3話 二人の忘れてきた時間
沈黙が続く。自分達の、あり方を否定されたかのようだ。実際、そうなんだろうね。そのために生きてきている僕らは。
星に裏切られれば、一体何に縋ればいいんだろう。
エレ達ですら、その重い空気を察したのか、黙ってる。もしかしたら、僕らの話を、理解してるのかも。
白い空間。純白、何にも染まっていない。希望のような色。今まではそう感じられた。なのに、今は、この白が、真っ黒に思えるよ。
僕らはどうして、ここにいるんだろうか。
「いたーーーーーーー‼︎ エレ、昨日の夜に、今日は調べごとやめて俺と遊ぶって約束しただろー‼︎ 」
突然の声。それは、重い空気を破壊するかのように響く。
彼女の気まぐれが、声の主をここへ呼んだ。
僕は、声のした方を見た。両手を腰に当てて、むすぅとしているゼロ。
「忘れてた。ごめんね、二人とも。わたし達は、ゼロと遊ばないとだから」
「は? 君ら逃げたいだけでしょ! 」
咄嗟に出た言葉。僕も、逃げたい。そう思っていたのかな。
僕が止めても、彼女は従わない。ゼロの方へ直行する。フォルのそばにいた、花器のエレを連れて。
ほんとに、エレ達って気まぐれな猫みたい。
彼女と花器のエレ。二人のエレをものにできたゼロは上機嫌。
「……はぁ。ほんっと、狙ってやってんの? あれって」
フォルの呆れ顔、かわいい。さっきまでの暗い顔が嘘みたい。
「どうだろうね。でも、さすがだよ。本来の役割を分かってらっしゃる」
周囲に希望の光をもたらす。希望の神聖。その役割を果たしている。エレ達も、楽しそうだ。少し離れた場所で、ゼロと一緒に遊んでる。
神聖としての意味。ギュリエンの件。深い傷が、癒えたわけじゃない。問題が消えたわけじゃない。
むしろ、問題は増える一方なんだ。きっと、こうしている間にも。
でも、今は、それを忘れよう。短い時間でも、僕が初めて愛した人と一緒にいられるんだ。この再会を、悲しみだけで、終わらせたくなんてない。
「シェフィ」
珍しく、フォルの方から抱きついてきた。相変わらず、少し体温高め。ん? 高めというか、僕の記憶より高いんだけど。
「……フォル、まさかとは思うけど、今って」
「大丈夫だよ。ちょっと疲れて寝てるだけ。少し、術を使いすぎはしたけど、問題ない範囲で抑えられたから」
そう言われても、いつもむちゃばっかりしてるから。よく見ると、顔が少し赤い。
「……ごめん。今、動かないと、全部が取り返しのつかない事になるかもなんだ。だから、多少のむちゃは仕方ない事だよ」
それは、そうなのかもしれない。休む時は休んでいるだけ、今はいい方なのかな。せめて、ここでくらいは休ませてあげたい。
エレのような能力は持ってない。あの子の癒しは、特殊だから。でも、愛の術で真似る事くらいはできる。
「……シェフィ……僕、ずっと……ずっと、会いたかったんだよ。記憶がなくても、忘れなかったんだ。僕が初めて愛情を知った人の事、だから。エレとは違う、愛情。守る対象じゃなくて、共にあってくれる……たった一人……一輪の、特別な花」
僕も、おんなじだよ。長い時間、一緒に過ごして、なくてはならない存在になったんだ。
すきだよ。今でもずっと。君は特別なんだ。そう、変わらない。変わる事なんてできない想い。
「……ここから……夢から覚めれば、離れ離れなんだよね? いやだよ。離れるの。でも、それは君も一緒でしょ? 」
「うん。一緒だよ。僕も、できる事ならずっと、フォルと一緒にいてあげたい。あの時だって、君のそばにいて、一緒に戦いたかった。君の大切なものを、守ってあげたかった。それができなかった事、ずっと、謝りたかったんだ」
「もういいよ。シェフィが、僕を守ってくれてたの知ってるから。ちゃんと、伝わったから。だからね、戦えるよ。君と一緒にいられる時のために。みんなとまた、笑える日のために」
