5話 星の住民と世界の住民
異空間から出たエレシェフィール達。ゼーシェリオンがエレシェフィールに抱きつきながら何があったか説明した。
ゼーシェリオン達は買い物中、呪いの聖女にあったようだ。呪いの聖女の正体も気づいている。わずかに覗かせた元の彼女の言葉に動揺している間に魔物化したようだ。魔物化は自力で解除できた。だが、あの空間の中に閉じ込められてしまったそうだ。
「その空間の事でエレからもお話。あのね、エレがゼロと会えなくて泣こうとしてたら、不思議な魔法陣があったの。えっと……こんな感じ」
エレシェフィールは借りているペン型魔法具でその魔法陣を描いた。描き終わるとルーツエングに魔法具を返した。
「……ごめん、僕も知らな……って今更そんな事言っても仕方ないか。魔星を閉じ込めるための魔法陣だ。この世界のどこかの空間を一部切り取って創ってるんじゃないかな。もう一つ効果があるみたいだけど、気づいてないならいいよ。今回関係もないから」
「……また……エレってそんなに何も話したくないの? 」
フォルだけじゃない、神聖達は基本的にエレシェフィールに必要以上に何も教えない。教えようとすらしない。それはエレシェフィールに問題がある。そんな事は理解している。理解していても納得はしていない。
エレシェフィールは泣きそうな顔で俯いた。
「エレ……何も話したくなんてないよ。でも、それは君が悪いわけじゃない。むしろ、君は何も悪くないよ。何も言わずにいなくなった彼も、きっとおんなじ」
「……」
エレシェフィールは視線を上げる。フォルが悲しげな表情をしているのが視界に映る。
「ほんと、卑怯だよ。このままじゃだめなんだと知っていながら、このままでいようとする。君に何も知ってほしくないって思ってしまう。本来なら君に答えを委ねるべきなのに君の答えを聞くのが怖くて、それすらしない」
「……卑怯じゃないよ。エレの事を想ってるからそう言うんだから。きっとそうなの」
そう言ってフォルを抱きしめる。「ありがと」聞こえてきたフォルの声。その声を聞いたのはエレシェフィールだけだろう。
「ところで、どうして魔星を閉じ込めようとしていたの? 魔星閉じ込めて何かあるの? 」
「……本気で言ってる? 」
その呆れたような声にエレシェフィールはこくりと頷く。
「君も管理システムでの情報見たでしょ? 」
エレシェフィールはきょとんと首を傾げる。フォルがさらに呆れているのには気づいてるが気にしない。
「……連中は魔星を制御したいんだ。なら、その大量の魔星はどっから拾ってくる? 用意したってすぐどっかいく。だから閉じ込めておく。あの魔法陣を使ってね。つまり、あの空間魔法の中で魔星を大量に閉じ込め使いたい時に使おうとしてた。理解できた? 」
「うん。でも、どっか行っちゃってもその辺にうろうろといるじゃん。魔星は魔力だよ? それをわざわざ閉じ込める必要性を感じないよ? 」
エレシェフィールは純粋に疑問を投げかける。
今、こうして立っている。その周辺にも魔星は存在する。空気のように。目には見えないが世界の全てに魔星は宿っている。当然、エレシェフィール達にも。
それだけ多い魔星を閉じ込めておく必要性などない。その知識がいったいどこからきているのか。誰に教わったのか。それを何も考えずに持った疑問をただ言葉にする。
「そこまでの知識があるなら誰もこんな事しないよ。面倒なだけなんだから。でも、知識がないならそうするしかない。世界の住民はそんな知識は持ってないんだ。星での常識は世界には通じないんだよ……君は、それを実感する事があったんじゃない? 普通にしているだけでも、君は世界の住民との違いを理解してるんじゃない? 」
そこまで言われて気がついた。星にあって世界にないもの。それは——神聖力。エレシェフィール達が常識と言わんばかりに使っているもの。
それだけではない。エレシェフィールは世界以上の文明を知っている。世界にはないはずのものをいくつも知っている。誰に教わる事もなく。
なら、自分はいったい——そこまで考えると拒否反応が出る。
「エレは世界の住民だよ! フォル達と一緒にいるってだけで、星の住民じゃないよ! 」
「……うん。そうだね。今の君は間違いなく世界の住民だ。二番目の世界で初めて生まれた存在。君の認識は間違ってないよ。今はそれでいいんだ。君は知らないはずの知識を記憶にない誰かに教わった。そんなふうに思っておけばいい……その方が気が楽でしょ」
エレシェフィールはフォルから離れようとする。だが、フォルが両手をエレシェフィールの背中にまわして離そうとしない。
今までずっと自分が世界の存在だから星に関しては教えない。そう思い込もうとしていた。何も言わないのはエレシェフィールの問題。星の知識を与えないのは、世界と星が違うから。世界の住民だから。
それが全て崩れる。星の事を教えるくらいいいはず。なのに教えてくれないのはどうして。そんな疑問が膨れ上がる。
「……言っとくけど、星に関しては教えようとしたよ? でも、君が世界の事すら理解しないから」
「フォル、俺のエレは興味ある事しか覚えねぇんだ。世界に興味なくても星に興味あるかもだろ」
「それもそっか。ごめん、ひとつづつ優先順位をつけて教えようとしたのが間違ってた。それでここまで不安にさせるなんて考えてなかったんだ」
フォルは初めから教えようとしていた。ただ、エレシェフィールがそれ以前に覚えるべき知識を身につけなかっただけで。それが嘘でも本当でもどちらでもいい。エレシェフィールはフォルに身体を預ける。
「ところで君らは調べもの終わったの? 呪いの聖女について調べてくれてるんでしょ? 」
「それが聞いてくれよフォルー、俺様とルーで削除された情報修復してんだけど、全然できねぇんだよぉ。エルグはイヴィほどじゃねぇが魔法具音痴だしよぉ」
「エレと離れたくないから自分達で……ルー、エルグにぃ様、僕の知り合いに時空魔法師いるから頼ってみなよ。もしかしたら修復できるかもしれない。連絡しとくから」
エレシェフィールはフォルに少しだけと頼んで離してもらう。ルーツエングの持っている魔法機械に可愛らしいピンク色の猫のシールを貼った。
「このシール見せればエレの頼みってわかるの」
「……これはまさかみ」
「みゃぁぁぁぁ‼︎ 恥ずかしいからそれ以上はだめなの! とにかくこれ見せればいいから! 」
ルーツエングが何かを言おうとしたがエレシェフィールは止めた。
フォルのところへ戻ろうとすると風の音が聞こえる。草が風で揺らされている。エレシェフィールはふと地面を見た。木の実が大量に落ちている。何かの模様を描いているかのように。
「……どっかで見た事ある気がする」
「僕も。今度はほんとにわかんない。見た事ある気はするんだけど」
エレシェフィールは連絡魔法具を左腕から取り外す。後で調べられるようにと写真で残しておく。
「ありがと。今度時間があったら調べてみるよ。とりあえず、今はエクリシェに戻ろっか」
「うん。エルグにぃとルーにぃは探し行くんだよね? えっと……んっと……そっと……多分エクランダ帝国周辺にいると思うよ。間違ってるかもしれないけど。二人なら会えばすぐにわかると思うの。気をつけてね」
ゼーシェリオンもフォルも普通にしている。だが、その異様さに気づけているのであれば他の神聖達についても気づけるはずだ。エレシェフィールはそれを信じてルーツエングとイールグを見送った。




