5話 秘密の部分
暗い空。暗いと、等間隔の木が、いつも以上に不気味に見える。風、冷たい。
全部、自分でどうにかできればいい。そもそも、僕なら、あそこだって迷わない。解呪は、そこまで自信ないよ。でも、ある程度の知識はあるから。それに、その気になれば、破壊できる。
自分なら、解決できる。なのに、自分では動かず、任せないといけない。これ以上は、信じて、待っているしかない。
もし、信じて待っていた結果、失敗したら? 身体が震える。
気を抜けば、泣きそうになる。
もし、ここにフォルがいてくれれば——
何十回、何百回。頭によぎる言葉。
だからこそ、フォルと一緒はだめなんだ。僕は、フォルがいれば、立ち止まるから。
でも、こんな時、誰も支えてなんてくれない。誰か、僕のこの声を聞いてよ。そう、言いたくなる。
でも、誰も、誰も僕の事を、理解してなんてくれないんだろうね。
「……やっと見つけた」
暗い中で、黄金の瞳が、わずかに光っている。その光は、僕に近づいてくる。
「……ぇ……なんで」
普段は、魔法具の事ばかり。自分の弟にすら、連絡はしてるだろうけど、魔法具制作が忙しいからと、会っていないんだ。
なのに、なんで……なんで、こんな場所までくるんだよ。
「……あの後心配になって何日も探してた」
「そうじゃ……フォルの事はほっといていいの? あの子も相当大変だと思うよ」
心配にって、フォルの事でも考えてればいいじゃん。暇なら、フォルに会いにいけばいいじゃん。弟でしょ。
なんで、僕なんだよ。今、笑う事すらできないんだ。俯いて、顔を見せないようにする。
「……フォルにはゼロがついてるから。ゼロに頼まれた。シェフィ探し出して、このメッセージを渡せって」
粗末な魔法具。ゼロが、作ったのかな。少なくとも、フィルじゃない。
音声記録の魔法具みたい。音声を聞いてみる。
『俺らがいないからって、寂しくねぇように、ぬいぐるみ送りまくるから場所教えろ。俺は……俺はシェフィの事わからねぇよ。けど、泣いてたら、笑わせてやる事くらいできるから。だから、ぬいぐるみ送るまではこの花見て俺らの事感じてろ』
音声を聞くと、魔法具が花に変わった。氷の花に。ゼロの、神聖術で作られたものなのかな。
別に、寂しいわけじゃないんだけど。
何も理解してない。ただのわがまま。自分の、一部とも言える術の花を渡して、一緒にいろって。
「……」
「……おれからも」
フィルから渡されたのは、箱? 中には、大量のフォルの写真。寝顔まである。
「……フォル感じられなくて、寂しいかなって」
「……わかってて言ってるでしょ」
「……おれ達とはまた違う役割を担う二人を、理解できない。でも、兄の気持ちは、少しわかる。同じ兄として」
おんなじ。なんで、そんな言葉だけで、軽くなるんだろ。
癖になってるのかな。抱きつこうとするの。いつもは、エルだけじゃない。神聖も魔聖も、みんな避ける。なのに、今日は避けなかった。
「……見守る側もきついって知ってる。だから、好きなだけ甘えて。また頑張るためには、甘えるのも必要」
甘えるか。フィルは、エレを相手にしていると勘違いしてないかな。僕の頭撫でて。
頭が重い。疲れて、いたのかな。珍しい。ここまで疲れるなんて
「……ん……あれ? 外? ……僕……」
「……起きた? 」
フィル? えっと、確か、一人で風に当たろうと思って——
「ごめん! あれ全部忘れて! 」
咄嗟にフィルから離れた。顔に熱を感じる。いくらなんでも、こんな失態
「……やだ……別にああいう部分があってもなんとも思わない」
「君が思わなくても……」
——恥ずかしいんだよね。シェフィが
クスクスと笑ってる、彼女の声。なんで、こんな時ばっかり見てんだよ。
「そうだよ。僕が恥ずかしいから忘れて」
認めるから。認めるから、忘れてよ。
「……やだ」
——わたしもやだよ? 妹なんだから、おにぃちゃんの事を、知るべきなんです。
彼女に至っては、それらしい事言ってる。おにぃちゃんは、知ってほしくない事があるんです。
いつも以上に楽しそう。二人とも。氷の花は、髪につけておく。フォルの写真箱は、両手で大事に持って