フォルが僕から離れた。
それはきっと、何にも縛られない、フォルの姿。見た事ないはずなのに、なんだか、懐かしく感じる。その、穏やかで、どこまでも優しく強い、その眼差しが
「もう、大丈夫だよ。今は、僕らの信じるものなんてないかもしれないよ。でもね、シェフィ、僕の中に、絶対に信じられるもの、あったんだ。ありがと、それを思い出させてくれて」
それが何か、教えてなんてくれないんだろうね。もし
『……ら……弱さ……ない! ……は……』
「……っ⁉︎ なに? 今の」
知らない。こんな記憶。そもそも、そこはどこなの? 見た事もない景色。星のようだけど、僕らの知っている場所じゃない。
「シェフィ? どうかしたの? 」
「ううん。なんでもない」
笑顔、ちゃんと作れてるかな。あれ、よく聞こえなかったけど、フォルの声だ。間違いないよ。
「教えて! 教えないなら、あれ使うから! 」
そうだった。フォルは誤魔化して引いてくれる、なんて性格じゃない。
「……知らない記憶……フォルの声で、全部は聞き取れなかったけど、弱さがなんとか言ってた」
「……弱さなんか、必要ない……君は、何もないの? 」
僕? そう言えば、星にいた頃に一度。フォルとおんなじような言葉を、僕が言っていた。それは、いつの記憶かはわからないけど。
「……あーあー、これだと、しばらくはフィルにすら甘えらんないかー。これだけ問題抱えてると、忙しすぎて、エレ以外に甘える暇ないよ」
「……フィルにばかり甘えないでよ……君が諦めずに進んでいれば、いつかは絶対に僕らの運命は交わる。その時がくれば、僕が甘やかしてやるから。フィルにばかり甘えんなー」
「ならそっちだって、エルにばかり甘えないでよね? 僕がいっぱい、甘やかしてあげるから。まだ時間あるんだ。ほら」
ほんとに呑気だよね。僕らって。結局、最終的にはこれだよ。抱きついたり、膝枕を試したり、そばにいる。それを身体で確認するかのように、一緒を楽しむんだ。
問題が出ると、それが何か考える。どっちかが大人ぶる。初めのうちはそんな感じの事が多いのに。気がつくとこうしてるんだ。
フォルの髪、柔らかい。ほっぺは、ふにふにしてる。ちょっと熱い。
「……シェフィ、もしかして」
「そうだよ。多分君が考えてるとおり……僕の安定剤は、君だから……だから、今くらいもっとぎゅぅさせろー」
「えっ⁉︎ ちょ⁉︎ 待って⁉︎ 落ち着いて! 君に本気で抱きしめられると、骨折れるから! 」
そんな事しないんだけど。フォルが突然逃げ出した。そんな事した覚えも……一度しかないんだけど。あれ、治るまでずっとつきっきりで看病して、百回以上謝ったじゃん。許してくれたじゃん。
じゃなくて、もうそんな事しないって。術は常に使ってるなんてしてないから。
逃げるフォルを追いかけている。なんでかな。追いかけっこで遊んでるみたい、だからかな。
初めはフォルも必死で逃げてるだけだった。でも、次第に僕もフォルも笑顔になる。危険を感じている様子はなくなる。
「こっちこっちー」
「待てー」
子供になったように遊んでる僕ら。僕らの身体が、光で覆われる。もうすぐ、また、離れ離れになるんだ。
それでも、遊び続ける。
「こっちと見せかけて」
「こっちでしょ。僕の勘勝ちー」
「その勘ずるいって。心理戦で。心理戦なら僕勝てるから」
負けずぎらいのフォルが、自分の土俵で勝負を持ちかけてる。それだけで、二人で声を出して笑う。
別れの時までずっと、僕らはこんな調子で遊んでいた。少しだけ、エレ達の方も見たんだ。そうしたら、僕らの様子を見ながら、あっちもあっちで楽しそうに遊んでたよ。
まるで、何も知らない子供のように




