10話 脱出成功。そして
水の勢いに逆らう事が、僕とエル以外できない。もしかしたら、ヴィーもできていたかもしれない。普段なら。両手が塞がっている中、逆らえない半数を連れていれば、流石にむり。逆らおうとすら思えなかった。
という事で、水の勢いに逆らう事なく、僕らはどこかへ流されていく。底の方。お姫様の術の言葉を借りると、星の中ってとこかな。
このままどこへ行くんだろうか。結界のおかげで臭いはしない。でも、水の中にザァーーと音が聞こえている。なんの音なんだろうか。水の音とは少し違う気がする。
勢いが激しすぎる。結界は大丈夫だけど、水圧とかの方が心配になってくるな。深さ的にも。
防御魔法とかもかけておいた方が良かったのかもしれない。
どのくらいの時間、水に流され続けてるんだろう。硬い地面がある。お姫様限定占い術だと、この後は大地、深層へと続く道を見つける。だったよね。
とりあえず、手を
「……」
「……」
離そうとしたら両方から睨まれた。フォルとエルはこれでいいのかな。
誰一人として離そうとしない。僕らは、みんなで一緒に歩く。
絶対に手を離すな。そんな気配がピリピリと感じられる。何かの事故で手が離れても、僕のせいにされそうなくらい。
まだ水の中。水の中で歩くのはエレの負担が大きいそう。
そういえば、枯れた水がきれいになったなら、臭いってどうなってるんだろう。水が溢れるまで、意識していなかったから。なんか気になってきた。
結界外そうかな。
「……っ⁉︎ すごい。エレ、結界とってあげる」
「みゃ⁉︎ しぇ、シェフィがいじわる」
そうじゃないよ。エレが僕を涙目で見つめる。そんな顔しないでよ。ほんとに違うから。
説明しないと
「あのね、ここ、水大丈夫。平気。エレらぶ」
「……」
頷いた。エレらぶは強い。エレの結界をとる。
「ふぁぁぁ。とってもすごいの。結界で景色も暗くなってたみたいなの……ふぁぁぁぁ」
そう。すごいんだ。生き物こそいないけど、光が動いている。深く青い海。それに、普通に呼吸できるからこそ感じられる匂い。深い深緑の香りの中に、爽やかな朝の香り。心が落ち着きそうな香りだ。
エレが深呼吸をしている。水の中で深呼吸なんて、エレも初体験なんだろうね。
みんなの結界もとこっか。
「すごいよね。こんなに、きれいな水だったなんて」
「うん。それより、道ってどこ? 」
「エル、自分で探そうよ」
エルはすぐに僕を頼る。
「エレは、こっちだと思うの」
エレは両手が塞がっている。と見せかけて、実は空いている。そう、エレは左手が空いている。フォルがエレを抱いているから。フォルの右手はエレの脇腹にある。
まっすぎと人差し指が示している。
エレの示す場所へ向かう。エレの勘に任せる事にする。
「フィル、待ってる間暇じゃなかった? 」
「……エルが相手してくれていた」
「そっか。また魔法具の設計図、渡すね」
フォルは、フィルに相手をして欲しいみたい。素直じゃないよねぇ。魔法具の設計図で釣らずに、正直に言えばいいのに。相手をして欲しいんだって。
「グリちゃん、俺の相手しろ」
「この状態で何ができると」
うん。何もできないね。できるとすれば、撫でられるか、話し相手。ゼロは、行動も言動もわかりやすい。
「エレ、何か見えてきたよ! あれ、道標じゃない? 」
光。ここに行くべきですよ。そんなふうに光がある。エレの勘は大正解。さすがは僕の妹。
ここで走る事なんてせず、エレに合わせて歩く。エレがこの中で一番足遅いから。
エレは、焦らずに歩いている。その方が転ぶ率が二割くらい下がるから安心。手を繋いでいるから、さらに一割減。これで今のエレの転ぶ率は三割減。残りの七割に当たらないようにと、僕にはもう祈る事しかできない。
ゼロとフィルの方はというと、ゼロがエレを一歩進む毎に三秒くらい見ながら、僕らの先を歩いている。
