5話 英雄に託す
無事、三人と合流。エレはティアに抱きつきに行く。優先順位は誰なんだろう。
「おや、これは残念でしたかな。不を撒き散らす姫君は、消えなかったようですかな」
それはそっちでしょ。散々人の子を利用して、世界を破壊するだけの澱みを撒き散らして。
「……シェフィ、あれ、攻撃が効かない」
「そう。エル、優先すべき事項を見誤るな」
「……了解」
エルは僕が全て言わなくても、理解してくれる。今最も優先すべき事項。それは敵を倒すじゃない。
「おやおや、会話など余裕ですかな」
地面から黒い触手が生える。僕とエルは、直前で避けられる。でも、他のみんなは
「ふぇ⁉︎ 」
「エレ、こっち」
ティアがエレの手を引いて、安全な場所へ連れてってくれてる。フォルは、このくらいなら避けられるか。フィルも、言うまでもない。
問題は、近づけない事。誰かが気を引くしかない。そんな事はわかってる。でも、相手がそんな簡単な事に気づかない。なんて、ありえないだろう。
となると、方法は、多少の危険を承知で走るしかないか。
「やっと見つけたんだーーー‼︎ 」
へぇ、まさかこんなとこで、希望様が訪れるなんて。空色の光をばら撒いて。寂しがり屋の希望様は、全員の注意を引いてくれる。その隙に
「させるとお思いですかな? 」
「わっ、あっぶなぁ」
「これも避けますかな。さすがは、愛の神聖」
だめか。注意、引けたと思ったんだけど。距離が縮まない。
どうすれば——
「ふにゅん。エレはにゃんにゃんが得意なのです」
得意げな声。希望が、ゼロがくる。わかってなければ、こんな事はできていない。エレは、ゼロがくる直前に、そこへ走っていたんだ。それでも、バレないわけない。フィルがエレを見つけられないように、術で隠してくれたのか。
かけら、ううん。創世姫の元へ辿り着いたエレ。これで
「目的達成。などとお思いですかな? 甘い、甘いですなぁ。この術が、そう簡単にっ⁉︎ なんだ⁉︎ なぜ⁉︎ なぜ、術が消えている! 」
甘いのは、そっちだろ。神聖の天才と魔聖の姫。二人の力を見誤っていたな。ピンクの光が、創世姫に向かって放たれる。それと同時に、黄金の光が、彼女を守護した。
二人のおかげで、傷一つつけずに、僕らの大切なものを取り返せた。
「……また、一人なの……でも、もう、泣かない」
これがほんとの最後のかけらなんだろうか。エレはかけらを取り込む。
「チィ! なら、罪の具現化を直接狙うまでだ! 」
「ヴィー! ヴィーケヴァル! 」
闇の剣が、エレの目の前で止まる。鎖に繋がれて。
さっすが、世界初の英雄様だ。エレのそばで守る騎士様だ。
迷いなんてない、守るべき者のためにと力を使う彼は、あの頃とは別人みたい。
アディと似た赤色の髪が靡く。アメジスト色の瞳は、意思強く、まっすぐと人の形をしている邪を見つめている。
「……ふにゅぅ。助かったの」
「人の子が何人増えようと、無意味ですかな」
想定外があろうと、優位なのは変わりない。それに気づいたか。余裕を取り戻している。
事実。攻撃を当てる術すら見つけられなければ、僕らは体力を減らし続けるだけ。
逃げるにしても、もう逃げられなさそう。出入り口が、闇に塞がれている。
「……ティア、防御魔法使えるよね? 君らは、ちゃんと自分の役割を守りなよ? 僕らの役割は、人と共にある事だ」
人と共にある? ヴィーは、聖獣なんだけど。でも、元人間か。忘れかけてたよ。
一度きり。逃せば次はないだろう。確実に、成功するためには
「……レーシェ、力を貸して……シェフィ、エレはエレエレしていますの」
了解。エレはエレエレしているから、なんの心配もしなくていい。
もう、触手を避ける必要はない。立ち止まる僕ら。触手は僕らを狙う。でも、壁に阻まれる。
空色の希望が、ヴィーに奇跡を知らせる。ピンクの愛が、強さを与える。黄金の生命が、浄化を与える。
今の僕らにできない事でも、力を合わせれば、別なんだ。
全てを一人の英雄に託す。世界初の英雄は、またしても、邪悪な闇を晴らすために、大活躍。
運命に縛られ続けた鎖は、運命を打ち破る鎖。炎の星に魅入られた炎が、鎖に纏う。
僕らの託した力が合わさって、炎に包まれ浄化される。
「僕動きたくないから」
「……おれも、魔法具にでも……乗り物になるのは持ってないんだった」
「そうだ。グリンゲルグ! エレのそばで見てるんでしょ! 前みたいに、出てきなさい! 」
前みたいに? あれ? グリンゲルグって、今の聖獣の王。エレと契約してる。なんで、ティアが命令できるの?
