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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
3章シェフィ編 探し人
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8話 枯れた水


 グリちゃんから降りた僕ら。地面は、水っぽいのかな。ぬかるんでいる、というわけじゃない。足から伝わるのが、以前体験した歩ける水なんだ。うっすい膜があった。その時はだけど。

 今回も、似たような感じなんじゃないかな。


 灰色で、水の地面のようには見えないけど。


「くさっ⁉︎ 」


「くさい」


 グリちゃんに乗っていたからなのかな。匂いなんてしなかった。なのに、地面に降りたら伝わってくる激臭。枯れ音の匂いじゃない。

 色んな臭いが入り混じっているかのよう。どう例えればいいのかな。何でもかんでも入れたゴミ袋の中みたい。


 エレがヴィーの服の袖を引っ張る。ティアが左手で鼻と口を塞いでいる。これが普通の反応なのかな。臭いとは思うけど、平気。

 臭いのせいなのかな。エレとティアの顔色が悪い。


 白い光。浄化魔法を試してみる。淡い期待を込めて。でも、失敗。臭いは少しも消えていない。


「……ティア、なんか、風、お肌ぴりぴり」


「うん。お肌に悪そうだね」


 目には見えないような物質が、風に吹かれているんだろう。肌が敏感なお姫様達だからこそ、ぴりぴりという形で感じられているんだろう。


「……ぴりぴり? ねぇ、なんで感覚」


「エレ、なんで花器なのに感覚あるのかな? それとおんなじだよ。今の僕らは、夢の中、精神だけの存在。とかって、言われているよね。でも、僕ら神魔聖は、ここで自由に動けるように器が」


「ふにゅぅ? もっと、わかりやすく言って欲しいの」


 フォル、聖獣召喚問題初めっから推測は答えの域にあったでしょ。なんか、わかりません感出していたけど。

 あれ、エレがわかるような説明わかりませんなでしょ。

 そう言いたくなるけど、ここは黙っている。


「……シェフィ、説明するから、エレに理解できるよう頑張れ。僕が使う花器とおんなじ状態。そもそも、全ての情報は魂とでも呼ぶべき深い領域に刻まれてるんだ。聖獣だって、呼べるに決まってるんだよ」


 うん。エレ以外は多分理解できてる。要は、情報を持ってきているだけって事か。神魔聖の中で、魂の解釈は、情報の器。今、こうして動いている。手がある。上にあげる。それらの命令も、魔法も全ては情報。

 ただし、その情報はその魂にのみ。核となる部分にあるもの。記憶や人格は、決して離れない。眠る事はあっても、常に自分の中に存在する。


 って、神聖になる前に教えられたんだ。覚えるのに苦労したよ。わけわかんなくて。


「ああいう、目に見えない、捉えられない部分の話。苦手なの僕だけ? 」


「僕は比較得意だったかな。だから、正直いうよ。さっきのあれも、シェフィが思った通り。わかっていて、エレへの説明に、その意味通りとなるか。そこがわからなかっただけだよ」


 やっぱり。

 でも、説明これだけだとつかなくないかな。自分の今の器から、魂が離れている状態。それは、その器がどうなるのか。その部分まで説明できてこそ、そうだと言えるんだと思う。


「フォル、僕らの現実の器は」


「夢って言ったよね? 魂は、器から離れないよ。壊れない限りは。壊れれば、次の器へいく。その際に浄化されるけど。で、今の僕らでしょ? 正確にいうと、全ての魂がここにあるわけじゃない。エレの現象に近いかな。別れているんだ。実体がないけど、感覚は感じていたはずだよ」


 フォルがエレを見る。エレは、青ざめた顔で頷いた。臭いで今にも吐きそうにしている。ちなみに、話は理解してなさそう。


「だから、花器とおんなじって言うんだ。エレ以外は理解できた? 」


「うん。ありがと。なら、臭い消す方法って」


 ティアには、それが一番重要だった。僕もそれが重要。エレのために。


「嗅覚無くせば? 」


 フォルに優しさが消えていく。エレやティアみたいに体調に関わりはしなくても、臭いがかなりストレスになっているのかな。


「ねぇ、とりあえず、場所移動しない? ゼロも、喋るのすらやだになっているから。枯れた水を探しながら、臭いがない場所を探そうよ」


 うん。そうだね。そういう意思表示なのかな。エレとティアが頷く。二人ともヴィーがすきなんだよね。他の選択肢があるのに、神聖達がいるのに。なんで、二人してヴィーと手を繋ぐんだろう。


