6話 想い繋がる
エクリシェへ戻ったエレシェフィール達。桃色と空色の可愛らしい部屋に集まっている。
エレシェフィールとフォル以外はソファに座った。二人はベッドの上に座っている。
「フォル、本当に大丈夫? 」
「うん。今は休んでられないから。でも、調節して使う分あまり頼られても困る」
「そこんとこは俺様とゼロがいるから大丈夫だろ。イヴィ、情報収集終わってんのか? 」
現状どれだけ呪いの聖女の被害があるのか。フォルとイヴィが被害報告を見ながら推測を出している。
「ええ、予想よりは少ないかと」
「だね。とりあえず、被害が多い場所をまとめたよ」
フォルがノートを見せる。龍族の国リューヴロ、魔族の国ローシャリナ、記録上世界最古の国テセアガジェナ。それにアスティディア周辺。それらに共通するものをエレシェフィールはすぐに気づいてしまう。
エレシェフィールはフォルを見る。フォルが頷く。
偶然なのか、誰かの陰謀なのか、呪いの聖女の意思なのか。その共通点は
「御巫が王の国ばかり」
「うん。それ以外ではほとんど被害が出てないから、解呪は一人でいいかな……あの人に……あんなとこまで行きたくない。あの人連絡魔法具持ってないし」
「エレもやなの。あんな道なき道をずっと歩くなんて。クームに頼むのはどう? 何かあってもネズが護衛してるんだから」
エレシェフィールは連絡魔法具を使い頼もうと試みる。連絡魔法具を起動させる。連絡先欄から連絡したい人物の連絡先を探す。見つからない。
以前の連絡魔法具を壊したせいで全てのデータが消えている。
その隣でフォルが連絡している。
『えっと、お久しぶりです』
落ち着いた声。外見は十三、四歳だろう藤色の髪少年が画面に映る。
『呪いの聖女の件ですか? 解決した後話を聞かせていただけるのでしたら……あと、約束の件も了承してくださるのでしたら協力します』
「まだ覚えてたか。前にも言ったけど、君もエレも実践経験があまりに少なすぎるんだよ。しかも君普段護衛いるでしょ。君が望んでいる管理者の仕事はそんな優しいもんじゃないんだ。危険ばかりの仕事なんだ」
「にゃ⁉︎ え、エレも! エレもセットなら! なんならアディとイヴィも差し出すの! ゼロでもいいの! 誰でもセットにするから! エレ説得するから! 」
何かに気がついたエレシェフィール。エレシェフィールは食い気味に提案する。
フォルの顔を覗く。明らかに断りたそうな顔をしている。
「……はぁ。わかった。試験だけはやってあげる」
フォルにしては十分すぎるほどの譲渡だ。エレシェフィールはフォルの隣でガッツポーズをしている。
「とりあえず、この程度の魔法くらい僕の手助けなんてなくてもどうにかできるよね? それができないなら話にならないから。がんばってね」
フォルが通話を切る。最後の笑顔に周囲が恐怖心を抱いていた事など気にしていないだろう。
エレシェフィールは立ちあがろうとした。
「……行かないでよ。少しでもベッドで休めって君が言ったんじゃん」
「それはフォルが……ふにゅ……ゼロ、ちっちゃい机持ってきて」
「持ってきた」
ゼーシェリオンが持ち運び可能な机をエレシェフィールの前に置いた。
引き出しからペンと紙を取り出して机に置いてくれる。
「えっと、魔星を閉じ込める魔法具……魔星さんにもできれば快適に暮らして欲しいの。でも……魔星ってどうやったら閉じ込める事できるの? ……どうすればいいの? 」
ちょうど部屋にいる。フォルが言っていた魔星を閉じ込める魔法具。その設計図をエレシェフィールが描く必要がある。
「快適……お花畑……お花畑があるお家がいい。湖もあって欲しいかも。それに、それに、高級ベッドは欠かせなくて……いつでもどこでも甘い果実は必要。それに……ぬいぐるみもないと寂しくなっちゃうから必要。寂しいのはやなの」
