7話 対立
エレ達はゼロのお部屋から出て、エルグにぃのお部屋に行く。エルグにぃのお隣にいる短髪の緑髪の男の人が、ルーにぃじゃなくてイールグ。気難しそうなお顔だけど、本当はとっても優しいの。
「エルグにぃ、ルーにぃ。改めてお願いなの。エレ達のために力を貸してください」
エレは深々と頭を下げる。身体の前で握っている両手に力が入る。
いつかは知られる事なの。でも、いざその時が来ると怖い。だって、エルグにぃは、今のフォルのお仕事の上司みたいな人。それにルーにぃは、神聖や魔聖関係なく、初めてフォルとお友達になった人なの。
フォルは、ルーにぃとお友達になれた事本当に喜んでた。それを壊したくなんかない。
フォルの立場が危うくなるのも、大切なお友達が離れていくのもやだ。やだから、知ってほしくない。
「……お願い、フォルの事きらいにならないで。フォルは、あの日以降一度もちゃんと笑ってくれていないんだよ。本気で誰かを頼ろうとすらしていないんだよ……一人だけ、例外みたいだけど。でも……でも……お願い、フォルの居場所を奪わないで」
泣いちゃだめ。だって、一番大変なのはフォルなんだから。一番それを怖がっているのは、フォルなんだから。
あのギュリエンが滅んだ日からずっと、フォルはどこか寂しそうに、悲しそうに笑う。あの頃見た本当に楽しそうに笑う姿。それを見る事ができなくなったの。
二人のお顔見るのを躊躇う。でも、ちらっと見る。
「今回の件がどうなろうと初めから全てもみ消すつもりだ。心配しなくても、普段のやりすぎに比べれば、可愛いものだ。あれはいつもと違い本人の意思ですらないんだから」
エルグにぃはわかってくれてるんだ。フォルはきっと言い訳していないのに。
「その通りだ。そもそもその後を知っているんだ。この関係になんの問題もないから安心しろ」
ルーにぃも。あの後、どれだけフォルが自分を責めてたか知ってるんだ。だから、変わらない。エレは嘘を見抜く事なんてできないけど、これは本当の事だと思う。単純なエレ。それだけで救われるなんて。
「エレの不安も取れたようだから、今件の話をしよう。転移魔法でジュンドの森の入り口へ向かう。そこからは歩いていく。迷いやすいから二人は手を繋いでおくのを勧める」
エルグにぃが注意事項を教えてくれる。迷いやすいっていうのは知ってるけど、どっちを心配してるんだろう。きっとゼロなの。ゼロが迷わないようにって。えっへん。
「わかったの」
エレがちゃんとゼロの面倒見ます。
準備はできているから、エルグにぃが転移魔法を使ってくれる。今度はジュンドの森入り口。毎回思うけど、どうしてみんなズレないんだろう。
森に入ってわかった。前回は意識してなかったけど、等間隔に木々が生えている。葉っぱが空からの光を遮っている。
これって自然にそうなったのかな。
「これが一度入れば二度と外へは出られないという……噂は本当だったのかも。前回の時はそんな事考える余裕なんてなかったけど。なんだか不気味」
エレのその感想は当然だと思ってたの。でも
「等間隔って見てて気持ちよくねぇか? 俺だけ? 」
ゼロはそう言うの。
「常人でこの森に入れば気持ちいいという感情はないだろう。しかも、ここは主様の持つ地図すら使えん。通行証がないと感知できない結界で入れない。不気味以外の言葉はないだろう」
ルーにぃはエレに同意してくれた。主様っていうのはエルグにぃの事。エルグにぃが地図見ている。でもね、見ちゃったの。白紙だったのを。
「……あっちかも。フォルがいるの」
エレは左手を動かす。
精霊さんのお助けなのかな。精霊さんは、そのほとんどが目に見えない小さな存在。でも、こうして光る事で存在を知らせる。今は道標になってくれているみたい。
エレの事をよくわかっている精霊さん。エレが飽きないようにって色が変わっている。
えっとね、後でゼロから聞いたんだけどエレが指差した場所は、西だったんだって。
「……エレ、ゼロ、ここからは別行動だ。俺とルーは魔法具の破壊へ行く」
「うん。お願い、エルグにぃ。ルーにぃも」
エレ達はエルグにぃとルーにぃと別れる。
二人だけで、光が導く場所へ向かう。
それにしても、どうして魔物がいないんだろう。光が届かない、こういう森の中は魔物が出やすいのに。
