5話 星の謎
次に向かったのはゼーシェリオンの管理する温室。大量の氷の花が育てられている。エレシェフィールは氷の花を見つめながらゼーシェリオンに疑問を投げかける。
「ゼロ、星……神聖ってなんなの? エレは詳しく知らないから教えてほしい」
エレシェフィールが知っているのは本当に最低限の事。これから起こるであろう事態を理解できるような知識は何も持っていない。
「……この世界には魔力が溢れている。その魔力を星では魔星っていうんだ。星には神聖力が溢れている。世界も星も片方しかないわけじゃなくて、両方が本来バランスよくあるはずなんだ。でも、明らかに偏っている。エレ、ここまで教えればわかるだろ? 」
「……魔星は魔力を扱う種族で神聖は神聖力を扱う種族? とても単純だった」
エレシェフィールはえっへんと胸を張る。ゼーシェリオンが氷の花に右手を近づける。ゼーシェリオンの魔力か神聖力に反応して氷の花から冷気が溢れ出す。
「神聖力は神聖術つって、魔法とは違うんだ。魔法より複雑な部分の多い。例えばそうだな……旧神聖語で唱える誓いや呪言。無言演唱が多い魔法と違って、神聖術はそういうのが多いんだ。その神聖術に長けた二十三の神聖種が神聖に選ばれる。そして一人だけ姫が生まれる」
「姫……オリジナルの事? 」
「なわけねぇだろ。あれは世界が選んだ姫だ。星は別の姫を選んでる。それが誰かとは俺の口からは言えねぇが、お前はいつかいやでも知る事になるだろ」
複製品であるエレシェフィールに関係のない事。そう言って終えば簡単だ。だが、その言葉に他人事と言えるだけのものは持っていない。むしろ、その話を聞いて他人事と思う事ができなくなっている。
エレシェフィールは視線をゼーシェリオンに向ける。
「……愛の神聖は、ゼロ達にとってどんな人だったの? ……エレは、どうすれば愛の神聖の代わりができるの? 」
愛の神聖。エレシェフィールの記憶では泣き顔を見せていたあの少年。
ゼーシェリオンの言葉が止まる。数秒——一分弱。
時間が流れる。
「……どこかフォルと似ている、俺らのまとめ役だ。お前はあいつの代わりなんてできねぇよ。あの天才の真似しようなんて思うな。お前はただ、俺らにふにゅふにゅと愛想振る舞いて俺らの癒しになってればいいんだ。姫としての役割を果たでばいいんだよ」
「……でも」
「愛の神聖の役割のほとんどをフォルが代われる。けど、姫は違うんだ。姫はお前以外には代われねぇ。神聖の癒しはお前だけだ」
ゼーシェリオンが氷の花の造花を氷魔法で創り出す。右手で氷の花を持つとエレシェフィールの髪に飾った。
氷の花の冷気は造花になっても変わらない。だが、寒気を覚えるほどではない。
「姫はなんなの? いつもみんなエレが姫だって言うけど、わかんないよ」
「……悪い。その辺はほとんど書いてなかったんだ。神聖の姫は何も知らない。純粋無垢でなければならない。神聖姫は何も知ってはならない。知れば星の滅びの時。俺らの持っている書物にはそれくらいしか書かれていねぇんだ」
ここは温室。氷の花が咲くゼーシェリオンの憩いの場。なぜ温室で氷の花が咲くのかは謎だが、氷の花がどこを見ても咲いている場所だ。
移動なんてしていない。
何の前兆もなかった。突然エレシェフィールの視界に別世界のようなものが映る。そこには神秘という言葉が近いのだろう。神秘的な少女が暗く鼠色の場所に立っている。
——ねぇ、……は、残酷なんですか? なぜ……は……ですか?