「それ全部叶える気か? 」
「うん。そうだよ? エレの空間魔法具はお城を作れるんだからきっと作れるの。でも……魔星を閉じ込めるなんてわかんない」
世界に無数に存在する魔星。魔星は魔力、物質のようなもの。それを安全に閉じ込めておく。それは人を閉じ込めておくとは訳が違う。
エレシェフィールは左手で持ったペンを唇に当てている。だが、何かを思いつくわけではない。時間稼ぎもいつまで持つかわからない状況。焦りが余計に思考を鈍らせる。
「ふきゃん⁉︎ 」
ぴゅーぴゅー
エレシェフィールの連絡魔法具が突然鳴った。慌てて確認する。通話相手は不明。見た事のない連絡先。エレシェフィールは恐る恐る通話に出る。
「えっと……」
『僕……お、おれは神聖の姫を影から守る者。け、眷属が姫に悩み事があると教えてくれた。今から、望みのものを与える。ぼ……おれにはもう必要ないから、それをヒントにしろ』
名前を明かさない。音声変換魔法具で声を変えている。顔を見せない。エレシェフィールが悩んでいる事を知っている理由。こんなご都合主義のようなタイミングで連絡が来る理由。
何も明かされない以上、怪しいという言葉以外は浮かばない。
普通なら、そうなんだろう。だが、エレシェフィールは
「ありがと。エクリシェのエレのお部屋……最下層の。送ってくれる? 」
『りょ……わかった。魔法具は時期にそちらへつくだろう』
「うん」
警戒していない。堂々と自分の居場所を教える。
連絡主の発言通り。机の上に箱型の魔法具が届いた。
エレシェフィールは魔法具が届いたのを確認する。魔法具には触れず画面に向かって笑顔を向けた。
「どれだけ離れていても、繋がっているって信じてる。信じたいの」
連絡主の相手が誰なのか。口調を変えていても、声を変えていても、もう気づいている。この言葉で連絡主も気づくだろう。
『……うん。僕も、信じてるよ。信じているからこそ任せるんだ』
相変わらず顔を見せてはくれない。だが、声は——これは音声変換魔法具を介していない。素の声だ。
通話が切れる。エレシェフィールはしばらく連絡魔法具を見つめていた。
「……」
「……信じているからこそ任せる、か。うん。そうだよね。僕も、信じてる。だから……そっちは任せるよ」
フォルはエレシェフィール達は知らない何かを知っているんだろう。
エレシェフィールは連絡魔法具を左腕に装着する。送られてきた魔法具を手に取った。
箱に穴がある。中を覗く。魔星だろう。小さな光が中にある。
光は暴れていない。沈静化されているのかおとなしい。
「ふにゃぁ……そうやってなってるんだ。箱の中は空間魔法で箱の穴から覗けるように……ずっと何しているか監視している必要ないの。いるかいないかだけで」
エレシェフィールは魔法具を置いた。ペンを持ち紙と向き合う。理解してしまえばすぐに設計図を描ける。
「フォル、フィルに連絡して」
「もむりだよ。仕事入ったからしばらく来れそうにないって」
エレシェフィールが言い切る前にフォルが答えた。設計図は完成したが、これでは実物が生まれない。
エレシェフィールは瞳に涙を溜める。
「ふぇ……作れないの」
「非常時だ僕が作るよ。一日だけちょうだい。君らはその間に浄化の準備をしといてくれる? やり方はこのメモを見て」
フォルがエレシェフィールにメモを渡した。エレシェフィール透明な袋に入れてポケットにしまう。
「何かあれば連絡して。あまり時間を無駄にしたくないからできるだけ君らだけでがんばって欲しいけど」
エレシェフィールはこくりと頷いた。
フォルが一人で部屋へ戻る。
「……頼むよ。僕はそばにいてやれないから」
フォルのその言葉は、誰にも届かない。エレシェフィール達はフォルが部屋から出た後、メモに書かれていた場所へ向かった。




