2話 不思議な日
澱みが全然消えないから、ねこに建物の中に避難してもらう。その後に、僕らも解決に動く。あの二人が手こずる事なんて、そんなないと思うんだけど。
とりあえず、流れる澱みを辿ってみるのがいいのかな。どこへ行っているんだろう。えっと、人が多い場所からは離れていそう。被害を出そうとは思っていないのかもしれない。離れていても、充分な被害が出ると推測している可能性だって十分にありはするんだけど。
神殿の裏。人がそんなにいない場所。澱みの川の終着点はそこだった。
どうしてこんな場所を選んだのか。それよりも先に、浄化しないと。なんだけど、これ僕らで浄化できるものなんだろうか。エレいないから。
姫達じゃないと浄化できないものだとしたら、ティアに頼むしかないのかな。
「……シェフィ、もう一つだけ知っている事ある。あの時のような、魔物を生む例外を除けば、今のぼくらでも浄化できる。特に、今回のような場合は、姫じゃなくて、神魔聖案件」
さっすが僕のかわいいパートナー。言わずとも僕が考えている事をわかるなんて。
それなら、さっさと浄化魔法を使って淀みの浄化済ませようか。
白い光が、澱みの渦を包み込む。きらきらと、空へ向かう白い光。そして、浄化……
浄化、完了って、そうなる流れじゃん? エルだってできるって言ってたじゃん。
エルがこんな事で嘘つくなんて絶対にないよ。言い切れる。
……
ねぇ、なんでまだ黒いの?
……
待っていれば浄化されるってパターンじゃない。待っていても何も変わらない。
「……浄化の仕方が悪かった? 以前おんなじようなのは浄化できたんだけど」
実践済み。なのに今回はできない。今回とそのエルが関わっていた昔の件。何が違うんだろう。僕はいなかったからわかんない。エルに頼るしかない。
でも、待っているだけも暇だからもう一度試してみる。今度は、愛術を合わせて。その方が浄化の効果も上がるはずだから。
ピンクの光。今度こそ大丈夫。そう思っていたんだけど……
……また失敗。これって、ほんとに澱みなんだよね? 浄化系で消えるあれなんだよね? 明らかにおかしいそれは、ふよふよと浮いているだけ。見た目はいつものそれと変わらない。
「……シェフィ、もう一度浄化使おう。シェフィは浄化術、ぼくは浄化魔法。同時に使う」
同時に……確かにそれなら可能性がある。術と魔法の同時使用。しかも、それに長けた僕ら。僕らなら、掛け合わせて数倍の効果を発揮できるかもしれない。やった事ないから、どうなるかわかんないけど。
でも、きっと大丈夫。きっとどうにかなる。そう信じて、僕はエルと手を繋いだ。
浄化術に、愛術を混ぜる。エルの魔法と合わさり、巨大なピンクの光が、優しく澱みを包み込む。
消えた澱み。エルの目論見通り、僕ら二人の力を合わさったからこそなんだろう。でも、神殿の周囲にある澱みが完全に消えたわけじゃなさそう。まだ一箇所残っている。僕らでもわかるほどのものが。
その近くに、オルとフィルがいるみたい。そっちはほんとに任せてもいいかな。
「……シェフィ、役目終わったから、祭り回る」
「その格好はまずいでしょ。目立つよ? 」
「なら、着替える。着替えるから、ぼくの部屋に一緒に来て、一緒に着替えよ。今日は厚底靴も脱ぐから」
神殿で支給されている聖衣の丈が合わないんだったかな。それで、厚底靴で誤魔化していると。十センチ以上。本来の身長、僕とそんなに変わらないから。
エルが僕の手を握ったまま、建物の中に向かって走り出した。神殿の廊下を走らないでください。とかってないのかな? かなり滑るから転びそうだよ。
少なく見積もっても、エレなら三回は転ぶ。そのくらい滑りやすい。ちなみに走ってじゃなくて歩いて。
掃除をしっかりしている証拠なのかな。
「ここ。ぼくの部屋。何回か入った事あるよね」
「うん」
「ソファに座って」
「ねぇ、なんか企んでる? 」
