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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 星実月 希蝶
2章 シェフィ編 真実への道
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プロローグ 初めての愛の神聖術


 正式に神聖となった後。愛の神聖だけは、その役割を果たす事ができてなかった。

 知識は申し分ない。状況判断力はそれなり以上。神聖達をまとめる事もできている。基礎的な魔法と神聖術、どちらも問題なく使用可能。だが、愛の神聖として最も大事なもの。それだけは、使う事ができない。


 それを使えない理由は理解している。使えるようになる方法は、もう少しで掴めそうな段階にまで来ている。


 愛の神聖は、柵に手を置いて、空を見上げた。暗い空。わずかに輝く、別の星の光。


「シェフィ? 」


 中性的な声。振り返ると、生命の弟神聖がいる。その後ろで、青系の室内で談話している神聖達が映る。


「なんでもないよ」


 愛の神聖は、生命の弟神聖に笑顔を向けた。笑顔を見せると、また、空を見上げる。


「なんでもないなんてわけないんだーー! 」


 背中にかかる重みと温もり。高く澄んだ愛らしい声。神聖は全員男。厳密に言えば、愛の神聖と生命の弟神聖だけは違うが。

 その愛らしい声は、今この時間、ここにあるはずのないもの。


「おい、エレ! お前俺が連れてきたのバレるから隠れてろ言っただろ」


 氷の弟神聖の声、に続いて


「そうですよ。エレ様。黙って愛らしくおとなしく座っていてくださいと言ったでしょう」


 風の神聖の声まで聞こえる。


 再び振り返る。視界に映る、濃藍と銀。愛の神聖の妹、神聖姫。


 愛の神聖は、扉の方を見る。癖っ毛が目立つ金髪の少女が、バツの悪そうな顔で手を振っている。神聖姫の友達、魔聖姫だ。


「エレ、朝起きれないんだから寝るって言ったでしょ」


「やっ! わたしだってもう、子供じゃないんだから、絶対に寝ないから。みんなと一緒に遊ぶ」


 愛の神聖が、神聖姫を部屋に戻そうとする。だが、神聖姫が、その柔らかい頬を風船のように膨らませている。愛の神聖は神聖姫に強く言えない。

 愛の神聖は、困ったような笑顔を見せる。そのそばにいた、生命の弟神聖も、何も知らなかったんだろう。愛の神聖同様、困り笑顔。


 愛の神聖は、視線を神聖姫を連れてきたと思わしき、氷弟と風の神聖に向ける。


「ゼロ、イヴィ、君らが戦犯かな? 」


「な、何の事だ? え、エレが勝手にきたから」


 氷の神聖が真っ先に言い訳をしている。愛の神聖は、生命の弟神聖を見る。


「……嘘は言ってないよ。隠し事あるけど」


 生命の弟神聖の瞳がわずかに光る。暗い場所でなければ、気づかないほどわずかな光。


 愛の神聖の視線は、扉の方にいる魔聖姫に向かう。


「イシュ、いくら仲良いからって夜遊びなんて教えちゃだめだよ」


「えー、少しくらいいいでしょう。エレだって遊びたいのよ」


「そうなの。そうなんだからイシュを悪く言っちゃだめ。それに……シェフィがお悩みみたいだから……むり言って連れてきてもらってるの。ラジェにもかなり迷惑かけちゃってるんだから、ちゃんとお悩み聞くまで帰れません! 」


 神聖姫が、魔聖姫を庇っている。その言葉も、嘘はないようだ。


 本当の兄妹ではない。だが、その強情な性格は、似ている。

 愛らしい瞳と髪が、神聖力に反応して輝いている。


 もはや彼女が光源になれるのでは。そんな輝きを放つ神聖姫。


「……別に、君が気にする事じゃないよ」


「それは言う本人じゃなくて、聞かされる本人が決めるんです。ほら、早く言え。今すぐ言え。眠くなってきてるぞ」


 誰に影響されたんだろうか。愛の神聖は、真っ先に氷の弟神聖に疑いの眼差しを向ける。

 氷の弟神聖が、あからさまに視線を逸らす。


「……わかった。その代わりちゃんと僕のお姫様らしくいつもみたいに話して。変な影響受けずに」


「それは聞けない相談でした。残念ながらお断りさせていただくでんす」


 先ほどまで悩んでいた事、それが可愛く思える。愛の神聖が頭を抱えるほどの、別問題が目の前にあるのだから。

 その悩みの原因は、何もわかっていないかのような瞳で、愛の神聖を見つめている。


「愛の神聖術使えないから、悩んでただけ。それと、純粋で無垢なお姫様が、変な影響ばかり受けるって嘆いていますので、どうにかしていただけませんかね? 神聖姫様」


「それは無理とおっしゃっております。それにしても、愛の神聖術……わたしも使えないから、なんとも言えないよ。兄妹愛でもいいはずだけど……愛ってなんだろう。愛……ぎゅぅってしてみる? らぶらぶらぶんって言う? 」


