番外 愛情は何処に
神殿の書庫には欲しい情報は一つもなく、ユグベーズの記述の写本もどこかへ消えてしまっている。
シェフィム達は一度拠点である小屋に戻っていた。
少女のかけらがざわついている。エレシェフィール達の方で何かがあったんだろう。エレシェフィールが何に困っているのか。シェフィムは少女のかけらを通じて確認する。
「……ここまでは想定内。エル、あの魔法具エレにあげていいかな? 」
「うん」
シェフィムは連絡魔法具を取り出した。エレシェフィールの連絡先であれば記憶している。迷わずに連絡先を入力する。
エレシェフィールの連絡魔法具につながる。
『えっと……』
エレシェフィールの困惑した声。見知らぬ先からの連絡であればこうもなるだろう。
いつでも繋がっている二人。隠す事はできないだろう。それでも、無駄な足掻きをする。
「僕……お、おれは神聖の姫を影から守る者。け、眷属が神聖の姫に悩み事があると教えてくれた。今から、望みのものを与える。ぼ……おれにはもう必要ないから、それをヒントにしろ」
音声変換魔法具を使う。口調もなるべく変えるように意識して喋る。不思議そうにしている愛らしいエレシェフィールの顔を見ながらも自分は顔を出さない。
普通なら相手にされない。怪しい人物だと警戒される。だが、エレシェフィールは
『ありがと。エクリシェの下層のエレのお部屋に送ってくれる? 』
警戒心がない。それどころか、自らの居場所を連絡先の相手が知っていると思っているようだ。エクリシェと言われて理解できるものなどそうそういないというのに。
「りょ……わかった。魔法具は次期にそちらへつくだろう」
「うん」
シェフィムは神官エルからもらった魔星を閉じ込める魔法具に転送魔法をかける。光に包まれた魔法具がエクリシェへ届けられる。
『どれだけ離れていても、繋がってるって信じてる。信じたいの』
完全に理解しているんだろう。エレシェフィールの言葉にシェフィムは最大限の敬意を見せる。服に取り付けて使用していた音声変換魔法具に触れる。
「……うん。僕も、信じてるよ。信じているからこそ任せるんだ」
音声変換魔法具がない。素の声をエレシェフィールに聞かせる。連絡魔法具越しではあるが。そして、もう一つ。今はまだその時ではない。だが、その時がくれば、懸命に行動するエレシェフィールのために一つの褒美を与える。
シェフィムは通信を切り連絡魔法具をしまう。
「……強くなったね。エレシェフィール。今の状態なら……あの子が側で支えてくれさえすれば、もしかしたら、受け入れる事ができるのかもしれないね」
離れていようとエレシェフィールを見続けてきた。だからこそ、彼女を信じる事ができるのだろう。
シェフィムは常につけているロケットペンダント型の魔法具を手に取った。開くと現れる画像は小さな女の子。
幼いエレシェフィール。
「……本当に、するんだね」
「うん。あの子はきっと壊れない。フォルも一緒にいてくれるから。って、信じるんだ。僕はエレのおにぃちゃんだから」
神聖でもなんでもない。一人の兄として。シェフィムは神和の聖女ミティアーネル達に笑顔を見せる。
ロケットペンダントを閉じる。
「僕らのだいすきなお姫様のために、影ながらのサポートに行こっか」
「うん。私の愛しのエレのために」
シェフィム達は転移魔法で呪いの聖女のいる世界へ向かった。
無人の世界。緑色の絨毯が一面を彩る。美しくも切ない世界。
その美しい世界を穢さんとする者達がやってくる。黒装束に身を包むその者達の前にシェフィム達は立つ。
「エル、ティア。できる限り穏便にだよ。誰も怪我なく犠牲なく、最終的にはみんなで笑う、でしょ? 」
状況を理解していない無邪気な少年のように笑うシェフィム。いつでもどこでだって、エレシェフィールの兄として、明るさを見せつける。
「僕らは僕らのすべき事を。あの子らへ、わずかな希望の光を与えてあげよう」
「希望の光……うん。そうだね。それに同じ聖女として、なんのいいところも見せられないなんて、エレに自慢できなくなっちゃう」
「我が妹ながら本当に呆れるほどのエレ好き。ボクも、エレに尊敬の眼差しをむけて欲しいけど」
形は違えどエレシェフィールへの愛という部分は変わらない。
黒装束を着たヴィングジェア達が襲いかかる。神話の聖女ミティアーネルの魔法で一面に霧を生み出す。神官エルが愛魔法を使用する。愛に飢える黒装束を着たヴィングジェア達。愛には飢えていようと、命令は絶対。
黒装束を着たヴィングジェア達は止まらない。
「これでいい? 」
「いいって、結局僕任せ⁉︎ 」
「ああいう連中にはそれが一番早いから。それに、願い通りできる限りは穏便」
神和の聖女ミティアーネルの魔法で創られた霧は光を飲み込む。本来であれば見える桃色の光を誰も認識していない。
突然、バタバタと黒装束を着たヴィングジェア達が倒れる。意識はあるが誰も動けない。
「ごめんね。でも、この先へ行かれると面倒なんだ。だから、すこぉしだけ、眠っててね」
唇に当てた右手の人差し指。目を細めて黒装束を着たヴィングジェア達を見るシェフィム。そこにあるのは愛情だけ。
黒装束を着たヴィングジェア達が全員眠りに落ちる。眠る前に見たその姿はまるで聖女のように映った事だろう。
「……」
「……シェフィ、聖女とか興味ない? わたしが推薦してあげようか? 」
「しなくていいし僕男だから。ていうか、どうしたの二人とも」
霧が消えた世界で、神話の聖女ミティアーネルと神官エルが顔を見合わせている。
「ねぇ」
「あれは聖女にしか見えない。敵対する相手に愛情を見せるなんて」
「……それ、僕らの魔法の性質だよね? 愛魔法は愛情がないと使えないんだから。って、そんな事言っている暇ないんだった。あれは僕かフォルがいないとできないから行かないと」
エレシェフィール達が行おうとしている魔星の浄化準備。一人は魔法具を作るのに残る必要がある。魔法具が作れるのは現在エクリシェにいる中だとフォルだけだ。
シェフィムは左手を胸に当て少女のかけらからエレシェフィール達の居場所を探る。
「二人とも、時間稼ぎは任せていい? 」
「いいよ。このまま誰も洞窟へいれなければいいんでしょ? 」
「うん。エレ達がくるまでは洞窟に結界張っておくのもいいかもしれないね。ティアならできるでしょ。エレの居場所もわかったから行ってくる。あの子に星の記憶を与えに」
シェフィムはそう言って転移魔法を使った。エレシェフィール達のいる闇色の花々が咲く場所へ。
エレシェフィールがゼーシェリオン達と協力しながら十の魔法陣を描いている。その様子を遠くから見ている。フォルが渡したと思わしきメモの存在が認識できる。
――……あれって、シェフィとフォルが自分達以外にはわからないように書いていたよね?
「うん。あの子もとんでもない賭けに出るよ。どこまでがあの子の想定なんだか」
――案外、シェフィ以上だったりして。未来視並みの感覚を持っているわたしとシェフィとは違って、ただの思考だけでここまで考えちゃうんだもん。本当にかっこいい。
少女のかけらがシェフィムを通して外の景色を見ているようだ。シェフィムにもかけらの少女の感情が伝わってくる。フォルへの深い深い愛情が。
「そうだね。その愛しのフォルのためにも、僕らも協力してあげよっか」
シェフィムは空を見上げた。暗い空に願うのは
「たまには踊ってあげるよ。フォル。前を向こうとする君のために」




