4話 協力と情報収集
愛らしい部屋。楽しい。うれしい。あの時間が、まだ続いているかのよう。少なくとも、感情は、あの時間にいる。
「……シェフィ? 遅いと思ったら……どうかした? 」
「……ん? あ、ああ……ミドゥ……エルか。何でもない。それより、神殿に連絡。しばらくは戻れそうにないって。しばらくはこっちを優先しろと魔星達に連絡」
「……シェフィ、口調」
エルに言われて、夢から覚めた。もう、ここは夢の中じゃない。感情も、ここに戻ってきてくれる。
エルに悟られないように、僕は笑顔で誤魔化した。
「神聖の方は連絡しづらいからお願い♡ ヴィングジェアの……エンシュア組織の方を警戒してほしいって、頼んで欲しいんだけどいいかな? 」
いつものように頼む。話してもいいけど、なんで、いやだって思うんだろ。不可抗力で会う事になっただけなのに。
「……わかった。それより、今後どうするか、決まった? 」
「うん。ひとまずはあの子の手伝いをしながら情報収集。って事でまたあの世界行くよ。ティア達には内緒で。御巫周りを調べる」
ティアは、神殿の仕事がそろそろ入るだろうから。少ない休暇、ゆっくり休んでいてもらいたい。
「行ってくるね。僕のお姫様。遅くならないうちに帰るから」
寝ている彼女の額にキスをする。
一人じゃないから、大丈夫だよ。それでも、防御魔法くらいはかけておく。
準備? そんなのここへきた時点で、もうしてるでしょ。って事で、何も聞かずに転移魔法。
サァァァ——一面を彩る緑が、風で揺れている。右足を前に降ろすと、柔らかい感触が伝わる。
エレとゼロが、リミェラの御巫を最後に見た場所。今はその場所がある世界にいる。リミェラが、呪いの聖女が、いた世界。
「こっち行ってみようよ」
手がかりはない。リミェラにも、エレとゼロにも、何も聞いてないから。聞いたとしても、わからないと答えるんだろうけど。
いつも通り、勘頼り。僕の勘よ、僕を求める場所へ、連れて行きたまえ。ってね。
儚く美しい緑の中、歩いている。霧に包まれる。僕らは足を止める。
「この辺でいいかな。かけらの力を借りれば、できるでしょ」
まぁ、僕らがこの奥へ行くっていうわけじゃないんだよね。僕らの目的は、あくまでもサポート。
僕は左手を胸に当てた。彼女に呼びかける。
——にゃ……シェフィ⁉︎ どうしたの? あっ⁉︎ わたしの力を借りたい? いいよ。喜んでー
今回は、すぐに反応した。猫の真似して遊んでたな。触れないでおこう。
声が上擦っているのも。
「ありがと」
僕は彼女の力を借りる。情報収集もしておく必要があるね。
僕は、魔法杖を収納魔法から取り出した。
「……少しだけ、ここで何があったのか、視せてもらうよ」
彼女の力を借りた過去視。
かつて、この場所で呪いの聖女が生まれる前。ここで、黒装束を着てる連中が集まっていた。
円になって、何か呟いてる。詳細はこれだけだとわからない。でも、これが儀式だという事くらいは理解できる。
魔星が、集まっている。大きく揺れる服。ゴォーゴォー——音で声が聞こえない。
『失敗か』
『もう一つの方も試そう。ちょうどいい御巫がいる』
音の隙間から、聞き取れたのはこれだけ。かけらの力を借りている状態。これ以上は、視る事が叶わない。
「……あまり情報は得られなかった? 」
「ううん。十分。ほんとに魔星を利用しようとしていたんだ。一応報告は受けていたんだけど、どうやって利用しているのかは、調べられてなかったみたいだから」
魔法杖を収納魔法にしまう。魔星の利用。その実例は何度か聞いている。実際に、関わってもいる。ギュリエンの件に呪いの聖女の件。どちらも、関連しているから。
でも、人の子が魔星をどう利用しているのか。その情報を得るのはむずかしかったんだ。利用している連中から、話を聞けなくてね。
それが分かっただけで充分すぎる。
情報収集はこの辺にして、次はエレのためにサポート。
「えっと、僕あんまり旧神聖語知らないんだよな。あれだっけ? ゼムレーグ? 光系は」
旧神聖語は、他の言語と違って、覚えられないんだ。神聖達でも、自分達の名前しか知らないなんて言ってるくらい。ゼロとか。
