エピローグ ゼロの日記 二人の御巫の真実
【転生しても忘れないように、日記に書いておく。きっと、未来の俺はこの日記を見てくれる。そう信じて。
俺とエレは、ノーズねぇとヴィジェにぃに預けられていた。定期的にフォルも来てくれる。だから、寂しくはなかった。
俺とエレとノーズねぇとヴィジェにぃ。関係性は悪くなかった。そう思う。今となってはわからない。いや、あの最後の言葉があるんだ。絶対に悪くなかった。じゃないと、あんな事言わない。
助けてほしいから、なんて理由じゃない。そう信じたい。
緑豊かな世界で、俺らは暮らしていた。ヴィジェにぃの好奇心には、時々巻き込まれて大変な思いをしていたけど、それも楽しい思い出だ。
それが変わったのは、あの日。俺とエレは、ノーズねぇとヴィジェにぃがいない間に、ある場所へ招かれたんだ。相手はヴィングジェアの連中。
二人に関する大事な話がしたいと言われた。
俺とエレはそこへ行く。何があるのか知らないで。
「……ふぇ……これって」
「エレ、とりあえず回復魔法」
ヴィングジェアの連中が倒れていた。何が起きたのか。今でもまだわからない。この時の俺はとにかく、助けようとしたんだ。
助けようとした。でも、世界が、それを許さなかったんだろう。
ノーズねぇとヴィジェにぃが、世界の声に導かれてきた。
「どうしてこんな事をしたの! 」
俺らがこの現状を引き起こしたかのようなノーズねぇの言葉。実際、そのつもりで言ったんだろう。
「こんな事したらだめだろう! みんなに迷惑かけて、世界様を悲しませて。世界様は悲しんでいるんだよ。こんな事はやめて、その人達と世界様に謝るんだ! 」
ヴィジェにぃも俺らの事を疑わない。というより世界の事を疑わない。世界がそう言ったから、長い間、一緒にいた俺らじゃなく、世界を信じたんだ。
俺らは何もしてないのに、二人は俺らの話を聞く気すらなさそうだった。
俺は慣れてる。信じた相手に裏切られる事なんて。信じられるのは、いつだって神聖と魔星だけだった。でも、エレは違う。誰かが馬鹿だと言おうと、エレは信じるんだ。俺はそれを、馬鹿だとは思わねぇ。それは、何よりも大事な事だと思う。
星で育った俺らが最初に学んだのは、信頼。目には見えないつながりを信じる事が、奇跡とも思えるような必然を起こす。
それができて、全ての人を信じようとするエレだから、裏切られた時の感情の揺れが大きい。暴走する前に、取れる行動は限られる。
「……二人は、俺らがこの事態を起こしたって疑わないんだな。なら、勝手に疑ってろ。俺らはもう二度と、二人の前に姿を見せないから。魔力異常さえ解決すれば、世界からも姿を消す。世界を否定する御巫なんて、いらないだろ? だから、出てってやるよ」
この世界と二人に向けて。姿を消せばいいって問題じゃない。二人はそう思うんだろう。けど、ここから離れるのが、エレの暴走を抑えるために必要な事だ。
俺はエレを連れて、転移魔法を使う。適当な場所に転移した。
一面の緑は変わらない。世界からは出ていない。
「……ゼロ、ごめんね」
俺の行動の意味を理解していたんだろう。エレは俺に抱きついた。俺はエレの頭を撫でる。エレが落ち着くまでずっと。
エレが落ち着いて、数日経った。とうとう魔力異常の原因がわかった。
俺らは魔力が集まる場所を目指した。
真っ白い神殿。その地下に魔力が集まっている。暗い地下の階段を降りる。エレは三回以上転びかけた。その度に俺が支えた。少しは気をつけてほしい。
扉には黒い蛇が描かれている。闇は紫だよな。黒は空間だったか。空間の蛇。ヴィングジェアはしつこいくらい、そういう絵を使う。確か、種族の紋章だったか。黒蛇? なわけねぇか。今は黒蛇でいいか。
黒蛇、かっこ仮の描かれた扉をエレが開けようとしている。可愛いけど、それで開けば誰でも入れる。
ヴィングジェアの紋章付きの扉は、同じ紋章の印を翳さないと開かない。ただし、本家の紋章だけは特別。本家の紋章は全ての扉を開けられる。
