10話 本物の愛の姫の一端
エレ達は、結界の中で、みんなが来るのを待つの。待っている間、エレ隊も、無駄な時間は過ごさないの。という事で、エレ隊による、エレ隊のための作戦会議。
会議には、丸い机と、椅子。それに、紅茶の代わりに甘いジュース。あとあと、クッキーも必要。でも、エレ隊だけじゃ、用意できない。だから、机と椅子だけ。
エレ隊は、向かい合わせに座る。
「かけらの浄化できた? 」
「うん。浄化できた。これ、浄化の時のエレ日記」
エレの日記を見せるの。日記というか、記憶を文章化しているだけの書物。
【リミェラねぇのおでかけと一緒に、エレ達もお出かけ。浄化に行くの。
ゼロに転移魔法使ってもらった。
愛の神聖術。ふわふわ浮かぶピンク色の光。そこに、かけらの入った魔法具を入れる。ふわふわピンクさんが、黒い穢れをとってくれる。きれいになった、かけらは愛色。
魔法陣は、役割を終えたの。魔法が消えた。ありがと】
無事にかけらの浄化は終わってる。今は、エレと一つになっているらしい。フォルのお話によると。
「……なら、今かけらは、エレとわたしだけなんだ。それなら、二人で一緒なら……エレ、ゼロを助けるために、お願いあるの」
真剣なお顔。エレって、真剣な時は、こんなお顔なんだ。凛としていて、目が離せなくなる。自分を外から見る事なんてないから、初めて知った。
「お願い聞く」
「ありがと。あのね、かけらが全部揃っているなら、今までの比にならない術を使えると思うの。支援系だけだけど、それでも、みんなの力になれるはずだから」
かけらが一つになる事で。本来の姿、本来の能力。それに近くなれるのかな。エレは頷いた。
もう一人のエレが、笑顔を見せる。
「さっそく、練習だね。使うのは、防御かな。エレ、わたしの記憶にあったでしょ? 本来なら、あれくらいはできるの。便利なだけじゃない。危険性もあるけど、あれを使えるようにするの」
「うん」
もう一人のエレの、じゃなくてかけらの記憶。星の記憶。あそこにあった。エレの本来の力の一部。一人だと、使うのに不便な術。
エレ隊は立ち上がる。向き合って、両手を重ねる。おんなじ大きさの手。あったかぽかぽか。
「エレ達は一つの存在だよ。だから、きっと大丈夫」
「うん。大丈夫」
エレとエレの境界線をなくす。それが、術を成功させる方法。なんだと思う。
エレはエレ。目の前にいるエレは、自分。同じ存在。ただ、意識が別れているだけで。
同じ、なの。
目を閉じる。二人は一人なんだと、意識する。
「……ありがと」
わかんないけど、できた気がした。二人は、一人。それが、理解できた。意識が、つながった気がした。
目を開ける。重ねた両手。向かい合わせの、もう一人のエレがいない。その温もりが、消えている。
どこに行ったの? もう一人のエレがいないと、どうすればいいかわかんないよ。この後、どうすればいいか教えて。どうして、急にいなくなっちゃうの。
エレは、もう一人のエレが、星の中で生きたお姫様のエレが、必要なの。道標になっていたの。初めて、会った時から。エレが本物である証拠。エレが、かけらが、消えなくていい。それをシェフィと一緒にいる事で、教えてくれた。
本来の意思を持っている。かけらが目覚めても、暴走の心配がない。大丈夫。そう思わせてくれてた。
どれだけ待っても、もう一人のエレは帰ってこない。白い空間が、ただ広がっている。エレは、一人。誰もいない。
やだ。やだよ。帰ってきてよ。いなくならないでよ。一緒にいて。エレと一緒に遊んで。笑って。ぽかぽかしようよ。
「……ふぇ……ふぇ……」
どこにいるの? どうして、きてくれないの。エレを一人にするの。一緒に、防御の神聖術を練習するんじゃないの?
