4話 大切な人のために
起きたらお部屋いるけど、なんかエレのお部屋違う気がする。どうでもいっか。転生前は散々ゼロのお部屋で過ごしてきたから。ゼロのお部屋とも、ちょっと気がう気がする。
そんな事よりも、両隣——右のゼロと左のフォル。どっちにいたずらすればいいんだろう。
フォルはバレた時怖いから、ゼロにしよっと。ゼロは怖くないから。ちょっぴり不機嫌になるくらい。
「……」
つんつん
ほっぺ触って遊ぶ。エレの右手の人差し指に、とってももちもちな感触がする。ゼロのほっぺはもちすべだった。
「……何やってんだ? 」
「ぴぇ⁉︎ 」
ぴょんってなった。ベッドの上でぴょんって。急にゼロが起きたから。起きないと思ってたのに。
こういう時は、目を離さず笑顔を向けたまま、ゆっくりとベッドから逃げればいいの。ゆっくりとゆっくりと
「……どこ行くの? 僕一緒にいたい」
寝起きフォルの声って、妖艶さが出ている気がする。とりあえずフォルに抱きつく。ゼロが怒ってもなんとも思わないんだから。
相変わらず高貴なお花の匂いがする。フォルに抱きついていて、このお部屋誰のお部屋なんだろうって疑問が浮かぶ。
ちょっとフォルから離れて、お部屋をちゃんと見る。誰かを思わせるような紺色の家具。それに黄金の装飾。これまた誰かを思わせるような。紺色に黄金なんて、一人しか思いつかなかった。
そして、そんな家具を置いているのは、フォルしかいないの。という事は——
「フォルのお部屋⁉︎ 連絡魔法具の画像保存機能を使えば……ふにゃ⁉︎ 連絡魔法具ないんだった」
気づくのに要した時間、一秒。まさにらぶが成せる芸当。連絡魔法具はその名の通り、遠くの誰かと連絡できる便利道具。基本連絡だけど、大量の魔法具持つのは大変だからって色んな機能入ってる。
「どこに捨ててきたんだよ」
ツッコミがお仕事の人、じゃなくてゼロがなんか言ってる。みんなで一緒にいた時に、ゼロがいち早くつっこむから、みんなゼロのお仕事ツッコミって言ってたの。
「捨てたんじゃないの。ゼロと違って捨ててないの。寝ぼけて落として壊れちゃって」
収納魔法は使える。収納魔法は転生しても転生前のものが取り出せるの。えっと、魂に記録されているとかなんとか。詳しい事は教わってない。
収納魔法から、前回寝ぼけた拍子に落とした連絡魔法具の残骸を出す。これはエレじゃ修復できないの。魔法具の基盤は魔法石。魔法石が与える魔力を動力源に動いているの。その魔法石が割れている。それに他の部品も、修復できないくらい壊れちゃってる。機能をつけるような基盤や魔法石と基盤を繋げる回路とか。
「……これは酷いね。フィルに頼んでおこうか? 」
お願いお願い。頷く。今はフォルに連絡頼むしかないから。というか、連絡魔法具壊れてなかったら、あの国からもっと早く逃げられてたんじゃ……考えるのやめよ。
「危ないから預かっておくよ」
破片でエレがお怪我するかも知れない。それを考えて預かるフォルすき。
フォルに残骸を渡す。フォルが残骸を引き出しの中にしまった。
「魔法具設計師がしょっちゅう魔法具壊すってなんだよ」
意地悪なゼロが生まれた。さっきいたずらした仕返しなのかも。
「知らないの。エレが設計した魔法具なら壊れないから毎回じゃないの」
そういえばドレス姿だった。着心地はいいけど、落ち着かない。とりあえずゼロには「しゃぁー。」って威嚇しておく。
ベッドから立ち上がって、初めに向かうのはクローゼット。目的はお洋服じゃないの。エレぬいぐるみ。
フォルが寂しくならないように、エレぬいぐるみをフォルに持たせておくの。それからお洋服を着替える。エレ達よく一緒にいるから、お洋服も自分のお部屋に戻らなくてもある。エレが選んだ記憶なんてないけど。
今日はこの、薄紫色のワンピースにする。
「ゼロお着替え。そのあとお散歩。フォルも一緒に」
「ごめん。本気で仕事やばいんだ。今日渡さないといけない書類百枚以上ある」
これは嘘じゃないの。仕事言い訳に逃げようとするフォルは、ここまで詳しく言わないから。しかも、こんなに寂しそうにしない。エレぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてエレを見るなんて。
ゼロにお着替えしてもらうと、エレはフォルのほっぺにちゅってした。それからゼロとお部屋出る。
お部屋を出ると薄桃色の長い廊下。お部屋が並んでいる。この階はみんなのお部屋あるの。普段みんな最下層にしかいないから、きっといると思う。
そう思って、銀色の扉の目の前で止まった。白色のプレートに、ルーツエングって書かれている。
コンコン
