3,5話 フォルの仕事1
睡眠魔法のおかげで、ぐっすりと眠ってくれている。エレはしばらく起きないだろう。
柔らかく、細い腕。少しでも力を入れれば壊れてしまいそうな。壊れないように、そっと抱き上げる。
ほんとにエレは頑張ってくれたよ。慣れない事のはずなのに。この子のためにも、ちゃんと償ってもらうか。
エレ、君のためだったら、負担になってもこの力を使うのを躊躇わないよ。
「さて、この子も眠った事だ。そろそろ僕も仕事するか」
普段の翠の瞳は封印の影響によるもの。封印を解く。本来の黄金が姿を表す。
「幾つもあるけど、まずはリブスの件か」
僕はこの会場で一番派手な男を見る。数回会った事はあるけど、言葉を交わすのはこれが初めてか。宝石をこれでもかとあしらっている服に、これ見よがしにかぶる王冠。以前とは見違えたな。あの頃から、欲深さは感じていたけど。こんな事しているとはね。
「何度か会った事はあったな。元リブス宰相」
かつてこの場所にあった国。リブス王国。この男はその国の宰相だった。国王夫婦が消息を断つとすぐにこの男は、この場所をリブインと名乗り、王となっている。
「黄金に緑系の髪……ま、まさか……お、黄金蝶、様」
気づいて青ざめるがもう遅い。逃げ場など、どこにもないんだ。わざわざいやがるゼロを連れてきた理由はこれ。ゼロに全ての出入り口を氷で塞いでもらっている。
逃げられれば、仕事が増えるからな。
腰が抜けて立てないんだろう。醜く這いつくばって逃げようとしている。他の貴族達も逃げようとしているけど、どうせ逃げられないんだ。ほっといていいだろう。
「俺のエレ返せ」
「誰が君のだよ。この子僕の婚約者だから」
ちゃんと誰のお姫様なのか分からせておく。というか、一応は婚約者だからここはそう言っておかないと。
発作を治すにはゼロのそばに置いておくのが一番だから。
エレを預けてゼロから視線を外す。
「リブス国王の消息。管理者管轄の書庫への侵入。そっちの令嬢は禁止指定魔法の使用。いくらあの本が関わっているとはいえ、看過できない」
突然ぶるぶると震え出す貴族達。真っ白い息を吐いている。
「とはいえ、この件は基本的にお優しいギュシェルの主様に任せているからそっちに言い訳するといいよ。もう一個の件に関しては僕が直接罰してあげる」
ギュシェルは、人間からは神の獣なんて呼ばれている種族、ヴィングジェア。その種族の中でも特殊な家の当主が統率を務める組織。結構初期の世界から存在している種族と家だから、歴史は長いよ。ギュシェルは僕よりよっぽど優しいんだろうね。
貴族達が真っ青な顔をしている。あまりの寒さに。どうしてなんだろうって言うのは白々しいか。僕がそうなるように仕向けてるんだから。氷魔法を用いて。
「魔力異常体質による発作。あれはちゃんとした治療をしないと長くは生きられない。そのくらいの知識はあるはずだ。にも関わらず、自分達の金儲けだけさせてほんとに必要な薬の一つすら与えなかった。しかも、適当な罪を着せて完全に自由を奪おうとした」
あの子は読めなかったんだろうけど、報告書に詳細が書かれていた。報告書一つまともに書けないくせに、情報収集は有能なのなんなんだろう。
おかげで、エレがリブス国王と繋がりがある事も知れたんだけど。
もし、エレがこの国に希望を見出していたらと思うと、見逃すなんてできない。それ相応の罰。エレという少女にかけられる価値、というわけじゃない。あの子が与えたものに対するものでもない。罰の内容の理由について、言える事あるとしたら、本来そうなってもおかしくはなかった事からしてみれば優しいだろう。
「貴族身分の剥奪。全財産の没収。国事態をエクランダの監視下におく。可哀想だからそのくらいにしといてあげる」
リブス国王夫婦が見つかった時のために、国土自体は残しておかないと。まぁ、言い訳する分には財産に関しては、ほとんどエレが貯めたもんだから当然だろうね。という事にならないかな。命令では国の実質的解体に導けだったから、言い訳する意味もないのかな。