三秒止まるから、距離ができているなんて事はない。ゼロが何を望んでいるかは、気づかないふりをする事に越した事はない。
フォルは、少しくらい前を見なよ。さっきからずっとエレを見ている。
あと少しで光に辿り着く。そこまでくると、ゼロとフィルも足並み揃える。
「ふにゃ……ぷにゃぁぁ⁉︎ 」
エレの叫び声。それもそうだろうね。水が消えて、急速落下なんて。ぽわぽわ泡が、ふわふわ浮いている。
エレが左手を泡へと伸ばす。泡はエレの手に掴める事はなく、ぽわんと散って消滅する。
ぴぇっと瞳に溜まった水滴を溢すエレ。そんなに泡がすきだったんだ。今度、エクリシェに泡送ろっかな。
どうでもいいかもしれないけど、地面が見えてこない。どこまで落下するんだろう。というか、ここ落下ばっか。エレは高い場所きらいなのに。エレ慰めようアイテムも考えておいた方が良さそう。
「ふぇぇぇぇん……ふぇぇぇぇぇん……ふぇぇぇぇん」
何その間は。なんでちょっと間を開けてるんだろう。しかも、一瞬冷静になったかのような顔をする。エレの不思議な行動。
エレの事を見ていたい。そうは思うけど、地面がいつ見えるかわからない状態。下を見ていないといけない。わかってるのに、エレを見てしまう。
涙のエレは、愛らしい。それだけで、見るべき。
見えた! 地面だ。フォルが説明してくれた。それで理解できている。この姿でいたとしても、別の器があるだけ。何もしなければ、落下時に怪我をする。この空間にいても、感覚とかは、現実の時と何も変わらない。
地面から風を吹かせて、落下速度を下げられないかな。緩やか速度だったら、エレも大丈夫なはず。基本エレ基準。
「風魔法ってエル得意? 」
隣にいるエルに聞いてみる。まだ時間がありそうだから、落ち着いている。エルが首を横に振った。
「……あった」
あった? 何が? フィルが魔法具を持っている。片手は空いているから。
三角型の魔法具を起動させると、地面に落とした。壊れるんじゃないかな。というくらいの勢いで落ちている。地面に向かって投げてたから。
案の定、魔法具が割れて飛び散る。飛び散った魔法具のかけらは、風を巻き起こした。
「……イヴィの術参考」
風に乗れるあれかな。負担がこないように包み込んでくれる。この風は、再現度が高い。風が緩やかになる。ゆっくりと地面に落ちていく。
エレはぴたりと泣き止んでいる。
スタンッ——無事地面に着地。
見覚えのある、真っ白い空間。でも、新緑の香りが漂っている。
「あっ……そっか。無事脱出完了」
かなりの時間ここにいる。もう別れは近いんだ。また、エレ達とは離れ離れ、なんだよね。
みんなが手を離している。エレは、ティアと抱き合っている。
「今度は、エレの方が会いにいくの。あのね……神殿のお仕事お手伝い、エレ絶対するから」
「うん。ありがと」
忘れかけてたけど、今ティアは神殿の仕事忙しいんだった。フォルも、フィルと別れを
「……」
えっ? フォルが僕の左手首を掴む。翠色の瞳が、僕を見ている。芯が強く、絶対に曲がりなんてしない。その瞳は、逃してなんてくれない。
「教えて。君は、僕の役割を知ったんでしょ」
時間がないから、話す事はできない。時間があれば、僕はほんとに話したのかな。
「……」
「そっか。なら、時間がない事だって知ってるでしょ。エレに、何も言わないで」
「えっ? なんで」
「エレには何も言わないで。僕の恋人を、迷わせないで。最後まで、大好きな恋人のままで、良させてあげてよ」
何も知らないままにする気? エレに、何も知らせないまま、自分は消える気なの?
あの子を悲しませる。それはわかってるはずだ。どちらにしても、変わりはしないけど。きっと、言わない方が、あの子は悲しむ。
黄金の瞳が僕を見つめる。これは、お願いなんかじゃない。星にとって、最も重要な役割を持つ星の生命の、命令だ。




