6話 枯れ音
ヴィーの成長にしんみりしていると、フォルがほっぺつんつんしてきた。いつもの事だから、とりあえず抱きついておく。
「……もう一個質問なの。どうやっても、ここから出れないのはどうして? エレ、いつも出る時みたいに、出ようとしているよ? でも、出れないの」
エレはちゃんと出ようと思ってたんだね。神妙な面持ちのエレ。
エレが試した方法は、ここから出るように念じる事だと思う。それなら、他の方法で試してみれば出られるとかないかな。
僕が思いついたのだと、エレには試したくない方法。
僕はエルを見た。何も言わず、にっこりと笑うだけ。言わずとも、エルならわかってくれるよね? そう信じてる。
エルが首を横に振っている。痛めないかなと心配になるくらいの勢いで。隣のティアは、何かを察している? 苦笑いでエルから離れている。ゆっくり、ゆっくりと。
まぁ、いくらエレが洗脳化にあっても、自分からはする気ないかな。
「……シェフィ、強打方法とか考えてない? 」
「バレた? 」
「うん。エレ以外は気付いてる。ゼロ見てみなよ。ヴィーとエレ守ってる」
フォルに言われて見てみる。ほんとにゼロがヴィーとエレを守ってる。二人の前に立って、この二人は俺が守るんだ。そう言わんばかりの顔をしている。
僕はエレにだけは手を出さないんだけど。
「……あの、我も、戻れません」
「そうなの? なら、小さくなるか、移動の乗り物になってもらえない? 私はいいけど、エレを歩かせたくないから」
いつも思うんだけどさ、ティアって、なんで神殿でおとなしいなんて言われてるんだろう。行く度に、神和の聖女様は、お淑やかでおとなしく、美しくから、我々が守らねば。とか言ってんの聞くけど、そんなふうに見えた試しがない。
そんなティアが、エレのためにとグリンゲルグに命令中。これって、小さくなるってこたえいいのかな。
「姫君を乗せます」
「ありがと。エレ、いい乗り物があるから、ここから出てみない? 」
「うん。出てみる。ヴィーも一緒に乗ろ」
エレからのお誘い。ヴィーは、なんと返す。ここで、人間時代からの成長が試される。
数秒の間。返しの思考中なんだろうか。
おお、とうとう口を開いた。出る言葉は、果たして
「乗せてもらおう」
「うんうん。一緒に乗るの」
エレの機嫌は晴れ模様。そして、ヴィーはその返答にどう示す。言葉だけじゃない。こういう場面では、態度も大事なんだ。
あの堅物ヴィーだ。かつての彼なら、罪悪感をその態度に表すだろう。そうしたら、エレの機嫌が曇りになってしまう。
ここで見せる態度はどうだ。
見せた態度は、なんと、普通に嬉しそうだ。
「僕らも乗っていい? 」
「……全員どうぞ」
「わぁい。ありがと、聖獣王……言いづらいな……グリちゃん♡ 」
フォルを先に乗せてあげないと。術をほとんど使えないから、グリンゲルグの背に乗るのはむずかしそう。
「フォル、エレが引っ張って乗せる」
「うん。ありがと。でも、それエレが落ちるだけだよ」
うん。正論。正論だけど、もう少し言い方なかったかな。そういうとこもすきなんだけど。猫かぶってた時よりも全然こっちの方が魅力的だね。あっちもあっちですきなんだけど。
すきといえば、乗せてあげるよりも、一緒に乗る方がいいかな。
フォルって、思ったより軽い。もう少し鍛えた方が、なんてむりか。どれだけ鍛えても変わらなかったと本人が言ってたから。
真下で見てみると、ほんと大きい。四メートルくらいかな。でもこのくらいなら、僕は術使う必要もなさそう。もう少し大きい想像してたんだけど。
地面を蹴って跳ぶ。フォルを抱いたまま、グリちゃんに乗る。
白いもふもふは、もふもふだった。ふっかふか。何これ、すぐに寝れる。徹夜明けじゃなくても。このもふか感をみんなに伝えたい。アディあたりを今度誘おうかな。
「シェフィ、ふか? 」
