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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
3章 エレ編 過去のおいてきもの
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8話 ギュリエンに住む者のその後の話


 どうにかなった。でも、やっぱり場所がわからない。目の前に、崖がある。上がどうなっているのか。気になった。だから、見上げたの。でも、首が痛くなるくらい、見上げても、崖しか見えない。


 崖の下の方は、穴が空いている。怪しげな穴。


「姫さん、フォルは、この奥だ」


「ふにゅ」


 エレは、イヴィと手を繋ぐ。フォルが言ってた。アディは戦力って。イヴィはサポートなの。


「愛姫様の、小さく愛らしいお手を」


「また始まったか」


「うん。またなの」


 でも、ついてきてくれるからいいの。エレ達は、人が余裕で入れる穴に入る。崖の奥に続いているみたい。あれなのかな。崖の奥と手前を繋いでいるのかな。


 薄暗い。あかりが欲しい。でも、あかりってバレるかも。侵入は、暗くバレずに。それが、重要なのかもしれない。


 明るいと、怪しまれそうだから。


 転ばないように、地面をちゃんと見ておく。ちょっとでこぼこ。つまづく危険性が高そう。


「あっ、姫さん、上」


「ふにゃだ⁉︎ 」


 おでこ、いたい。絶対、赤くなってる。もうやだ。泣く。泣くの決めた。ふぇふぇ、ぴぇぴぇ泣いてやるの。姫のあれこれなんて、エレには知らない。


「姫さん、魔物」


 知らない。魔物なんて知らない。泣いてやる。魔物が急に消えた。知らないの。泣いていたから、幻覚かも。


「ふぇ……ふぇ」


「あ、愛姫様」


 イヴィが、心配し出した。でも、気にせずに泣いている。何時間でも、泣いてやるの。

 三十分くらいは、泣いてやった。


「そこに誰かいるのか! 」


 知らない。男の声、聞こえたけど知らない。エレはなにも知らない。ぴぇぴぇ泣いているだけ。いたいんだもん。


 見た事のある、男の人が来る。どこで見たんだっけ。思い出さないと。でも、泣かないと。


「その、泣き声……ま、まさか、双子姫様」


 あっ、この呼び方はギュリエンの人だ。ていうか、なんで、泣き声で判断してんの?


 冷静になってきた。涙出なくなってきた。


「……ギュリエンの人が、どうしてこんな場所にいるの? 」


「ここが、今の居場所だから、です。ああ、勘違いなさらないでください。自分も、ここにいる同志も、あのお方を恨んでなどおりません。むしろ、助けていただいた事に、感謝しております」


 エレが、気にするって思ったのかな。こんな場所を、居場所にしていた。それは、気になるよ。どうしてこんな事をするんだとか。でも、それ以上に、生きていてくれるならいいの。


