2話 優しさの形
信じてみようって言ったけど、ゼロがいなくなっちゃうと不安になるの。せっかくがんばろうってゼロの前だから思たのに。十分くらいでゼロが用事あるってどっか行っちゃったの。
それから二時間は経っているのに帰ってこない。三十分くらいで帰ってくると思ってたのに。
お部屋広いから、余計に寂しい。エレのだいすきなかわいいお部屋、なのに。
「……」
誰か探しに行けば、不安も少しは和らぐのかな。でも、疲れているのは事実だから。お部屋のお外に出る体力なんてあるわけないの。
それに、この、桃色のふかふか満点ベッドからは離れられない。
「……ぴにゃ⁉︎ 」
きゅ、急にカタンって。扉開いたの。閉まったの。ゼロ帰ってきたのかな。
ふぇ⁉︎ ゼロじゃないの。大量の本を両手で持っている。見てないけど、多分足で扉閉めた。
また、写本っていうのやらないとなのかな。
「……エレに写本やらせるの? 」
青緑の髪が揺れる。エレと目が合う。
「違うよ。これ全部僕の仕事道具。自分の部屋で仕事してたんだけど、なんか進まなくて。場所が変われば進むかなって。ここで仕事してもいいかな? 」
困ったように笑うの。そういう姿もかわいい。というか、この量全部? 二十冊くらいあるよ? あっ、お返事しないと。
「お仕事大変そう。いいよ。エレも……一緒にいて欲しいから」
ゼロ、がんばったよ。がんばってエレの気持ち言えたよ。でももう少しがんばる。
ベットの上にお招きする。ぽんぽんってエレのお隣へおいでと招いている。
そのお願い聞いてくれたみたい。小さい机を、ベッドのそばに移動させている。本を小さい机に置くと、エレのお隣座ってくれた。
「これでも少ない方だよ。ああ、そうそう。フォル・リアス・ヴァリジェーシルってまだ名乗っているからよろしく」
本名言うなって? そもそもエレは、普段フォルって呼んでるから、関係なくない? フォルがエレの頭に左手を乗せる。エレのだいすき、なでなでタイムなの。すき。
二分くらいしかなでしてもらえなかった。たった二分だよ。短い。口を尖らせる。両手で頭に触れる。名残惜しい。
でも、我慢。フォルが報告書見てるから。ちらっと見ちゃう。
暗号かな? 読めるはずの文字なのに、読めないよ。フォルは、読めているのかな。
「……エレにもお手伝いできる事ない? お手伝いできる事あるならがんばるの」
上目遣いがポイント。ついでに両手を、フォルのお膝に置くの。
前は追い出されないようにってお手伝いをしていた。でも、今は違うんだ。お手伝いをする事で、みんなが褒めてくれるから。
フォルが少し間を置いてから返事する。
「……なら、二日後リブイン王国で行われる婚約発表に参加してくれる? 」
「リブイン? 」
どこだろう。リブインって。知らないお名前。
「君が少し前までいた国だよ。君の婚約発表が二日後に控えているでしょ? って、翻訳魔法使ってなかったなら理解できてないか」
そうなの。今の時代の共通語知らないから。エレはあの国で、みんなが何言っていたかなんて、一切理解してなかった。エレとは言語が違ったの。ゼロもだけど、フォルもエレの知っている言語に合わせてくれる。
「君がしていた写本は、あの国の貴族が、楽に金を手に入れるため。君は金稼ぎの道具だったんだ。婚約発表で、適当な罪を着せて牢獄に入れる。牢獄の中で散歩の自由も奪って、ただ写本を作らせようとしてたんだ」
そうだったんだ。フォルが来なければエレはきっと、何も知らずに道具として生き続けてたんだ。
どうしてだろう。悲しいとかない。ただ
「あそこは世界と同じだったんだ。エレの居場所って全部」
お薬くれた時は、ちょっとだけ居場所って期待した。でも違ったんだ。
「嘘だらけだよ。ここも。何も変わらない。偽りだ。まぁ、僕らは君を道具として扱っているわけじゃない。そこは違うかな」
穏やかに笑うフォル。どこか寂しそう。そんな事言わないで。エレは両手でフォルの右手を握る。
