3話 偽りの婚約者
二日前、寝る前に聞いた言葉。あの日からフォルと距離を感じる。距離は埋まらない。でも、婚約発表の日なの。
エレはぐっすりと寝ていた。気持ちよくぐっすり。なのに、ゼロに起こされた。見た事ないような、高級な洗顔料とかを使って、身支度されている。
エレはゼロの成すがままのお人形みたい。今日は仕方がないってわかるんだけど、眠いのに起こさないでほしい。
「……ねむ」
今は鏡のある机の前にある椅子に座ってるの。ドレッサーとかいう家具だった気がする。
「そろそろドレス着替えるか。エレ、立て」
ゼロに言われていやいや立つ。ゼロの持っているのは空色のドレス。シンプル。でも、生地がとてもいいの。見る人が見れば、その価値に気づけるみたいな一品。
着てみるとわかる。軽くて肌触りがいい。これってフォルが選んでくれているんだよね。フォルはエレをこんなにも想っていたんだ。それが伝わってくる。
エレが、意固地になっていただけ、なのかな。
「エレ、座れ」
「……」
何も言わないの。でも、本来ならエレは今、寝ているお時間。ちょっとくらいの反抗はしていいと思うの。だから、わざと睨んでから座る。
「……なぁ、いくら立たせたり座らせたりさせていてもそれはねぇだろ。俺好みの髪型にするぞ」
ゼロはそれでエレに不利益があると思っているのかな。「ふぁぁ。」ってあくび出ちゃった。眠いから。
「どうぞご勝手に」
エレはそっけない態度を見せてやるの。機嫌が悪いんですってちゃんと主張しないと。ゼロがちゃんと主張しろっていつも言うんだから。
「まだ終わってないの? 」
神聖達はみんな仲良し。みんなの声覚えてる。エレの知る、一番高い声はおにぃちゃん。でも二番は、この声なんじゃないかな。時々、ちょっと低くなるけど。ちなみにゼロは、中くらい。
その神聖二番目に高いと思う声が、扉の方から聞こえてきたの。そこへ行きたい。なのに、ゼロがまだ解放してくれない。
「むぅぅぅぅぅ」
手足バタバタ振ればきっと急いでくれる。そう思ったのに、ゼロは急いでくれない。なんかむすってしてる。エレがむすってしたいの。
「終わった。少しくらいおとなしくしてろ」
ゼロはそう言うけど、眠い中で十分おとなしくしてた。
一時間以上かかってるんだよ。
でも、ようやく解放された。髪は纏めてくれてある。扉の方にいる二番目に高い声、じゃなくてフォルに抱きつきに行く。フォルは仕事着。
「……みゅ」
誰も寄せ付けないような高貴でありながらも、どこか優しい。独特なお花の匂い。香水じゃないの。能力が由来の匂い、らしい。
とっても落ち着く。それに
「また見れてうれしい」
「……僕はもう二度と着る気はなかったよ」
エレの言葉に返されるフォルの言葉。本心、なんだろうね。
エレはフォルから離れて笑顔を見せる。
「エスコートよろしく」
「うん……あっ、ゼロ、君も来なよ。サポート係として」
何があってもいいように備えておく。フォルかわかっこいい。ゼロは不服そう。堅苦しいお洋服着たくないなんて知らない。
フォルが転移魔法を使ってくれる。ついでに翻訳魔法も。転生してから二度目。一度目はリブインからエクリシェ。二度目は逆。
婚約会場ってとっても広くて煌びやか。目が疲れそう。あの廊下みたい。どうしてこんなにキラキラさせたいんだろう。
それに、みんなどはで……華やかなお洋服。エレにはよくわからない。お貴族様の世界は。
「観念しろ! キサマの悪事は全て調べている! 彼女へのいやがらせに国家反逆の企み、覚悟はできているんだろうな!」
みんな隅の方にいるのに、真ん中を陣取っている人達。その一人の男の人が叫ぶ。そんな大きな声出さなくても聞こえるのに。お貴族様ってみんな耳大変だっただね。お大事にしてください。
頭も疲れているのかも。人に会えない生活で、言葉も何も知らずに、どうしてそんな事できると思うんだろう。
