10話 全てを知るもの その存在を
とりあえず、戻ってまずする事。ここから出る事。休憩所に出口があるみたい。
透明な扉を開けると、なぜか家に着いてる。これあれかな。転移系の魔法具。
「おかえり。珍しい帰還の仕方だね」
リミェラってさ、何をすればびっくりするわけ? なんで、透明な扉から突然来ているのに平然としてんだろう。
リミェラが、彼女の部屋の掃除をしてくれてる。
ピンクと空色のかわいらしい部屋が埃だらけにならないのは、リミェラのおかげ。
「リミェラ、しばらく帰れなくなるかもしれないから。オルがいてくれるから、何かあっても安全だと思うけど……最近、色々と起きてるみたいだから気をつけて」
「襲撃と行方不明の件? それとも、謎の魔物の件? エンシュア組織の御巫が各地を訪問している件? 」
その情報はどこから手に入れれるんだろ。
彼女のために、フルーツケーキの置物を飾ってくれてる。見てみると、他にも僕が買ってないものが置いてある。
ピンクの子猫のぬいぐるみとか。フォルのぬいぐるみは、僕が置いたか。フォルの写真とか。これは、フィルかな。
「フィル、フォルの写真」
「……エレが、欲しいかなって……いつも、一緒に隠し撮りしてたから」
やっぱり。この部屋も、みんなのおかげでエレ色になってる。今までは僕が一人で集めていたけど、みんなが勝手にすきそうなもの集めておくから。
起きた時、跳んでふにゅふにゅ言ってるんだろうね。みんなだいすきって、数日間はご機嫌なのかも。
「……フォルが以前使っていた服なら」
「持ってこなくていいから。それより、あの空間に行くために準備しないと。あの空間、持ってけるもんないよね」
フォルの服をここに持ってこようとしているオル。オルもあの空間知ってるから。
「そうだな」
「なら、情報整理と収集でもしよっか」
フォルの持ってる情報網には劣るけど、こっちには魔聖がいるんだ。魔聖視点で何かわかるかもしれない。エルは、何も知らなそうだったけど。
ゼロがいなくなった。エレ達に聞いた話をそのままする。
「……あの空間に異常? 」
フィルも知らなそう。
「断定はまだしない方がいい。が、あるには、ある。古来、あの空間は世界と似ていた。何者かが、創造した空間。完全であり、不完全のその空間だからこそ、世界が記録された。と、どこかの書物にあった」
オルは、あの場所自体を知ってたんだ。でも、それがどうして異常に繋がるのか。説明がつかない。
「……その空間が、完全じゃなくなった? 」
「フィル? どういう事? 完全じゃなくなるっ⁉︎ 」
そことは違う。でも、僕らは似たようなものを見た事があるんだ。
幻想的な空間。本物と変わらない。創造された小さな世界のような場所。
落ち込むたび、一人でそこにいた。そこがすきだからと、いつも、彼女をそこへ連れて行っていた。デートのたびに。
完全であり、不完全。あの空間は、まさにそうだった。
フィルが俯いている。それもそうだ。だって、あの空間は
「完全じゃなくなって、外部からの干渉を受けたって事? 」
「……多分……あれは無意識だから、不完全になりやすいんだと思う……」
感情の乱れ。というより、体調の変化。それが原因なんだろうね。
それにしても、タイミング良すぎない? エルに視線を向ける。エルも気づいているのかな。右手を口元に当てている。
「えっと、あの白い空間は、フォルの力が生み出した世界。それを利用している。であってる? 」
「最初の世界と似たようなものって事ね……それで、その空間は、フォルの無意識下につながっていた。そのせいで今、不完全になっている。なんでそのタイミングで干渉できたのか。誰が干渉したのか。オル、その辺はわかる? 」
さすがエル。僕が理解した部分を全部言葉にしてくれた。しかも、わからない部分も。
オルが、収納魔法から書物を取り出した。見た事ない表紙。
——ぐすっ……ぐすっ……
どこから? 誰かの泣き声。エレ達じゃない。知らない声。
——……きて……ここへ……きて
僕を——神聖達を、呼んでいる。誰? どうして僕らを呼ぶの?
