10話 一人の少女の決意の瞬間
ギューに声をかけられる。不思議なお顔をしてみた。
珍しく真剣そう。
「……」
お顔の近くにくると、ギューの手っておきぃ。ギューの右手がエレのお顔のそばにくるの。きらきらの黄金の光が、エレの前に漂っている。
攻撃の意思なんてこれっぽっちもない。むしろ、とても優しい感じがする。なんだか、ふわふわしている。
「……やっぱりな」
「やっぱり? 」
何がやっぱりなんだろう。一人で納得しているみたいだけど、エレは何もご理解いただけておりません。早く説明をしてください。っていう目を見せてあげるの。
ギューの右手が離れようとする。なんでなんだろう。離れて欲しくないって思ったの。だから、エレは両手でギューの右手を掴んだ。それで、頭の上に置いておく。なのにすぐに離れたの。離れたくないって想いは通じなかったのかな。
そう思っていたら、ギューがエレ好みのクッションをくれた。
エレはぎゅっとクッションを抱く。
「エレ、今日一日、調子悪いって感じたか? 」
ううん。ふるふる。否定するの。エレは、いつもと変わんない。お休みしなくても大丈夫だから、いつもよりもいいのかもしれない。
エレのお返事、そんなにおかしかったのかな。ギューが何か考え込んでいる。
「……なら、魔法や神聖術使う時の違和感」
そんなの感じてない。いつも通り普通に使えている。本当にどうしたんだろう。
しかも、エレがそんな事ないっていうのがおかしいみたいなお顔して。
カーン、カーン——ふきゃ⁉︎ 急に、お外から大きな音が聞こえてきたの。大きくて、高い音。空を見ると、光が溢れてきている。もう、朝なんだ。眠ってないのに、平気。お勉強していた時は、ちょっと眠くなっていたけど。なんでだろう。もう眠くないんだ。ずっと、起きていても大丈夫って感じる。不思議な事に。
みゃ⁉︎ なんか真剣に考えていたと思えば、今度はエレにぎゅってした。様子がおかしいのはギューの方だと思うんです。
「……エレ、ヴィーの声、聞けてねぇだろ」
「ふぇ」
ヴィーは、フォルに抱っこされている間も、ずっと何も言ってなかっただけじゃないの? 鳴き声みたいなのは、時々聞こえていたかもしれないけど。でも、それはヴィーの声じゃない。ねこさんみたいだった。
今も、ベッドの上にいるけど、何も聞こえてこない。眠っているのかもしれない。
ふかふかベッド、とても寝心地良さそうだから。それに、ぬいヴィーの時は、元々そんなに喋らないから。きっと、そう。
……なんで、自分にこんな言い訳してるんだろう。
「喋ってんぞ。エレって呼んでる」
「そんな事、ない、よ」
エレには何も聞こえないもん。契約者なのに、声聞けないなんて……
否定。否定は事実を見ようとしてないだけだって、頭では気づいている。なのに……
おかしい、のかな。いつから、聞けてなかったんだろう。少なくても、夢見遊園地に行く少し前、アディに会いにいった時は聞こえていた気がする。
「……思考と感情……エレには、頭で考えてる事と心の声つった方がいいか。それがはく……離れてる」
「そんなの……誰でも、あるんじゃ……だって、みんなだって、そうなるような訓練受けてるんでしょ! 」
「その後が重要なんだ。その状態が続いてっと、エレの場合は、よくて暴走、だな」
よくて……なら、悪かったらどうなるんだろう。いいがそれって、悪いはどれだけ悪い事が起きるの?
