3話 姫の言葉は迷いなく
えっとね、フォルが調べた情報なんだけど、昔の当主の目撃情報なんだって。いくつかあったみたい。それで、一旦解散して、朝までぐっすりお休みしたの。
今日はばっちり。いくらでも動けちゃいそう。お洋服も、動きやすさ重視にしたの。フォルが新調してくれた、エレ専用支援魔法師衣装。丈が短いけど、動くのに重視している。愛用してるの。それに、ゼロにお得意のお団子ツイテにしてもらった。気合いばっちり。
フォルとぬいヴィー達と一緒にギューにぃを待ってる。アディのお部屋のふかふかソファに座って。
カタン——扉が開いた。エレはてこてこと、扉の方へ歩いて行くの。アディがギューにぃを連れてきてくれた。今日は髪束ねてる。エレがすきって言ってから、お風呂上がりとか寝る前じゃなくても、時々束ねないでいるの。
「おはよなの。エレ、今日早く起きれたよ。いつもより早く起きれた」
まず初めに言うべき事はそれ。今日のために、がんばって起きましたよと主張する。そうしたら、ギューにぃがエレの頭を撫でてくれるの。
エレはそれに満足して、ソファに戻る。
「みんな揃ったから、連絡した通りにお願いするの」
寝る前に連絡済み。フォルが。だから、今日はもう説明とかしなくていい。ちなみに、ゼロには直接言ったらしい。今エクリシェにいる神聖達が集まった理由は、別なの。わざわざ、エルグにぃとシェフィにまで通話を繋いで。エルグにぃは、普通に今もお仕事中でこっち来れないだけだと思う。
どれだけ、どれだけ長い間、離れてたんだろう。器がまだ戻らなくても、もう、役割を果たせる。ぎゅっと胸の前で握る両手。喜びか不安か、自分でもわかんないよ。両方かも。
その言葉は、皆を動かす。その言葉は、士気を高める。姫は、一つ一つの言の音を大事にせよ。姫が迷えば、神聖達は道に迷う。ずっと、教わってきた言葉。それがあまりに重すぎて、口を開けない。一つの言葉に、責任なんて持てない。エレは、そんなに強くなんてないの。
『ミードゥジョプ、オルベル、それに、ギュレーヴォとルーツエング。魔聖の家に組みするあなた達に命じます。役割を果たし、無事に帰還する事を。それと、またこの場所で笑う事を。それが、私、魔聖姫イシュピアの願いです』
ティアの言葉。イシュピアは、ティアの本名。優しく強いその言葉は、エレとは違う。ずっと、みんなから期待されていた魔聖姫の言葉。エレには真似なんてできない。みんながエレを見る。しーんと静まるお部屋。何か言わないと。
言わないとと思うほど、言葉は出ない。エレが迷うと、ゼロが突然無言威嚇してきた。両手をあげて、大きく見せてる。何に対しての威嚇なんだろう。なんか、静まり返った雰囲気の中だったから、笑っちゃう。エレの笑顔に、ゼロが笑顔を返す。言葉はなくても、伝わるものはあるんだ。
すぅー——息を吸って、落ち着かせる。もう、大丈夫。
「シェフィ、ちゃんと報告してね。それと、帰ったら、特別にわたしがクッキー作るから」
にっこりと笑うの。それが、エレからの、愛の姫からの言葉。神聖達はみんなきっとこう思うの。エレ一人でやらせられないから、なんとしてでも帰ってこないとって。
今まで、失敗した未来がどうなるのか。本気で考えてきてなかったのかもしれない。ギュリエンを見て、それを知った。今のエレは、姫としての言葉を考えられない。
『えっ⁉︎ あっ! ヴァリジェーシル家に、あの家に送って! 取り行くから! ティアも欲しいって言ってるから! 』
『うん! エレ! 魔聖達にも! どうか魔聖達にもお恵みを! 』
本気で食いついてる人がいたの。味覚音痴なのかな。でも、この楽しさがエレ達なのかも。別に、言葉なんて持たなくていいのかもしれない。必要なのは、迷わせない事。
なんだと思う。
「じゃあ、行くか」
「……ゼロ? なんでエレと一緒に行こうとしてるの? ゼロはアディと」
