どこかで失敗していた? それとも……
「全部、問題なかったはずだ」
うん。僕もフォルと同意見。成功できていたはず。なのに、失敗したのはやっぱり、僕らの推測が甘かっただけなのかもしれない。神官長様が特別だっただけで。
「……」
「……理論上は、溶けてるはず、だな……とすれば、人が」
「ギュー、待って……何か感じるの……また、澱み……」
少なくとも、さっきまでは感じていなかったはず。感じていれば、エレは真っ先に気づいている。
「……さっきまでは、何もなかったの。なのに……炎で解けたのは、澱みみたいに……突然、ぼわぁって出てきたみたい……なんだか、怖いの……普通の澱みじゃないみたい……黒い聖星宮殿の時みたいな……」
黒い聖星宮殿……ゼロが攫われた時の事か。あれは、正式名称は知らないけど、邪神なんて呼ばれる種族が関わっている。という事は、これも……
「……そういう事か」




