4話 異空間
十分、ではないが眠ったエレシェフィール。目を開けると別の場所にいる。ノーヴェイズはいない。とりあえず当たりを見渡す。
見覚えがあるかないか——ない。人は——エレシェフィール達以外はいない。何なら建物もない。見渡す限り緑緑緑。緑しかない。
エレシェフィールは寝ぼけながらもその美しい緑を眺めている。ここで眠ったらどれだけ気持ちいいんだろうと思いながら。
「起きた……可愛い……」
「フォル、本音漏れてますよ」
「エレは気にしない」
目覚めのフォルによる可愛い発言。エレシェフィールの頭の中はピンク色。となりたいが、この件が解決するまでは控える。
「……どこ? 」
ピンク一色になっている頭の中を変えるために、この場所について聞く。
「ゼロがいるはずの場所。だけど全然見つからない……あの二人の位置はここであってるんだけど。エレ、もう少し探して見つからなかったら結界魔法使ってくれる? 」
「いいよ。あとでなでなで要求するから。ゼロにも要求してやるの……りゅりゅ」
エレシェフィールが名前を呼ぶと出てくる碧い小型流。全長は三十センチから五十センチくらいだろう。
碧色の小型龍——りゅりゅがエレシェフィールの頭の上に乗った。
エレシェフィールはイヴィに抱っこされたまま両手を胸の前で組む。
もう少し探したら。フォルのその言葉は完全に聞き逃している。
瞳を閉じて集中する。エレシェフィールの周囲に淡い光が漂う。
「聖なる星を守りし愛の壁、星の音の呼び声答えて広がれ」
景色がほんのりと桃色に染まる。エレシェフィールはゆっくりと瞼を開けた。
「ありがと。神域結界使うと思ってたよ」
「神域結界の方が時間かかるから。でも、耐久性は大丈夫だと思うよ」
今のエレシェフィールは本来の力を使えていない。範囲にもよるが、人一人包み込むだけでも神域結界なら五分はかかる。
フォルが収納魔法から剣を取り出す。瞳が黄金に変わっている。剣先が黄金の光に包まれる。何かを探すように周囲を歩いている。エレシェフィールは不思議に思いながら見ているだけ。
「……この辺か。失敗すれば神聖力の無駄遣いだからな……」
フォルが剣を振る。剣が何かにぶつかり止まる。溢れ出す黄金の光。エレシェフィールはその眩しさに目を瞑った。
光が収まる。瞼を開ける。剣が止まった場所。そこにあったのは巨大な空間の歪み。
先は見えない。フォルの瞳の色は翡翠色に戻っている。
「……エレ、アディと一緒にゼロ探してくれる? イヴィは結界の維持。万が一閉じた時のために休ませて」
「うん。りゅりゅ、フォルのそばいてあげて。エレはアディが一緒にいるから大丈夫なの」
「はいでしゅ」
エレシェフィールの頭に乗っているりゅりゅがフォルの頭の上に移動した。エレシェフィールは右手でアディの左手を握った。
「……エレ、帰ってきたらぎゅぅしてあげる」
「ふぇ⁉︎ わかったの! 」
フォルにぎゅぅしてもらえる。それだけでエレシェフィールの足取りは軽い。その足で空間の歪みの中へ入る。
緑景色が一変する。まるで闇の中にいるかのような場所。影のような家具。形から推測すると、椅子やソファなどがあるがそれが本物なのか。その判断は見ただけではできない。
エレシェフィールはアディから手を離した。ベッドのような形の影がある。その影の上移動してに座った。
これは高級ベッドと言わずになんという。そう思わせるほどの低反発ふかふか具合。誰がなんと言おうとこれはベッドだ。ベッドで間違いないんだ。
エレシェフィールは間違いなくそう答える。
「……姫さん、警戒心つぅもんをなぁ」
「気になったから。でも、どうしてこんな場所に……誰か生活してたみたいな……みゅ? ……エレの事姫いらないの」