俺はフォルからもらった、紋章付きのペンダントを使う。
紋章が光り、ゆっくりと扉が開く。
扉の先、ノーズねぇとヴィジェにぃがいた。二人は俺らには気づいていない。灰色の儀式部屋の中心にある、魔法陣の上に立っている。
「……あれって、時空魔法と結界魔法……それにわずかに魔星の気配もする。あと、遮断系の結界」
エレは魔法の解析が早い。詳しく知るには、処理能力が足りないから簡単にしかわかんないけど。
魔星……魔力に何らかの因果で、意思が宿った存在。俺らはそう聞いている。ミドゥ達は別だが。
ここにいたら危険だ。そのくらいは考えずともわかる。ノーズねぇもヴィジェにぃも、あんな事があったからといって、見捨てるわけにはいかない。
問題は、魔法の発動条件。
「エレ、俺が協力する。魔法解析頼む」
「……前に見た事ある気がする。少しでも、魔法に触れると発動する結界。時空魔法だから……えっと……あっ……空間魔法もある……えっと……時空間……時の流れが、遅いか早いかの空間。どっちにしても、発動したら助けられないよ」
発動するまでが勝負。だが、発動させないようにするには近づかない。魔法も神聖術も使わない。少しでも魔法の近くで感知されれば発動する。
不可能。その言葉以外出てこなかった。この手の魔法だと、発動までの時間も極端に短い。二人を背負って脱出は無理。かといって、気づいてもらうのも無理だろう。あの二人との関係以前に、信じてくれても間に合わない。
「助けに行く」
エレは運動神経がない。エレまで巻き込まれて終わりだ。
「やめろ。お前が巻き込まれるだけだ」
「でも、見捨てるよりはいいでしょ! 巻き込まれたならその中でどうにかするればいい! 時が早くなるなら、可能性はあるはずだよ! 」
「逆だったらどうすんだよ! お前がいなくなれば、誰が万が一の暴走を止めんだよ! 俺らにはお前以外いねぇんだぞ! 少しは考えろ! 」
もしフォルがいれば、こうはならないんだろうな。売り言葉に買い言葉だ。感情を見せて言い合いに発展する。
「考えてるよ! だからって、見捨てるなんてできるわけないでしょ! 」
「見捨てろなんて言ってねぇだろ! 方法を考えろ言ってんだ! 」
「方法って、他にないから言ってるんでしょ。そのくらい気づいているんでしょ。だったら」
そうだ。方法なんてない。ないんだ。今いるのは俺とエレだけ。俺が考えないといけない。
希望はいつも、目の前で消えていくんだ。それを諦める、なんてできるわけねぇだろ。
それで思いついたんだ。希望がないなら、未来に押し付けてやろうって。今は、希望を失わない事だけを考えればいいって。
「エレ、手伝え。魔法が……神聖術が使える穴を見つけろ。希望を与える」
「……うん。わかった」
エレがわずかな穴を見つけてくれる。そこに神聖力を注ぐ。慎重に。魔法に気づかれないように。
「……エレ? ゼロ? どうして……ごめんなさい。あの時……あの時、おかしくて。なぜか世界のいう事を信じないとって思って」
「ごめん……エレ、ゼロ」
もうよかったんだ。どうだって。でも、その言葉に救われたんだろうな。救われて、救われなかった。
「ううん。エレ達の方こそ、ごめんなさい。世界を出してきた時点で、おかしいのわかるのに……あのね、そこはもうすぐ閉じ込められるの。でも……でも、絶対助ける! だから……あの時の事信じてくれるなら、今回も信じて! 助けるって信じて! 」
「うん。信じているよ。ずっと信じているから」
「……エレ、リミェラに、約束の日すぎてごめんって伝えて」
それが最後。魔法が発動する。さすがだな。あの二人最後の最後で笑顔を見せてきた。
俺らは印を残して、この世界から消えた。希望を与えるために。
もし、未来の俺がこれを忘れてるなら思い出せ。そのための置き土産は、ちゃんとやるから。
魔方陣に触れろ。俺が持っている記憶を思い出す】




