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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 碧猫
2章 エレ編 御巫と聖女
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番外 シェフィムの決意


 エレシェフィール達がまだアスティディアにいる頃。シェフィム達もアスティディアにいた。

 偶然遠くで髪の長い少女を見つけてしまったシェフィムは急いで路地裏に隠れる。


「……エレの居場所はわかるって」


「大体の位置はね。アスティディアにいるっていうのはわかってたけど、広いから大丈夫かなって」


「……」


 シェフィム達はエレシェフィール達がいるとわかっていながらもここへ来なければいけない理由があった。それは神和の聖女ミティアーネルの仕事関係。

 薄暗い路地裏で神和の聖女ミティアーネルが連絡魔法を取り出している。

 その隣で神官エルがエレシェフィールが近くに来ないように見張っている。


「……想定以上に被害が出ているみたい。呪いの聖女……聖女ってどういう定義で呼ばれるんだろうね」


 神殿ではそれを教わらないのだろう。神和の聖女であったとしても。そうであるから、かもしれないが。


「救済だよ。安らぎの聖女も呪いの聖女も、もちろん君も、ある種の救済であるというのには変わらない。安らぎの聖女は優しき夢を見せた。呪いの聖女は、全ての人を魔物化させる事で争いをなくす。実際、魔物化した人同士が争うのは報告されていない。神和の聖女は神殿の顔となり、各地での浄化活動とか」


 形は違えど結果的にはどれも救済に繋がっている。それが聖女と認定される条件の一つ。他の条件もありはするが、シェフィムの述べたその条件が神殿には一番重要となる部分だろう。


 シェフィム達が裏路地で話していると、エレシェフィール達の声が聞こえてくる。フォルが通信魔法具を起動させたのだろう。シェフィム側の声は聞こえないようにしているが、フォルの方からの会話は聞き取れる。


『呪いの聖女の魔法の解呪。それに魔星を捉える魔法具の製作。魔星を取り巻く瘴気の浄化準備。そのためにアディとイヴィを探す。仕事の件はその後。他の誰かが呪いの聖女を捕えるか言い訳できないほど魔法が広がるか。そうなる前に全て解決しないといけない』


 全てをエレシェフィール達だけで解決するには時間制限が邪魔になる。すでにかなりの範囲で広がっている上にある組織の介入もあり、どれだけ急いでもこのままでは間に合わないだろう。


「……ごめん」


「どうしたの急に」


「多分、僕はあの子にとって一番酷い選択を取る。最悪あの子が壊れる可能性もある」


 初めからエレシェフィールにとっては酷な事と理解していた。シェフィムは拳を握って視線を下げた。


 ――大丈夫だよ。わたしは……エレは、いつだってみんなを信じてるの。みんなと一緒がすき。それにね、わたしは目の前の事に目を向ければ、それに集中する。他の……自分の事を後回しにできるから。その後は、わかるよね? おにぃちゃんなら。


 シェフィムの中にいる少女のかけらの声。この言葉以上に信用できるものはないだろう。


 シェフィムは左手を胸に当てた。少女の温もりを感じる。


「そうだよね。僕の妹は……エレシェフィールという女の子は、必ず前を向いてくれる。僕らの言葉を希望に変えてくれる子だ」


 シェフィムはエレシェフィールと共有魔法で繋がる。かけら同士での繋がりを使って。


「時間稼ぎは任せて。呪いの聖女の影響も彼女を狙う連中を近づけないのも、両方僕らがどうにかするから」


――えっ? 誰?


