1話 不思議なねこ
神殿の祭事。今日がその日。ぎりぎり間に合った僕らは、転移魔法で本殿へと移動する。
懐かしいかな。ここで、エルは働いているんだ。ティアも。
それに、ここは創世姫の創った世界。英雄と彼のおかげで、どうにか無事に残っている。かつての姿はないのだけど。
白い神殿。今日は少しだけ華やかだ。
僕はエルとなぜか手を繋いでいる。なんか、自然にこうなってた。なんでと言われて、そうなんだと納得のできる回答がないくらい自然に。
白い建物から出てくる金髪の姫。ここにいると本当に絵になるよ。
「ティア、こっちの状況は? 」
「今の所は何もないよ。でも、なんだか暗い空気がある。エンシェア組織の仕業というより、邪神とまで呼ばれる種族の仕業。そう考える方が、納得できるくらいに」
ティアの言葉。何かが引っかかる。金髪から覗かせる不安げな瞳。
周囲は普通に祭事を楽しんでいるよう。数年に一度の事だから。しかも、近くで神和の聖女をお目にかかれる。言葉を交わす事すらできるかもしれない。そのために来ている人たちがほとんどだろう。
「ティア、君は祭りを楽しんでいな。僕らがちゃんと守ってあげるから」
「それがぼくらの役目だから。それに……ティア、邪魔、しないよね? 」
邪魔? ティアがいて邪魔な事なんてどこにもないと思うんだけど。
「しないよ。二人とも気をつけてね」
「うん。シェフィ、行こう」
「えっ⁉︎ うん。ティアも気をつけて」
エルに急かされて、僕はティアと別れる。
緑の地面を歩きながら、エルは僕を見てくれない。少し前から、少し歩くごとにこっちをちらちら見てきていたのに。
楽しんでいる人達の方を離れる。神殿に堂々と入れるのは、エルがいるからこそ。他と違って本殿は、気軽に入りづらいんだ。
祭事も、一応敷地の外。
「……シェフィ、星の生命の事教えるよ。ぼくが知っている範囲でだけど」
「うん。ありがと……ところで、邪魔って何? その話にティアがいちゃだめな理由ってないでしょ」
ないというか、僕的にはティアにも聞きたい事があったんだけど。
エルが勝手に話を進めてきたから、止められなかったけどさ。
「……ティアは、聖女で忙しいから。今日はみんな聖女を求めているのに、ぼくらが独占しない方がいいよ」
もっともらしい理由を言っている。だけど、なんか納得できない。それなら邪魔しないとかって言わないよね? また何か隠している気がする。
なんかね、これ以上何も言うなって圧がすごいんだよ。僕、エルとの仲を悪くしたくないからさ。これ以上は気になっても知らないふりさせてもらうよ。
エルにだって、秘密にしたい事の一つや二つくらいあるんだって事で。
「……星の生命は、星消滅と同時に新たな星を生み出す。破壊と創世のための贄。そう聞かされた。だから、星の寿命。その存在を消せば、星の生命が役割を果たす事はない」
「それが、君らの考え? 」
「そう。色々と調べて、出した答え。その方法は、まだわかっていないけど。でも、神聖の協力を得られるなら、今まで以上に情報を得られる。方法を探せる。可能性、ないわけじゃないんじゃない? 」
諦める必要なんてどこにもない。でも、当人は? あの子は、そう思えるのかな。あの時、ゼロを助けた後。別れ際に言った言葉。あの子はわかってるんだ。自分が星の生命だという事を。
エレは、まだ知らなかった。でも、知るのは時間の問題だと思う。もし、僕が見たのを見ていたんだとしたら。
エレの周囲に、諦めないでいてくれる人がいる事を願うばかりだよ。フォルの方は、エレなら話聞いてもらえると思うから。
エルから視界を外すと、白い景色に見合わない澱みが川のように流れている。
これって、オルとフィルに任せておいてもいいのかな。僕らは、魔星実験の調査ちゃんとしてんだから。
「……行かないとかな? 」
それでも一応、隣のエルに聞いてみる。
「いいんじゃない? ティアに何かあったら、流石に参戦するけど」
