番外 シェフィムの決意
——数日前——
エレとフォルがアスティディアにいる。ついでにアディとイヴィも。それは知ってるんだけど、どうしても行かないといけなくて。
周囲を警戒しつつ、機械的なのに美しい街を歩いている。
ふわぁ——サラサラとした柔らかく愛らしい髪が揺れている。
視界に映る範囲の距離で。
間違いない。こんな僕に似ていながらも、愛らしい姿。僕のかわいいエレしかいない。
僕らは急いで路地裏に隠れた。壁に寄りかかって深呼吸する。早まる鼓動を落ち着かせるために。
幸いにも、隣にいたフォルに見つからなかった。エレは、あれくらいじゃ見つける事できないだろうから。
「……エレの居場所はわかるって」
ティアは何も言わないけど、エルはすぐにそういう事言う。魔聖も神聖も、居場所がわかる範囲はおんなじはずなのに。
「大体の位置はね。アスティディアにいるっていうのはわかってたけど、広いから大丈夫かなって」
「……」
まるで僕が軽率だとでも言うように、エルが僕を見つめる。
君の妹の仕事のために、見つかる危険を知ってながらきてんでしょ。
ティアが連絡魔法具を起動させてる。あんな事言いつつも、エレ達に見つからないように、エルが見ていてくれてる。
「……想定以上に被害が出ているみたい。呪いの聖女……聖女ってどういう定義で呼ばれるんだろうね」
そっか。聖女は神殿でそれを教わらないんだ。教えてもいいはずなんだけど。少し前の上の連中が、聖女を道具としか思ってなかったから。その影響がまだ残ってるらしい。
「救済だよ。安らぎの聖女も呪いの聖女も、もちろん君も、ある種の救済であるというのには変わらない。安らぎの聖女は優しき夢を見せた。呪いの聖女は、全ての人を魔物化させる事で争いをなくす。実際、魔物化した人同士が争うのは報告されていない。神和の聖女は神殿の顔となり、各地での浄化活動とか」
そういえば、救済の聖女とかもいたっけ。現在は聖女認定を取り消されてるけど。
形は違えど、救済には変わりない。
『呪いの聖女の魔法解呪。魔星を捕えるための魔法具製作。魔星に取り巻く瘴気の浄化準備。アディとイヴィを探す。ついでにゼロ達も。仕事の件はそのあと。これを他の誰かが先に呪いの聖女に接触するか、事が大きくなりすぎて、一般市民に隠しきれなくなるか。そうなる前に、全て解決しないといけない』
イヤリングから聞こえてきた声。僕の声は届かなくても、フォルの声は届く仕組みなんだ。
すでに被害は、公にならないのが不思議なくらい。被害が多い地域の王達が隠している。そのおかげでどうにかなってるだけ。
全てをエレ達だけで解決するには、あまりに時間が足らなすぎる。しかも、フィルが手伝えるか怪しい。
あの人から帰ってきたって連絡、きていないから。
今持ってる手札で間に合わす方法。僕がフォルなら、選ぶのは——
「……ごめん」
「どうしたの急に」
「多分、僕はあの子にとって一番酷い選択を取る。最悪、あの子が壊れる可能性もある」
ティアはずっと、エレの友達でいてくれていた。これからもずっと、その関係でありたい。そう思っているなら、裏切る事になる。そう思うと、ティアの顔を見れない。
握る両が痛い。きっと、あの子が、エレがこれから味わう痛みは、こんなもんじゃないんだろう。
――大丈夫だよ。わたしは……エレは、いつだって、みんなを信じてるの。みんなと一緒がすき。それにね、エレは目の前の事に目を向ければ、それに集中する。他の……自分の事を後回しにできるから。その後は、わかるよね? おにぃちゃんなら。
僕を救ってくれたのは、僕の中にいるかけら。うん。わかるよ。おにぃちゃんだから。
「そうだよね。僕の妹は……エレシェフィールという女の子は、必ず前を向いてくれる。僕らの言葉を、希望に変えてくれる子だ」
僕が信じれば、エレはきっと乗り越えてくれる。
僕は、かけらのつながりを使って、エレと共有する。
『もう諦めようなんて思わない。君のためなんて言い訳使いたくないんだ。僕は僕のために、あの組織を敵に回してでも彼女を助け出す』
イヤリングを通して聞こえた言葉。誰のためでもない。自分のために一歩踏み出そうとしている。離れていようと、それに応えないわけにはいかないよ。
——だったら、時間稼ぎは任せて。僕も、君が諦めるとこなんて見たくないから。救う事を、最後まで諦めんな、フォル。
