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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
4章エレ編 秘密と記憶
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プロローグ 炎の星にお忍びで


 この日、生まれた汝は、愛の神極。神聖の姫。その役目を、その命を持って、応えよ。拒否権は存在しない。これは、運命だ。その日が来るまで、神聖の姫として、生き続けよ。


 汝の名は、愛の姫エレシェフィール。その魂に刻まれし、想い名を忘れるな。


 その言葉は、誰のものか。誰が願いか。全ては闇の中。神聖姫は、幼い頃からずっとその役割を担ってきた。生まれたその日から。儀式など存在せず、何も知らず。なぜ、自分がその役割を担わなければならないのかすらも。


 白い部屋。ふかふかのソファに座る二人の少女。一人が神聖姫。もう一人、神聖姫の隣にいるのは、魔聖姫。目の前の巨大な窓を眺めている。


「暇だね」


「暇だね」


「ねぇ、自分の騎士様が気にならない? 」


 神聖姫は、魔聖姫に問いた言葉。魔聖姫が神聖姫を見る。「気になる。」その返しが、二人に新たな景色を見せた。

 誰にもバレないように。二人の姫は、自らの騎士達となる神魔聖の卵に会うためにと話し合う。どうやって行こうか。どこから行こうかと。


 それは、翌日から行われた。


 初めは、炎の星。燃え盛る熱気に包まれている星。神聖姫は魔聖姫を見失っていた。どこにいるのかと探していると、小さな村にたどり着いた。


「……」


 暇そう。熱気で機械なんて動かないんだろう。みんな、ぼーっとしているだけだ。そこに笑顔なんてない。どこか退屈そうな顔をしている人々を見た神聖姫は


「みんなー! にゃんにゃん踊り子のにゃんだよー! 」


 名前を出すのはまずい。そのくらいは知っていた。神聖姫は、村の人達の注目を集める。儀式のためと、舞は学んでいる。基本的な知識は魔聖姫に劣る神聖姫だが、舞は別だ。


 幼さを感じさせる少女。それが神聖姫の容姿。そんな幼い少女からは、決して見られないであろう。人々を魅入らせる美。この少女のどこが幼いんだ。見た人々は、そう思った事であろう。


 流れる動きは、優しい波風のよう。人々に見せる瞳は美しき聖光のよう。時より見せる微笑みは、愛。


 魅入られる人々は、時間が過ぎる事すら忘れていただろう。時間だけではない。温度すらも。熱気の中にさらなる熱気をもたらした神聖姫。そして


「ふにゃぁぁ……」


 パタン。電池が切れたかのように倒れた。それもそうだろう。慣れない外星の姫がこんな熱気に耐えられるはずがない。今まで耐えていたのが奇跡のようだ。


「ん? なんだぁ? 珍しいなぁ。こんな騒ぎ……って⁉︎ なんで、神聖の姫が」


 それはきっと、偶然ではないんだろう。運命、とでもいうべきだろう。炎の神聖が、村に立ち寄った。


 