逃げる。
室内に逃げる。
エルがいる。ここは
「……シェフィ? どうかした? 」
「エル⁉︎ 隠れさせて」
エルの背中で隠れる。
「……あっ⁉︎ シェフィ、外にフィルきてるわよ。入って入って」
ティア、昼からいないと思ってたら、外に出てたんだ。ティアがフィルを招いてる。
「珍しいね。シェフィのそういう姿」
「そういうのいいから隠れさせて」
エルに何か悟られたかな。でも、それは今どうでもいい。
フィルは、何も言ってこない。ティアに招かれるまま、ソファに座っている。
僕が、本気でいやがっている。そう思って、あえて触れないようにしてくれてるのかな。
言いようのない感情。それは、僕が持っているべき感情じゃない。
「……おれもここいる。あまり手伝いはできないかもしれないけど……ほっとけない」
口を開いたかと思えば、突然の同居宣言。
「えっ……でも、忙しいんじゃ」
「……そう言って、おれを遠ざけたいなら諦めて」
フィルがまるで、弟に言うかのように言ってる。
それと、ティアがいつも以上に張り切ってる。紅茶淹れるのに。そういえば、フィルって紅茶すきだった。
魔聖の姫が、こんな楽しそうなのに断る。なんてできない。
それに
「あんなとこ見られたとか、そういうの抜きでなら……君がいてくれるのは大歓迎だよ」
フィルの能力は、欲しいものだから。
魔法具の修理と制作。それに、情報をまとめといてくれる。何よりも必要なものを、フィルが持ってる。
僕は、フィルの方に行って、抱きついた。
「フィル、僕とエルは大丈夫だけど、リミェラとティアは毒や精神系統の魔法とかあんまり耐性ない。何かあった時は頼むよ」
フィルの能力が、解呪特化。他もできるけどね。
この先、そういう事がある。ティアには知られないように、小声で言う。エルは、聞こえてる。だって
「……わかった。解呪なら得意だから任せて……でも、おれもシェフィほど耐性ない」
フィルが小声で返すと、エルが
「……チート」
ってぼそっと言ってた。禁句となる可能性のある言葉を
僕はエルに、にっこりと笑って見せた。
「何か言った? 」
「別に」
「別にって、聞こえてたんだけど。毒無効チートとか」
「自覚してんじゃん。自覚してんなら、聞く必要ないでしょ。毒無効物理特化チート」
言い訳するか、何も言ってなかった事にするなら、聞かなかた事にしようと思ってた。チャンス、ちゃんと与えたんだよ? なのにエルが、選択肢なかっただけだ。
理想の兄。そのために、エレに、彼女にだけは隠し通そうとしてた。以前、知られたせいで起きた事もあって。なのに、それに関連する禁句を、エルは言ったんだ。エレが聞いている前で
「……エレ、ちょっと眠るか、奥に引っ込んどいてよ」
——ふぇ?
「僕、ちょっとあの自称神官に用があるんだ」
——えっと……う、うん。じゃあ、調べ物してるから。
彼女が、僕に反応できないようにしてくれる。僕の状況がわからないようにしてくれる。
これで、遠慮はしなくていい。握る右拳。左手でロケットペンダントを持つ。これは、封印魔法具としての役割も兼ねてるんだ。
「あの子には黙ってろっつたよねぇ? 」
「……あの、エレが聞いてるとは思わず」
「そんな言い訳通用すると思ってんの? 」
フィルが、気を利かせてくれる。ティアを、奥の部屋に連れてってる。自分の部屋どこか聞きながら。机の上にあるカップは空。いつの間に飲んでたんだろう。
おかげで、この右拳に纏う、ピンクの光を見られなくて済む。
「覚悟できてんだろうなぁ? ミドゥ? 」
「えっ⁉︎ あの、ちょ、本気で」
何があったのか。フィルの言葉を借りさせてもらうよ。フィルが、ある人物に、この日の事をこう伝えていたんだ。
『おれが来た日、夜から夜明けまで、ずっとドタバタと逃げる音が聞こえた。普段のシェフィからは、絶対に聞かないような言動が聞こえた。朝、リビングに行くと、外傷はないけど、深く反省したエルの姿があった。シェフィは、吹っ切れた顔をしてた。スッキリ、の方が近いかも』
ちなみに、フィルは、おもしろそうという理由で、徹夜してまで声を聞いていたらしい。




