1話 新たな住人
呪いの聖女の件は、無事に解決したみたい。あの人から、報告があった。その報告の時に、ある事を頼んでおいた。
その頼みのために、今日は朝から大忙し。客人がくるから、眠っている、僕のだいすきな人におめかしさせる。
僕も、仕事関連だから、ちゃんと仕事着を着ておく。
ようやく暇ができた。そう思って、一息つこうとした頃、客人が訪れた。
あの種族じゃ珍しい赤髪に、琥珀色の瞳をした、美しい女性。
「待ってたよ……えっと、覚えてるかな? あの子ら以外の記憶は、いじってないから」
「うん。代々当主補佐をしてくれてた子、だよね? 」
「そう。久しぶりだね、リミェラ。ここまでくるの、大変だったでしょ? 入って。少しゆっくりしてからお話しよっか」
覚えていてくれたんだ。最後に会ったのは、彼女の御巫がいなくなる一年前。
僕は、リミェラを室内に招く。ソファに座ってもらう。お茶も用意しないと。
「……相変わらずなんでもできるね。私達ですら、苦手な事あっていいのに、君達って、完璧じゃないといけないのかい? 」
「苦手な事くらいあるよ。それを極力人前で見せないようにしろ、とは言われてたけど。それより、君って今、所属とかってどうなってる? あの連中から追われてるなら所属ない? 」
「ないよ」
それは、ちょうどいいかな。所属があると、そっちとのやりとりとか、面倒だろうからさ。
僕は、向かい側のソファに座った。
リミェラが僕と顔を合わせようとしない。呪いの聖女の事を気にしているのかな。リミェラからしてみれば、あの子の僕に会いたい。その想いを利用してたもんだろうから。
「なら、お世話とか雑用が主だけど、ここで僕らの手伝いをしてくれないかな? ここを離れてばかりだから、大切な子のお世話ができなくて」
「いいよ」
快く引き受けてるれた。僕は、後ろを向いて、手招きする。
「ありがと。住み込みになるから、一緒にいる二人を紹介するよ。神官エルと聖女ミティアーネル。お世話して欲しい子については、事情があって、後で説明したいんだ」
「神官と聖女……神殿に関係ある仕事でもしているのかい? 」
「ううん。友達だから手伝ってもらってるって感じかな。って、呼び出した一番の理由、聞き忘れてた」
面識はなくても、二人に関する噂は聞いた事あると思う。
僕は、呼び出した理由、それを聞くために写真を一枚、机の上に置く。
写りが悪くて、見えづらい。でも、ピンクの髪が、認識できる。
「この子の事と、君が一緒にいた頃のフォルについて聞きたいんだ。全部じゃなくていい。フォルについては、普段どんな感じなのかも知りたい気はするけど」
僕は、いくつか報告書を机に置いた。その報告書には、星という単語がある。でも、見るべきはそこじゃない。
情報が欲しいなら、まずは自分から。そのための報告書。これが、僕が信頼を得るためにと僕がよく取る方法。
「……その子は星を守るためと、よく言っていた気がする。それと、これは当主をしていた時の話だけど、我らは星に選ばれた星の者。星の者としてエンシュアと名乗ろう。とか話し声が聞こえた」
確定、でいいか。報告は受けてたけど、まさかほんとにこんな事になってたなんて。
エンシュアは、この前リミェラを狙ってきたヴィングジェアの連中。彼らが名乗る組織。
まぁ、これだけだと動くにはまだ、情報は足りなすぎるか。
これに関して、下手に動くわけにもいかないから。
「フォルの事は……おとなしくていい子で、なんでも自分でしようとして、失敗してエレに優しくされていた。かわいい弟みたいな子だったよ」
「おとなしくていい子……えっと、それどなたですか? じゃなくて、そうだったんだ。エンシュア組織については、もう少し調べた方が良さそうだね。ありがと。色々と教えてくれて」