「……」
「オル、この本は? 」
空色の表紙しか見えなかった。でも、オルがちゃんと見せてくれた。
何も、書かれてない。ただの、空色の表紙だ。タイトルすら書かれていない。
「この本に、書いてあった。あの空間の事。読んでみるか? 」
「うん」
本を貸してもらう。表紙を捲る。何も、書かれていない。
オルの言っていた、空間の事も。全ページ、白紙なんだ。あの子の持つ魔原書みたいなものなのかな。それなら、わざわざ僕に読ませないか。
なら
——……ぐすっ……ぐすっ……きて……はやく……
まただ。まさか、この白紙の本が? どうして、本が僕らを呼ぶんだろうか。
「オル、この本はどこで手に入れたの? 」
「仕事の報酬だ。優秀な歴史書だ」
優秀な歴史書。僕には白紙にしか見えないのに。魔法具のような感じもない。
「……君は、誰なの? どこにいるの? 」
本に声をかける。自分でも、何してるのかよくわかってない。
——……ぐすっ……世界……世界の……こころ……
世界のこころ?
——はやく……はやく……わたしの……希望を……助けて……
希望を、助けて? このタイミング。しかも、世界のこころ。
僕らだけが、呼ばれる理由。
「……シェフィ……シェフィ」
「ふぇ⁉︎ ……エル⁉︎ どうしたの? 」
「どうしたはこっち。ずっと、本を見つめて」
そんなに時間経っていないはずなんだけど。
どうしたのかなんて、僕だって説明つかないんだけど。本に呼ばれたとしか。
エルがなぜか僕に抱きつく。独占権でも主張しているみたい。僕が抱き付かなければ、エルの方からくるのか。
「……ねぇ、世界が生まれてから、変わった事ってある? 」
自分でも、どうして聞いたのか。わからないんだ。でも、なんとなく、これが、正解を知るための事だと思う。
オルは首を横に振る。フィルは、黙って俯いたまま。エルも黙ってる。
沈黙の時間は、長く続かない。
「魔星の異常。あれは、世界が生まれたすぐ」
そうだ。エルの言う通り。魔星に異常が生まれたのは、始まりの世界が生まれたすぐ。彼女が、魔星となったのは、だいぶあとだけど。
「……星の神聖力が増えた」
うん。フィルがいうのもあった。星に存在する神聖力が増えた。
他にも、もっと、大事な事があったはずなんだ。それが何か、知りたい。
「どれくらいだったか忘れたけど、エレの様子がおかしかった。それから、二つ目の世界……あの日の少し前、また、あの子の様子がおかしかった」
エレの様子? あれは、術の酷使によるもののはず。
エルも、それを知ってるはず。それでも、そういうのは、なにかあるのかな。
なんだろう。わからない事ばかり。ようやく掴んだ、フォルに関わる秘密。ようやく、少し前に進めた。そのはずなのに、余計に謎が増える。
「……はぁ……エレで癒されたい」
何も考えずに、エレとらぶってたい。
「ぼくで我慢して……今日話した事、多分、全分繋がってる。これは、ぼくの勘だよ。フォルの力の空間。世界創造の後の異常。ゼロの失踪。希望を失い、絶望転じる時、大いなる力の目覚めの時」
「それって」
リミェラが反応した。何か、心当たりがあるのかな。
「……魔力を吸収する日、聞いたよ。そんな感じの言葉。フォルが、以前聞いた事があるって言ってた。儀式? の時に」
僕は、手伝っただけ。少しだけ、知ってるけど。
「エル、それ詳しく」
「知らない。ぼくも、全部を知ってるわけじゃないから。ただ、儀式の時に……神聖に、いずれ……災厄が訪れる。全てが消える時が……それを、防いで欲しい。そう頼まれた」
エルが「ごめん。」と付け加える。
この情報共有とかも、相手の掌の上なんだろうか。もっと、突拍子のない事でも思いつけば、あるいは——
なんとしても、踊らされっぱなしは性に合わない。さて、ゼロを助けるまで、どう相手の意表をつくか。




