エピローグ 愛の魔聖の日記
【今日、神聖に会う日。正式には、神聖の卵。まだ、神聖に選ばれたわけじゃないから。聖愛宮殿。桃色のぼくらの新たな城。
白を基調とした装いで、ぼくは桃色の城に足を踏み入れた。
空色、それにピンク。ぼくより少し長いのかな。あまり、変わらないかも。
優雅なというか、無駄のない動きで、くるりと振り返る。その姿を見て、一番最初に思った言葉。
かわいい。
対面の日。大事な日。この先一緒に住む相手。その相手とどういう関係でいるのか。きっと今日決まるから。何か言うべきだと思う。出る言葉は、
「強そう」
だった。
「かわいい⁉︎ えっ⁉︎ 金髪ふわさら⁉︎ 何か言いたそうな目かわいい! 」
黙っていれば、きれいで愛らしい人。なのに、口を開くと印象がガラリと変わる。元気で、素直。それに、無邪気。
桃色の城に似合うその子は、ぼくとは違う。
「ねぇねぇ、名前、名前。僕、シェフィム。シェフィム・レディエース・エンシェルト。君は? 君は? 」
どうしてそこまではしゃげるのか。ぼくにはわからなかった。だからなのかもしれない。こんなに無邪気でかわいいシェフィが、うらやましかったのは。それに、目が離せなくなっていたのは。
ぼくらは、何かを愛して初めてその力を使う事が許される。誰も愛せなければ、力を使えない。ぼくは、運が良かったのかもしれない。目の前に、それが叶う相手がいてくれて。
目を輝かせるシェフィに、ぼくは、一目惚れに近い現象が起きていた。もちろん、これは恋情なんかじゃない。もっと、重い。
「ねぇねぇ」
「……ミードゥジョプ。よろしく、シェフィム」
「ミドゥ! 」
親しい仲以外では、愛称呼びなどするな。初対面なら尚更、そうすべきじゃない。ぼくはそう教わっていた。シェフィは違うのかもしれない。
でも、それを失礼とは思えない。
シェフィはどこまでも、愛らしいだけなんだ。
「僕らずっと一緒でしょ。だから、ミドゥもシェフィって呼んで。仲良しの印」
そう言って渡してきたのは、毛糸でできたハート。形が歪すぎて、ハートだと理解するまでにかなりの時間を要した。
「これ、僕ががんばって作ったんだ。仲良くなりたい人に、これ渡すんだ」
仲良くなりたい人。ぼくは、それに選ばれた。きっと、初めての人。
「ぼくだけにくれる方がいい」
「じゃあ、ミドゥに全部あげる。ミドゥも僕と仲良しいい? 」
「うん。一緒に暮らすから」
ただそれだけ。事実。一緒に暮らす以上、ある程度仲良し関係の方が気が楽。なのに、シェフィは目を輝かせて、ぼくに抱きついてきた。というか、飛びついてきた。
まるで、ご主人様を見つけたペットみたいに。
わずかな違和感。それで、気づいた。ぼくらは、愛が与えられているのか。近づけば、なんとなくの範囲で理解できるらしい。
シェフィは、ぼくを愛してなんていない。
後で知った。シェフィは、誰かを本気で愛する事を恐れているようだった。なのに、愛したい。矛盾の感情。愛した結果、悲しい事があったかのようだった。それに、自分の性格で愛される事なんてない。そんな事も言っていたっけ。
そこを全部含めて、ぼくは、シェフィが好き。きっと、初めて会った日、この出来事があったから。ぼくはどんなシェフィでも好きになれていた。
毎日一緒に過ごしていても、中々それを見てもらえず。だったら、見てもらえるまで、ぼくはぼくなりに愛情を伝える。
そう、思っていた。儀式が終わるまでは
ぼくの儀式。基本的に神聖と変わらない。違うのは、見せられる真実。ただ一つ、ぼくら魔聖は、神聖と違う真実を見せられた。
それは、星の生命に関して。星は永遠に保つ事はできない。だから、星の生命の存在で、星を生まれ変わらせる。星の生命は、永遠に星に囚われる。それは、星の意思とは違う。
ずっと、闇の中で想いだけを持つ存在となる。誰かに確認される。その意味では、星の生命は存在を消すと言っていいと思う。
そして、星の生命は生命の星に生まれた神聖の片割れ。シェフィに初めてできた友達。
「ねぇねぇ、ミドゥ! みてみて! 友達できた! 友達。神聖の友達できた。初めての友達」
シェフィはそううれしそうにぼくにフォルを紹介した。初めて。なら、ぼくは?
