7話 わずかな時を選ぶ二人
エレの術はね、子供達の姿を見せてくれた。結論から言うよ。子供達は、もうその姿で帰ってくる事はできない。
最悪の状況は、本当に存在するんだね。希望って、どこにいるのかな。誰か、教えてよ。
「もう、夜だね……エレは平気だから、このまま寝ずに、原因を調査しよ」
眠気、いつもなら感じている。なのに、今日は何も感じない。どうしてなんだろう。どうして、なんだろう。
むしろ、目が冴えている気がする。
立ち止まっている事なんて、もうできないのかもしれない。暗い闇夜に眠る原因を、エレ達は探す。
遊園地。いろんな乗り物。そんな乗り物で遊びたいとすら思えない。澱みの原因を一刻も早く見つけないと。幸いにも、エレはそういうのに敏感。だから、どのあたりが強く感じるとかがわかるの。
エレは、澱みがより強く感じる場所へ歩いている。何があってもいいように、ぎゅっと左手で魔法杖を握りしめて。
そんなエレの右手に触れる温かみ。「ごめん。」ただ一言だけ。謝る必要なんて、どこにもないのに。気づかなかった。記憶から消したのはエレ。時間がないというのに、知ろうとしてこなかった。それが今、こうして罰のようにエレに襲いかかっているのかもしれない。
乗り物がなくなる。澱みが強くなる。闇が深い。光がどんどん消えていく。
まるで、エレの心みたい。
「……ここみたいだね。ギュー、神聖術使える? 浄化の術……フォル、あの時みたいに、ここを救おう。枯れ音に、導きのうたを」
「うん。そうだね……僕らが彼らにしてやれる事は、それだけだから」
うん。これだけ神聖力があれば、満足に術を使う事だってできる。
繋ぐ手はとても温かい。このぽかぽかを、あと何回、感じる事ができるんだろう。ずっと、ずっと、感じていたい。涙は、神聖術の敵。でも、今は違う。涙は、救いの願い。
白い光が、周囲を清く浄化する。それは、合図。エレとフォルの術を使用するための。
「……星の生命としての役割は、きっとこんなもんじゃないんだろうね」
神聖力の大量使用は、身体への負担が大きいの。脱力感、倦怠感、めまい。魔力疾患による発作と似ている。でも、発作以上の苦しみ。それに耐えながら、術を発動させないといけない。
溜まった神聖力を、一気に外へと放出させる。
「チェリンシェーテ・シェグレジーヴェ! 」
「リリフィルトゥ・シェルフィーシェ! 」
フォルの浄化とエレの音。合わせ技。二つが合わせれば、きっと、みんなの心を大切な人達の元へ送る事ができると思う。そう信じたいだけなのかもしれないけど。
「……うん。生命は、届いたみたい」
「そう、なんだ。良かった……これで、エレ達の方は、役割終了。シェフィからの終了報告はまだきてない。残りは、魔星実験と祭事」
それにしても、本当に手分けしておいて良かった。日数もそうだけど、この状態で、他までどうにかするなんてできない。
もう動きたくない。でも、ここで休むのもなんかやだ。ふかふかベッドでおやすみがいい。
「……フォル、ギュー、お疲れ様なの」
「君の方こそ……それにしても、これまずいかもしれないね」
「いいんじゃねぇか? どちらにせよ、止めねぇといけねぇんだ。だったら、表立って、堂々と敵対してやればいいだろ」
エンシュア組織とヴァリジェーシル家。表立って敵対する事は少なかった。フォルだって、それを避けたいというのがあったと思う。ある程度の命令に従うのは。フォルの場合、命令聞いたよりも、なんだかんだ言い訳使いまくって、完全に敵対するのを避けていたようだけど。
でも、そっか。流石にこれは、向こう側看過できないのかな。どちらにせよ、エレ達の時間は限られている。なら、この方がいいのかもしれない。
「……ギュー、もう少しだけ、付き合ってくれる? 限られた時間で、確実に止めるためには、君の力が必要だ」
「そのつもりで、休暇とってある。セイの奴に、散々文句言われながらな」