ほんとに出てきてる。あの巨大狼。じゃなくて、猫なんだっけ?
これ、エレどう思うんだろう。苦労して契約しているのに。
「ふにゅふにゅ。お疲れヴィー」
エレは、気にしてすらいない。ヴィーに抱っこされてる。
エレが気にしていないなら、僕らが気にする必要なんてどこにもないのかな。
「……あの、我は、なぜ呼ばれて……言いにくいのですが、あれですよね? 現在、意識だけですよね? 」
全員黙った。あの白い空間でもここでも、感覚とか普通にあるから。ここは夢の中なんだ。それを忘れていた。
グリンゲルグに指摘されなかったら、僕ら全員気づく事なかったかも。
でも、そっか。ここは夢なんだ。簡単に言えばだけど。夢なら、別に急がなくてもいっか。
「……あれ? ねぇ、エレ気づいちゃった」
僕のかわいいお姫って、エレはお姫様いやなんだっけ? 僕のかわいいは何かに気づいちゃったか。右手で拳を作って口に当ててる。その姿も愛らしすぎる。
「あのね、ここは……今のエレ達は、身体は眠ってる状態。でも、精神だけはこっちにいる。っていうのが一番近い解釈なんだよね? なら、どうして聖獣呼び出せるの? 」
「……えっ? ……あの……」
誰か説明を。僕の代わりにエレに説明を。エルが顔を逸らす。ティアが視線を逸らして口笛を吹く。フィルが魔法具を見ているのを、ゼロが見ている。僕の唯一の頼みの綱は、どうしているんだろうか。僕の視線は、神聖の天才へ。
「……にゃんにゃんみにゃん」
あっ、だめだ。聞かなかった事にしてる。聖獣ならは、どうなんだろう。ヴィーは知るわけないから、グリンゲルグ。
僕がじっと見つめていてやると、たらりと汗を落とす。
「……我も、姫君の中に眠っているものとしか」
中に眠る?
「……これが正解なんて思わないで。たぶん、契約のつながりが、エレの呼びかけに応える。そこに場所も状況も関わっていない……んだと思う」
「だから、エレとティアの呼びかけに応えるんだ。じゃあ、エレが声出せなくても、出てきてくれるの? 」
僕としても、フォルの説明が一番しっくりくるかも。グリンゲルグよりも。
エレは、これどうなんだろう。気合いを入れているのかな。なぜか力んでいる。
涙目になった。これは、エレが試そうとして失敗した時の顔。
僕が慰めてあげないと。といつもなら速攻で頭を撫でに行く。なのに、今回は僕が動くより先に、慰め役を勝って出る男の姿が。
英雄。そう呼ばれる前、自分は子供の扱いは不慣れです。でも、がんばります。なんて感じを出していた。なのに、誰が何を言うわけでもない。自ら率先して、エレの頭を撫でる。
それに
「俺なら出てやれる……ように気合いでする」
気の利いた言葉までも与えている。一歳にも満たない頃から、ずっと見てきた。ぶっきらぼうで、剣の道以外は何も知らない感じがあって、心配が尽きなかった。そんなヴィーが、ここまで気を回せるなんて。
エレのご機嫌取りをできるようになるなんて。
これが、弟子の成長を喜んでいたアディの気持ちなのかな。今初めてわかったよ。
「……ヴィーは俺が面倒見てたんだ」
出た。自分が育てました自慢。ゼロは育てて——
『ほら、スープできたぞ。今日は寝るまで、本読んでやる。勉強もちゃんとするんだぞ』
あっ、そうだ。ゼロが遊びにくるたびずっと世話してたんだ。ゼロは、それを言ってもいいかも知れない。
でも、成長したのは、エレと一緒にいるようになってからだから。




