番外 シェフィの調査報告
エレからのお願い。神殿の祭事の準備も手伝わないといけないから、手分けする事になった。僕は当然エルと一緒。ティアはオルとフィルに任せる。
という事で、僕らの方はというと、魔星実験の調査。魔星実験をするかもしれない場所は、人里離れた場所だよ。だから、人に被害があるという危険性は今のとこ少ない。なんて思っているんだろうね。
岩の灰色地面。硬くて、エレは歩きたくないと言いそう。そんな地面を僕らは歩く。見通しは良い。
「この辺だよね? 」
「うん。この辺」
誰もいない。何もない。儀式をするなら、魔法陣くらいあってもおかしくはないんだけど。地面を見ても何もない。痕跡すら見当たらない。
情報が間違いだった。それも考えられる。でも、この情報に関してはエレの話だけじゃないんだ。僕の方でも、その情報は入ってきていた。オルにも確認してあるんだけど、オルの方もその話を聞いた事があるって。なんなら、真偽の確認もできていたらしい。
なのに、なぜか何も存在していない。
場所が少し違うのかもしれない。見通しがいいから、多少の違いがあったとしても見つかると思うんだ。
「エル、魔星がいそう? 」
「いなさそう。調べてみないとわからないけど……魔星実験の痕跡どころか、魔星が何も感じられない」
何も感じられない。明らかな異常。星でならまだそれもあり得たかもしれない。でも、魔力と魔星が満ちているこの世界の中でそれは、あり得ないんだ。澱みがある魔星が存在しないなら、まだわかるんだけど。魔星って、どこにもいるから。あの魔法具だって、厳密に言えば魔星探知じゃなくて、澱みがある魔星探知だから。
魔星は、澱みがあると周囲の魔星に影響がでるから。
エルは、魔聖だから魔星がいるかいないか程度ならはっきりじゃなくてもわかるんだ。かけら探しには役立たなかったけど。
そんなエルが言っている。信じていいと思う。
目で見えない。感覚を信じるしかない。空を見る。普通の空。その空に何かがあるというわけじゃない。
「……」
なのに、なんでだろう。雲一つない青い空が異様に気になる。もう、かけらに頼れない以上、僕らだけで答えを導くしかない。
他に気になる場所。どこかあるのかな。
「シェフィ、少し待ってみる? 時間を空ければ、何かあるかもしれない」
「それもそうだね。時間が限られているとは言っても、まだありはするから」
焦ればそばにあるものにだって気づかなくなっちゃう。ゆっくりと時間をかけて探すのが一番見つかる可能性が高いかな。時間かけすぎたら、制限時間になるけど。
待つなら、見つからない場所で待った方がいいかな。見つからない上にここが見渡せる場所。それが一番欲しい条件。でも、両方叶える事はできないから、魔法具に頼る事にする。見た目はただの宝石。でも、優秀な監視魔法具。製作者はフィル。設計者は僕。こう見えても、僕は魔法具の設計図描くの得意なんだ。
魔法具を置いておいて、僕らはここから離れる。見つからないような場所で野宿する。
少し歩いた場所なんだけど、岩がいっぱいあったんだ。かなり大きくて、身を隠すにはちょうどいい場所。ついでに気配を消しておけば、バレないでしょ。
野宿のためにテントは必要ない。必要なのは、監視魔法具の映像を見る魔法具だけ。それも収納魔法にしまっておいた。
連絡魔法具の画面くらい小型だから、持ち運びが楽。
早速起動してみる。エルにも見えるように、ピタッとくっつく。エルの左腕と僕の右腕が触れる。気のせいなのかな。エルがにこにこしている気がするんだ。
「……シェフィ、もっと近く来ないと見づらい」
「これ以上? もう充分近いと思うよ? 」
「でも、見づらい」
エルがそう言うなら、もっと近づく。もう触れているじゃないよ。堂々と当たっている。エルは満足そうだから、これでいいのかな。という事で、監視開始。今のとこは何もない。まぁ、まだ去ってすぐだからね。もう少し待ってみるよ。
……
……
一時間。
……