 愛の神聖の頼みは聞かない。神聖姫が、愛の神聖に抱きついた。頬擦りをする。頬に口付けをする。神聖姫が、愛の神聖を、その意地らしくも愛らしい瞳でじっと見つめる。


「愛……ぎゅぅぎゅぅ……離れる」


 神聖姫も、よくわからないまま、愛を身体で教えようとしているのだろう。


「……離れないでよ。あともう永遠にそうしていてよ」


 その行動が、離れ難い。そう思ってしまうほどの、温もり。この温もりに、ずっと触れていたい。愛の神聖が、今まで感じた事のない感情が、溢れてきている。


「……えいえん? えいえいってなぁに? 」


「何で言えなくなるんだよ。つぅか、永遠にってエレの自由どこいったんだ? 」


 氷の弟神聖が、ちゃっかりとツッコミを入れる。神聖姫がきょとんとしている。

 その仕草、一つ一つが大切。それは、彼女が大切な人だからこそ。


 守らないといけない。その使命感で隠されていた何かが、少しずつ、姿を現している。


 バルコニーから見る空が美しい。今までは、なんて事もない、ただの空だったのに。


「……これが愛、なのかな。これは離せないよ」


「愛? 愛? わかったの? なら、神聖術も使える? 」


「それはわかんないよ。神聖術を扱うのは、感情だけじゃないから。その感情を力に変える。その変える部分が必要なんだよ」


 愛の神聖が、神聖姫に教える。だが、神聖姫は、何も理解していない。


「わかんないの。やってみればいいと思います。失敗しても誰も笑わないんだから。何かあっても止めてくれる人いるんだから」


「……わかったよ」


 神聖姫に言われて、愛の神聖は神聖術を使う。


「……神愛響き、星を包まん」


 一度も成功した事のない、愛の神聖術。呪言に合わせて、ピンクの光が室内を照らす。まるで光る雪のように、ピンクの光は、神聖達に降り注いだ。


「……ふぁぁぁ。すごいの。これが神聖術……わたしも、できるようになるのかな」


「学べばできるようになるんじゃない? 姫も自分の身を守るために神聖術は覚えるはずだから、そのうち教わるかも」


 愛の神聖の言葉に、神聖姫が目を輝かせる。


「って、そうじゃなくて、おめでと言わないと。お祝い、何かいいのあるのかな? お歌でも歌う? おやすみあげる? 」


 自らの役割を表す神聖術の使用。それは、祝うべきもの。神聖姫が、両手を口元に当てている。


「祝い……僕が神聖術を発動させた時は、シェフィが本をくれたよね。神聖術がいっぱい書かれた本。僕らは神聖術を使った特別な景色を見せるのが恒例だけど、エレはそういうのはどうかな? 」


「じゃあ、自作の絵本作ってあげる。内容はね、とてもきれいな湖にあるお城で、不思議なベッドでおねんねするお話。シェフィのためだけに作るんだ」


 生命の弟神聖の言葉を参考に、神聖姫が贈り物を決めた。


 神聖姫が、生命の弟神聖に抱きつきに行く。

 祝いに使う特殊な神聖術の景色。それは、全てが最も美しい状態を保っている。まるで、時が止まったかのように。


 水が生まれると、氷と炎が混ざり生まれる結晶。その結晶に雷があたり輝きを放つ。神聖達が見せる景色は、一人では見せられない景色。全員が集まる事により初めてその景色は生まれる。


 心地の良い風が吹く。


「フォルのためにお手伝い」


「ありがと。エレ」


 生命の弟神聖が、神聖姫の神聖力を使い、術を発動する。

 光り輝く花々が咲く。黄金の蝶が、愛の神聖の頭上に止まる。


「……らぶはわかんないけど……神聖術はこんな感じかも」

 

 神聖姫が、左手を伸ばす。きらきらとしたピンク色の粒子が、風に舞う。


「……えっ? 」


 神聖達が、ぽかんと口を開いている。しばらくすると、神聖達の驚愕の声が、室内に響く。


 生命の弟神聖と愛の神聖を除いた。


「なんで何も知らねぇ奴が、急にできるようになるんだよ! 」


 やはり真っ先にツッコむのは、氷の弟神聖。


「僕が神聖術使うために一緒にいてくれたから、覚えたんじゃない? シェフィと一緒で感覚派っぽいから」


 生命の弟神聖が、穏やかな笑顔で返す。


「ふぁぁぁ」


「あっ、エレ眠いみたい。お祝いありがと。おやすみー」


 眠そうにあくびをした神聖姫。愛の神聖は、そう告げると、生命の弟神聖と一緒に、神聖姫を連れて部屋を出た。後片付けは、全て他の神聖達に任せて。

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