 なんだか、やつれている感じがする。ここでの生活、大変なのかな。エルグにぃ、早くあの件進めてくれないかな。忙しくて、問題も起こっているらしいけど。


「あのね、フォル……ギュゼルの統率様探してるの」


「……申し訳ございません」


 どうして、急に土下座なんてするの? その理由を、ちゃんと説明してくれた。


 勘違いとは言っても、なにも思わないわけない。組織の事、それだけ憤っている。それは、理解できるけど。納得できない。


 ぎゅっと握った両手。優しい言葉なんて、出てこない。


「……あの、愛姫様をしばらく休ませたいのですが」


「えっ、ええ。でしたら、こちらへ」


 休めるお部屋に案内してくれる。お部屋に向かう途中、エレは、ここの事をちょっぴり知った。ここは、本当に、安心できない場所なんだって。

 いつ、この場所を奪われるのかわからない。なのかな。笑顔がない。


 子供まで、悲しげ。遊んでいない。楽しそうじゃない。


 でも、歪んだ感情は、おそろしい災厄を呼ぶ。

 どうにかして、希望を持たせたい。今のエレには、できそうにないよ。エレだって、きれいなだけでいられない時、あるの。


 ベッドらしき、何かが並んでる。ベッドのようにも見えるけど、ベッドじゃないようにも見える。

 硬い箱みたい。しかも、ベッドとベッドの範囲が狭い。人一人、通れるくらい。こんなところじゃ、寝れないよ。


「フォル⁉︎ 」


 フォルがいたの。寝ているみたいだから、静かにしておく。静かに、フォルのそば行く。


「……ねぇ、みんなの事、教えてくれる? エレは、ちゃんと知りたい」


 知らないと、怒る事も、泣く事も、なにもできない。ちゃんと知って、ちゃんと判断する。エレが、どうするのか。でも、聞きたくない。


 左手に誰かの温もり。左手を見る。透けない程度の薄手の紺色手袋。金色の袖。エレは、優しく握り返した。


「……ギュリエンから逃げた後、我々は、追われる毎日でした。なんとか、逃げ切れたと思えば、また追われる。その繰り返しでした。何度も、なぜ、追われなければと思いました。その繰り返しを、救ってくれたのはここにいる同志達です」


「……」


「ここにいる同志達が、エンシュア組織について、教えてくれました。そして、あの組織からの解放を、初めは目的としておりました。ですが、同志達が、何人も、エンシュア組織に襲われて……今は、復讐を目的としている者達ばかりでして」


 今も、いつ襲われるか。わからないんだ。だから、みんな、笑う事すらできないのかな。


 エレは、どうすればいいんだろう。下を向く、男の人に、なんて声を掛ければいいんだろう。


「……エレ、愛の術、見せてよ」


 どうして急に。その言葉が出る前に、理解できた。フォルは、ここの人達を見て、なにが必要なのか。きっと、それを知ったんだ。


 思い返してみると、子供と大人の距離が、遠かった。子供が、一人だった。みんな、一人だった。疲れているみたいだった。

 寂しい。そんな感じもしなかった。一人の方がいい。そう見えた。


 エレは、フォルから手を離す。両手を胸の前で組む。愛の術、エレにできるのかな。


「……エレ、僕の事、好き? 」


 すき。とっても、だいすき。だいすき。だいすき。


 ピンク色の光りが、エレの周囲に漂う。両手を天井に向かって上げる。


 ピンク色の光が、ハート型になる。大きなハートから、小さなハートがぴょんぴょん出ている。あの、愛の星の街みたいに、ここにも、愛が、届いて。


 男の人が、涙を見せる。本当は、泣きたかったのかな。ずっと、張り詰めた中で、一生懸命。それが、限界を迎えていたのかな。あっ、「うわわぁぁぁん。」って子供の泣き声が響く。


 これから、ここは、変わっていけるのかな。


 変わってほしい。これは、エレの願い。実際がどうなるか。それは、これから次第。


「……フォル、エルグにぃに、連絡した? 」


「うん」


「……ベッド、もっと柔らかくて、寝やすいのを用意してあげて。そうお願いしておいてほしいの。ちゃんと、休めないと、いっぱいいっぱい、余計に、ひどくなっちゃう。エレね、大人だから、みんなが、いいベッドでねむねむする事。それで、許すの」


 失ってないから、そう言えるんだと思う。エレは、エンシュア組織の人達を目の前にして、謝られたら、どうするんだろう。

 今は、わかんない。それでも、いいのかな。


「……イヴィ、早く転移魔法使って」


「よろしいのですか? 」


「ギュシェル……いや、本家の三男坊がきてっからだろ。部下を連れて。イヴィ、早く使ってやれ」


 アディ、さすが。自分の弟子一号の事だから。わかるみたい。本家の三男がどうしてここにきているのかな。ここの人達の保護。それだとしても、わざわざ本家が出る必要が感じられない。


 フォルが頷いてる。


「そういう事。だから、早くして。あの人、普段調子いいくせに、こういう時だけ、本気で心配してくるから」


 心配、されたくない。だから、エレを遠ざけたのかな。エレがフォルを心配するのは、いつもの事。今更感があるの。それなら、別の理由。でも、別の理由も思いつかない。


「わかりました」


 白い光り。転移魔法の光り。エレ達は、エクリシェに帰る。エクリシェの、フォルのお部屋。今までずっと、我慢していたの。エクリシェに帰って、我慢が消えた。エレは、フォルの隣で、ずっと泣いていた。疲れて、眠るまで。

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