……
三時間
……
……
……
八時間。
そろそろ飽きてきた。あれ、運動したい。動き回りたい。すごい動き回りたい。走り回りたい。めちゃくちゃ走り回りたい。
……
……
十時間後。
エルが僕に抱きついて寝始めた。僕は監視していないとだから寝れないのに。というか、なんで今日のエルはこんなに積極的なんだろう。
監視の方は、何も起きていない。
……
……
十一時間後。ようやく動きがあった。これまでどれだけ退屈していた事か。退屈を凌ぐ方法もなくて、動き回りたいのも我慢して。ようやく解放される。
寝ているエルを起こさないと。エルの肩を揺する。
「……何? 」
「動きあった。起きて」
「……うん」
えっと、どうなっているんだろう。エンシュア組織の連中が集まっている。三十人くらいかな。何か、つぶやいているようにも見える。儀式をしているのかもしれない。
「……エル、魔星の動きは? 」
「何も感じられない。やっぱり、何もいない」
何もいない。なら、やっぱ魔星実験じゃない。というのは安直か。そもそも、連中が魔星を探知しているとは思えない。
魔星がいない事に気づかずに儀式をしているのか、それとも
「……止めに行く? 」
「もう少し様子見る。もしかしたら、何か起きるかもしれないから」
魔星はいないんだ。なのに、胸騒ぎがする。重大な見落としでもしているかの気分。
「……あれって」
「……うん。シェフィ、最悪な状況って案外簡単に引き起こるんだね」
「そう? むしろ、最高じゃない? 運がいいよ。情報がいっぱい。でしょ? 」
わざわざ向こうから情報が来てくれる。そう考えれば、悲観する事でもないんじゃないかな。むしろ、かなり幸運な事。
監視魔法具からの映像は、光っていて何も見えない。黒い光。そこからは魔物が生まれる時とは非にならない澱みが感じられる。それに、ここからでも僅かにヒリヒリとした気配を感じる。
あんまり、ここにいたくない。そう思わせるような。
「さて、そろそろ止めに行こうか」
僕らは立ち上がる。気配は消したまま、足音を立てずに例の場所へと向かう。
一歩が重い。それだけ、穢れで周囲が澱んでいるんだ。このまま魔物の大群が生まれてもおかしくはないくらい。
「……」
僕は隣にいるエルの右手を握る。エルがこくりと頷く。声を出せば気づかれるから、声を出さずに合図を送らないと。
エルが収納魔法具から本を取り出す。問題は、光だけど、意識的に抑える事は可能だから。そっちに神経使うだけ無駄だから、いつも使っていないんだけど。
ピンクの光は、とても小さく、本の中に留まっている。エルなら完全に消す事もできるはずなんだけど。面倒だからって、連中なら気づかないだろう程度に抑えてるな。さすがはめんどくさがり。
耐性、そこまでないのかな。実験要員のはずなのに。エルの魔法で簡単に寝ちゃうなんて。
寝ている隙に、儀式の調査。途中だったおかげで、魔法陣が残っている。見た事もないような魔法陣。これのためだけにどれだけの時間と金をかけているんだろう。
魔星実験と言っていたけど、魔星を集めて何かするんじゃないのか。魔星をこの場所から全て消す効果みたい。黒だから、系統的に邪か。
「……でも、魔星を消して何しようとしてるんだろう? 」
「わからないけど、この連中をギュシェルと神殿に持ってって貰えば、ぼくらの今回の任務は終了。その後の事は、任せよう」
「それもそっか。尋問なんて僕らの役目じゃないからね。調査の報告書だけは要求するけど」
ようやくこの岩から解放される。今日はふかふかベッドで眠りたいよ。
「……あっ……シェフィ……ギューがいないから、早く終わったらこっちの仕事手伝えって、オルが」
偶然早く終わったからいいけど。休ませてほしいとは思うけど。まぁ、ギューの仕事の代わりなら動き回れるからいっか。
それに一日だけ、だからね。情報集めるのに時間かかって、祭事の日に差し迫っているんだ。向こうも、上手くやってくれてるといいけど。