遊園地で、聞こえなかった。それは確かな事。でも、どうしてそうなったのか。きっかけに心当たりはない。
合わさった視線は、いつか見た悲しい眼差し。いつかと違う、想いの眼。
だめと理解する頭と、フォルがいなくなるくらいならと思う心。
エレは、どこにいるんだろう。
「……ヴィーは、何か言ってるの? 」
「エレを心配してんな。むりすんなって……エレ、最近色々とありすぎたんだろう。少し休んだ方がいい」
「でも……でも、そんな事してたら、フォルは……フォルは、いなくなっちゃうの……」
休む暇なんてどこにもない。今がんばらないといけない。フォルのためにも、エレのためにも。エレ一人でどうにかなる事じゃない。そんなのわかってるよ。でもね、エレだからこそどうにかできる事だってあると思うから。
エンシュア組織の件が、どうにかなれば……きっと、あの組織の情報に助かる方法あるよ。そう思いたい。もし、なくても手掛かりになる情報くらいならあるかもしれない。
とにかく、今は進まないと。
「……もう朝だ。フォルとデートでもして気分転換してこい。ただし、互いに今後の事を考えんのはなしだ」
「だから」
「そんぐらいの時間はあんだろ。オレはヴィーと情報収集してくっから。夕方、この部屋集合な」
ぬいヴィー持ってスタスタお部屋出ていっちゃった。ギューが何考えてるのかわかんない。今更、互いに何も考えずにデートなんて、できるわけないのに。
そもそも、エレがそれでいいとしてフォルは? このお話を初めから全部聞いていないと……聞いて、いたから?
ベッドの上から立ち上がる。駆け足で扉を開けた。
「……」
やっぱり。外の風当たりたいは、嘘だったんだ。ずっと、扉越しに聞いていたんだ。
「……ごめん。僕がいると、話、しづらいと思って」
「……」
「……ここ、君好みの綺麗な場所、みたいなんだ……一緒に、散歩、しない? ……その……ごめん……君の事考えてあげられるほど、余裕なかった。少し、落ち着いてきたから」
ギューはデートしてこいって言ってた。フォルも、お散歩誘う。でも、どうしてだろう。そんな気分にどうしてもなれない。
「……君への想い、全部、本物だよ。ほんとは……何も考えずに、ずっと、君と一緒にいたい。自分の役割を知って、初めて思ったんだ。何か一つしか手に入らないなら、それは、君以外考えられないんだって」
「……」
「納得、なんてできないよ。なんで、僕がこんな役目をって思ったよ。でも、僕で良かったとも思うんだ。君じゃなくて、よかった……ねぇ、エレ……こんなの、絶対後悔するってわかってる。でも、君には、隠さない方がいい気がするんだ」
そう言って、フォルがエレの両手を握る。まっすぐと見つめている瞳は、水溜まりができている。
「僕と一緒にいて……星の中でも、きっと、そうすれば、寂しくないから」
「ふぇ……」
「おかしいね。君にはずっと、みんなと笑っていてほしい。僕がいなくても、生きていてほしい。それも本心だ。でも、それと逆の事……それも、僕のほんとの言葉……一人で、永遠に星に囚われる……それが怖い」
いつだったかな。シェフィが言ってた。フォルは、自分の弱さを見せる事をとことんきらっているんだって。エレも、そう思っていた。でも、シェフィは特別なんだ。だから、シェフィには伝えるんだと。
フォルは、エレにそれを伝えた。どうしてなんてわかんない。聞こうと思えない。でも、はっきりしている事がある。
フォルは、エレを選んでくれているんだ。
「……デート、してくれる? ……僕は、君と一緒なんて選択は取れない。だから、笑っている君の姿をずっと覚えておくだけにするよ」
「……うん……エレ達が……ねぇ、フォルの願い教えて……星の生命という役割のあり方。ずっと、ずっと繰り返したい? それとも、もう、こんな繰り返しはいや? 答え、ずっと言ってるから知ってるけど、もう一度、ちゃんと言ってほしいの」
「いやに決まってる。ほんとは君らと一緒にいたい。でも、いれないなら、せめて……僕はこの役割を終わらせたい」
うん。わかった。でも、可能性を確かめるためには、エレは身体を取り戻さないと。あの中に宿る力がない限りは、不可能だから。
フォルの、お願い叶えられる。その可能性を見つけるのは。
「フォル、エレ、行きたい場所ある」
「どこ? どこでも、付き合うよ」
「シェフィに会いに行こ。エレの身体はあそこだから……でも、やっぱりデートもしたいかも。だから、行こ」
きっと、笑えてる。小さい光を、見つけられたから。この光を、絶対に離さない。薄黄色の廊下を歩きながら、心に誓う。
エレの願いよりも、フォルの願いを優先する。そして、奇跡は決して疑わない。