フォルはかなり猫かぶってたな。写真と報告書は、後で片付けるかな。
「お世話して欲しい子を紹介するよ」
いつまでも紹介しないわけにはいかないから。
僕は立ち上がって、リミェラに彼女の部屋へ案内する。
桃色の扉に【僕のかわいいお姫様のお部屋♡ 】って書かれたプレートがぶら下がっている。ちなみに、僕が勝手に書いた。
扉を開ける。寝てる彼女がおめかししてるから、部屋も華やか。
「……その子が、世話して欲しい相手? ……え」
まぁ、そういう反応になるか。リミェラは少し前まで、よく似た少女と話してたんだから。
「そうだよ。さっきは返事を急がせてごめん。先に事情を説明すべきなのに。でも、まずは」
僕はリミェラの方を向いて、頭を下げる。
「僕の妹が迷惑かけてごめんなさい。この子の代わりに、謝らせて欲しい。ルーの御巫にも、謝る時は一緒に謝りに行かせて」
「……彼女は悪くないと思うよ。彼女はずっと私を守っていてくれたよ。世話の件、私から頼ませて。私に彼女の世話をさせてくれはしないかい? 」
顔を上げると、リミェラと顔が合った。何も、気にしてなさそうな顔。
「……えっと、ありがと。なら、まずは着替えを。僕が手伝うから」
おめかしさせた意味とは? そう思われるかもしれないけど、彼女は基本的に着やすい服が好きだから。
服を脱がせやすいように、彼女の髪を結ぶ。
「……これは? 昔からこんな刺青あったかい? 」
リミェラが彼女の首にある紋章を見ている。ハートと羽の紋章。
「姫の証。姫に選ばれた子はこの紋章があるんだよ。ティアも」
ティアが、髪をかき分ける。彼女とおんなじ紋章を見せてくれる。
「姫はお気に入りだから、自分達のお気に入りだ手を出すなっていう意味があるらしいよ。ハートは愛の神魔星の妹だからっていう、意味もあるらしいんだよね? シェフィ、エル」
さすがティア。ちゃんと勉強してる。
「うん。そうらしいよね。エレもティアも、愛の星を守る二極。僕とエルの妹だから……あれ? 紋章は姫の特異な能力を補助するものでもあるんじゃなかった? 」
言ってて思い出した。暴走する時は、身体にある紋章とは別に、瞳に特殊な紋章が浮かんでいるらしいけど。そっちも、よくわかってない。
「あんまり自覚ないんだよね。特異な能力を持っているって。エレもじゃないかな? 特異な能力なんて知らないってよく言っていたから」
ティアの言ってる事は、僕らもおんなじ。でも
「……全てを知らされるはずの神聖と魔星が、なんでこんなにも知らない事があるんだろ。そこも簡単に調べられればいいんだけど」
役割を考えると、知っていていいはずの事だって知らない。それが、おかしい事。そこを疑ってるのは、僕だけじゃないと信じたい。
「……君は何かわかった? 」
僕の中にいる、かけらに聞く。
——わからないけど、来て欲しい。わたしじゃ、理解できない事があって。今すぐじゃなくていいから。
今すぐ会いに行きたい。でも、今はリミェラに説明を
「……シェフィ、ぼくが説明するから彼女のところ行ってあげて」
ありがと、エル。なんで、気づいたのかは、長年一緒にいるから、なのかな。
「ありがと。エル、仕事の連絡あったらすぐ起こして。それと、もしもあの子から連絡があった場合、励ましてあげて」
呪いの聖女の件で、エレに連絡先を知られている。絶対にかけてこないとは限らない。
後の事をエルに任せる。彼女に会うには、眠ればいいだけ。正確には、意識をあの空間へ持っていく。場所は関係ない。
「……床でいっか」
「せめてソファにしなよ。私が厳選に厳選を重ねたんだから寝心地だって最高よ」
「それならそうさせてもらうよ」
床で座って寝ようとすると、ティアに止められた。ふかふかのソファに座る。瞼を閉じる。彼女のいる、あの空間へ、意識を持っていく。




