3話 世界管理システムの記録
王宮に戻りノーヴェイズと合流する。詳しい事には気付いていないようだが、ノーヴェイズも雨がおかしいという事には気づいていたようだ。
エレシェフィール達はノーヴェイズに玉座の奥にある隠し扉に案内された。
薄暗い廊下を歩いていくと移動魔法具が設置されている。
エレシェフィール達が移動魔法具に乗ると上空へ床が動いた。
円形の建造物。無機質な壁。中央の魔法機械。それを支える三つの補助魔法機械。そして、冷却魔法具。その魔法具と魔法機械の総称が世界管理システム。
世界同士の干渉を最小限にし、アスティディアを中心に世界を守護する魔法機械。
魔法具技師ノーヴェイズの最高傑作。
エレシェフィールは実際に見るのはこれが初めてになる。室内を見回す。同じ魔法具技師だからこそ理解できる景色は到底届きそうにない。一人では。
「……すごい。これをたった一人で作り上げたなんて」
「元の設計図があったから。何もなしにこんなものは作れないよ」
「それでも、すごいよ。設計師は設計図を描けても作れない。それを形にするのは設計師の想いに向き合い、応える。エレはそういう技師達を尊敬しているの。フィルも……エレの想いを叶える魔法具を……夢を形にしてくれてるから」
きっと、この設計図を描いた人物は、形にしてくれたノーヴェイズを尊敬している。感謝している。同じ設計を得意とするものとして、エレシェフィールは自らの想いを届ける。もっと自信を持っていいという願いを込めて。
「……あの設計図を見た時、本当に世界が大切で守りたい。全ての人が平和に暮らしてほしい……設計図を見ただけでこんな事を感じるのはおかしいって言われた」
「おかしくないよ。僕の兄……フィルもおんなじ。それは君が一流の証だ。優しき願いを叶えようと本気で取り組んできた証拠だ。周りが否定しようと胸を張っていい。アディ、君も魔法具技師を目指すなら覚えときな。これがその道を選んだ者達の見る景色だって」
フォルもきっと——
言葉を呑み込む。その想いだけを胸に留めておく。エレシェフィールは両手を胸に当てた。
「技師は便利を届けるんじゃねぇ。設計師の願いと思い浮かべる優しき夢を届ける。姫さんの設計図を叶える四人目になろうとしてんだ。トーゼン覚えてるぜ」
「なら、この結果もちゃんと受け止めな。どれだけ優秀な設計師と技師の共同作業だっとしても、完璧なんてあり得ないんだ」
そう言ってフォルが中央の魔法機械に触れる。
エレシェフィールが把握しているという条件がつくが、最後にフォルが魔法具や魔法機械の修理に関わったのは百年以上前。その時間を感じさせないほど慣れた手つきで原因を調べている。
エレシェフィールはフォルのその姿を頬を赤らめて見つめている。
原因を知るのをじっと待っている。突然、魔法機械を扱うフォルの右手が震えた。
「……魔星活用実験……第一実験所……ギュリエン、双子宮……実験対象……フュリーナ、リーグリード、ミュンティン、クリンガー、テンデューゼ……実験、失敗……制御不能……更なる実験のため、五名の魂確保、失敗……」
フォルが震える声で記録を読み上げる。
「えっ……それって」
世界管理システム内にあった記録。それ自体が本来であればあり得ない事。そんな疑問を持てるのは余裕があるからだ。エレシェフィールの瞳から涙が溢れる。
黙るフォルにかける言葉が見つからない。
ひどい。きっとどこかにいるよ。なんでそんな事をするの。大丈夫? 泣いていいよ。
違う。そんなものは全部、フォルを余計に傷つけるだけだ。それを嫌というほど理解させられている。
なんで、なんで前に進もうとしたフォルがこんな事実を知らないといけないの。
その想いを言葉にはできなかった。目の前で必死に涙を堪えるフォルを見て。
「……」
「……ごめん。続けるよ。魔星制御の鍵発見。少女の意思を持つ魔星。少女を通して魔星の制御成功。確実性はない。実験候補地、アスティディア」
もうなんともなさそうだ。そんなわけはない。そう見せようとしているだけだ。長い時間が、フォルの隠そうとするものに気づかせる。
「……この中にあったのは、アスティディアで実験後、統治下に置きついでにこれは自分達のものにする。あの連中が考えそうな事だとこんな感じかな」
どうしてアスティディアを選ぶのか。他の国ではだめな理由があるからなのか。思い浮かぶ疑問よりも、平静を取り繕おうとするフォルへの心配で何も言う事ができない。
「……これ直す時間流石にないか。というか、作り直す方が早い。ノヴェ悪いけど機能停止させてもらうよ。結界についてはフィルの魔法具使ってどうにかするから」
「……うん」
「……フォル、浄化魔法はエレにお任せ」
少しでも何か役に立ちたい。そんな想いからエレシェフィールは立候補する。収納魔法から魔法杖を取り出すと両手で握る。
「なら、僕は回復魔法を使うよ。君に合わせるから」
エレシェフィールはこくりと頷いた。エレシェフィールは浄化魔法を使う。それに合わせてフォルが回復魔法を使った。
魔法はアスティディア全土に届いているだろう。エレシェフィールの手にあった発疹も消えている。
エレシェフィールは魔法杖を収納魔法にしまった。
ひとまずはひと段落。エレシェフィールは「ふぁぁ」とあくびをする。
「……ゼロ……ゼロ……どこなんだろ……ゼロいないと休めない」
「僕が抱っこしてあげよっか? 」
「アディに頼むからいいの」
エレシェフィールはアディのそばへ行く。両手を広げてアディを見つめる。
「アディにするならイヴィにして。アディは何かあった時に働いてもらわないと」
エレシェフィールはイヴィに近づく。解析がどうなっているのか。お構いなしで抱っこを要求する。
イヴィに抱っこしてもらうエレシェフィール。その重い瞼を閉じた。
「お疲れ様です、愛姫様。フォルも、お疲れ様です。解析は終わりました。結果は、雨に僅かながら雷由来の魔星の反応がありました。フォルの考えていた通りです」
解析もなしになぜ正確にわかったんだ。そのツッコミをする体力すらない。エレシェフィールは今にも寝そうな状態だ。
「そっか。ありがと。とりあえずゼロを探しいかないとか。ノヴェ、また連絡する」
「うん」
「ゼロいないんですか? 別行動してるというわけではなく」
常にエレシェフィールと一緒にいるわけではない。ゼーシェリオンがいない事に何の疑問も持たなかったんだろう。
エレシェフィールのように説明を受けているわけでもない。イヴィがここで疑問を持つのも当然だ。
「うん。買い物行ったきり音沙汰なし。あの三人で行動してる以上、何かあるなんて事はまずないと思うよ。でも、あの子いないとエレの世話してくれる人いなくなるから。早く行くよ」
「どこにいんのかわかってんのか? 闇雲に探しても時間を浪費するだけだぞ」
「ゼロの方はエレを使えばある程度居場所わかるよ。それでわからない部分は一緒にいるはずのエルグにぃ様とルーの魔法具を頼りにすればいい」
ルーツエングがまとめる組織であるギュシェルで支給されている魔法具だろう。エレシェフィールもいくつか支給されている魔法具を知っている。その一つがフォルの右耳についているイヤリング。通信系統の魔法具。
それに居場所探知系はなかったはず。連絡魔法具も支給されている。だが、あれにもそんな機能はない。なら、何の魔法具にその機能があるのか。そんな事を考えているうちにエレシェフィールは眠った。
眠っている間に場所が移動していた。