いくら僕でも、そろそろ怪しくなってくる。ずっとこの調子だから。明らかにおかしいくらい積極的。普段のエルとは全然違う。どういう事なのか、問いただそうと今までしてこなかった。でも、流石に気になりすぎる。
エルは、自然と着替えを始めている。なんだろう。絶対に僕好みに合わせにいっている。自分の好みじゃなくて、僕の好みに合わせるって何かあるでしょ。
「……」
なのにエルは何も答えてくれない。
あれ? もしかしてこれは夢なのかな。現実じゃないのかな。そんな事まで思えてくる。
「紅茶、用意する? 」
「祭り行くんでしょ……何も入れる気ないんだよね? 」
「最近、いい茶葉が手に入ったからどうかなって思っただけ」
いい茶葉が入った。変な事は言っていない。言っていないのに、なんでそれで納得できない僕がいるんだろう。わぁ、そうなんだ〜。とかいえない。
「どう? 」
かわいさに動きやすさ。それに、わずかな幼さ。全てが兼ね備えっている。エルは僕の趣味をよくわかっていらっしゃる。
「かわいい」
「そう」
心なしかうれしそう。どうしてなんだろう。まぁ、うれしいなら別にいっか。
この服がエルのお気に入りで、僕が褒めたからよろこんでいるだけかもしれないし。
考えすぎるのもよくないよくない。
「シェフィも。この服着て」
「えっ……それ、エルの……」
「着て」
今日は積極的だけじゃない。押しも強い。いや、いいんだよ。いいんだけどさ……言わせて欲しいかな。
持っている服が、僕に着てと頼んでいる服が、完全にエルの好みなんだよ。どういう事? 僕の好みの服を着出したかと思えば、僕には自分好みの服を貸すなんて。
ほんとに、ほんとに何も企んでないんだよね?
着るけどさ。
普段の服より少し動きづらくはあるかな。あんまり気になんない範囲だけど。
「着替えた? シェフィ、しばらくは仕事着で行動するの避けた方がいい。例の組織が警戒しているらしい。だから、その服ともう一着あげる。それ着て」
わぁ、なんでだろう。警戒されている。何かないように。心配してくれているだけのはずなんだけど、なんか無駄に圧が強い気がする。断ったらどうされるかわかんないくらい。
しかも、用意してるもう一着が、またまたエルの好みなんだよなぁ。
満足そうにしているエルを見ていると何もいえないんだけどさ。
「似合ってる。靴はこれね。歩きやすいのにしたから。絶対これ」
「……うん。ねぇ、何も企んでないんだよね? 」
「……」
なんで黙るの⁉︎ だまんないでよ。怖いから。ほんとに何か企んでいると思っちゃうから。
「あっ⁉︎ ぼくはティア見た目似てるから、ウィッグと目の色変える魔法具使わないとだった」
ああ、そっか。僕は別に大丈夫だけど、エルはやばいか。
既視感しかないウィッグ。長い髪で、僕と似た色。そして、青とピンクのグラデーションの瞳。ほんとさ、既視感しかないというか、何を狙ってんの?
「エル? あの、エレの……エレの真似してどうしたの? 」
「……これなら誰もぼくがティアの兄だと思えないでしょ? 」
そうだね。ティアの兄には思えないね。僕の妹にしか見えないね。もう頭が追いつかない。
色々と経験してきたよ。でもさ、こんなのは経験した事ないよ。身内のような相手が、身内に変装してるなんて。しかも、ノリノリで。
「行くよ。早く行かないと、祭り終わる」
わけないじゃん。神殿の催しは三日。最終日が、一番重要。その日に聖女が平和を願う儀を行う。というわけで、祭りは急がなくても終わんないんだよ。
しかもその三日間、交代で一日中出店開いてるから。ほんとに急ぐ必要どこにもない。
なのにエルは、早く早くと僕を急かす。人が多い場所はあまりすきじゃないはず。祭りも、疲れるとか言ってティアに誘われても、あまり乗り気じゃない。だから、ただ祭りを楽しみたい。とは違う気がする……なんなんだろう。知ってる人いたら教えて欲しいよ。




