番外 向き合う覚悟
ルナの言った襲撃の時間。もうそろそろか。エレが巻き込まれないように、王都からは離れた。
ルナの気配を感知しているなら、彼女がそこへいないといけない。なんて、方法をとるわけにはいかない。ルナに似た気配を出せるように調整した魔法具。
それを持ったまま、待っている。
「返事を聞かせて……誰だ貴様は! 」
「おい! この容姿、黄金蝶だ! こっちに引き込まなくとも、利用価値がある」
まぁ、そうなるよね。抵抗はしない。拠点を見つけるために。
後頭部に硬いものが当たる。腕を紐で縛られた。布が目を覆う。
流石に、ここが限界か。魔法、使えないからな。
「……」
外が見える。布だけは、とってある。洞窟に中、なのかな。薄暗い。
百人ちょっとかな。ここにいる人の数。ルナは、ちゃんと保護されたかな。ゼム、頼んだんだから、ちゃんと仕事してよ。
「ようやく目が覚めたようだな」
「……」
「おっと、余計な事はすんじゃねぇよ」
橙色の髪に瞳の男。ヴィングジェアの中でも、魔法じゃなく力が強いタイプの種か。
あの種は、エンシュア組織の思想が受け入れられなかった。だから、あの組織に属さなかった。そんな記録を見た事がある。
「……どうして、こんな事をしてるの? 」
「どうして? そんなもん、テメェらならわかんんだろ! エンシュア組織のまわしもんがよぉ」
怒り。わかりやすい感情。エンシュア組織に居場所を奪われた。そういう事なんだろう。
だからって、こんな事を黙認できはしないんだけど。
エルグにぃ様が、進めているあれ。あれなら、居場所を奪われた、この人達もどこか居場所があるんだろうか。
「僕は、あの組織とは関わってないよ。むしろ、あの組織から逃げたみんなが、安心していられる場所を提供したいんだ。エルグにぃ……主様が今、それができるように、進めている。あの組織に関しても、どうにかするように、しているんだ」
「んんなもん、信じるわけねぇだろ! そんな、都合のいい言葉並べて、信じると思ってんのか? ざけんじゃねぇぞ! テメェが組織のまわしもんだっつぅのは、知ってんだよ! オレらの居場所をかえしやがれ! 」
ヴィングジェアの男の右腕が動く。
「かはっ」
腹部を鈍い痛みが襲う。常に防御魔法使ってるのって、かなり痛みを和らげてたんだ。今、それを実感してる。
事実。でも、なんの証拠もなしに信じられるわけないか。迂闊、だったな。普段なら、もう少し慎重にしてたのかな。
エレを、連れてこなかったのは、正解だった。あの子は僕に何かあるとすぐに泣くから。
「テメェらが、勝手に、組織を作ったんだろ! そのせいで、オレらは居場所も何もかも失った! 最後の砦だった、あそこも、テメェらの襲撃のせいで、失ったんだ! テメェらの襲撃のせいだ! なのに、全部、あそこを守ろうとしたお方に押し付けやがって! 」
「……っ⁉︎ 」
ギュリエン。そうだ。ここにいる連中の何人か。ギュリエンにいた。数回、顔を合わせただけ。でも、覚えてる。
ギュリエンが、なくなったせい。それもあるんだ。
「あのお方に謝りやがれ! 償いやがれ! ギュリエンを、オレらの最後の砦をかえしやがれ! あんな事が、許されると思ってんのか! ざけんな……ざけんなよ! 全部、全部テメェらのせいだろ! 」
わかってる。わかってるんだ。これは、エンシュア組織に向けた恨み言。全部、僕にむけているわけじゃない。
なのに、その怒りに満ちた顔も、言動も、全部、僕に言われているように思ってしまう。エンシュア組織じゃない。あそこを滅ぼした張本人である僕に。
どれだけ謝っても、何も変わらないんだ。もう、あそこは戻ってこない。居場所を失って、こんな場所にいるみんなは変わらない。全部、僕が奪った。
大切なみんなも、全部
「……」