言葉と意味が他の言語との共通点、少ないというか、ほぼ皆無がほとんど。
「……ゼムは導きと氷じゃなかった? ゼロが希望。なんで神聖が、自分達の術語知らないの? 」
「あっ⁉︎ そっか。ゼレ・ゼーシェレスだっけ? 」
空色の光が、もやもやと目の前で浮いている。この空色の光が、きっとエレの役に立つ。
それと、見るからに呆れているエルに、反論してやらないと。
旧神聖語を覚えていない、もう一個の理由で
「旧神聖語は存在が確認されていない語なんだから、仕方ないでしょ」
そういう問題じゃない。そう言いたそうだね。僕らにはそういう問題だったんだけど。
「愛の術で維持と強化しておけば、どうにか気付けるかな。あとは、エレの勘を信じるだけ」
愛の神聖術とは別に、つながりも与えておく。かけら同士、繋がりをもらう。そのために、もう一回彼女に呼びかける。
反応ない。今度は寝てるみたい。でも、いつでも力を借りれるようにしてくれてる。
ピンクの光が空色の光を包む。
「……あの子、そんなに頻繁に力貸してくれるんだ。普段、あれだけ気まぐれっ子なのに」
エルが僕を見つめている。
「気まぐれだよ。今もずっと。しかも、僕には内緒で、ゼロと密会してたらしい。あれ後で問い詰めた方がいいかな……ゼロが二人分世話してくれてるって考えると触れない方がいいかも」
世話したくないってわけじゃないよ。でも、僕だけだと、世話しきれなくて。しかも、それで寂しがらせちゃう。
その寂しさをゼロが補っている。それを知ってるから。
ここはあえて、悩ましいという表情しておく。
「……シェフィ、また魔力溜まってる。どうにかして」
「ご自分で」
「めんどくさい」
「がんばれー」
魔力を集めていた影響が、まだ残ってるのかも。大量に魔力が集まってる。
エルが「なんでぼくが。」とか言いながら、取り出したのは、本。
「媒介に魔法書? 珍しいね」
「魔剣は封印。魔法杖は、書庫の貸し出しの後に魔物討伐で、浄化魔法使ってたら壊れた」
「……魔剣の封印ね。そろそろ解きたいけど、今解けば確実にいつもとおんなじだね」
エルのように、使っている武器が壊れる事はよくある。魔剣は、特殊な武器でそれがないんだ。
しかも、僕らの魔剣は、神聖と魔聖に選ばれる時に渡されるもの。僕らの特別な武器。今は、事情があって封印中。
「……憐れな魔星、あるべき場所に戻れ」
さっすが。魔力が散らばってる。
「これでもう大丈夫かな。エレ達が来ないうちにさっさと退散しないと」
「……シェフィ、あの子にあれが解けると思ってる? 」
「エレはむりでしょ。一人じゃ解けない。でも、あの子の隣にいる天才は、あの程度簡単に解くよ」
そう。解いてくれるんだ。だから、大丈夫。
この行動に、思うとこはある。でも、今は、帰るしかないんだ。
僕は、転移魔法を使った。家に帰る。
彼女に癒しを求めるために、可愛らしい部屋を訪れる。ちょうど、リミェラが彼女の着替えしてた。
桃色のワンピース。
「相変わらずセンスがいいね」
「シェフィム。帰ってきたんだね」
「うん。リミェラ、双子の御巫に会いたい? ……ごめん、あの子の成長機会を奪いたくなくて」
それが、一番僕に都合のいい理由。
「……本当にそれだけ? もう、二人と会えない時間を、あの子のせいになんてしないよ。だから、教えてくれないかい? 」
見透かされていたか。流石に、これだけとは思えないよね。
「……約束、なんだ。今の僕らはつながりが強すぎて、互いの記憶を共有してるんだ。その中でね、あの子……エレとゼロが双子を助けるって言ってたんだ」
かけらの影響。その約束のために、僕はサポートに回るんだ。
僕は、リミェラに笑顔を向ける。
「他の誰でもない。あの二人が……当事者達が、助ける事。その方が、わだかまりなんて消えそうでしょ」
あの二人が助ける。それに意味がある。そう思うんだ。
笑顔を見せても、身体って、正直な部分あるのかな。震える手を、ぎゅっと握る。
エルに、リミェラに、何の心配もない。そういう姿を見せている。
これは賭けだ。そして、僕はこの賭けに、これ以上関われない。失敗の可能性を、最小限にする事すらできない。
それでも、笑っている。全部、人前では、隠れていてと願って。