しかも、周りの人達も、ヒソヒソとエレ悪いってお話している。
……そういえば、どっかでこんな感じの本を見た事ある。あっ、もしかして演劇なのかな。ならこっちも演技がんばる。
「そんな事できるわけないでしょう。わたしはこの国に拾われてから一度もあの鳥籠の外に出してもらえなかったんですが? しかも、翻訳魔法使わないと言葉すら理解できないんですよ? 教育すらまともにさせてもらえなかったんですから。それなのにどうすれば国家反逆なんて企てられるんですか? 」
ちゃんと真面目にこたえてあげる。本だとそうだった気がするから。
「出鱈目を言うな! 証拠があるんだぞ! しかも懲りもせず婚約者がいるというのに他の男を連れてくるなど言語両断! キサマとの婚約は破棄して牢にぶちこんでやる! 」
この男の人は、何を言ってるんだろう。って少し考えちゃった。そういえば、エレは婚約している事になってたんだっけ。それが、この人なのかな。それなら、なんで隣に巨乳の女の人いるの? なんで自分の事は棚に上げて、こんな事言えるんだろう。たとえ演技だとしても訳わかんない
「婚約? なんの事ですか? 世界共通の決まりとして本人が書類にサインしない限り婚約は成り立ちません。わたしはその書類にサインしておりませんし、わたしの隣にいる彼はわたしの婚約者です。ところで、婚約者のいる相手をむりやり婚約させるのも禁止されているはずですが? 」
世界のルールを出してやるの。実際、エレとフォルは婚約している。それが都合いいから、らしいけど。
でも、こんなところで役立つなんて、思ってなかった。
「婚約者持ち? そんなわけないでしょ! アンタのようななんの魅力もない女に婚約者なんているわけないでしょ! 見えを貼りたいからって嘘つくんじゃないわよ! 」
男の人の隣で嘘泣きしていた巨乳の女の人が豹変した。こわっ。さっきまではずっと、弱い女の子みたいだったのに。
「なんで……なんで、なんでうまくいかないのよ。私は特別なのよ! みんなが私を好きになって私にだけ忠誠を誓う。愛の姫なのよ! なのになんでこの女の味方をする人がいるのよ! ……この世界の住民は全て私の味方なんでしょ! 」
なんかすごい怒っている。
真っ黒い霧? 女の人から溢れている。これって⁉︎ 代償とかその効果自体がとか。とにかく危険だからって言う理由で禁止されている魔法。
会場の人達が悪い人達でも、守らないとだめなの。
咄嗟に防御魔法を使う。幸いにも、ほとんどの人に被害は出ていない。でも、女の人の隣にいる男の人は、真っ黒い霧が纏っている。虚な目をしている。
「……ふぇ」
急に身体から力が抜ける。フォルに支えられた。
「君は魔力を大量に吸収すると発作起きるって知ってるよね? しかも、こんな穢れてる魔力を……咄嗟の判断に婚約の知識。それは評価するよ。でも、詰めが甘かったね」
フォルってエレが発作で苦しんでるの、わかってる? なんで今それ言うの? それがフォルなんだけど、なんかもやもや。しかも笑顔で。
「結界で魔力自体の遮断とかしないと……だけど、よく頑張ったね」
もやもや消えた。エレは単純かも。
「まぁ、及第点ってとこかな」
エレの髪に気遣いながら、頭を撫でるフォル。及第点ならフォルにしてはいい方。
フォルがエレの溜まった魔力を放出してくれている。一度に大量に魔力が身体を離れると、脱力感すごいの。発作だけじゃなくて、この脱力感に耐えるのむり。
「ごめん。結末を見せられなくて」
「いいの。信じてるから」
いつだって。エレはフォルを信じてるから。今だってエレのためって知っているから。だから、そんな悲しい顔を見せないで。笑っていて。
白色の光。なんだか眠くなってくる。発作で意識を失うよりも、睡眠魔法で眠る方が楽なのはフォル知ってるのかな。そもそも、発作で意識失うまでの時間もあるから。




