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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 碧猫
2章 エレ編 御巫と聖女
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8話 エレシェフィールの変化


 彼が帰ったあと、ゼーシェリオン達が戻ってきた。エレシェフィールはゼーシェリオン達の顔を見ようとしない。意識的に避けている。


 そのまま何もいう事なくエレシェフィール達は転移魔法でエクリシェへ帰った。


 ゼーシェリオン達を気にかける事はなく、エレシェフィールは一目散にフォルの部屋へ向かう。

 椅子に座っている。魔法具の動作確認をしている。

 普段であれば立ち止まり、作業が終わるまで待っているのだろう。


 だが、待つという選択肢を考えられなかった。エレシェフィールはフォルに抱きついた。


「エレ? どうしたの? 」


「わからないの。エレの知らないエレがいっぱいで……それで……それで……わからない……エレは……」


「うん。そうだよね。大丈夫。大丈夫だから落ち着いて」


 大粒の涙が溢れる。あの術を使う時、何かが動き出した。その何かがエレシェフィールにあるはずのない記憶を与えた。彼はその記憶を何も教えてくれなかった。

 鮮明に浮かぶ記憶。その中でエレシェフィールは星の姫。彼の——シェフィムの妹。


 エレシェフィールの唇に何か柔らかいものが当たった。赤色の果実のようだ。甘い果実がエレシェフィールの口の中に入る。


「龍族の国でしか取れない貴重な果実。リラックス効果があるみたいだよ。少しは落ち着いた? 」


 エレシェフィールはこくりと頷いた。どこか残念そうに。


「エレ、君は今どうしたい? 」


「呪いの聖女を……リミェラねぇを助けたい。魔星を助けたい」


「うん。なら、今はそれだけを考えな。君に理解できるように君の事を少しずつ教えていくよ。エレ、彼は今を捨てさせようとなんて思ってないよ。今があるからこその未来を見ているんだ」


 エレシェフィールの中にある何かは今のエレシェフィールを否定するもの。そう感じているのは否定できない。むしろ、そうとしか感じられない。


 自分ではない誰かの記憶。エレシェフィールにはそうとしか思えない。シェフィムはそうなる事を予測していたんだろう。それでもエレシェフィールを信じた。負けないでと言った。


 エレシェフィールはフォルの言葉にこくりと頷いた。今にも消えてしまいそうなほど希望のない表情を見せながら。


「……エレ、君は僕らの願いから生まれたようなものなんだ。一緒にいたい。その想いが形となった存在。その中に星の姫の夢が……君の核となる人格が宿ったんだ。今の君は人形なんかじゃない。一人の少女としているのは君の中に眠るそれのおかげなんだよ」


「……」


「でも、その夢はぐっすりと眠って、君は記憶を失っていたんだ。そのまま過ごしてきた君は、突然その記憶が表に出てくれば混乱するよね。不安になると思う。でもね、その記憶も今の君もエレシェフィールである事に変わり無いよ」


 いつも以上に優しい声音。エレシェフィールの理解の及ばない部分を、理解できるように変えて説明してくれる。


「君が今を否定しない限り、君は君なんだよ」


 世界に生まれて、転生して、どれだけの時が経ったんだろう。

 エレシェフィールの背中に感じる手の温もり。頭を撫でられる感覚。それがなぜ好きなのか。理由などわからない。自分ではない自分が好きだっただけなのかもしれない。だが、記憶になくても好きになった。それは紛れもない事実。