シェフィは、ぼくについてはこう答えていた。
「ミドゥ? ミドゥは別枠。僕、ミドゥがいないと困るから。なんて言うか……そばにいるのが当然……きょうだい……僕の荷物的存在? 」
何言ってんのか、半分理解できなかった。でも、ぼくがシェフィにとって特別な存在なんだ。それだけはちゃんと理解できた。ぼくは、シェフィのいなくてはならない存在。
そう言われたから、今日は飛びつくの避けなかった。なでなでって、シェフィの頭撫でる。シェフィの髪は、見た目通り、触り心地がいい。
「そういえば、儀式のお祝い……僕、こんなのしか買ってないんだけど、いいかな? 」
そう言って、シェフィはぼくにかわいらしい服をくれた。大事にする。宝物にする。そう誓った。
ぼくは、シェフィの髪がだいすきだから、髪のケア用品一式とシェフィに似合いそうなぬいぐるみを贈った。
シェフィは素直。すぐ喜ぶ。それがすきで、その後から定期的に餌付けしていた。シェフィがすきな甘いものを大量に用意しておいて、定期的に渡していると、お礼がくる事もあった。
一番すきだったお礼は、シェフィを一日中誰がきても独占できる券。すきと言いまくっても、撫でまくっても、シェフィはにゃんにゃんと猫のように戯れてくれる。
ぼくらの役割が与えられて、それぞれの姫と公式的に会う事ができた後。ぼくとシェフィの時間は減ったけど、夜は二人っきりの時間があった。これからもずっと、二人で一緒に愛をばら撒こう。なんて話もしていた。
それが変わったのは、間違いなくあの頃。星に異常が起き、解決に勤しんでいた頃。
どうにかしないと。神魔聖が協力して、方法を探っていた。
白い聖星宮殿。長い廊下で、歩く少女を見かけた。一人で、何かを呟いていたように見えたけど、聞き取れなかった。ただ、星の存続に関して、真剣に悩んでいるようだった。
「エレ」
ぼくが呼び止める。普段なら、エレは尻尾を振ってぼくの方へくる。なのに、その日はそうじゃなかった。何も言わず、ぼくがいる事、声をかけた事。何も気づいていないかのように立ち去ろうとする。
何か悩んでいるんじゃと、ぼくはエレの左手を掴んだ。
「ふぇ? ミドゥ? どうかしたの? 」
いつも通りのような反応。だけど、少し、反応が薄いとも感じる。
「呼んだのに返事しないから」
「そうなの? 全然気づかなかった」
「……何か、悩みでもある? 」
「ううん……そう……少し眠かったんだ。昨日全然寝れなくて。なんだか、星が存在していそうで……」
存在している。エレはフォルがすきなんだ。だったら、その方がいいはず。いくらあの話を聞かされていないとしても。そもそも、ぼくらの居場所の星がなくなるなんて、望んでいるはずはない。
そうじゃなかったら、世界の創世なんてしない。エレは、本気で星を愛しているはず。
「エレ? 何言ってるの? 星が存在しているのは、ぼくらにも、エレにもいい事じゃないの? 」
「……ふぇ? エレ、今そんな事言ってたの? 星は、大切だよ? エレの大切な居場所だよ? 」
白い宮殿で、わずかに漏れ出る黒い何か。それは、どこからきているんだろう。エレは、自分が言った言葉を全く覚えていない。
だから、気のせい。そう思っていた。そう思わなかった方が良かった。後悔した時には、もう遅かった。
ぼくが、その違和感を見逃した数日後、エレは、自らが犠牲になる方法をとって、星を救った。
ただ一つ、気になる事がある。それは、あの日のエレの言葉と行動が真逆という事。エレは星を守るために犠牲になっている。でも、あの日は星が存在していない方がいい。そういう意味にしか捉えられない発言をしていた】