「うん。じゃあ、ここでのんびりしてよっか」
魔星実験の件で僕らはがんばっているんだから、今回はのんびりと過ごす。そのくらいしていいと思うんだ。
ぴにゃみゃん
連絡魔法具が鳴った。音変えたんだ。
右腕に装着している連絡魔法具を外す。見てみると、僕のかわいいお姫様……お姫様はいやだってそういえば言ってたかな。僕のかわいいからの連絡だ。
『にゃんにゃん……』
「にゃん。どうしたの僕のかわいい」
『それいつまで言うの? それより、ジュンドの森行くから、いる日教えて』
なんですぐ本題はいるかなぁ。僕は僕のかわいいエレとらぶしていたいのに。なんか、隣からすごい視線感じるけど。ものすごく何か言いたそうな視線がそこにあるんだけど。
まぁ、そんな事は気にしない気にしない。それよりも、エレの方だよ。どうして急にエレが僕に会いに来ようとするの。
まずはそれを聞かないと。
「いいけど……どうしたの? 」
『星の事、どうにかするためにも、まずはエレががんばるの。エレは花器をやめるの』
「……うん。でも、今は用があって行けそうにないんだ。神聖達を頼りな。居場所わかるようにしておくから」
神聖は互いの場所がある程度わかる。意識すればだけど。
それを頼りにすれば、どこにいても会えるんじゃないかな。姫達は別だから、居場所わからないと思うけど。
「シェフィ、シェフィ、猫、猫がいる」
「猫? 猫がどう……うわっ⁉︎ 」
ね、ねこが、ねこが顔目掛けて飛びかかってきた。びっくりして避けちゃった。ねこに怪我ないよね? このくらいじゃ、ねこなら怪我しないかな。
「エレがそういう体質あるなら、シェフィもあると思ったけど……」
そういえばそうだった。エレと僕って体質似てるのかな。自分で自覚はなかったんだけど。
ねこは、もう飛び掛かってはこなさそう。にゃんにゃん可愛らしく鳴いている。僕のかわいいエレみたい。
あれ? このねこ、何か咥えてる。紙、みたいだけど。
それに、躾されているみたい。
僕らに咥えている紙を渡したいのかな。ていうか、どうやって鳴いてるんだろう。
僕が紙を受け取ると、すりすりしてくれる。
すり寄るねこを撫でていると、大きな金色のねこが頭を向けてきた。大きなねこじゃなくて、エルも撫でて欲しいのかな。今日はやけに積極的。いつも僕が付き合わせている側なのに。
とりあえず、大きなねこの方も撫でてあげる。
ねこは、僕から離れない。何かあった時、ここにいたら危ないんだけど。
「ねこさん、建物の中にいてくれる? あそこなら、面倒を見てくれる人がいると思うから。ごめんね、僕はねこ飼えないんだ」
僕は留守にする事が多いから。それに、ねこの餌を買ってくる時間取れそうにないんだ。だから、ごめんね。
神殿なら、ねこを飼う余裕くらいあると思うから。エルが頼んでくれれば、飼ってくれるから。
「にゃぉ〜」
つぶらな目が、寂しいと訴えかけてくる。
「エル」
「……この猫、普通に猫じゃないよ。魔物に近いかも……普通の生き物のようなタイプ。この子なら、飼っても問題ないんじゃない? 餌なら、神殿から送って貰うように頼んでおくから」
「うん。君がそういうなら。一緒に、世話しようね」
「……うん。世話する。ついでにシェフィとエレも世話しないと」
なんで僕が世話されないといけないんだろう。逆じゃないかな。なぜか、がんばるみたいな顔してるけど。何もがんばるものなんてないから。
「シェフィを世話するためにも、まずはエレを……ふふふ……」
「えっ⁉︎ なに⁉︎ 何企んでるの⁉︎ 」
「何も? ぼくなにか言ってた? シェフィが猫の世話をするためにも、まずは、エレの世話で慣れないとだねって」
「そういう事か。そうだね。ちゃんと、世話できるようにしないと」
エルって、猫がすきなのかな。そんなに世話を一緒にしたいんなんて。それにしても、澱みが消えないけど、これ大丈夫?