エレを選んで。あんな事を言った、あの子は、何を望んでいたんだろう。あの子は、どんな想いで言ったんだろう。僕の事を知っているくせに、あんな、希望を持たせようとした二人。あの二人は、シェフィは、今の僕を見て、笑うのかな。
こんなに弱かったんだって。
そんなわけ、ないか。きっと、一緒に背負うよ。背負ってくれる。そういう人達。
——私達も、背負いますよ。
——オレ達が、フォル様を尊敬しているのは、強いからではありません。
……えっ? なんで、今、フュリーナとリーグの声が? あの二人は、もうここにはいないのに。
僕の周りに、今の僕を笑う人なんていないんだ。弱くてもいい。そう言うんだ。
『本当の強さなんて、誰もわかんねぇだろ。けど、俺は……俺にとっての強さは、弱さとまっすぐに向き合って、受け入れる。それが、強さだと思うんだ』
いつ、だったかな。ゼロに言われた言葉。そう、だよね。
でもね、受け入れるなんてできないんだ。受け入れられないけど、弱かったからという言い訳だけは、しちゃだめだよね。それも僕の一部なんだから。
今、それを言い訳にするのは簡単かも。でも、もうそれはしない。弱いからという道に逃げないから。見てて
「ごめん。どれだけ、謝罪しても、許されない。わかって、る……ごめん。ギュリエンを、滅ぼして……みんなを、守れな、くて……」
きっと、あの頃の僕は、言わなかった。術の暴走は、自分の弱さ。それを、受け入れたくなかった。だから、自分のせいだと、知っているみんなにしか言わなかった。
「……は? なにを」
「……今でも、全部、覚えてる……フュリーナとリーグを、くっつけよう、ってしてたのも……あの二人が、全然、両片思い、気づかないから。都にいる、みんなに協力、してもらったの。祭り、エレとゼロが、張り切りった挙句、大失敗して、大爆笑してたのも……全部、覚えてるよ」
今でも鮮明に。ヴィングジェアの男の動きが止まる。二、三歩、後ずさる。
「魔物だ! 魔物が出たぞ! 」
こんな時に。
今度は、何日動けなくなるのかな。エレは、また泣くのかな。アディとイヴィ、近くにいるみたい。でも、今回だけは、わがままを突き通したい。
でも、ごめん。僕に、見捨てるなんて選択肢、ないんだよ。
一度だけ。一度だけで充分。
封印を解く。ここにも魔物がくる。腕は、使わなくても大丈夫。
僕の術は、感情が大きく影響する。術の強弱とかじゃなくて、花が変わるんだ。僕の感情で。
今日の花は、どんな花なんだろう。できれば、醜いのはいやかな。倒れる前くらいは、きれいな花でも見ていたい。なんて、いう理由じゃないけど。
あんまり醜く邪悪そうなのだと、みんなを怖がらせそう。
「……ありがと、生きていてくれて」
にっこりと笑う。痛みが酷い以上、術が発動するかも怪しい。多分、器の方に影響があるから。
黄金の光が、花を創る。ピンクと黄金の花。今それって、何なんだろう。今、その想い出すなよ。って自分にツッコミたい。
今だからこそ、何かもしれないけど。エレが見ていないから。
魔物が黄金の光に包まれる。黄金の光の粒が、上空へ舞い上がる。
「……」
もう、意識を保てそうにない。
「おい! おい! 」
さっきの怒りの声とは違う。肩を揺さぶられる。青ざめた顔をしている。別に、殴られてなくても、変わんないよ。術を使えば、どのみちこうなるんだ。
でも、少しだけ、ほっとしているにかも。あそこを追われた人達は、本質的に変わってなんていないんだって。きっと、この人だけじゃない。ここにいる、他のみんなも変わっていないんだ。ただ、理不尽な目に遭って、こんな事をしているだけ。そう、信じても、いい、よね。
たまには、あの子みたいな楽観的な思考も、いいよね。
ああ、あれだけ、頼んでおかないと。エレなら、絶対に探す。多分、今も僕を探している。見つかるのも、時間の問題だから。
「……エレ……たの……」