お疲れ様なの。今ヴァリジェーシル家に残ってるの、次男だけなんだ。それはそれは、とても大変なの。
「ロジェとリミェラにそっちに戻ってもらえないか頼んでみるのはどうかな? あの二人は優秀だよ。それに、当主様にちゃんとそっちの仕事させれば」
ギュシェルの仕事をする人がいなくなる。という事なの。それにしても、まるで初めからわかってたかのように、すらすらと言葉がでてきているの。
「ギュシェルの方は、一時的にルーと管理者で回してもらう。管理者の方は、心配しなくて大丈夫だから」
本当にすらすらと。まさかと思うけど、あの時考えていたのって、この事だったんじゃないよね。でも、どうしてグリちゃんのお話中にそんな事を考えてたんだろう。
「グリちゃんに連絡を取れるようにしてもらば、何かあった時に連絡魔法具が必要にならない。それなら、あの子らも、ちゃんと仕事できると思うよ。魔法具を壊さずに」
「フォル……うん。そうだね。それなら、エレ達がいなくても、大丈夫だよね」
「……エレ、君は」
フォルは、全部自分一人だけでって言うと思う。きっと、フォルが守りたいって言ってるのはエレだから。エレのために、何かを残そうとしている。わかんないけど、エレなら、大切な人に残したいって思うの。
でも、でもね……
「エレは、エレはフォルと一緒にいるから。ずっと、一緒に運命を共にする! 一人になんて、させたくない。エレは……エレ達神聖は、きっとおんなじ事を言うよ。だから、だからね、最後まで、エレ達と一緒にいてね」
「……うん。いる、よ。いるよ……だから」
柔らかい唇が、エレの唇に触れる。数秒だけ。でも、とても長く感じた。頬を赤くして、微笑むフォルは、普段は絶対見せない姿。遠くへ、行く前の少しの触れ合いのよう。
エレを抱き寄せたその優しい腕に抗えず。
「だから……僕が消えるまで、恋人になって」
「ふぇ……」
「卑怯、だよね。でも、でもね、こんな時だから、言えるんだと思う。ずっとじゃない。たったひと時の時間だから……今もまだ、ずっとその関係でいるなんて、考えられないよ。僕も、誰かを本気で愛した事なんてない。愛情……恋愛感情なんて、ほとんどわかってない」
フォルも、エレとおんなじ。
エレは今、笑えているのかな。きっと、むりしているようにしか見えない。でも、せっかく、恋人になれるんだから、笑えるようにするね。どんな時でも、笑えるように。それが、きっとフォルのためなんだから。
「……ギューも、もう少しでいいから……僕の」
「フォル⁉︎ 」
「一度に神聖力を放出した影響、だなぁ……エレ、近くの宿にでも泊まっか」
「うん」
フォルが倒れた以上、あまり色んな場所に行けない。近くに宿があれば、そこでおやすみするのがいいかも。できれば高級宿。ギューのお給料なら、そのくらい大丈夫だと思うの。普段あんまり使ってなさそうだから。
「エレの方は大丈夫か? 」
「うん。エレは大丈夫。もし大変なら、ふわふわ飴舐めるから。とっても甘いハズレ味。もしくは、神聖力回復薬でも研究する」
魔力回復薬はあるんだけど、神聖力はないの。今のところ。いつかは作りたい。そう思ってる。もしかしたら、そうして、今までないものを生み出していれば、何か変わるかもだから。星の生命を救う、その方法が見つかるかもしれないから。
「ねぇ、遊園地からどうやって出ればいいの? 」
「行方不明のガキンチョがいねぇってわかったんだ。なら、力づくで出りゃぁいいだろ」
「その手があったの。ヴィー、お眠りしてないで、お役目果たす時だよ」
エレは魔法杖を収納魔法にしまう。フォルからぬいヴィーを貸してもらう。
「じゃあ、もう少しだけがんばろっか」
ピンク色の巨大な光。エレの愛の神聖術。防御が主だけど、その強大な神聖術は使えるんだ。ぬいヴィーとギューが、破壊に転じさせる。楽しい楽しい遊園地は、これにて閉園。




