エピローグ フォルの日記2
【僕は、自分の名前がきらい。というわけじゃない。でも、自分の名前の意味と、今の僕は、見合わない。そう思うんだ。
どうして? そう思うエレがいると思う。僕はね、神聖としての役割を与えられていない。なのに、その名は、星そのもの。旧神聖語で、星の生命の輝き。
役割が与えられない。おまけの存在なんだよ。だから、この名は僕に似合わない。
僕は、この髪がきらい。だって、フィルと違うから。フィルとおんなじが良かった。そうすれば、堂々と僕はフィルの兄弟と言えるのに。
黄金。それはおんなじ。なのに、僕の方が純度が高い。
役割を与えられていない存在で。なのに、みんなはそれを言わない。僕が気にしないようにか、避けているようにも感じる。
「……髪短いフォル見てみたい」
エレの些細な言葉。どこでだっけ? えっと、僕の部屋だ。
目立たないように紺色を入れている。黒い部屋。床と壁は白だけど。家具を黒にして、紺色を目立たないようにしてる。
「……髪、短いフォル見たい。魔法でもいいから」
わがままエレ。時々登場。エレのわがままに負けた。それが、僕が僕を好きになれるきっかけだったと思う。
エレに言われて、髪を短くした。魔法じゃないよ。エレには、魔法でいいって言われたけど。
鏡で見る。短くしすぎたかな。でも、いっか。
って、自分の事には興味がなかった。その状態で、エレに会った。エレは、またたびを見た猫みたいにはしゃぎ始める。
流石に、心配したよ。変な術にでもかかったんじゃないかって。
「かわかっこいい」
と訳のわからない事を言われた。だから
「エレはエレエレしてるね」
なんて言ってやった。
あの後から、少しだけ、僕は僕を見るようになった。必要もないのに、術を使わなくなった。
——
エレが、今日、好きな人できたって言ってきたんだ。動揺を見せないように、笑顔を作った。ちゃんと、聞いてあげた。そうしたら、僕の事が好きって言ってきた。
目の前が、ピンク色。輝いていた。ああ、これが、幸福っていうものなんだ。愛ってものなんだ。
シェフィの時とは違う。シェフィの事は、好き。愛情と言っていいと思う。でも、それは、依存のような関係だ。
でもね、エレのそれは違う。
僕もエレが好き。なのに、答えを先延ばしにした。エレも、それでいいと言っていた。
どうして、なんだろう。僕も好き。この言葉を、言おうとしたよ。恋人同士になろうとしたよ。なのに、その言葉が出なかったんだ。
それ以上はだめだ。僕の中の何かが、そう言っていた。
「……あのね、デート、してみたい」
エレに言われた。だから、僕は一番好きな場所を教えた。僕の空間。生命の術で創られた、特殊な場所。
翠色の輝く葉。動植物が、この場所を照らしてくれている。この幻想的な景色が、好きなんだ。
エレも、気に入ってくれたみたい。うれしいって言ってくれた。
二人っきりで過ごす時間。安らぎの時間。
色のない景色に色を与えてくれた。それが、フィル。色が多過ぎる景色に、導きの光を与えてくれた。それが、シェフィ。そして
僕の知らないピンク色の景色を教えてくれた。それが、エレ。
それだけじゃないんだ。ゼロから、光りをもらった。アディから、折れない剣をもらった。ミドゥから、不器用な魔法をもらった。
僕は、みんなから、多くのものをもらっている。多くのものをもらって、僕がいる。
エレのおかげで、それに気づいた。
僕が、僕をきらいでいる事。それは、多くのものを与えてくれたみんなを否定している。みんなを好きではないと言っている。
逆に
僕が、僕を好きでいる事。それは、みんなからもらったものを肯定する事。みんなが好きだということ。
そんな気がしたんだ。
僕は、後者でありたい。僕を好きになってくれたエレ。僕に多くのものをくれた神魔聖のみんな。みんなの想いを裏切りたくない。
