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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 碧猫
2章 エレ編 御巫と聖女
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9話 穢れし少女のかけら


 呪いの聖女がいると思われる洞窟。じめじめとして薄暗い。壁に壊れた魔法具が付けられている。エレシェフィールは壊れた魔法具をじっと見つめる。


「明かりを灯すための魔法具なの。ここって元は住居か何かだったの? 儀式の場所って可能性も」


「住居だよ。ここで百人くらい暮らしていたらしい」


「どうして洞窟? 家作る技術なかったの? 」


 エレシェフィールは純粋な疑問を投げかける。エレシェフィールにとってはそれが珍しい事だ。

 だが、ゼーシェリオン達はそこまで珍しくはないのだろう。顔を見合わせて誰か答えろオーラを出している。

 そのオーラを一人だしていないフォルがエレシェフィールの問いに答えてくれた。


「そうする理由はそれぞれだけど、ここはある種族の大事なものがあるんだ。それを守るためにその種族は大事なものがあるこの洞窟内で暮らしたんだ。でも、これは一例に過ぎないよ」


「うん。一例なの。他は他の事情があるの」


 洞窟内でも変わらない。フォルに頭を撫でられて喜ぶエレシェフィール。

 エレシェフィールはフォルと手を繋ぐ。


 生活痕が残る洞窟内で呪いの聖女を探す。


 洞窟の最奥、かつてフォルの話していた種族の大事なものがあった場所だろう。巨大な扉には闇の蛇の絵が描かれている。


 エレシェフィールは扉を開けようとするが、扉はびくともしない。


「……ふんにゅぅー」


 扉はびくともしない。


「……何してんだ? 」


「黙りなさいゼロ! 今愛姫様は我々に可愛らしい姿を見せているんですよ」


「イヴィ、姫さん天才教いい加減抜け出そうぜ」


 エレシェフィールは懸命に力一杯扉を押し開けようとしている。腕だけではない、全身を使っている。身体を扉に押し当てている。


 扉はびくともしない。


「君のかわいい姿は僕だけに見せて。他には見せなくていいから」


 頬に触れる柔らかい唇。後ろにいるゼーシェリオン達に視線が向いていたのは、エレシェフィールには見えていない。顔を真っ赤にして戸惑うエレシェフィールの隣に立つフォル。

 フォルが魔法具のペンダントを扉にかざす。扉の絵が光ると、ウウィィンと音を立てて扉が開いた。


「……」


 何もない部屋。そこにいる赤髪の少女。後ろ姿だけで目を奪われる。

 振り返る仕草一つでも高貴さを感じられる。


「やっと見つけた。私の大事な御巫を返せ! 」


 赤髪の少女が右手を突き出す。大量の氷柱がエレシェフィール達を襲う。


「天馬な姫だな」


 大剣を振るうアディによって氷柱が全て切り落とされる。


「邪魔するな! 」


 大量の水が部屋を覆う。唯一泳げないエレシェフィールはフォルに抱き寄せられた。


「あの二人の苦しみを味わえ! 」


 水中で雷魔法を使用する赤髪の少女。


「……」


 眩い光が洞窟を照らす。水が蒸発する。光の発生源を探そうと辺りを見回すエレシェフィールだが、その発生源に気づく事はないだろう。

 外部からの支援と考える限り。


「なんで邪魔をする! 御巫を失った黄金蝶の痛みを知らない奴が邪魔をするな! 」


「……わかるわけないだろ。失った痛みなんて、誰にもわかるわけない。でもね、それに囚われて何も見えていないせいで引き起こしてしまったものは全て、付き纏ってくるんだって事は知ってるよ」


 フォルの言葉にわずかに反応を見せる。赤髪の少女の動きが止まった。


「リミェラねぇ、あのね! あの二人はまだこの世界のどこかにいるんだよ! ずっと動かない時の中に囚われているだけなの! 二人とも、必ずまた会えるって……奇跡を信じているの! だから」


「奇跡……そんなものあるわけないだろう! あの子達を返せ! 私の大切な二人を奪っておいて綺麗事を抜かすな! 」


 赤髪の少女がエレシェフィールを狙って炎魔法を放つ。エレシェフィールに当たる直前、炎が消滅する。


「いい加減にしろ! 君がなんであの選択をしたのか忘れたか! 暴走するためじゃないだろ! その穢れに囚われるためじゃないだろ! いい加減目を覚せ、エレシェフィール! 君は、愛を与える神聖の姫だろ! 」