早く、練習しようよ。それで、完璧じゃないけど、ちょっとできただけで、喜ぼうよ。
ねぇ、ここへきてよ。消えないで。一つになんて、ならなくていいから。エレ隊として、笑ってて。
「ふぇぇぇぇぇん! 」
変わらない。どれだけ願おうと、もう、もう一人のエレは帰ってこない。ずっと、エレは一人なの。これからずっと。
「ふぇぇぇぇぇん! 」
泣いていても、笑っていても、怒っていても。寂しい。もう一人のエレがいないから。エレの中の、かけらと一緒に眠ったから。
眠っていても、一つになった分、使える術は多い。これが、最適解。きっと、そうなの。だからって、はいそうなんだね。エレは一人でがんばるよ。なんて、言えない。
会いたい。
「ふぇぇぇぇぇん! 」
泣くのも疲れる。疲れても、涙は出る。一人は変わらない。
「……ふぇ? 」
誰かいる。エレ、疲れるまで泣いた後、どうしたんだっけ? 覚えてない。ぷつりと、記憶が途絶えている。なぜか、寝ていた。いくら、柔らかい地面でも、身体中いたい。この空間、痛みあるんだ。
こんな時に、誰がきたんだろう。まだ、時間はあるのに。
「おはよ」
「シェフィ⁉︎ 」
いつから、いたんだろう。どうして、きたんだろう。シェフィが、しぇがんでエレのお顔見てる。
「かけらの反応が消えたから。えっと、大丈夫? 」
「……ううん」
泣いて、泣いて、疲れて、少し落ち着いた。きっと、もう一人のエレは、エレに全部託したんだ。かけらの状態で、自分からお外出れないから。お外に出れるエレに、みんなを守って。そう頼んでいた。きっとそう。
だから、いなくなったのは、悲しいけど、我慢する。もう、その事で泣かない。でも、でも、身体中いたい。起き上がるのも大変。
「……ぐす……いたい」
「胸が? 」
「……身体中」
「何があったの? 」
こっちが知りたい。本気で心配してる時のお顔してるシェフィ。
「……ずっと泣いてたの? 」
「……うん」
「そっか。で、疲れて、立ったまま寝たと? それで、意識ないまま、こてんと倒れたと? 受け身も取れずに」
見てたの? なんで、エレよりエレの状況に詳しいんだろう。シェフィ、笑顔だけど、目が笑っていない気がする。
起き上がれるものなら、真っ先に逃げ出す。
「とりあえず、回復魔法使ってあげるよ。でもエレ、いくら悲しくてもさ、寝るなら、ちゃんと寝なよ? 立ったままなんて、二度としちゃだめだよ? 」
それは、聞けないご相談。エレは、本能的に眠くなると、どこでも寝ちゃうから。でも、こんなに痛くなるなら、気をつけます。エレは、ちょっとだけ首を動かす。頷きたいけど、ちょっとしか動かせない。
温かい。ピンク色の光。愛魔法での回復って、あまり見ない気がする。
痛み、引いてきた。これなら起き上がれそう。
エレが起き上がると、シェフィにぎゅぅされる。
「寝たいなら、このまま寝て」
「もう寝ない。シェフィ、良いの? エレと一緒にいて? 向こうでやる事あるんじゃないの? 」
あっ、離れた。本当に、寝てくれようとしてただけなんだ。
「もうないよ。それに、僕がいなくたって何も変わんないさ。オルがどうにかしてくれる。だから、時間まで、僕が一緒にいるよ。あの子の代わりに」
「うん。じゃあ、エレの防御の術の練習に付き合って。託されたの。だから、エレがみんなを守る盾になる! 」
エレは、創造魔法で魔法杖を創る。おもちゃみたい。子供の頃に遊んでいそうな、ハートのロッドになった。機能的には、問題なさそうだけど。
神聖術の使い方。制御の仕方。大丈夫。重なった二つの運命が、教えてくれる。
ハートのロッドを左手でぎゅっと握る。神聖術は、ここでは多いから、ここの分を使わせてもらう。ハートの部分から、ピンク色の光りが溢れ出す。今までのエレと比べものにならない。桁違いに強い光。
右手に、シェフィの温もり。一緒に、制御手伝ってくれてる。この大きさだと、流石に、一人じゃできないから。
でも、どうして?
エレとエレを足しても、こうはならない。本物——本来の身体のエレは、いったいどれだけの、力を秘めているんだろう。