「違う……違うよ。あそことここは全然違う……ここは……エレにいっぱい初めてをくれた場所だから。エレの……エレの大事な場所だよ? ……全部……全部違うよ」
何度も、何度も言葉に詰まる。それでも伝えるの。視線を逸らさない。どれだけ逸らしたいって思っても。
「……そっか。ありがと。そこまで想っていてくれたんだ。その想いに応えるためにも、いい加減覚悟決めないとだよね。エレ、僕の事信じてくれる? 」
何か裏があるかもしれない。でも、一言言えるのは、これがエレの全てを変えると思うの。エレは黙って頷く。それがきっと、一番後悔のない答えだから。
その答えがどんな結果になるのか。なんてわかんないけど。
「……ありがと。約束するよ。たとえ世界を騙してでも君を守るって」
守る……うれしいはず、なのにうれしくない。エレはずっと、フォルに守られている。でも、守られるだけはやって思い始めているのかも。
それでも守ってくれるのはうれしい。
でも、きっとその想いを伝えれば、フォルを困らせるだけ。だから今は伝えない。
「……今すぐに変えるなんてできないよ。あの日からずっとそうやって生きてきたんだ。強くないといけない。わかってるけど、全てを割り切れるほど強くないから。でも……それでも、君に悲しい想いをさせたくないのはほんとだよ」
「……」
わかってる。わかってるの。
「……もし、信じてくれるならこの件が片付いた後、前回の事、決着付けにきてくれる? 君の答え、ちゃんと聞いたら諦められるかもしれないから」
フォルのその言葉も、エレを見つめているはずの翠色の瞳も、別の誰かに向けているみたい。エレの気のせいなのかな。
気にしないでおくの。
「……うん。ちゃんと伝える。伝えるから、フォルもちゃんとエレにフォルの想い教えてね? 」
フォルの頬にちゅってキスする。ほっぺぽかぽか。上目遣いでフォルを見つめる。
「エレ、愛の神聖の代理がんばる。いつか一緒にいられた時、みんなで一緒に笑えるために。いっぱい褒めてもらうために」
エレのちょっぴり覚えている記憶。ちゃんとお顔思い出せない。おにぃちゃんとの記憶。でも、泣いていた気がする。謝っていた気がする。原因を作ったのはエレなのに。
おにぃちゃんは、愛の神聖って呼ばれてたの。エレのせいでいなくなったから、エレが代わりになるの。いつか帰ってきた時、頭撫でて褒めてもらうけど。
でも、どうしてそうなったんだろう。ちゃんとは思い出せない。知らない。
「……ねむねむなの。フォルも一緒にねむねむなの」
「えっ⁉︎ 僕仕事」
「急ぎじゃないでしょ。エレ知ってんだから。ゼロにいわれてきたんだって」
ゼロはおせっかいだから。帰ってこなかったのもそれなの。きっと今頃はお隣のゼロのお部屋で、壁に耳を傾けているに違いないの。フォルはエレと寝てくれるみたい。報告書机に置いてる。
「……エレ、代役できるのかな? ……なんでもないの。おやすみ」
ふと溢れた本音。
フォルに背中向けて寝転ぶ。抱き枕をぎゅって握る。
「君はちゃんとそこに関わる重圧を理解してるんだ。それだけで十分だよ。それすら理解できないようなら、誰も本気でついていこうと思わない」
「……」
背中がぽかぽか。フォルはゼロと違ってあったかい。
「君は、僕らとおんなじになんてならないで。僕らのようになろうなんて思わないで」
「……どうして……エレが、複製品だから? 」
抱き枕で声がこもってる。フォルがどんな気で言ったのか、知らない。でも、エレにはそうとしか聞こえない。
「僕らが神聖だからだよ。僕らは神聖として、知りたくない事だって知ってる。誰も、僕らとおんなじになってほしくない。なれはしない。でも、理解者になってくれるとは思ってる」
フォルはエレを想っていっている。それを理解しても言い訳にしか聞こえない。エレとフォル達の埋められない溝があると認めているようにしか思えない。
もう寝たふりするの。
「……ごめん。でも、君に僕らの痛みも苦しみも知ってほしくないんだ」




