5話 星の謎
ルーツエングの部屋を出たエレシェフィールは温室を訪れた。
ゼーシェリオンが育てている氷の花が大量に咲いている。エレシェフィールは氷の花を見つめる。
「……ゼロ、誓いってなんなの? 」
ゼーシェリオンがエレシェフィールのためにした誓い。エレシェフィールは詳細を知らない。
花から目を離したエレシェフィールは振り返ってゼーシェリオンを見る。
「……神聖の誓いは俺らの力を与えて俺らと一緒にいてもらうものだ。つぅか、お前疲れてねぇのか? 」
ゼーシェリオンが怪訝な視線をエレシェフィールに向けている。
エレシェフィールはきょとんと首を傾げた。
「うーん、疲れてはいるけど、とっても疲れているわけじゃないかな」
エレシェフィールは体力がある方ではない。ゼーシェリオン達を見ているとむしろ体力が少なすぎるくらいだ。だが、エレシェフィールは今はそこまで疲れていない。まだ散歩して遊んでとできる体力が残っている。
「……念の為少しにしたが、かなり負担がきていてもおかしくはないんだけどな」
ゼーシェリオンが手で顎に触れて黙っている。
「それと、神聖は星と繋がっているって教えてくれたの。星はなんなの? 」
エレシェフィールはゼーシェリオンの状況を無視して話を進める。
「……星は世界創造者の居場所。星神、星の子、星種……呼び名は色々とあるな。俺らは星者って呼んでるんだが。星者は星の中から一人選ぶ。その一人に絶大な力を与える。双子は別なんだが」
ゼーシェリオンが氷の花に手を添える。氷の花から冷気が溢れる。
「俺らは星者に選ばれたんだ。その中でも愛の星に選ばれたあいつは特別。愛の星は姫がいる場所だから」
「姫? オリジナルの事? 」
エレシェフィールが聞くと、ゼーシェリオンが首を横に振った。しばらく沈黙が続く。エレシェフィールが口を開こうとすると、ゼーシェリオンの手がエレシェフィールの手に当たった。
エレシェフィールはゼーシェリオンが発言するまで花を見て黙っている。
「……話したくないわけじゃねぇんだ。けど、今のエレに理解してもらえるとは思えない。俺らも、全てを知っているわけじゃねぇから尚更、説明しづらくて」
エレシェフィールは理解力が高い方ではない。ゼーシェリオン達ですらわかっていない部分が多い事を同じくらいには理解しろと言われてもできない。
しかも、知恵熱を出す可能性もある。
「じゃあ、愛の星に選ばれた神聖の役割教えて。エレががんばるから」
「むりだろ。お前そういう事できねぇから。報告書読み方知ってんのか? 加護の調整仕方知ってんのか? 他にも、今はフォルがやってる事を引き継げんのか? 」
エレシェフィールはそっぽを向いて黙っている。
「……できねぇだろ。お前はそんな事できねぇだろ。お前にできる事があるなら俺らの癒し手としてふにゅふにゅにゃむにゃむしていればいいだけなんだよ。俺らのまとめ役としているのも愛の神聖の立派な役割だからな」
ゼーシェリオンがエレシェフィールの頬に触れる。
エレシェフィールはこくりと頷いた。
少し俯きながらも視線だけはゼーシェリオンに向けた。ゼーシェリオンがエレシェフィールに笑顔を見せる。
「エレは癒すのがんばる。フォルの事だってエレが癒してあげるの。それで帰ってきてくれるならいくらでも、癒すの」
エレシェフィールの持つ役割はまだ本人ですら気づいていない。だが、今この時大切な人のための役割を全うする。そう決めて、エレシェフィールの思うかわいい仕草。両手で口を隠して瞳に涙を溜めてゼーシェリオンを見つめる。
できる限り上目遣いを意識して。
「……かわいいは癒しってフォルが言ってたの」
「そうだな。エレの癒しは可愛い」
エレシェフィールはゼーシェリオンに頭を撫でられ、手を上下に振っている。
ゼーシェリオンの左手が離れるとエレシェフィールは両手でゼーシェリオンの左手を掴んだ。
エレシェフィールはゼーシェリオンの左手を頭の上に戻す。
