9話 穢れし少女のかけら
呪いの聖女がいるらしい場所。明かりがないと、転んじゃいそう。窮屈さもちょっとある。ジメジメとした洞窟の中。
歩いていると、見つけたの。壁についている、壊れた灯りの魔法具。
「明かりを灯すための魔法具なの。ここって元は住居か何かだったの? 儀式の場所って可能性も」
「住居だよ。ここで百人くらい暮らしていたらしい」
「どうして洞窟? 家作る技術なかったの? 」
隣で歩いているフォルが、エレの疑問に答えてくれる。でも、また疑問生まれた。
みんな黙ってる。なんだろう。誰か答えろオーラを出しているように見える。
「そうする理由はそれぞれだけど、ここはある種族の大事なものがあるんだ。それを守るために、その種族は大事なものがあるこの洞窟内で暮らしたんだ。でも、これは一例に過ぎないよ」
「うん。一例なの。他は他の事情があるの」
フォルがまた答えてくれた。いっぱい聞いていると、頭を撫でてくれる。どんな状況でも、頭を撫でられれば、尻尾を振る。それがエレという生き物なの。
エレはフォルと手を繋ぐの。
生活痕は残ってる。なのに、不思議なくらい家具がない。
不思議な場所だって思いながら、呪いの聖女を探す。
行き止まり。大きな扉。もしかして、ここがフォルの言ってた大事なものがある場所なのかな。あった、なのかも。
扉に描かれている、闇の蛇。見た事あるような気もしなくもないの。
エレはがんばって扉を開けようとする。
「……ふんにゅぅー」
身体を使って開けようとしてる。なのに、開かない。びくともしないの。
「……何してんだ? 」
「黙りなさいゼロ! 今、愛姫様は我々に、可愛らしい姿を見せているんですよ」
「イヴィ、姫さん天才教、いい加減抜け出そうぜ」
ゼロは通常運転。イヴィのよくわからない言動も、通常運転。アディは珍しいかも。
何言ってるのか理解はしてない。というか、話してないで手伝って。
「君のかわいい姿は、僕だけに見せて。他には見せなくていいから」
ほっぺにに触れられた、柔らかい感触。これは間違いないの。フォルの唇。フォルの視線が、エレじゃない気がする。ゼロ達に、とっても冷たい視線を送ってる気がする。
気にしないの。それよりも、このぽかぽかなほっぺをどうにかして。
エレの隣に立つフォル。ふぁぁぁぁ⁉︎ かわかこなの。
フォルが魔法具のペンダントを扉にかざす。扉の絵が光った。
ウィィィンって音を立てて、扉が開いた。
「……」
何もないの。何もないお部屋。そこにいる赤髪の少女。本当に、呪いの聖女はリミェラねぇなんだ。
振り返るだけ。なのにとても気品がある。
「やっと見つけた。私の大事な御巫を返せ! 」
やっぱり、そうだよね。エレ達が、リミェラねぇの大切な御巫を奪ったんだから。恨まれて当然なの。
エレに向かって、突き出される右手。空色の光。大量の氷柱が飛んでくる。
「天馬な姫だな」
大剣を軽々と振るうアディ。氷柱が全部、地面に落ちる。
「邪魔するな! 」
今度は水色の光。大量の水が、洞窟を水没させる。こういう時は、暴れると余計に溺れるっていうのが、エレの経験談。力を抜けばきっとぷかぷか浮けるの。
腰に何かが当たる。ぐぃっと引き寄せられる。
フォルのお顔近い。
「あの二人の苦しみを味わえ! 」
黄色と紫色が混ざった光。雷魔法なの。防御魔法を使わないとだけど、間に合いそうにない。
「……」
眩しい黄金の光が、一面を照らす。水が、蒸発した。光の発生源は、どこなんだろう。フォルの瞳は、翠色。この状態で、こんな事できたっけ?