僕に初めて愛を与えてくれた存在。君に諦めるなんて選択、させないよ。君が諦めない限り、僕らも諦めなんてしない。
僕ら神聖は、たとえ役割がなかろうと、君を、守り続けるよ。
『フォル、時間なら大丈夫だよ。救う事、最後まで諦めないでだって』
エレがちゃんと伝えてくれる。きっと、二人とも僕に気付いてるんだろうね。
空を見上げる。雲ひとつない晴れ模様。左手で光を遮りながら見ている。どうして、胸騒ぎがするんだろう。
ぽつんと雨粒が一滴、僕の左手に落ちた。
雨粒が落ちた後に、突然空がどんより雲に覆われた。
「……二人とも、すぐに結界魔法と浄化魔法使って! この雨、なんかいやな感じする」
大降りになる前に、僕らは結界魔法で雨を防いだ。僕は、浄化魔法は使ってない。この胸騒ぎの原因を知りたくて。
濡れた左手を見る。発疹がでてる。
「……世界管理システムの異常かな。とりあえず、聖女の役割を果たしてここを出ようよ」
ティアはそうとしか感じてないのか。それだけなら、いいんだけど。こっちはエレ達がどうにかしてくれるのかな。
「噴水の浄化? だっけ? 」
エルは妹の仕事内容くらい覚えておきなよ。あってるけど。
「ちょうどエレ達いなくなったみたいだから、今のうちに急いで行こ」
共有のおかげで、エレの状況が知れる。ちょうど噴水から離れた。その隙に噴水の場所へ急ぐ。
「……あの子が早く気づいて、解決してくれればいいけど。あの子らにどうにもできない場合は……僕らも、いつでも動ける状態にしておいた方がよさそうだね」
いつだって、悪い状況になる事を考えておく。フォルに限って、そんな事はないだろうけど。
「……シェフィ、この雨魔星の集合体。ぼくやティアには気づいていない」
エルが僕に教えてくれる。魔聖と魔星。目に見えないつながりがある。結界魔法で防御してても、魔星の存在に気づけるんだね。それにしても
「……まさか、実験がここまで……エル、雨のサンプル取っといて」
なんでいつもいつも、簡単に解決させてくれないんだ。フォル、大丈夫なのかな。あの実験の最初の場所って、ギュリエンだったはず。
エルが小瓶に雨を溜めている。噴水に着くまでに半分以上溜まった。十分すぎる量。
噴水の浄化。そんな話だったけど、この透き通る透明な水。浄化の必要性が感じられない。
雨の件もあって、まさかと思い水の中に右手を入れてみた。ビリビリする。普通の人だったら、意識失うんじゃないかな。雨とは比べ物にならない電気を帯びてる。
「これ浄化魔法じゃなくない? 」
ティアが、水の中に左手を入れようとしてる。エルが右手で、ティアの左手首を掴んだ。エルが止めなかったら、僕が止めてたよ。
「ティア、シェフィだから平気なだけ。ティアはぼくやシェフィと違って、耐性が低いから危ない」
「そうだよ。僕だって、まだ少し痺れてるんだから」
ほんと、危なっかしい。どうして僕らの姫君達は、こんなにも警戒心がないのか。
僕は、噴水の中にある魔法具を取った。確認してみると、雷の魔法石がつけられてる。これが原因だね。誰かが勝手に取り付けたんだろう。
雷の魔法石を取ってから、魔法具を噴水の中に戻した。
ティアが浄化魔法を使う。根本が解決されてるから、この白い光で完全解決。水の中にある見えない異物は、これで取り除かれる。
「もう大丈夫みたいだね。お疲れ様」
「うん。それより大丈夫? 」
ティアを労ったら、右手の心配された。まだ痺れはあるけど
「大丈夫だよ。それより、神殿に行かないと。この仕事をすれば、書庫を貸し切らせてくれるって言っていたんだから」
エルが時間稼ぎを魔聖仲間に頼んでくれてる。これなら、エレの方のサポートができる。
僕が転移魔法を使って、神殿に移動。
白く厳かな雰囲気の建造物。歩く人はみんな聖衣を着てる。僕だけが浮いてる。
――シェフィ、シェフィ、あのね……世界管理システムから不思議な感じがする。それに、滅んだ世界のどこかで、いっぱいの魔物の気配があるみたい。ゼロがいる気もする。その場所で別の何かも感じる……なんだろう……御巫の素質のある人の気配。
ほんとに有益な情報をくれるよ。僕の中にいる子は。
「……エル、フォルの事もだけど御巫候補の事も少し調べさせて。ユグベーズの書の写本があったはずだから」




