エピローグ ???の記憶
【はじめまして。僕は、わずかに残る記憶。記録の方がいいのかな。これから、僕の記録を残すよ。この書は、深い深い闇の底の中で、ずっと眠らせておこう。
初めて好きになったのは、いつだったんだろう。今となっては、懐かしい思い出。そうだね。あれは、泉の側だった。長い髪をふわりと靡かせ、空色のシンプルなドレスで身を包む少女。一目見た時から、他の星の子とは雰囲気が違った。まるで泉から出でる守護者様。
くっきりと、愛らしい瞳と会う。見つめ合う時間。長いようで短いその時間は、僕の運命だったんだろうか。
ピンク色の柔らかい唇が動く。
「ああーーーー! 人いたのーー! 」
初対面。初発言。それは、僕を変える人との出会いとは思えないもの。迷子の子猫は、瞳に涙を溜めている。どうしたの。そんな、ありきたりな言葉をかけた気がする。そうしたら、少女は「迷子。」と答えた。でも、ここでツッコミたいのは、後に付け出された言葉。「おにぃちゃんが。」はっきりとそう言っていた。自分は迷子になどなっておりません。
あくまでも、おにぃちゃんが迷子になったんです。少女は、絶対にそれだけは譲らなかった。
どこからきたの。どこへ向かおうとしていたの。おにぃちゃんは、どんな特徴。質問にまともな回答がなかった。何もわからなければ、どこへもいけないよ。そう言ったんだ。だって、そうでしょう? 何も知らない無知な状態で、目的地なんていける?
「行けるの。どこへだって行けるの。行きたいって思えば、知らなくっても、きっと行けるの」
少女は、僕にそう言った。行きたいと思えば行ける。そんなわけない。だって、僕は行きたい場所になんていけないんだ。行き方、わからないから。僕じゃ、見つけられないから。
わかったような事を言うな。そう思ったよ。でもね、あの子は笑ったんだ。「一緒に探して。」そう言って。
仕方がないから、一緒に探してあげた。少女のおにぃちゃんを。高原に着くと、少女は広がる景色に目を輝かせていたっけ。
「……こんな景色が、この星にあるんだ」
出てきた言葉は、まさに何も知らない姫君の言葉。やっぱりこの子は、何も知らないんだ。適当な事を言っているだけなんだ。
自分の中にある感情。期待なんてしていない。そのはずなのに、なんで失望しているんだろう。
「やっと見つけた! 」
後ろから聞こえた声。少女のおにぃちゃん。ずっと探していたみたい。再会できたなら、僕の役目はおしまい。あとは、またその時が来るまで、ずっと待っているだけ。光のないあの泉の場所で。
少女が僕の右手を握る。「ありがと。」にっこりと笑顔を見せる。
「行きたい場所、ないの? 」
「……あったとしても、行ける場所ばかりじゃない」
「行けるよ。信じていれば、いつかきっと、そこへ行けるよ」
「行けるわけないだろ。僕は なんだ。だから、僕の行きたい になんて、行けるはずない」
だから、もうそんな光を見せないで。呑み込んだ言葉。意識なんてしてなかった。でも、でかかった言葉で気づいた。僕は、この少女を光だと思っていたんだ。ずっと、ずっと願っていた。それを叶えてあげるよと、現れた光。
でも。違う。そんなはずはない。あの子は光じゃないんだ。否定と期待。おかしくなりそうだったよ。そんな僕に、あの子は
「行ける! 絶対に が叶える! だから、 に行けないなんて、言わないで。最後まで、諦めないで。 が、絶対に るから! 」
叶うはずなんてない。叶えられるとすれば、 を諦める時だけ。でも、そんな事はできるはずなくて、僕はどこにもいけない。逃げ道なんてどこにもない。
それでも、それでも、縋りたい。その言葉に。
「ほんとに……ほんとに? 」
「うん。約束。だから、ずっとずっと、諦めないでね」
ずっと願ってた。むりと知ってながら。それだけしかいらないとまで思ってた。でも、初めてそれ以外の想いを知った。その願い以上の願いを知った。