『怖がらないで。ここは魔物が来ない場所だから』
記憶の断片。エレはここにきた事がある。それも何度も。ここが遊び場だった。顔は思い出せないけど、いつもエレを連れ回してた。
その記憶が確かならここは魔物がいない。それが正常。
エレ達はひたすら森の中を走り続ける。
開けた場所。森はまだ続いているのに。前回最後に見た景色。緑色のクッションのおかげで足が疲れにくく感じる。
中心にある古い洋館は、エレの記憶にあった。その頃のエレとおにぃちゃんの帰る場所。
「……意外と早かったね」
フォルが洋館の前で待っている。絵にしたいなんて考えは捨てておく。フォルはもっと遅いって思ってたのかな。
エレはゼロから手を離す。
「……ねぇ、君はここにきた事がある? 前回、僕がここへ君を招くよりも以前、僕以外と」
「うん。あると思う。ずっと昔、誰かと一緒にここで過ごしていた気がする」
フォルの問いにエレは答えた。やっぱり、どこか寂しそう。
「……そっか。やっぱりここはあの子の……なら、君がここで危険な目に遭えば、どうなるんだろうね? そこまで記憶が戻っているなら、どうするんだろうね? 」
植物の鶴がエレの足に巻き付く。敵意は感じない。むしろ、エレが転ばないように気遣われている気がする。発作を起こさないように魔力が少ない。
フォルのこの発言、やっぱりずっと感じていた違和感は間違いじゃなかったんだ。フォルはずっとエレを見てたわけじゃなかった。
「来てくれるなら、あの時に助けに来ているよ。エレからも聞いていい? 」
エレに何かあっても、こないと思う。それは決してどうでもいいからじゃない。信じてるからだと思う。だから、それに応えないといけないんだと思う。
「……なに? 」
エレは視線を落とした。エレはずっと前に嘘をついたの。フォルの事を想って。でも、きっとそれが間違いだった。だから今度はちゃんと言うの。エレの口で
「ごめんね。でも、今度こそちゃんと言わせて。あれは、あの結末は……被害を最小限に抑えるという事なら最善だった。あのおかげで、フォルが戦ってくれたおかげで、被害が最小限に抑えられていたの」
絶対に泣かない。エレは今フォルに一番聞きたくない言葉を言って、傷つけてるんだから。この事でエレに泣く資格なんてない。
エレは涙を堪えてフォルを見る。
「……最小限……そんなわけないだろ! あれが最小限なら、世界が滅んでいたっておかしくないんだ! 」
「……」
「そもそも、僕がいなければ……僕があの時もっと他の方法を考えていれば……みんなの事を見捨てられていたら……ギュリエンは無事だったんだ。ギュリエンなんてつくらなければ、みんな無事だったんだ」
そうだね。全部事実だよ。ギュリエンの崩壊による犠牲者は五名。フォルは、全てを守ろうとした結果大事なものだけ守れなかったの。
苦しそうなお顔で、自分を責めるフォルを見ていると胸が痛い。
「わかってるよ。そんな事を考えても意味ないって。でも、失いたくなんてないんだ。それなら、僕のせいでこれ以上何かを失うくらいなら、逃げだとしても、全部諦めて進む方がいい。そう思ってしまうんだよ」
うん。そうだよ。全部諦めちゃえばいい。流れに従えば、全てを仕方ないとすれば無駄に傷つかない。
理解してる。
「それで諦めた先にあったのはなんなんだ? 」
エレが言葉を詰まらせると、ゼロが言葉を紡いだ。
「失いたくなんてねぇよ。誰だってそうだ。けど、そうして失わねぇのか? 救いが待ってんのか? そうじゃねぇだろ。だから、失わないように、誰も争わない世界を作ろうとしたんだろ。これ以上くだらない争いで誰かが犠牲になる必要のない世界を」
ゼロは光のような人だからそう言えるんだよ。
「そんなのただの理想論だ。それが不可能だって知ってるんじゃないの? 」
うん。エレもフォルと一緒。そう思う。でも、その理想が救いになる事だってあるの。少なくとも、エレはそのまっすぐなゼロの理想に救われた。
「そうだな。ただの理想論だ。だが、そんな理想でも変えられるもんがあるだろ。な、エレ」
急にゼロがエレに振る。どうして急にエレに振るんだろう。その理由が理解できないまま、時間だけが過ぎていく。