きっといる。そう信じて扉を叩く。多分音聞こえてないと思うくらい小さい。
「エレか。入っていい」
扉の中から聞こえてくる声。落ち着きがあるけど、どこか疲れている。理由は扉を開けたらわかった。
白で清潔感のあるお部屋。本棚が三つもある。椅子に座っている、長い緑色の髪を編み込んだ男の人。この部屋の使用者エルグにぃ。机に置かれた大量の書類。手に持っている書類とにらめっこしている。お疲れ理由はお仕事のしすぎなの。
えっと、リブインの時の後始末だったら、ごめんなさいって心の中で謝っておく。エルグにぃはギュシェルの主様だから。
ゼロと一緒に邪魔しないようにベッドの上に座る。ちょっと硬い。エレがおすすめ送りつけてやった方がいいかも。ベッドはお休みするのに、とっても重要なんだから。
「エルグにぃ、お話大丈夫? 」
こっちも用事あるから。でも声かけるだけで気が引ける。
「大丈夫だ」
大丈夫、とは思えないんだけど。
「ジュンドの森に行きたいの。それと、森にある監視魔法具を全部破壊してほしい」
ジュンドの森は禁止指定区域っていう場所なんだって。危ないから許可なくいけない。それに転移魔法で行くのエレじゃできない。
森の中を監視している魔法具は前回確認済み。これがるとフォルが困っちゃうかも知れないから。
それで、禁止指定区域に行くための許可申請書類はちゃんと書いてあるの。婚約発表までの二日間で書いといた。それを収納魔法から取り出してエルグにぃに渡す。
「……エレ、全然書けてない。俺が許可証出すからいいけど……暇な時教えようか? 」
エルグにぃはエレをわかってないの。お勉強きらい。
「……お前さ、自分の名前くらい書けるようになれよ」
そうやって言うならゼロが書けって思う。わざわざエレがゼロの分まで書いてあげたのに。感謝すらないの。
許可証ちゃんとくれるの。ゼロに預けとく。
「……エルグにぃはあれ以降フォルとお話しした? 」
エレのもう一個聞きたかった事。
「仕事の話だけ。最近だとこの書類を届けにきただけ」
これは、エレが見ていいのかな。エルグにぃが見せてるなら、見ていいのかも。エルグにぃの持っている書類を見る。
経費申請書、申請者ルーツエングって、なんでエルグにぃのお名前なんだろ。不思議。今度フォルに直接聞いてみよっと。
「それと少し前にこれを預かった」
エルグにぃから白い封筒もらった。宛名は書かれてないの。その代わりに星になる特殊な樹——神聖樹と星とハート。そんなマークが描かれている。
封筒を開けてみる。丁寧で読みやすい文字が書かれてる。
【聖星の御巫候補エレシェフィールの処分命令が下った。主様の命でないから無視していいよ。そのつもり、そのつもりだけど、ギュリエンの事があって無視できない。
ねぇ、今どこにいるの?
きっと会えない事情があるんだよね。
君がどこかで一人で頑張っているんだ。僕も、一人でも頑張るよ。
エレの事は任せて。君がいない分、僕が守るから。
でも、少しだけ弱音を吐いていいよね?
助けてよ。あの時から。君の言葉があれば、僕は前を向けるから】
これは、エレへのお手紙じゃない。誰なのか想像はつく。
「もう一枚ある」
お手紙もう一枚。
【何も考えずに君と一緒にいられればいいのに。君にどう思われようと、僕はずっと君を愛しているよ。もし、想いを伝えられる状態になった時って告白からなのかな。どこがいい? 花畑? 水? 見たい景色教えて。
それと、本気で僕を想ってくれるなら——】
こっちはエレにだと思う。最後、塗りつぶされてて読めない。
でも、わかる気がする。隠された文字は——僕を助けて。
でも、どうして消すんだろう。まるで——考えないようにする。
「それとこれも渡しておく」
巨大な本。古い時代に作られた魔法具。魔原書リプセグ。失くしたと思ったら、エルグにぃが持っていてくれたんだ。
「ありがと」
エレは魔原書リプセグを収納魔法にしまう。
「……エレシェフィール姫、義弟を頼む」
あの日から思い悩んでいるのは、フォルだけじゃないんだよね。あそこにいた当事者達はみんな、おんなじなんだって実感する。エルグにぃがエレの事をそんなふうに言うなんて、よっぽどの事。
「うん。ありがと、エルグにぃ。エレのだいすきな人を大切に想ってくれて」
「ありがとな。本当の兄弟じゃねぇのに俺らの大事な仲間をそこまで想ってくれて」
エレとゼロは、フォルが大事だから。エルグにぃのその言葉だけで嬉しいんだ。
「エレ達、エルグにぃの邪魔しちゃ悪いからもう行くね」
まだまだいっぱいお仕事ありそうだから。これ以上はお邪魔するの悪いかなって。それに、もう一箇所行きたい場所あるの。