「記憶なんて、戻れない日常なだけだ。それにばかり目を向けていても、何も得られないよ。もし、得られるものがあるとすれば、それは虚しさだけだ」


 その言葉はエレシェフィールにだけ言っているわけではないのだろう。フォル自身に向けた言葉でもあるのだろう。

 後悔の記憶も、知らない記憶も、所詮は記憶。なくなる事があるのなら改竄される事だってある。そんなものに縛られる必要なんて、本来どこにも存在しない。


 エレシェフィールの身体が宙に浮く。フォルの足の上に座らされた。


「まぁ、それを理解していても前に向けないのが人なんだろうけどね」


「……うん。そうかも……でも、そこから抜け出そうとするの……今すぐはむりでもがんばるの。フォルにちゅきって言ってもらうためにも」


 エレシェフィールはその小さな身体で存分に愛おしい温もりを感じる。瞳を閉じて、今にも寝そうになっている。移動しようと思えばできるがベッドに移動せず、ずっとその温もりの中にいる。


「……にぇぇ、いちゅかりゃ気づいててゃの? エレの事。ちゃいちょから? 」


「最初からじゃないよ。元は夢の花で人格は僕らの記憶を合わせる予定だった。でも、どういうわけか記憶以上のできになったのは不思議だったけど、偶然で片付けていたんだ。それが違うって気づいたのは最近。多分、僕と彼以外は気づいてないよ」


「……ちょーだったんだ。フォルとひみちゅ……ちゅき……でも……みんにゃ、エレおはにゃって思ってりゅの? ……おはにゃ……フォルのおはにゃ……ちゅき」


 今にも寝そうだ。重い瞼を開ける力すらない。まともに喋る事もできていない。

 フォルがにこにこと微笑んでエレシェフィールの質問に答える。


「うん。そうだと思うよ。夢の花の詳細すら他のみんなは知らないからね。疑問に思っていても、答えには至ってないんじゃない? 術者の僕とつながりの強い彼だからこそその答えまで辿り着けたんだ。ていうか、眠いなら寝な」


 夢の花はフォルの術によるもの。今のエレシェフィールはフォルに二つの意味で愛情を注ぐべき相手なのかもしれない。


 エレシェフィールはフォルに抱きついたまま眠ろうとしていた。しばらくしてエレシェフィールは頬を赤てフォルから離れた。


 てこてこと自らの意思でベッドへ移動する。ベッドの上に乗る。


「いつも気にしないじゃん」


「……今日はにゃんはじゅかちいの」


「僕の部屋で寝るのは恥ずかしく……なんでもない。おやすみ、僕のお姫様」


 エレシェフィールはフォルに背を向けている。フォルに顔を見せないようにして眠った。


「……ほんと、警戒心のかけらもない。まぁ、そのおかげで気づかれる事なく魔力安定剤を注入できるんだけど。苦い薬はいや。注射の針を見ると泣き出す。発作出てる時ぐらい大人しく我慢して欲しいよ」


 エレシェフィールが寝ていなければできない事。フォルが緑色の液体が入った注射を取り出した。エレシェフィールの左手に注射針を刺す。液体をゆっくりと注入すると、ご褒美と言わんばかりにエレシェフィールの額に口付けをした。



 エレシェフィールが起きると寝る前より魔力が安定している。当然ながら寝た後の事は何も知らない。


「ああ、起きた? 寝起きで悪いんだけど、抑えているとはいえそろそろどうにかしないと公に出る事になりそう」


「……みゅぅ……ぷにゅぅ……わかったの……連れてって」


「うん。わかったよ」


 エレシェフィールはフォルに抱っこしてもらい、エレシェフィールの部屋に向かう。


 フォルが呼んでおいたのだろう。すでにゼーシェリオン達が待っている。


「呪いの聖女の居場所はわかっている。そこへ今から向かうのはいいんだけど……誰かエレに守護のネックレスとかあげてくれない? 僕今持ってなくて」


 このメンバーの中で唯一まともに戦えないエレシェフィール。ゼーシェリオン達が首を横に振っている。

 エレシェフィールは収納袋からスッと球状の魔法具を取り出した。


「却下。今から洞窟行くんだよ? 崩落させる気? 」


「じゃあ、この誰かがくれたネックレスにしよっと」


 星があしらわれたネックレス。エレシェフィールはゼーシェリオンにつけてもらう。


「守護のネックレスってそれだろ。持ってんなら初めからつけろよ」

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