 エレシェフィールの愛らしい声が聞こえる。名乗りたくとも名乗る事はまだできない。


「僕は、君を大切に想う一人。ある方法で君の状況を知ったんだ。信用、できないかな? 」


――ううん。ありがと。フォル、時間なら大丈夫だと思う。誰かわかんないけど時間、稼いでくれるって。


 エレシェフィールより先に、フォルがシェフィムに気づいているだろう。シェフィムは空を見た。


 空は雲ひとつない晴れ。いい天気にも関わらず胸騒ぎがしている。


 雲がなかった。だが、突然ぽつんと雨粒がシェフィムの左手に落ちる。

 雨粒が落ちた後に突然暗い雲がアスティディアを覆った。


「……二人ともすぐに結界魔法と浄化魔法使って。この雨、なんかいやな感じする」


 シェフィムの言葉通り、この雨は普通ではない。いち早くそれに気づいたおかげで神和の聖女ミティアーネルと神官エルにはなんの異常も出ていない。


 シェフィムは異常を知るために浄化魔法を使っていない。雨で濡れた左手に赤い発疹がでている。


「……世界管理システムの異常かな。とりあえず、聖女の役割を果たしてここを出よう」


「噴水の浄化? だっけ? 」


「ちょうどエレ達いなくなったみたいだから、今のうちに急いで行こ」


 シェフィム達はエレシェフィール達に会わないように道を選んで噴水へ向かう。

 その間に視界に入った人々は、誰も傘を差していない。雨を防ぐ手段がなく、びしょ濡れの状態になっている。子供に赤い発疹が出て心配している女性。発疹が出ていても何も気にしない男性。

 解決しなければ大パニックに陥ってしまうだろう。


「……あの子が早く気づいて解決してくれればいいけど。あの子らにどうにもできない場合は……僕らもいつでも動ける状態にしておいた方がよさそうだね」


「……シェフィ、この雨魔星の集合体。ボクやティアには気づいていない」


 魔星同士何かを感じたのだろう。神官エルが空を見上げている。


「……まさか、実験がここまで……エル、雨のサンプル取っといて」


 神官エルが小瓶に雨を入れている。噴水にたどり着くまでに小瓶半分くらいに雨粒が入る。調査をするには十分な量だ。


 噴水はかなり古く壊れている箇所もある。本来であればもう機能していないはずだ。だが、この国の国王が取り付けた魔法具によって今もなお噴水は稼働し続けている。


 濁りのない透明な水。浄化の必要がないように見える。シェフィムは噴水の水に右手を入れた。

 一般人であれば即意識を奪われる程の電気を帯びている。


「これ浄化魔法じゃなくない? 」


 シェフィムが表情ひとつ変えていない。神和の聖女ミティアーネルが恐る恐る水の中に左手を入れようとしている。

 神官エルが右手で神和の聖女ミティアーネルの左手首を掴んだ。


「ティア、シェフィだから平気なだけ。ティアはボクやシェフィと違って耐性が低いから危ない」


「そうだよ。僕だってまだ少し痺れてるんだから」


 シェフィムは噴水に取り付けてある魔法具を手に持った。魔法具に雷魔法を発生させる魔法石が取り付けられている。シェフィムは魔法石を取ると噴水に魔法具を取り付け直す。


 神和の聖女ミティアーネルが浄化魔法を使う。水が白く光る。

 確認のためにシェフィムが再度右手を水の中に入れるとなんの異常も示さない。


「もう大丈夫みたいだね。お疲れ様」


「うん。それより大丈夫? 」


「大丈夫だよ。それより、神殿に行かないと。この仕事をすれば書庫を貸し切らせてくれるって言っていたんだから」


 シェフィム達は転移魔法を使う。場所は神殿。



 白を主色とした厳かな建造物。歩く人々は清潔な衣装に身を纏っている。

 シェフィム達は神殿の中にある書庫へ向かう。


 ――シェフィ、シェフィ、あのね……世界管理システムから不思議な感じがする。それに、滅んだ世界のどこかでいっぱいの魔物の気配があるみたい。ゼロがいる気もする。その場所で別の何かも感じる……なんだろう……御巫の素質のある人の気配。


 シェフィムの中にいる少女のかけらが話しかけてくる。色々と情報を仕入れてくれたようだ。


「……エル、フォルの事もだけど御巫候補の事も少し調べさせて。ユグベーズの書の写本があったはずだから」


 この世界では見る事が叶わない幻の書物。シェフィムは書庫でそれを探す。

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