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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
3章 エレ編 過去のおいてきもの
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プロローグ 無知なる姫


 ——神聖の姫。それは、いったい何? わたしが、神聖姫? どうして? 誰が決めたの? 神聖姫。それは、誰? わたしは? 誰? 神聖姫なの? 氷の檻、閉ざされたまま。星の呪縛、全てを消さんと雨を降らせる。黒き雨を。星は、何が望み? 救いじゃないの? 破壊が望みなの?


 星の望み。人の世の望み。破壊と救済。来る日は導きのみ知る。


 それは、誰が、決めるもの?

 

 神聖姫、そう。わたしは、神聖姫。誰が決めた? 何も知らない。それが、神聖姫。


 おかしな事。神聖姫の記述には、わたしはいない。みんなはいるのに、わたしはいない。わたしだけが、神聖姫じゃない。


 旧神聖語を読み解いた。それでも、それは見つからない。見つけられない。なら、わたしはいったいなんなんだろう。誰か、その答えを持っているんだろうか。わからない。わからない。


 わたしは無知の、神聖姫。全てを忘れ、全てを消した。無知で無垢なる愛の姫。


 そう。わたしは、愛の姫だ。愛の姫。誰が、わたしを愛の姫と呼んだ? わたし? 誰?


 わたしは誰? 本物のわたしは、誰なの? 誰か、知っている? 誰が、知っている? 教えて。わたしは、誰なの? 誰か、教えてよ。わたしが誰か。誰か、答えて。わたしは神聖姫だと。


 わたしはわたし。誰かが言った。


 わたしは、神聖姫。誰も、言わなかった。わたしはわたし。なら、そのわたしは何者だろう。誰も、その答えを持っていない。


 神聖姫は、望むもの。星を守護するもの。


 わたしは、何を望むんだろう。何を見ているんだろう。


 夢を見た。優しい空間。そこで見る夢。とても優しく、柔らかい。一時の、愛情。続く事のない、偽りの存在。目を覚ますと消える、ふわふわ。


 愛の姫。それは、なんだろう。全てを愛する姫? 全てに愛される姫? どちらにしても、わたしじゃない。どちらにしても、わたし。


 エレシェフィール・ノーヴァルディア


 そう。それは、鍵。わたしである鍵。わたしでしかない。それを知らせる、鍵。


 奏でよう。愛の歌を


 愛を、捧げよう。大いなる愛を、愛するもののために。それが、全てを塗り替える。


 わたしはわたし。そう言える。


 偽りの姫エレシェフィール


 ねぇ、今のわたしは、何を知ってる? 何を、見ている? 何を、願っている。知らない。知れない。でも、知りたい。


 わたしはね、最後に願ったのは



 空色とピンク色の部屋の中。神聖姫は、一人だった。

 古い文字。旧神聖語で書かれた言葉。日記帳に書かれている、神聖姫の知らない記述。


 神聖姫は、まだ旧神聖語を読み解けない。だが、声が聞こえてきた。神聖姫の頭の中で響く声。愛らしくも、儚い声。


「エレシェフィール・ノーヴァルディア」


 何もない。何も起きない。


 神聖姫は、ソファに座る。ぽたん、ぽたん——水が落ちる。この水滴は、なぜ落ちるのか。

 神聖姫には、理解できない現象だ。


 神聖姫は、両手で水を拭う。


「最も大事な事。それは、神聖には役割がある。姫にも、役割がある。わたしは……」


 知りたい。その想いは、神聖姫の中にも存在している。だが、神聖姫は、何も知る事ができない。なぜ、その疑問に答える者はいない。この空間には、誰も存在しない。神聖姫を除いては。


 額の上に乗る右手。天井に向かう視線。流れゆく時間。


「……」


 神聖姫といえど、何も知らないただの少女。ただ、人よりも少しだけ、結界術が使えるだけ。防御の術が使えるだけ。神聖力に敏感なだけ。神聖力との親和性が少しだけ、高いだけ。ただ、それだけ。