「なんで邪魔をする! 御巫を失った黄金蝶の痛みを知らない奴が、邪魔をするな! 」
「……わかるわけないだろ。失った痛みなんて。でもね、それに囚われて何も見えていないせいで、引き起こしてしまったものは全て、付き纏ってくるんだって事は知ってるよ」
フォル……
フォルの言葉に反応、したのかな。呪いの聖女の動きが、一瞬止まった。
呪いの聖女の中に、エレ達の知るリミェラねぇが、いるのかな。ゼロの言うように。
「リミェラねぇ、あのね! あの二人はまだ、この世界のどこかにいるんだよ! ずっと動かない、時の中に囚われているだけなの! 二人とも、必ずまた会えるって……奇跡を信じているの! だから」
「奇跡……そんなものあるわけないだろう! あの子達を返せ! 私の大切な二人を奪っておいて、綺麗事を抜かすな! 」
エレの言葉は、届かないのかな。諦めちゃだめなの。だめって、わかるのに、エレじゃ救えない。その事実が、重たいの。
また、エレを狙った魔法。今度は赤い光。炎魔法。赤い炎。防御魔法を使わないと。なのに、身体が動いてくれない。使うのを拒否しているみたい。
目の前まで迫る炎。目の前で、何もなかったかのように消えた。
「いい加減にしろ! 君がなんであの選択をしたのか、忘れたか! 暴走するためじゃないだろ! その穢れに、囚われるためじゃないだろ! いい加減目を覚せ、エレシェフィール! 君は、愛を与える神聖の姫だろ! 」
フォルの瞳が、黄金に変わった。
フォルのその言葉は、呪いの聖女に向けられてた。エレには、初めから救う権利すらなかったのかもしれない。その言葉で、それに気づいた。
ぎゅっと握った拳より、胸が痛い。
どうして、こうなったんだろう。どうして——
「……」
エレは、本当にフォルに守られる権利があるのかな。今もずっと、フォルはエレを守ってくれてる。でも、エレにそんな価値はないよ。
「リミェラねぇから離れろ」
ゼロの声。呪いの聖女が、空色の光に包まれた。敵意は感じない。知ってる。ううん、あの日、知った。これは、全てに希望を与える奇跡の光。
光の中から、黒い霧が出てきた。霧が、エレにそっくりな女の子になる。
「……っ……やっぱり、全部……エレが」
ここにきてからずっと、エレは、自分のしてきた事を見せられてたんだ。自分が、全ての原因だと。この霧の姿で、はっきりと認識させられる。
「違う。君が悪いとすればそれは、一人で勝手に選んだ事だ。僕らに一度も相談せず。それでも全ての生命に、明日を見せた君が、責められるべきじゃない」
「……でも」
何も知らなければよかった。知らなければ、こんな思い、しなかったのかな。
目を離したい。でも、エレは、この結末を見届けないといけない。目を逸らしたらだめなの。
「……醜いね。わたしが、美しくしてあげる」
次の標的は、エレ。当然だよね。元々、エレと目の前にいるかけらは、一つだったんだから。
「まったく、世話のかかる姫だ」
輝いている紺色のお花。お花が、黒い霧を包み込んだ。ちゃんと、見てたから。お花に封印される直前、笑みを浮かべていたの。霧のかけらが。
フォルがお花を、右手に乗せている。
「……吸収されてはないないか。エレを連れてこなければ、吸収の心配なんてする必要なかったんだが」
「……みゅぅ」
「……そんな顔しないでよ。君が悪いわけじゃないよ。ごめん、僕はただ、エレが危険な目にあって欲しくないだけなんだ」
フォルの瞳が、翠色に戻った。あの笑みは、どういう意味だったんだろう。意味なんて、なかったのかな。
「……リミェラねぇ」
「ゼロ……エレも……」
「リミェラねぇは、穢れた魔力に侵されていたんだ。だから……その……あまり気にしないでくれ」
ゼロが、呪いの聖女から解放されたリミェラねぇに、事情を説明してくれてる。今は、ゼロにお任せするの。
「気遣ってくれてありがとう。どんな理由を並べても、私がしてきた事に変わりない。せめて、これからは許されるまで、償い続けるよ」
「……それがリミェラねぇの答えなんだな。分かった。なら、俺らにも協力してくれねぇか? 魔力に侵された時の事を知りたいんだ」
「……ごめん。その前後の事、何も思い出せない。エレの魔法で……あの子の遡れる時間ではむりなのかな」
エレの魔法? そんなに遡れないよ。
「姫さん一人で補助なし……せいぜい十年が限度だろ」
アディ、正解。
「今回の件は口出ししない方がいいと思い口を挟まずいましたが、これだけは反論します。愛姫様ですよ。もう三年は遡れます」
イヴィは、エレを過信しすぎだと思う。
「俺と共有しても、流石に百年が限度か。ここきてから術使うための準備に疲れたから、八十年かも」
ゼロもむりなら、誰もできないの。でも、エレの責任なんだから、どうにかして、遡れるようにしたい。
「……ごめん。さっきまでならなんとかなったけど。君も知ってるでしょ? あっちの状態だと使える術も魔法も、今の状態ではほとんど使えないって」
「……ぷにゅ」
フォルもだめなの。
エレがむりすれば、どうにかならないかな。
「……待って。もしかしたら」
フォルが右耳のイヤリングに触れた。
「……君の力が必要なんだ。だから、お願い。エレに、君の力を貸してあげて。リミェラの過去を視るために。聞こえてるんでしょ? あの時だって、僕らを助けてくれたんだ。だから」
——いいよ。力を貸す。
シェフィが、フォルのお願いで協力してくれる。エレは、シェフィとのつながりを意識する。胸の前で、両手を組む。
「……聖なる星の音色聞きし者達よ、迷いし時に誘わん」
過去へと誘う呪言。大丈夫。きっと、遡れているから。