「……悪りぃけどそれは変えらんねぇ。これは俺達にとって忘れられざる記憶の証だ。もし、姫をなくすんなら……エレと呼ぶんなら、その罪を精算できた時だ」
アディが表情を曇らせる。エレシェフィールには理解できない事。それは偽物だから。そう言い訳づけようとする。
「悪りぃな。これは姫さんの問題じゃねぇんだ。俺もイヴィも、フォル達以外はあの時を悔やんでんだ。もう、エレと呼ぶ権利なんてねぇってなるほどに。もし、やり直せる機会を……姫さんが選んでくれんなら……何もできなかった俺達を許してくれんなら。そん時は考える」
強く握られた拳が彼の後悔がどれほどのものなのかを語っている。今のエレシェフィールにかける言葉など存在しない。
「まずはゼロさがさねぇよな。俺様の探知だとこの変とまでしかわかんねぇから頼むぜ、姫さん」
気にするなと言わんばかりにいつも通りに戻っている。だが、気にしないようにするなどできない。
「エレ〜、俺のエレ〜! ……次返事来なかったら泣こ」
「……だからそれで見つかれば苦労しないと」
「俺のエレはどこにだっているんだ! 俺の目の前どこにでもエレは出没するんだ! 」
ゼーシェリオンとイールグの声が聞こえる。かなり近いようだ。
アディの言動を気にしていたのが上乗せされる。ゼーシェリオンに対する純粋な心配に。どこにいるのかではなく、幻覚でも見ているんじゃないんだろうかと。
声は前から聞こえてきているはず。エレシェフィールは周囲を見渡す。目の前にも周囲にもゼーシェリオン達の姿はない。
「ゼロー」
「エレ⁉︎ エレ〜! 」
やはり声は近い。だが見えない。
「ゼロ誰と一緒? 一応。それに見えてる? 」
「エルグにぃとルーにぃ〜、見えてない〜。エレ〜、俺のエレ〜」
姿が見えていないだけなのかもしれない。エレシェフィールは手探りでゼーシェリオン達を探す。だが、空気しかない。
エレシェフィールは瞳にたっぷりと涙溜めた。収納魔法から魔法杖を取り出す。
「姫さんストップ」
「やだ。エレが泣きながら愛魔法使えばきっと成功するもん」
「ここらいったい破壊する気か。んなもんしなくていいからゼロの居場所把握。正確にな」
エレシェフィールは収納魔法に魔法杖をしまった。共有を頼りにゼーシェリオンと両手を重ねる。その重なっている両手の温もりも感触も感じられない。
「ここ」
「了解。姫さんは離れとけ。ゼロ、そこで氷魔法使え」
「ああ」
エレシェフィールはおとなしく離れる。アディの背に隠れている。
「「せーの! 」」
アディの炎魔法とゼーシェリオンの氷魔法が同時に同じ場所を目掛けて放たれる。
わずかにできた空間の裂け目からゼーシェリオン達の姿を確認できた。
「エルグにぃとルーにぃ、解呪魔法を使って」
ルーツエングとイールグが解呪魔法を使う。
「エレ、これ使え! 」
空間の裂け目からペン型の魔法具が飛んでくる。ルーツエングからの贈り物のようだ。
エレシェフィールは渡された魔法具を使って浮かび上がる魔法陣を描き換える。
エレシェフィール達とゼーシェリオン達を阻む空間が消える。エレシェフィールはゼーシェリオンに抱きついた。
「ゼロ、エレ不足で幻覚見えていたみたいだから。あのね、ゼロがいない間にいっぱいいろんな事あったの。でもゼロのお話も聞きたいから同時に話すの」
「それやるとお前が理解できなくなるだろ。俺は理解できるが。だから俺が話した後にエレなんだ」
エレシェフィールは頬を膨らませる。ゼーシェリオンに頭を撫でてもらうと手を繋いだ。
「フォルにもお話があるの。あの魔法陣どっかで見た事あるって。ゼロ知らない? 」
「知らない。エレ知らない? 」
「知らない。フォルに聞くのがいいのー」
エレシェフィールはフォルを頼るために空間の出入り口へ戻る。空間の歪みはまだ健在だが、わずかに消え掛かっている。




