3話 合流
祭り。いい思い出の方が多いかな。神殿が白いから? 白い店が多い。緑色の草の上に咲く白い花。上から見たらそんな感じに映るのかな。そうなれば、エレの姿をしているエルは、愛らしい空色の花?
そんな事はほんとにどうでもいいのかもしれない。澱みは、もう消えている。僕らがエルの部屋で着替えをしていた時に、フィル達がどうにか解決してくれたのかな。
まだ初日だから油断はできないけど。まぁ、今日はこれ以上何か起きる事なんてないだろうね。
特殊な短剣を小さくて丸い的に当てれば、髪飾りが貰えるんだって。しかも、その髪飾りがエルに似合いそう。エルに似合うという事は、ティアに似合うという事。しかも、二つセットになっている。片方はティアに、もう片方はエルにあげれば喜んでもらえるのかな。
短剣投げは、あんまり自信がないんだけど……
エルとティアのため。
「お兄さん、その短剣投げ一回やらせて」
今日は結構持ってきているんだ。金を払って、短剣を一本受け取る。
指定の場所に立ってみると、思ったより遠い。しかも、小さい。
これでも、神聖として、ギュシェルの主の補佐として、長年経験を積んできたんだ。この程度できないと、エルグに笑われる。あの人、僕の事情全部知った上で僕を引き取ってくれたから。この程度できないでよく神聖なんて名乗られるなんて思われる気がする。
「……すぅ……ふぅ……」
深呼吸をして、短剣を構える。距離と場所を見定めて
「えい」
なんかエレみたいな声出た。投げた短剣の先は……
ちょうどど真ん中。さすが僕。これで、ティアとエルにあげる髪飾りは手に入った。
でも……
今のこの状態で渡しづらい。
「エル、シェフィ。大丈夫だった? 」
ティアだ。澱みの事、知っているんだ。ティアも気が気じゃなかったんだろうね。いつ何が起きるかわからない状況で、聖女として希望を振りまいているなんて。
それにしても、後ろ姿だけでよくわかったね。僕はともかく、エルは気づかないでしょ。後ろ姿だけならエレと勘違いしてもおかしくないから。
「せ、聖女様⁉︎ ほ、本当にお会いできるなんて」
まぁ、そうなるか。
「繁盛、祈っております。エル、シェフィ、あっちで少し話しない? 」
笑顔振りまき疲れたのかな。少し顔が引き攣っている。
「うん。エルも行こ」
三人で人目のない場所に移動する。ティアも少しくらい休憩必要だと思うんだ。
僕とエルが話していた場所。そこで、魔法を使う。ティアが目立たなくなる魔法。その魅力を完全に消し去る事はできないんだけどね。でも、少なくとも、聖女様だとは思われなくなるんじゃないかな。この、ピンク色のストレートの髪を見れば。それに紫色の瞳。
ついでに着替えもしといた方がいいのかな。そう思って、部屋に行こうと提案しようとした。
ティアは、僕が何か言うより先に聖衣を脱いだ。まさかの下に私服を着ていた。
聖衣は収納魔法具にしまっている。これなら、誰もティアとはわからない。偽名ならぬ本名使えば尚更。
「イシュ、一緒に店回ろっか」
「えっと、いいの? 邪魔にならない? 」
「もう充分堪能したからいい」
堪能ってなに? ティアは何を知っているの?