「……もう一つ知りたいんだけど、星って人が住んでいるの? 」
「ああ。つぅか、話の流れでわかるよな? 人住んでるって話したんだから」
ゼーシェリオンが呆れながらも答えてくれる。エレシェフィールは頬を膨らませてから反論した。
「今もって事なの。その当時は住んでいても今はみんなどこかの世界で暮らしているかもしれないの。そのくらいは流石に話の流れでわかるもん」
ゼーシェリオンが話ているのは数兆年以上昔の話。まだ、人が暮らす世界ができる前。
時代の移り変わりにより世界は変化している。ならば、世界よりも長い時の中を存在する星もその変化が起きているだろう。
エレシェフィールはそういう意味でゼーシェリオンに問いていた。
「それは……多分……きっと、いると思う。つぅか、そんな話今はどうでもいいだろ。それより、お前勉強の時間」
話を逸らすようにゼーシェリオンが収納魔法からノートを取り出した。エレシェフィールはきょろきょろと辺りを見回す。
逃げ道がない事を逃げる前に悟ったエレシェフィールは、瞳に涙を溜めて必死に訴えかける。
「そんな顔してもだめだ。今日は魔法学でいいからな」
「それならいいの……お勉強。懐かしい気がするの」
誰かが勉強をしている様子。銀色の髪の少女と金髪の少年がいた事だけは薄っすらと思い出す事ができる。だが、もう一人が思い出せない。エレシェフィールにとって大切な人のはずなのに。
エレシェフィールは左手でゼーシェリオンの右手に触れる。
「お前にも勉強でいい思い出あるんだな」
ゼーシェリオンが広角をあげる。いい思い出。それすらも思い出す事はできないが、エレシェフィールはこくりと頷いた。
「ゼロが星の事教えてる時の方が詳しく教えてくれてる気がするの。でも、楽しかった気がする」
エレシェフィールの脳裏に浮かんだ映像はそもそもエレシェフィールが勉強をしていたというわけではない。銀髪の少女が勉強をしていた。
エレシェフィールはゼーシェリオンの頬に口付けをする。
「今日のお礼なの。魔力いっぱい」
ゼーシェリオンは自然からの魔力吸収力が低い。エレシェフィールはその逆。
「……そういえば、どうして婚約破棄なんってやらされたんだろ? あの場の必要性がまだわかんないの」
先日の婚約発表。エレシェフィールはフォルに言われたからその日を選んでいるだけだ。他意はない。
エレシェフィールは口を少しだけ開けてきょとんと首を傾げる。
ゼーシェリオンがエレシェフィールを見ながら呆れたようにため息を吐いている。
「……あの場じゃねぇと貴族が集まんねぇだろ。つぅか、フォルに説明されてねぇのか? 貴族が集まって絶対に逃げ出せねぇ状態にできる。それが最低条件だったんだろ」
エレシェフィールは右手を顎に当てて「うーん」と声に出している。数日前の事をどれだけ思い出そうと、エレシェフィールには説明を受けたという記憶はない。
「知らないの。そんな事聞いてないから。それより、そういう事なら、あの森も何か意味があるのかな? わざわざあそこにする理由」
「あるんだろうな。知らねぇが。それを確かめるためにも……ん? あれ? 今フォルいるんだよな? ん? 」
ゼーシェリオンが連絡魔法具を取り出している。フォルに連絡でもしているんだろう。だが、フォルは出ていないようだ。
もうここ、天の箱庭エクリシェにはいないんだろう。
「とりあえず、今日はエルグにぃとルーにぃのお仕事とかあるかもだから明日なの。ゼロ、必要な魔法具用意するの」
その場から動こうとしないゼーシェリオン。エレシェフィールは、ゼーシェリオンを動かそうとしているがびくともしない。
エレシェフィールが泣き初めて初めてゼーシェリオンは動いた。
ジュンドの森は危険地帯。転移魔法が使えず帰れる保証もどこにもない場所だ。エレシェフィールはゼーシェリオンと一緒に。無事に帰れるよう護身用の魔法具を収納袋に入れて明日に備えた。