ゼロがエレの方に来たの。エレのおそばにきても一緒に行けないのに。
「……約束、しただろ? 笑って帰ってこねぇと、アレするからな」
「あれ? 」
「キシャァーーーー‼︎ 」
お約束。だと思った。予想してた。単純なゼロ。略して、たんゼロ。
失敗すれば、どうなるのかわからない状況。水没都市での目撃証言も、罠かもしれない。暗くなってもおかしくないのに、みんな笑ってる。帰れないなんて、疑ってないみたい。それは、エレの力じゃないけど、少しくらいはエレの影響であって欲しい。
姫としての役割、ちょっとはできているって考えたい。
「ゼロはほっといて、早く行くの。フォル、転移魔法くらいは使える? それともエレが使う? 」
「君に使わすくらいなら、りゅりゅに頼む」
なぜかちょっぴり不機嫌みのフォル。理解不能だけど、転移魔法は使ってくれる。
転移先は、どこなんだろう。めちゃくちゃ寒い。これ、ロストと環境が似てる。氷の魔星によって滅んだ世界なのかな。一面の氷景色を見るに。
「くちゅ……氷……ルナって」
「少しだけなら、話していいって言われたよ……ギューにぃ様、今度名簿記録補完都市連れてってよ。おそらく、そこにだけ残ってる」
何が残ってるんだろう。さむさむさん。さむさむさんが平気な理由でも書かれているのかな。
「そりゃぁいいが……エレもフォルも、仕事じゃねぇんだぞ。それ違和感しかねぇんだ」
「僕は慣れたけど? でも、そっちの方が馴染んではいるかな。ギュー」
なんで平然とお話してるんだろう。フォルのお仕事関係でエレもいつの間にかギューにぃ呼び定着してたんだよね。そもそもエレの場合、ギューが幼い頃とあの日から、フォルがヴァリジェーシルって名乗る前までしか、そう呼んでなかったけど。
「くちゅ……フォル、そこになにが……ぷる……ふぇ……」
「あっ……ごめん」
「そーか、エレは保温魔法使えねぇんだったか」
気づいたように同時に使うくらいなら、もっと早く使えと思います。エレのご機嫌もこの景色みたいになりそう。
ぬいヴィーは、全然寒くなさそう。聞いてみよっと
「ヴィーは寒くないの? 」
「寒くない」
「炎の星の住民は、暑さも寒さも強いよ」
フォルの豆知識。エレは気づく。炎と氷。どちらも温度系統。温度が関わる術や魔法。だから、ヴィーは寒いのも平気。体温を自分で調整できるからと思われる。なら、ゼロは? 氷の星出身のゼロは、暑いところ苦手なの。
なぜ? なぜ?
エレは目で訴えかける。
「ゼロ」
「ゼロ? ゼロは……なんでだろうね。体温調整系の魔法は得意なはずなんだけど」
フォルも知らなかったみたいなの。不思議。寒くなくなったけど、氷景色はそのままなの。という事で、これもお約束なのです。すてんっとエレが滑って転ぶの。
でも、転びかけのところで、誰かが助けてくれるの。今回はギューでした。
「……」
「いた! ロジェ! 」
薄緑色の長い髪。クルンと癖毛がふた束くらい発見。その姿を見ると、フォルが走った。エレも追いかけようとしたけど、すぐに滑って転んだ。
「待って! 」
薄緑色の長い髪が逃げている。追いかけるフォルもだけど、あまり遠くにならないように、追いかけないと。この氷の上なら、前へ身体を傾ければ勝手に前に滑ってくれるかもしれない。なんて思ってた時期もエレにはありました。
「……エレ、こっちだ」
「ふぇ? 」
フォル追いかけないと行けないのに。まっすぐ走るフォル達。なのにギューは、エレを連れて右に曲がる。その意味がわからないまま、エレは一緒に歩くの。
ギューの手、ぽかぽか。
「ねぇ、追いかけないと」
「こっちでいいんだ……あの人の調べだとこの奥に」
あの人って、オルにぃの事かな。なんか、わけわかんないくらい情報持ってるから。
どこに行くんだろう。そう思う事十分程度。ついた場所は、ぴかぴかだった。