「うん。ふか。初めて乗ったけど、グリちゃんすごいふか」
触れば触るほど、そのふかに心奪われる。このふか度を再現したベッドが欲しい。
エルとティアも乗る。ゼロも。みんな乗って、ふかふか堪能。
ゆっくりと、グリちゃんが動き出す。揺れが少ないから、落ちる心配はなさそう。むしろ、この揺れが僕らを包み込んでくれる。深い深い眠りの中へと。
「……すやぁ……」
「……すゃ……」
エレとティアが寝ている。この状態でも、眠るってあるんだね。
「グリちゃん、さっきから本当に出口向かって歩いてんのか? 」
白いもふもふに気を取られてた。景色は変わっている。灰色の地面。今も歩いているけど、進んでいる様子がない。ずっと、足を動かしているだけ。
「そうですが」
「そうじゃねぇよ。さっきから、動いてんのか? 」
「何を言っておられるのですか? 動いて……」
ゼロの指摘で、その場から動いていないと認識した? それまでは、本気で動いていると思っていたのかな。
「……ねぇ、さっきから何か、変な音しない? エレのあれとは違う。歌じゃない……なんだろう、これ」
まだ術の効果範囲内だとは思う。だから、歌が聞こえるのは正常。音系はあんまり得意じゃないけど、使えなくはない。音魔法で、小さなその音を拾う。
なんなんだろう。風のようにも聞こえる。でも、誰かが笑っている声にも聞こえる。なんの音。そう聞かれても、答えられない。言える事があるとしたら、不気味。
あれ? そもそも、あの二人は寝る直前に術は解いているんじゃないの? 眠りが浅くなるから、術を使ったままはやなの。いつも言ってるから。
今日に限って。なんて言葉はあの子は持ち合わせない。
というか、そうだった。術が使われてるかどうか。すぐにわかるんだ。なんで、こんな単純な事が抜けてたんだろう。大前提だ。景色が変わっている。それはエレの術は解けている証拠。
この灰色は、エレのすきじゃない。
まずは、これがなんの音か。もう考えるのはやめよう。エルと目が合った。一致すれば、それが答えだろう。
「「枯れ音」」
同時に紡がれた言葉。最悪な、直感。外れろ。そう願うのは僕だけじゃないだろう。
だって、僕らの言う枯れ音は——
「……」
「フィル? ……二人とも正解みたい。枯れ音の泣き声だ……せめて、祈りだけでも捧げようか」
「そう、だね」
生命の神聖が感じてるというなら、間違いなんてないんだろう。
エレとティアが眠っているのに起こすのは悪い。という事で、僕らだけで祈る。
——どうか、次生は愛と幸福に満ちたものとなりますように。
ピンクの光。愛を願う光。枯れ音達に、届く事を願って。
黄金の光は、新たな生命を祈るもの。それを、空色の光が、遠く遠くへと運んでくれる。
ぽたん——不意に落ちた雫。僕らの視線は、その雫の元。それは、奥底へとしまい込んでいた本物なんだろう。
「……えっ……あっ……ごめん……なんでもない」
翠色の瞳にできた水溜りを、両手で拭っている。
「……これ、脱出方法、何も思いついてなくない? 祈りも大事だけど、今は脱出も大事っしょ」
あ〜、うん。そうですね。何も解決方法なんて思いついてないね。最悪な状況だ。せめて、祈っておこう。でも状況は変わらないよね。で今。
外がどうなってるのかもわからないし、脱出が大事。フォルの言い分もごもっともです。
なんて言われても、思いつかないもんは仕方ないじゃん。とも思うけどね。そうは言ってられないのが、僕らか。
「はい! はい! 俺、俺いい方法思いついた! 」
「ねぇ、なんかない? シェフィとエルなら何か浮かぶんじゃないの? 僕はもうエレ以外考える気ないから」
エレ以外ってなんだろう。エレの何を考えてるんだろう。あと、今さらっと聞かなかった事にしたよね? ゼロがしょぼんとした顔で俯いている。人差し指で、グリちゃんの毛で遊んでいる。
今回の慰め隊はフィルらしい。




