6話 記憶に溶けた真実眠り目覚める時残る選択は
いっぱい、いっぱい、楽しい遊園地。ここは〜、きっと〜、すてきな場所。エレの〜、ご褒美タイムかも〜。そう〜、ここは〜、エレの功績〜、讃えるご褒美遊園地。
幻覚のゼロなんて〜、気にならないくらい〜、楽しい楽しい遊園地〜。
「……ねぇ、さっきからほんと大丈夫? 幻覚のゼロって……エレ、君グリちゃんどこいるか知ってる? 」
「ううん。エレがお部屋出るためにってゼロとフォルの面倒見てもらったの。その後から知らない」
というか、どうしてフォルが知らないんだろう。左手を顎に当てて悩む姿もとってもすてき。
それにしても、本当になんでフォルが知らないんだろう。
確かにグリちゃんをお部屋に置いてきたのに。
なんだか、くるくるしてきた。ゆっくりと回転するお船に乗っているだけなのに。
「僕が部屋から出た時には、ゼロもグリちゃんもいなかったよ? 」
「ゼロも? 」
「うん。ゼロも。ねぇエレ、君ってグリちゃんの能力の一つ知ってるかな? 」
エレはこくりと頷く。でも、この程度の事でフォルがお悩み珍しいかも。
ちなみに、グリちゃんの能力は幻覚じゃないよ。
……
「ゼロ、聞こえてる? エレは今ご褒美タイムなの。幻覚のゼロも乗せてあげるから、光栄に思うの」
『キシャァーーーー‼︎ 俺の事忘れて楽しんでるなーー! 』
忘れてないじゃん。この猫さんちょっとご自分主義が過ぎるの。かわいいけど。なでってしたいけど。幻覚のゼロ撫でたところできっと満足してくれない。エレ知ってるの。
『……むすぅ……俺のエレなのに……』
「ゼロ、そんな事いいから、一つ頼まれてくれない? 僕の机の上にある報告書。あそこに行方不明の子供の情報あると思うから教えて」
『……グリちゃん二日間貸し出ししてくれるならしてやる』
「わかったから、フォルの頼みは引き受けろなの」
エレの魔力もったいないから、ゼロとのおしゃべりはこのくらいにする。
なんか、気持ち悪くなってきた。あとどれくらいなんだろう。こういう乗り物すきなのに、ずっと乗っているとこうなっちゃうの。
「ふにゃぁぁ」
「……またか。ギュー、エレ乗り物酔いした。降りるよ」
「こうなんの知ってんなら、なんで止めねぇんだ? 」
エレは、ギューに抱っこされて無事船から救出された。
近くにあったベンチでみんなで一緒に座るの。エレはフォルに寄りかかる。今日のフォルは本当に積極的。自分からエレの頭を撫でてくれる。エレはまだ何も言ってなかったのに。
「……っ、フォル……あのね、ふわふわ、気持ち悪い」
「乗り物酔いでしょ? ギュー、癒し術使える? 」
「違う! 」
ぎゅって、フォルのお洋服を握る。違うの。エレも、さっきまでは何も気づかなかった。でも、明らかな異常が目の前にある。それは、エレが苦手なもの。
目の前が真っ暗。真っ暗じゃない。近くにフォルとギューがいる。ここは普通の遊園地。大丈夫。大丈夫。何もないよ。何もない、普通の場所だよ。大丈夫だから。自分を落ち着かせようとするけど、全然効果はない。お胸がドキドキしている。ふるふる震える。
「エレ? ……ギュー、悪いけどしばらくエレ預かってて」
「やっ……やだ! エレも一緒に行く! 」
真っ暗になるくらいの澱みと、乱れた神聖力。これは、偶然、なのかな。誰かの策略だとしたら、悪趣味すぎるよ。
しかも、エレ達って……
誰かの思惑だとしても、ここまで出来すぎている事はあるのかな。運命を視るくらいしないとない気がするの。
フォルのお洋服を離さない。フォルが連れてくって言ってくれるまで。
「……限られてるにしても、まだ時間あんだろ。一度どっかで休もうぜ」
「時間があるからって、休んでる暇なんて……そうだね……」