 その言葉は確かに赤髪の少女に向けられていた。その言葉は確かにエレシェフィールと言っていた。


 エレシェフィールが持つ神聖の姫エレシェフィールとしての最後の記憶。魔星の暴走を抑えるため一人犠牲となる選択をした。

 そして今は――


「……」


 フォルの翡翠色の瞳が黄金に変わる。


 呪いの聖女の攻撃がエレシェフィールにだけ向かっている間に、ゼーシェリオンが小声でエレシェフィールの知らない言語を唱えている。


「リミェラねぇから離れろ」


 赤髪の少女が空色の光に包まれる。それは攻撃ではない。何かを傷つける術ではない。全てに希望を与える。奇跡の光。


 光の中から黒い霧が抜ける。黒い霧がエレシェフィールとよく似た少女の形を創る。


「……っ……やっぱり、全部……エレが」


「違う。君が悪いとすればそれは、一人で勝手に選んだ事だ。僕らに一度も相談せず。それでも全ての生命に、明日を見せた君が責められるべきじゃない」


「……でも」


 今までは記憶がなかった。だから何も気にしていなかった。だが、今は違う。知ってしまったからこそ、それを感じずにはいられない。


 俯きそうになるが、それは許されない。全ての原因を作った以上、目を離さず結末を見なければならない。


「……醜いね。わたしが、美しくしてあげる」


 少女の姿をした黒い霧が左腕をあげる。黒い霧がエレシェフィール達へ向かう。


「まったく、世話のかかる姫だ」


 輝く紺藍の花。その花が霧を包み込む。霧が消える直前、霧の少女はわずかに笑みを浮かべていた。

 フォルが霧を封じ込めた花を右手に乗せた。


「……吸収されてはないないか。エレを連れてこなければ吸収の心配なんてする必要なかったんだが」


「……みゅぅ」


「……そんな顔しないでよ。君が悪いわけじゃないよ。ごめん、僕はただエレが危険な目にあって欲しくないだけなんだ」


 フォルの瞳が翡翠色に戻っている。

 赤髪の少女から邪悪な気配は完全に消えている。状況が理解できないのか周囲を見渡している。


「……リミェラねぇ」


「ゼロ……エレも……」


「リミェラねぇは穢れた魔力に侵されていたんだ。だから……その……あまり気にしないでくれ」


 ゼーシェリオンが赤髪の少女に事情を説明する。だが、どんな言い訳を並べてもそれはむりなんだろう。

 気にするなと言われてそうですねと言える段階ではない。


「気遣ってくれてありがとう。どんな理由を並べても私がしてきた事に変わりない。せめて、これからは許されるまで償い続けるよ」


「……それがリミェラねぇの答えなんだな。分かった。なら、俺らにも協力してくれねぇか? 魔力に侵された時の事を知りたいんだ」


「……ごめん。その前後の事を何も思い出せない。エレの魔法で……あの子の遡れる時間ではむりなのかな」


 周囲の視線がエレシェフィールに向く。エレシェフィールはきょとんとしながら笑顔を見せる。


「姫さん一人で補助なし……せいぜい十年が限度だろ」


「今回の件は口出ししない方がいいと思い口を挟まずいましたが、これだけは反論します。愛姫様ですよ。もう三年は遡れます」


「俺と共有しても流石に百年が限度か。ここきてから術使うための準備に疲れたから八十年かも」


 誰一人としてエレシェフィールを信用していない。エレシェフィール自身も、そこまで遡れる自信がなくフォルを見ている。


「……ごめん。さっきまでならなんとかなったけど。君も知ってるでしょ? あっちの状態だと使える術も魔法も今の状態ではほとんど使えないって」


「……ぷにゅ」


 フォルが駄目ならもう誰もいない。唯一の光源が消えた。エレシェフィールは薄暗い洞窟内のようだ。


 記憶を戻す手がかりは何もない。俯くエレシェフィール。重い空気に沈黙の時間が流れる。


「……待って。もしかしたら」


 フォルが右耳のイヤリングに触れた。


「……君の力が必要なんだ。だから、お願い。エレに君の力を貸してあげて。リミェラの過去を視るために。聞こえてるんでしょ? あの時だって、僕らを助けてくれたんだ。だから」


 祈るようなフォルの声。その相手はシェフィムで間違いないだろう。


 ——いいよ。他でもない君が頼んで来るんだ。力を貸してあげる。ってエレに言っても意味ないか。


「ううん。意味あるよ。お願い、エレのおにぃちゃん」


 エレシェフィールは、遠くにいるシェフィムとの強いつながりを意識する。両手を胸の前で組む。

 過去へと誘う魔法陣が地面に描かれる。


「……聖なる星の音色聞きし者達よ、迷いし時に誘わん」

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