 仕方がないから、ゼロと手を繋ごうかな。今のフォルを刺激したくない。


「……」


「フォル? 」


「……」


 自分から手を繋ぎにきた。


「……ねぇ、喋ってるとさ、なんか……変な感じが口に伝わるんだけど」


 わからない。流石にそれは。喋っていたけど、そんなものは感じなかった。


 ゼロがきた。エレじゃないのに。ほんとに気まぐれ。

 右のゼロ、左のフォル。もう、不足なんてない。これでいいです。と少し思えてしまう。気まぐれ猫達が、自らこっちにくると。


 僕らは、一緒に歩く。臭いのない場所を目指して。

 そんな場所はあるのか。そう思っても、とにかく歩き続ける。ところで、いつになったら夜になるの? と思いながらも。



 何時間、歩いているんだろう。何も変わらない。灰色の地面。水のような感触が足に伝わっているのも。全部、全部変わらない。

 どこまでも、どこまでも続いているみたい。出口なんて存在しない。あの闇の中みたい。


 今、現実では何日かかっているんだろう。ふと浮かんだ疑問。エレを巻き込めば、エルさえいてくれれば、それを確かめる事はできる。気乗りはしないんだけど。


「歩き疲れた」


 エレにしてはかなり歩いている。疲れて当然かなってくらい。歩いているのに何もないのは流石におかしい。ここにきてから、こんなんばかり。


 少し休む。そう言ってあげたい。でも、こんな場所で休んでも休めなさそう。


 どこか、休めそうな場所があればいいんだけど。目につく範囲では見当たらない。


「誰か時計持ってない? 」


「……」


 ゼロがフォルに時計を渡す。一言も喋らない。


「……」


「今? 自分で持ってたなら、自分で見ればいいじゃん。今はね……夕方くらい」


 なぜか会話が成立する空間。夕方って、そんなに時間経ってなかったのかな。感覚的には、一日近く歩いていたんだけど。


「……ゼロ、屈折工事」


「エレはかわいいね」


 ティアがエレを愛でている。愛でる前に言うべき事あるよ。こういう時にいつも、誰よりも輝く存在は今は無言を貫いている。


「エレ、掘削だ」


「ヴィー……ゼロ、掘削工事」


 エレに言われて、ゼロが地面に向けて氷の術を使う。氷柱は地面に穴を開ける。どろりととける氷柱。氷柱の下から、氷が見える。枯れた水はこれの事だろう。


 あとは夜まで待機。と言いたいけど、ここでは待機できない。


「……グリちゃん。グリちゃん! 」


 エレにまで伝染した。グリちゃん呼び。


「ティア、ティアも一緒に」


「グリちゃん! グリちゃん、きなさい! 」


 ティアにまで。グリちゃん、きてくれるかな。僕らはグリちゃんがくるのを待っている。

 くぃくぃ——袖が引っ張られた。右から。

 右を見る。ゼロが何か言いたげにしている。決して口は開かない。


 何が言いたいのか。


「やわやわ? 地面の中の氷がやわやわだった? 」


 氷なら、硬いと思うんだけど。固定概念かな。やわやわ氷も存在するのかもしれない。ちゃんと固まっているのに。


 ゼロの言いたい事を当てられたからなんだろうか。ぱぁぁっと、輝く表情。キラッキラ。


 どうしてそんなに機嫌がいいの? と言いたくなるくらい。きっと、この状況じゃなかったら、鼻歌歌うんじゃないかなってくらい。


「ヴィーも口数少ないよね」


「……口を開くと、口の中にじめっとした感じの悪い何かが入ってくる。そんな感覚がある」


「エレも。だから、必要以上にお話や」


 フォルだけじゃなかったんだ。ティアはわかってなさそう。何か共通点でもあるのかな。

 敏感だというなら、ティアも当てはまるはずなんだけど。ゼロが口を開けばどうなるのかが気になるよ。でも、絶対拒否しそう。どれだけ頼んでも。

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