逃したくない。この願いを。このまま、何も言わなくても、この想いは逃げない? どこにも行かない? そんな保証なんて、どこにも存在しない。だから、今動かないと。今、少しでもいい。変わろうと、思わないといけないんだ。
小さな変化でも、起こさないといけないんだ。
「……約束は、いらない。だから、約束、守らなくてもいいから……一緒に、いて……一緒に、いて、ほしい」
小さな勇気は、大きな贈り物を僕にくれた。少女が笑う。いいよと言ってくれる。
初恋、なのかな。これが。
「おにぃちゃん、この子連れてく。わたしが面倒見るから」
「あれ? そういえばさっき、名前」
「違う! 違うの! あのね は……じゃなくて」
「僕は気にしないよ? 」
誰かに何か言われた変化。なんだと思う。あの子のそれは。でもね、それは気にしなくていいよ。自分らしくしていればいいよ。その考えは、ずっと変わらないよ。
「……あのね と一緒に、 達のお家いくの」
「ごめん。僕は家からあまり離れたくなくて……僕にも、心配性の兄がいるんだ」
「そうなの? なら、遊びにくるの。今から。ちょっとだけだから。できるだけ早く帰ればいいでしょ? 」
そういう事ではないんじゃないかな。なんて言えず、困っていると
「あれ? もしかしてだけど、君って 家の……なら、ちょうどいいよ。今の時間は僕らのいとこと遊んでると思うから。行こ」
兄妹揃って強引。むりやり連れて行かれる。それがいやじゃなくて、むしろ楽しかった。
連れてかれた先は、愛の星。初めてきたけど、胸焼けしそうだった。街を歩けば、恋人恋人恋人。その辺でキスとかしてて、こんな平和なとこがあるんだと知った。実際知らない場所だけど、知らない場所に来た気分。言ってる意味が自分でもわかんないよ。
そんな場所で、少女は「恋人ってなぁに? 」なんて言い出した。ほんとにこの星の住民なのかと言いたくなる言葉。少女のおにぃちゃんは、笑顔で誤魔化している。教育の賜物かもしれないと思った瞬間。
行き先はね、街じゃなかったんだ。街から離れた場所。白い宮殿。 宮殿。初めて来た。僕は じゃないから。
入っていいの? そう言おうとしたけど、少女が早く早くと僕を急かす。
室内は落ち着かない。いつも、外にいるから。室内に行くのは寝る時くらい。あの泉が好きだから、毎日のようにあそこへいたんだ。
「……あれ? どうしたの? 」
ほんとにいた。兄と目が合う。神聖じゃないのに、ここへ来た事、叱られるかな。
「……姫様、 は、 だから、あまり連れ回さないで。遊ぶなら、ここで」
僕がいる事は、いいんだ。少女の遊び相手みたいな認識されている。少女も否定しない。
「じゃあ、じゃあ、 の使用人になってもらうの。使用人という名の、遊び相手。いつも一緒にいる」
いつも一緒にいる。その言葉が、ふわふわと夢見気分にさせてくれる。そのまま、流されるまま、僕は気付けばここで暮らす話になっていた。僕の意思より、ここでは少女の意思が優先。
でも、理由は少女が一緒にいたいから。そういうわけじゃないみたい。
僕が、もっと星の事を知るために、一番情報が入るこの場所にいるのがいいって判断。 とか関係なく、僕はもっと知っておいた方がいいからって。自分から閉ざしていた。知りたくない。そう思って、閉じこもっていた。だけど、少女の笑顔がその壁を壊す。その瞬間が、僕の全てが変わった瞬間。
「あっ⁉︎ 使用人なら、ちゃんとお洋服もそれっぽいの着てもらうの。 が着たくて用意したけど、サイズ合わないし、みんなに止められて……だから に着てもらう」
怪しい。その予感は当たったんだ。少女は僕を何か勘違いしていた。ほんと、全てが変わったよ。こんなひらひらした服を着て、ヘッドドレスなんてする日が来るなんて。似合ってる。それは喜ぶべきだったんだろうか。
別に、ワンピースがいやじゃないんだ。いやだけど、まだそれはいい。ここまでひらひらとしたメイド服が気に入らないだけ。
この先、どうなるんだろう。少し、恐怖心すらあった】