貴族達に対して言いたい事があるとすれば、そもそも土地が消えないだけありがたいと思って欲しい。もちろん、物理的な意味で。
なのに貴族達は猛反対だ。うるさいとエレが起きそうだから、音を奪ってる。おかげで声なんてちっとも届かない。
それと、最後に置き土産もしておかないと。一応生きてはいられるように調整してあるから、主様の使いが来るまでそのままにしておくっていうね。
「ゼロ、帰るよ」
「あ、ああ」
ゼロがドン引きしているんだけど。気にしない、気にしない。ゼロとエレを連れて僕は転移魔法を使った。
あの子の部屋と比べたら散らかってるんだろうね。書類や資料の山で。紺色の家具が双子の兄を思わせる。兄離れできてないからかな。それだけで落ち着くんだ。
ゼロがエレをベッドの上に寝かせている。その間に書類を隠しておく。棚の中と机の下。エレが見つけないような場所。
「……なぁ、よかったのか? 本の回収しなくて」
ゼロには少しだけ話した事があったか。そんなに本が気になるなら、いいものを見せてあげよう。
ゼロが言っているその本。
「一冊は持っているんだ。読んでいいよ」
タイトルは私が主人公。ピンク色の髪の少女が、表紙を飾っている。内容は至って普通の王宮恋愛もの。貴族達にも読みやすいようにするためだろうと考えられているみたい。ただの筆者の好みじゃないって思うけど。
ゼロが本を取ろうとしない。
「それ危険って言ってただろ。お前と違って俺は精神系無効なんてねぇからな」
なんだろう。なんか今、思い出してはいけない事を思い出しかけた気がする。でも、思い出せなかった。やっぱ僕じゃむりなのかな。愛の神聖を思い出す事。断片的には思い出しているんだけど。
それとも、そこまで思い出したくない事、なのかな。
ていうか早く受け取ってよ。
「大丈夫だよ。僕、フィルほどじゃないけど解呪得意だから」
余計に怖がらせるってわかってるのに、遊び心が出てしまう。ついつい笑顔でそんな事言ってしまう。ほんとにゼロの心配は杞憂なのに。
あっ、渋々受け取った。覚悟決めた顔してる。
簡単に読むと、何もない事を理解したみたい。
「これ最初しか効果ないみたいなんだ。僕らだからかも知れないと回収案件にはなってるけど」
まだ完全に解析できていない段階だから。どんな危険があるかわからないから回収しろ、だってさ。
そういえば、エレって熱、大丈夫かな。発作の時はよく熱を出すんだ。
エレのそばに行く前に、クローゼットの中にエレぬいぐるみ隠しとく。見つけた時エレが特別感出るらしいから。
見ていない事をいい事に、額と額を重ねる。いつも以上に熱い。
ゼロ特製氷でちょうどいい温度に冷やされたタオルを用意する。エレの額に乗せた。
「あっ、落ちた」
エレが「んー、みゅー。」って声出して身じろぎしている。僕はタオルをエレの額に置き直した。
「……ほんとかわいい」
エレを見ていて溢れる言葉。寝顔も動作も全てが愛おしいんだ。
「より戻せばいいだろ。ってできるわけねぇか。エレが愛を理解できねぇ以上……エレに愛を教えるより諦める方が楽なんだろうな。それでも、諦められねぇんだろ? 」
「……そうだよ。諦められないんだ。どれだけ自分に嘘ついても、できなかったんだ。おかしいよね。無意味に足掻いているなんて」
全部、諦めてしまえば楽なんだ。それを理解していながら諦められない。ゼロはそれを否定しないんだ。
ゼロがエレの隣に座る。自分のものだと主張でもしてるのかな。
……僕も、欲が深いのかも。こんな事だけで嫉妬なんて。もう、僕の恋人でもなんでもないというのに。
「おかしくねぇよ。そんなお前だから俺らがついてくんだろ。お前のために動こうとするんだろ。俺だってその一人だ。いつだって諦めきれねぇお前だから、ほっとけないんだ」
真剣な表情。ゼロはいつだってみんなの光だ。あの頃の僕なら、その言葉に救われていたのかな。でも……もう……