「フォル、髪結んで。みんな可愛いっていうけど、風強いと、前見えなくなるの」
可愛い、可愛くない。エレの髪の長さはそういう話じゃない。エレの髪は、愛の姫である証。だから、愛の姫であり限りは、エレはずっとこの長い髪のまま。
まだ、力が弱い頃は今のように髪が長くなかった。ってシェフィは言っていた。
シェフィは、子供の頃のエレと会っているから。
僕は、女の子の髪を触る事なんてない。エレを除いて。
絹。彼女の、エレの髪を一言で表現するなら、僕はそう言う。保湿されたふんわりと柔らかい触り心地。
艶のある、美しい髪。
愛らしい桃色のリボンを渡される。金髪で華やかなイシュと違い、華のない色。エレは自分でそう言っている。だから、愛らしい色を選ぶんだろう。
独占欲、っていうのなのかな。リボンに、蝶の飾りをつけておく。黄金の蝶。エレは、僕の大切な姫だよ。
エレは気づいていない。鈍感で、かわいい僕の姫。
僕は、エレの頬に口付けをした。初めてで、知らない事ばかり。慣れない事ばかり。でもね、この関係が、この時間が、大好き。
——
今日は、エレがお気に入りの場所に連れてってくれる。そう言ってくれたんだ。相変わらず、曖昧な関係。
好き同士。なのに、恋人同士じゃない。互いに、それを望んでいるはずなのに。
それでも、その関係が、愛おしいんだ。好きなんだ。だから、今はそれでいい。いつかは、きっと答えを出す日がくるんだろうけど。
それまでは、この関係を楽しみたい。
エレのお気に入りの場所。それは、愛の星にあるんだ。ピンク色の花畑。愛の術を添えて。
愛の術で、光るピンク色の花。この前僕が連れて行った場所。あそこに対抗しているのかな。
「蝶々⁉︎ 蝶々も……エレ蝶々もいるの! 光るよ! 」
なんて言ってるから。あまりの可愛さに笑顔が溢れる。エレは、僕がつけてあげた飾りを大切にしている。神聖力に反応して光る髪と瞳。
これが、一番幻想景色なんじゃないか。たまにそう思う。
「きれい」
「そうでしょ! この景色もとってもきれい! 」
何かを勘違いしているエレ。勘違いとすら気づく事はないんだろうね。言うつもりないから。
「……シェフィ? フォル、あれってシェフィとミドゥだよね? 」
「えっ⁉︎ う、うん。そうだね……何してんだろ」
それは、ほんとに偶然の出来事。見てしまったんだ。シェフィとミドゥが遊んでいるとこを。仲良く遊んでいる。初めは、そう思ってた。エレと一緒に、楽しそうだねと話しながら見ていた。
でも、次第に雲行きが怪しくなる。追いかけっこが始まる。
「……エレ? 」
呆然としているエレを見る。エレは、まるで機械のように
「……記憶消去中……記憶消去中……記憶の消去が完了いたしました」
って言っていた。
シェフィとミドゥを呼んで、喧嘩してたと聞かされた。落ち着いた後、エレは、二人が何をしていたか見ていなかった。そんな反応を見せた。見ていない訳ないのに。
エレは、ほんとに忘れている。わかるんだ。僕は、嘘を見抜けるから。
忘れていたい。きっと、エレはこの事実を、知りたくないんだ。だから、僕らはこの事を黙っている事にした。でも
「ねぇ、喧嘩の原因ってなに? 」
知りたくないのは喧嘩してた。その事実じゃない。だから、これは聞いておく。
「ミドゥが騙してきたんだ。商店街って場所の事教えてくれるって言うから、聞いたのに」
「あれを信じるなんて、思ってなかった。商店街は、商業で魔物を討伐する場所だって……普通信じる? 」
シェフィは、純粋なんだ。疑う事を知らないだけなんだ。そういう事にしておく。
「商店街くらい、わたしだって知ってるの。商店街は、お店がいっぱいの場所」
えっへんと胸を張っている。そんなエレも、かわいい。
僕は、神聖として生まれて良かった。みんなと一緒にいられて良かった。ずっと、エレと一緒にいたい。エレと、みんなと一緒に、いられますように】




