9話 残せるもの
アスティディアでも、色々とあったの。あの雨、魔聖に魔星が気づかない。どういう事だったんだろう。それに、電系の魔法具が噴水に設置されていたのも。
アスティディアのあの、機械的街並み。エレはすきなの。あの街並みは、今も変わっていないといいの。
「噴水……」
「うん」
それに、異空間でエレが見つけた影のような闇のような家具達。生活していたかのような。あれも不思議。
「家具……もしかしたら、あの洞窟の家具がその空間に落ちたのかもしれないね」
「うん。それに」
星の常識と世界の常識。あの時のエレは、咄嗟に否定した。自分が否定されているかのように感じて。でも、そうじゃなかった。
それを知っている間に、シェフィ達の方では、神殿の書庫にユグベーズ手記が消えている事を知ったの。ユグベーズ手記だけじゃない。何か手がかりが得れそうな本は一通り消えていた。
フォルは呪いの聖女の件を、結果的には抹消できただろうとか言っていたの。でも、不思議な事が一つあるんだ。
エレ達が来る前に、あの組織の人達は撤退していた。フォルがどんな選択をとっても良かったと言っているみたいに。
リミェラねぇの記憶にあった部分もそうだけど、ノヴェにぃ達が出会ったエレのかけら。どっちも記憶がない。
「神殿の書庫から本を盗まれた? なんて事あり得なさそうだけど……」
「不思議なの」
「そうだね」
そういえば、フィルは今シェフィと一緒なんだよね。シェフィは、待っているのが大変だったみたい。でも、エルのおかげで立ち直れていたの。あの時の毒無効物理特化チートってどういう意味なんだろう。
ゼロがロストが寒くなっているって言っていたのも気になる。どうして寒くなっているのか。何か異変でもあるんじゃないかって。
「……あれはまだ原因がわかっていないんだ」
「そうなんだ。他は」
フォルを探している時、エレは愛の星に転移したの。らぶらぶいっぱいだった。それはいいんだけど、どうして、星に転移したのかは不思議なところ。エレはフォルを探そうとしただけなのに。
しかも、もう一度使ったら今度は炎の星。本当に謎だった。今でも、どうしてなのか。ちゃんとした答えはないの。
「……転移魔法は、無意識に行きたい場所に行く事がある。なんて言うけど……そうじゃなさそうだね」
「疲れちゃった」
「お疲れ様。ねぇ、もう一つだけ聞かせて。君は、あの時どうしてあんな事したの? 僕らが他の方法を考えていたのは、君だってわかってたんじゃないの? 」
わかってた。ううん、みんなが他の方法を探してくれている。だから大丈夫。そう思ってたの。でも、どうしてなんだろう。自分でも、わからなくて。気づけば、魔星になって星を救う。それしかなくなっていた。どうして、なんだろう。エレが聞きたい。
「……わかんないの」
「君の自発的な行動、というわけではないのか」
「……そういえば、エレもう一個気になる事ある。毒無効物理特化チートってなぁに? 」
「……エレ、寝よっか。ほら、疲れてるんでしょ」
フォルが強制的に寝せようとしてくる。まだいっぱい堪能したわけじゃないふかふかベッド。そこに連れて行こうとしてくる。
「むすぅ。今日はまだ寝ないの……フォルと、一緒にいたい」
限られた時間の中、エレが少しでも後悔しないためにも。エレは、フォルと一緒にいっぱいお話したい。いっぱいらぶしたい。少しでも長い時間、起きていたいの。
「……そっか。なら、聞き流すだけでいい。眠くなったら言って。君に、少しずつ僕の持つ知識を渡すから。全部はむりでも、誰かが一緒にいれば管理者をまとめられるくらいには、なってもらいたいから」
フォルがいなくなったあと、管理者を誰がまとめるのか。今まではフォルがしていた事全てを、誰がするのか。フォルは、エレを選んだんだ。一番、可能性が低いエレを、選んだ。だったら、エレは、フォルのために覚えるのがいいんだと思う。でも、どうして?
いやだ。いやだ。いやだいやだいやだいやだ。覚えたくなんてない。そんなお別れやだ。どうしても、どうしても、頭で理解しても、やっぱり、納得なんてできない。それでいいなんて思えない。
ぽかぽか。フォルが、エレを抱きしめる。温かくて悲しい。
「にしても、おかしかねぇか? エレの記憶、報告にあったもんと照らすと、一部が故意的かのように抜けている」
「……そうだね。シェフィのあれに関してというか、シェフィの記憶に関しては、まだ完全じゃない。っていうのは、僕らだけなんだ。あの時、魔星になっていたエレは、対象じゃなかった。なら、シェフィの記憶、全て持っていていいよね? 」
そういえば、思い出せない事ある。思い出せないといえば……
「ギュリエン。ねぇ、二人もあそこにいたよね? いた、はずだよね? フォルとギューだけじゃない。アディはイヴィ……シェフィだって、いたはずだよね? 」
「その記憶は、僕らは」
「オレもねぇな」
エレだけじゃない。フォルは、まだシェフィ関連が完全に戻ったわけじゃないみたいだから。でも、それとは関係ないギューまで知らないのは、何かおかしい。エレの記憶だけじゃない。もしかしたら、エレ達みんなの記憶は、どこか、抜け落ちているのかもしれない。
とりあえず、ベッドの上に移動して座る。ふかふかで、とても眠たくなりそう。
「……ふみゅぅ。エレは考えるのがきらいらしいの。もうね、とっても眠くなってくる」
「エレ、僕の仕事変わるなら、このくらいは考えてもらわないと。書類整理とかも、考える系あるから。ただまとめればいいってもんじゃないよ」
そうだと思ってたの。まとめておしまいじゃないの? 他にする事あるの? エレは、辞退しようかな。
「……大丈夫だよ。時間が許す限り、僕のそばにおいて、教え続けるから……僕は、君ならできるって評価してるんだよ。だから、少し考えるからってだけで辞めようとしないで」
「諦めるもん。エレはお勉強だいっきらいなんだから……諦めれば、一緒にいてくれるなら……いくらでも諦めるもん……でも、でも……そうじゃないから……がんばんないと……わかってるもん。エレは、もう子供じゃないんだから」
わかっていてできないのは、別だもん。
物分かりの悪い子だって思われるのやだ。エレは、フォルにどう見られたいんだろう。もう、何もわかんないよ。
考えれば考えるだけ、涙が止まらなくなってくる。フォルは、これでいいのかな。納得しているのかな。こんなに、やだって思っているのは、エレだけなのかな。
わかんないよ。わかんない。もう、何も分かりたくない。
何も知らずに、何も気づかずに、いられればいいのに。知る事で、どうしてこんなに悲しくならないといけないんだろう。
カタン——扉が開く音。誰か入ってきたのかな? 見る先、扉を開けたのはフォル。
「……少し、外の風当たってくる。遅くならないうちに戻るから」
「待って! 」
咄嗟に呼び止めた。なのに、振り向く事すらせず
「ごめん。外の状況も見ておかないとだから」
そう言って、お部屋の外へ出ていってしまう。
恋人になって。ただの恋文。ずっとすきだった。全部、本当、なんだよね? フォルはずっと、エレに本当の事言っているんだよね? 疑う事なんてない。そんな必要がないってわかっている。でも、恋人になってなんて言っていたのに、ここまでそっけない態度取られると、思いたくなるよ。
扉が閉まっても、ずっとそこを見ている。
「……」
きっと、全部、エレが勝手に思っている事。だから
「……エレ、ちょっといいか? 」