 一時間後、神聖姫が目を開けると、村に人々は静まっている。

 神聖姫が暑さで倒れたあと、通りかかった炎の神聖が涼めるようにと、術をかけてくれていたようだ。体温を一定の温度にする術を。


「村の人達は悪くないの! エレが……わたしが勝手にしていた事だから! えっと……えっと……そう! 踊りたかったの! 踊りすきだから! 」


 村の人々に罰が与えられるかもしれない。本能的な思考だろう。神聖姫は、咄嗟に人々を庇った。


「こんな熱気の中でか? 」


「うん。ここなら、いつものエレと違う踊りできる気がしたから」


 震える両手をぎゅっと握り、炎の神聖をまっすぐと見つめている。


「……そういう事にしといてやるよ。ここにいると目立つだろ」


「ふぇ⁉︎ 」


 神聖姫が何かを言うよりも先に、炎の神聖が神聖姫を担いだ。理解もできぬまま、神聖姫は聖炎宮殿、炎の神魔聖達の住む宮殿へ連れられた。



 外は熱気に包まれているが、中は比較的涼しい。神聖姫は紅色のソファに座らされる。目の前の薄紅色の机に出される紅茶の入ったカップ。


「ジュースの方がいいか? 」


「ジュース? これはなぁに? お水じゃないの? 」


「水? 神聖姫が水飲んでんのか? 」


 神聖姫はこくりと頷く。能力の高い魔聖姫。能力の低い神聖姫。その扱いは天と地の差。紅茶すらも知らない。


「なんでこんな場所に来たんだ」


「騎士様を見たかったの」


「周囲が心配するだろ」


「しないよ。エレの事は誰も心配しないよ? イシュなら、みんな心配するけど、エレはいてもいなくても変わらないから」


 何も知らない姫。だとしても、それは知っていた。あからさまな態度が続けば、いやでも気づいてしまうのだろう。

 暇な村の人々。なぜ、退屈を紛らわせようとしたのか。それは、もしかしたら己を見ていたのかもしれない。


 そんな姫の見せる瞳は、暗く光のない闇。と思うものもいるのだろう。だが、微かにだが、奥に闇ではない何かがある。


「心配しない、か。なら、ずっとここいっか? ここにいりゃぁ、少なくとも心配する奴が一人いっぞ」


「ふぇ? 」


「ここで面倒見てやる。そんな場所に戻る必要ねぇだろ」


「……ありがと。うれしい。でも、一緒に来てるお友達を、一人にできないから」


 神聖姫は、涙ぐみながらそう言って笑う。

 ダダダダダ——走る音が聞こえてくる。バンッ——勢いよく扉が開く。


「エレ! 」


 魔聖姫が、炎の魔聖と共にくる。


「イシュ」


 魔聖姫は、神聖姫に抱きついた。


「ホーアン、彼女が魔聖姫か」


「おうな」


 炎の神聖と炎の魔聖が、神聖と魔聖の姫達に視線を送る。

 神聖姫は、魔聖姫と離れると炎の神聖が用意したカップを両手で持った。口の前で一度手が止まる。力んだ肩。ごくりと唾を飲む。覚悟を決めた瞳で、口の中に紅茶を入れる。


「苦い。でも……匂い、すき……ありがと」


 一口しか飲めなかった。だが、その思いやりは伝わっている。


「今度はジュースを用意してやる」


「……うん。楽しみにしてる」


「そうか。今日はもう帰れ。慣れた場所の方が落ち着くんだろ」


 炎の神聖に言葉に、神聖姫はこくりと頷いた。


「あの……神魔聖って、なるために、儀式、するんだよね? 」


「そうだ。そんで、その儀式完了をもって、神魔聖は正式に役割を与えられんだ。家業の方もな。俺様、アットティード家の場合、神聖姫の騎士。それが裏家業だ」


「騎士様は、神聖みんなじゃ」


「旧神聖手記には、炎の神聖が担うつぅ事が記されてんだ。だから、それが裏家業として選ばれてんだ」


 神聖姫は、半分くらい理解していない。「へぇ。」と炎の神聖を見つめている。


 早く帰らないといけない。これ以上は迷惑になるだけだ。そんな考えが浮かんでも、言わなければいけない。その方が大きかった。この一回っきり。神聖になる前、非公式の状態で炎の神聖と出会う事ができるのは。


 この一回っきりだからこそ、後悔などしたくない。その想いが、神聖姫を動かした。


「絶対、絶対に儀式に負けないで。神聖になっても、自分の前からいなくならないで。役割なんていいよ。騎士だからなんて、思わなくていいよ。だから、何かあった時、己と仲間の安全を最優先にしなさい。それが、わたしからの命令です」


 初めこそ、その片鱗すら見せなかった。だが、言葉を紡いでいくうちに、神聖姫の雰囲気が変わる。それは、多くの者が言っていた無知の姫ではない。まさに、彼女こそが神聖姫なんだ。そう思わせるような、堂々とした面持ち。凛とした瞳。


 幼くも美しい。ただの少女ではない。その場にいた者達は、神聖姫を別人のように見えていた事だろう。


 しーんと静まる空間。視線を集める神聖姫。

 その空間を破るのも、神聖姫だ。


「イシュ、いこ。あのね、お水以外の飲み物、初めてだから、とってもうれしかった。苦かったけど、温かくて、お胸がぽかぽかになったよ。ジュース、どんな飲み物なのか、とっても楽しみなんだから、早く神聖になって。エレに届けに来てね」


「ジュース……なら、私もエレにジュースは教えないでおくから。早く届けてあげなさいよ」


 そう言って、神聖姫と魔聖姫は炎の星を去った。その時に見た笑顔は、姫ではなく友達に見せる笑顔。

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