か弱く消えそうな声。ところどころ聞き取れない部分がある。エレシェフィールの知らない言葉のはずなのになぜか聞き取れる。
「……れ……エレ! 」
「ふぇ⁉︎ えっ、えっと、何のお話だっけ? 」
視界が元に戻る。ゼーシェリオンが目の前にいる。
「姫の話してただろ。大丈夫か? まだ疲れてんなら部屋戻って休んだ方が」
「ううん。大丈夫。えっと、あっ、なんで温室なのに氷の花なの? 何か理由あるの? 」
強張る顔で笑顔を作るエレシェフィール。氷の花に左手を近づけて「冷たっ⁉︎ 」とすぐに離した。
訝しげな様子のゼーシェリオンを見ると、両手を背中で繋いで首を傾げる。
「……氷の花はロスト特有の花だから、寒い場所以外でも育つのか試してるんだ。成功すればゼムの役に立つから」
まだ成功段階ではないのか。そのツッコミを思い浮かんだが、知らなかった事にする。
エレシェフィールはゼーシェリオンの瞳を見つめる。氷のように青い冷たい瞳。その奥には確かな光が存在する。
「きっと成功するよ。ゼロががんばっているんだから。成功……そういえば、あれってわざわざ婚約発表でする必要あったの? 見栄え? なわけないよね。じゃあ、エレの反応を見るため? 」
「……仮にも王族の婚約発表だぞ。今回の件に関連する貴族達は全員参加する。あの場でならあいつが集める必要なく勝手にきてくれるんだ。あれ以上に絶好の場はねぇだろ」
エレシェフィールはこくりと頷く。エレシェフィールは一応は国王の養子とされていた。本人はその気などなかったが。
ゼーシェリオンが光魔法の応用で文字を書いている。
婚約発表会場参加貴族。書庫侵入に関わった貴族。エレシェフィール監禁に関わった貴族。禁書に関わった貴族。リブス王国国王夫妻の消息に関わった貴族。
と書かれている。
「これらに関わる貴族は全員参加してたんだ。金で動く下っ端に関わる仕事は普段フォルに回ってこねぇからな。あいつは色々とやりすぎるからエルグにぃも回さねぇんだろ」
関わった貴族の場所に丸が描かれる。婚約発表の場所に矢印が描かれる。
「理解したか? あいつは無意味な場所を選ぶ方が少ねぇからな。少しは成長したな。前は意味について考えなかったのに」
「うん……何か意味がある。じゃあ、ジュンドの森も……失敗しても帰って来れる保証のない場所だからなわけはないと思うから、もっとフォルにとって大事な何かが」
現在のエレシェフィールの一番の疑問。それをゼーシェリオンに投げかけても正解など返ってこない。だからこそエレシェフィールは自分で考える。その何かを。
「……考えても答えが出ない事はあるからな? それに、その答えはジュンドの森に行けばわかる事だ。今考える事は、どうすれば迷わずフォルのところに行けるのかにしろ」
「それはそうなの。それに準備もしないと。明日でいいかな。ゼロ、エルグにぃとルーにぃに連絡しといて。エレは連絡魔法具なぜかなくなったから。なぜか知らないけど壊れたから」
「お前の記憶どうなってんだ? 」
呆れ顔をして口ではそう言いつつも手は動かしている。ゼーシェリオンが連絡魔法具をポケットから取り出してメッセージを送ってくれている。
エレシェフィールはフォルがまだ部屋にいるのか確認する。瞼を閉じて両手を胸に当てる。顔をあげる。
エレシェフィールの立つ地面から桃色の光が放たれる。
「……フォルいないみたい。ゼロ、お部屋戻ろ。今日はゼロのお部屋でねむねむなの」
桃色の光が消える。エレシェフィールは瞼を開ける。踵を返して温室の外へ向かう。
ゼーシェリオンが来ない事に気づき、振り向いた。
「ゼロ、早く。お部屋でゆっくりと準備しようよ」
「あ、ああ」
エレシェフィールは温室から出た。ゼーシェリオンを待たずに室内へと移動する。
「……あいつなんであんな事できるんだ? あれができるのは、姫の力を持つ状態だけだろ。あいつは……答えるわけねぇか。たとえ全て知っていたとしても。俺らの剣は名前だけだからな」