ふにゅ……怪しい。何かが怪しい。エレはフォルと一緒にいる時間長いの。だから、この怪しさも気づいちゃうの。これはあれかも。こっそり一人で行くために言っているだけかも。
「むすぅ……単独行動禁止! 命令なの! 」
「……君の命令を聞く理由なんて」
しないって言わないのはそういう事。エレはシェフィ譲りの勘があるから。正解するのです。すごいのです。幻覚のゼロも誉めているのです。
「神聖姫の命令は聞くものなんじゃないの? エレのお願いは、聞くべきなんじゃないの? 」
「……それで何も救えなかったら」
やっぱり、何かおかしい? 今は、ギューの言う通り休むべきだと思う。もっと、神聖力が集まれば、エレ達にできる事も増える。ぎりぎりになるとしても、それが、確実。普段のフォルなら、きっとそう言うのに。今は、焦っているというよりも、何かを恐れている。そんな気がする。
「ヴィーの協力なしだと、満足に術も使えねぇんだろ。んな状態で、行っても何もできねぇだろ」
「……だから、待てって? それで」
ぴりぴり。なんか、やな雰囲気。このままだと、フォルは本当にエレ達が知らないうちにどこかへ行っちゃいそう。どこか、遠くへいっちゃいそう。や。やだ。でも、エレには今のフォルの事、何にもわかんないよ。隠し事も、何も知らない。心当たりだってない。
重くて、暗い、この今を変えれる言葉すら、エレには見つからない。
『キシャァーーーー‼︎‼︎ 』
ふぇ⁉︎ え、エレの幻覚のゼロが……ゼロがめちゃくちゃ威嚇する。
「僕の役割は、待ってなんてくれないんだ! それまでに、目の前にあるものくらい救わないと、救えないと、僕がここで生きた意味がどこに行くんだよ! 」
「……ふぇ。どういう、こと」
神聖の中で唯一、役割を与えられなかった神聖。それがフォルだった。
いや
思い出させないで。知りたくない。
思い出す? 何を? エレが失ったもの? それは何なの?
……知りたくない。知らないで。知らないまま、永遠を過ごそうよ。
本当は、全部知ってるんでしょ。フォルの役割の事。知っていて、わざと忘れたんでしょ。エレが受け入れたくなかったから。
違う! 知らない! 何も、知らないよ。
頭の中で溢れる音が、エレに教えようとする。忘れたままの方が、幸せだったかもしれない。その事実を。
本当は、知っていた。シェフィが見たから。創世姫としてのエレが、長い眠りにつく直前に見ていたから。全部を思い出せたわけじゃない。
ぽたん——フォルが余裕ない理由。気づいたエレは、もう笑えないよ。
「まだそん時じゃねぇんだろ。一年、まではいかなくとも、まだ時間はあるはずだ」
「そんな悠長に言っていたら、時間なんてすぐになくなる」
「……ギュー、原因調査する。ごめんね、わがままで」
エレは、本当にフォルの事がだいすき。それが、恋愛感情じゃなくても。だいすきだから、フォルの願いを、叶える事にする。今のエレなら、多少の無茶はできると思うから。できるだけ早く解決して、みんなを探す時間を、フォルのしたい事をする時間を作ってあげる。それが、エレにできる唯一の事だと思うから。
星は、生まれたその日に崩壊が決まる。そして、星の生命は、新たな星を創る。自らの存在を代償として。
立ち上がったエレは、フォルと顔を合わせない。ずっとだいすきだった人のお顔すら、今は見れない。エレのお顔を見せたくない。
きらきらに見えた遊園地は、どんより暗い闇。澱みだけが原因じゃない。
「……神聖なる星の音、眠り真実を暴く音を奏でろ」
収納魔法から取り出した魔法杖を両手で持って、術を唱える。悲しく、悲しく、どこにも救いなんてない。暗き闇のように、その音色は光る。いつもと変わらないはずなのに、いつもと違う。
愛は、どこかへ消えていってしまったのかもしれない。エレが、なんとしても守りたかった、輝きの愛は、もう、どこにもないのかな。