 コンコン


 今日の神聖姫は、誰も招いてはいない。招かざる客。来るのはたいてい、愛の神聖。


「神聖姫様、ちょっといいか? 」


 低い声。神聖姫様と呼ぶ声。招かざる客は、珍しい客。


「アディ? うん。いいよ」


 赤髪の青年。炎の神聖。


「シェフィみたいに、紅茶、淹れられないけど、座って……なんなら、アディが入れてくれればいいんだよ? 」


「……紅茶、飲めんのか? 」


「ううん。でも、お砂糖いっぱい入れれば、飲めるよ」


 一人でなくなったから、悩みを忘れる。神聖姫には、姫である事。それが、重要ではない。そういう事なんだろう。


「……もう夜だ。ミルクでもあっためてやんよ」


「うん。ありがと」


 炎の神聖が、紅茶とミルクを用意する。その間、ずっとソファに座る神聖姫。

 まるで、自分は関係ないと言わんばかりに。


 温かいミルクの入るカップ。両手で持とうとするが、熱くてすぐに離す。


「あちゅっ⁉︎ 」


「あっためてきたばっかだかんな」


「ふぅーふぅー。」とカップを冷ます、神聖姫。視線は向かいに座る、炎の神聖。


「用件、聞くよ。この時間に入ってきたが最後、寝るまで逃さないけど」


 一人で寝たくない。そんな時に現れた炎の神聖。神聖姫は、この好機を逃さない。


「明日、儀式を行う方を決める。一応、エレにも言っとこうと思ってな」


「甘いですな、アディさん。用件を言うまでが、お仕事でしゅの。エレえらい。えっへん」


「あめぇな、エレ。そう言ってるエレも、姫抜けてっぞ」


 神聖姫が、はっと驚く顔をする。顔を見合わせる。

 笑う二人。


「でもでもぉ、今からは、お仕事終わりお時間。アディ、カップが……カップが冷めない」


「そのうち冷めんだろ。それより、宿題終わったんか? 」


「まだ。わかんないから。アディ、教えて」


 神聖姫は、ノートと本を持ってきた。白紙のページ。


 神聖の役割について。自分の意見をまとめる。そのために、まずは役割について知る。神聖姫は、そこで止まっている。


 炎の神聖に涙を見せる神聖姫。


「神聖の主な役割は、加護の付与。それに、魔聖と共に星の守護。姫は、加護の付与がない。代わりに、星の歴史の守護を任されてる。つぅ感じだ。理解できてっか? 」


 神聖姫は、こくりと頷いた。ここまでは理解できている。だが、理解できていないのはその後。神聖それぞれの役割の部分。


「神聖のそれぞれの役割がわからないの」


「……エレ、愛の神聖の役割は? 」


「愛の加護を与える事」


 堂々と答えられる。何を言っているんだという顔すら見せる。それが、神聖姫だ。


「……なら、希望の神聖は? 」


「希望の加護を与える」


「俺様……炎の神聖の役割は? 」


「炎の加護を与える」


 全ては、知っている事。だが、神聖姫は知らないという顔をする。何も、気づいてなんていない。


「……エレ、答え、言ってるよな? 気づいてねぇんか? 」


「みゅぅ? ……わかんない? わかんない」


 答えを委ねる神聖姫。


 炎の神聖は、それでも付き合う。神聖姫が、理解できるまで教え続ける。


「……ふぁぁ……ねむ……明日にしない? お勉強するの」


「……エレがねみぃんなら、しかたんねぇか」


 何も、答えは出ていない。神聖姫の事も、神聖の役割に事も。だが、本能に逆らう事などできない。


 炎の神聖が、神聖姫を抱き上げる。ベッドの上に寝かせられた神聖姫。


「……お勉強、起きたらやらないとなんだよね? 起きたら……お勉強したくないの……お勉強、や……アディ、やっぱり代わりに」


「ダメに決まってんだろ……エレ、ノートから何か落ちてっぞ……神聖達、観察記述? 」


 炎の神聖が拾ったのは、手帳。


「ふぇ……そ、それは、みちゃだめ! 」


「なら、落とさねぇようにしとけ」


 神聖姫は、炎の神聖から、手帳を返してもらう。その手帳を開く。炎の神聖の欄に、こっそりと書き加える。

 優しい。素直。なのに、お勉強は代わってくれない。と


「……エレ、何も知らないけど……でも、みんなの事を誰よりも知ってるようになりたいの」


 何も知らない姫。何もしれない姫。それでも、神聖姫は、知ろうとする。今日も、この先もずっと

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