「そうだ。ついでにこれ、二人ともつけてよ」
空色のリボンの髪飾り。二人によく似合っている。それに、兄妹お揃い。なんかいいよね。
エレは、僕がお揃いがいいって言ったらどう答えるんだろう。してくれるのかな。
「じゃあ、どこから行く? かなり広いから、どこからか決めないと」
「オル達に会いに行かない? ちゃんと仕事しているか見に」
「そうだね。それに、今回はギューも参加しているみたいじゃん。あっちの仕事もどうなっているのか確認しておかないとだね」
ある程度、今回の任務についての概要は知っている。僕らが関わる方以外に関しても。
『シェフィ、オルに会うなら、報告書を渡しに行けそうにないと伝えて欲しい』
エルグからの連絡だ。指示じゃなくてただの私情。さっすが〜
向こうも向こうで忙しいというより、ギューまで抜けた穴を埋めないととか思ってんだろうね。
オルもギューも、自分の仕事はちゃんとしていると思うんだけど。本人達は、押し付けてきたみたいに言っているんだろうけど。
「伝えてはおくけど、了承してくれるかどうかは別だよ」
「……シェフィ? エルグからなら、今回の祭事に関しての協力神官長がお礼言ってた」
「そっか。エルグ、神官長がまた仕事請け負ってくれるって」
ん? 何言ってんだみたいな目で見てる。ティアは知らないのかな。エルはわかっているみたいだけど。僕らにとってのお礼は仕事の請負。何を隠そう、ギュシェルとギュゼルと管理者は万年人手不足だからね。
だからなのかな。あの人達の半数が好きな言葉休暇なの。もしくは休み。
ちなみにフォルは優秀な人入ってきた。闇が見えるね。
僕は、そんな事なく、のんびりと気ままにやらせてもらっているんだけど。
「……あのぉ、仕事請け負うなんて話は」
「イシュにはやらせないようにするから安心して。君はたまには休んだ方がいいよ」
休みが取れると言われても仕事が入ってきいるから。僕やエルとは違って、そこまで体力あるわけでもない。休みを与えてあげないと。
「うん。ありがと」
「……シェフィ、シェフィ、エレね、シェフィの事すきだから……エレの方も休めるように頼んで? 」
自分が請け負いたくないからって、エレの真似まで始めてきたよ。しかも、だいぶ完成度高い。うるうる瞳に、僕にお願いする時の両拳で口元を隠す仕草。恥ずかしそうに言うその言い方まで、エレを完全再現。
そんなにエレの事すきで見ていたのかな。
一言で言えばかわいい。
「うん。いいよ……って、なるわけない……わけない」
だめだった。あの涙を溜めて僕を見つめる目に負けた。というか、エレよりエレの魅力を引き出す方法を心得ていないかな。
「ありがと。エレのだいすきなシェフィ♡ 」
「エル、流石にそこまでされても……そこまでしなくても、ちゃんと言ってあげるから大丈夫だよ」
いくら仕事したくないからって、エレなりきりしすぎでしょ。ほっぺちゅまでしなくていいよ。そこまでしなくても、頼まれて断れなかった時点でちゃんと言うから。
「……シェフィって鈍感だよね」
「僕が? 鈍感なのはエレだけでしょ」
僕はそんなに鈍感じゃないよ。気づいているよ。エルがエレをだいすきとか。偽名に参考にするくらいすきとか。フォルがエレすきとか。ギューがエレすきとか。ティアが実は恋人とらぶらぶとか。
気づいているから。なんでそんな疑うような目で見るのかなぁ。
「……店回るんでしょ。早く行く。全部三日間で回るから」
「それイシュ疲れるから却下」
「却下を却下。イシュならぼくの妹だから大丈夫」
「え〜、大丈夫なのかな〜……本当にこれ邪魔じゃないの? 」
体力面でティアは自分が邪魔になると心配していたのか。それは、絶対にないとは言い切れないかも。僕とエルの体力は、神魔聖の中でもトップクラス。
ティアはそれなりにはあるけど、神魔聖の中で言えば下。エレの次くらいかもしれない。
「エル、イシュが疲れたら休むよ」
「……ぼくも、一応有名な神官なんだけど。そう呼んでたら、人集まるかも」
それはそうかも。
「ミドゥ」
「うん」
あっ、ご機嫌になった。エルのご機嫌取り、エレ以上に理解できない。一体何に機嫌損ねてたんだろう。ティアだけ本名の愛称で呼んでいたから? そんなの気にする性格とは思えないんだけど。
「イシュ、ミドゥ」
「イシュの方がすきなんだ……」
「なんなの……ミドゥ、イシュ、オル達向こうの方だから行こっか」
ほんっと、わけわかんない。どっち先言おうといいじゃん。言いやすさだよ。すきとかじゃくて。
さて、僕らがオル達に会えるまで、一体僕は何回エルの機嫌を損ねるんでしょう。




