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多世界転生物語〜偽りの姫の居場所〜  作者: 碧猫
2章 エレ編 御巫と聖女
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2話 雨


 俯くエレシェフィール。フォルの右手が頭の上に置かれる。いつも以上に優しい手つきで頭を撫でられる。


「急に色々と言われて大変になってるよね。ごめん、君が整理する時間を作ってあげられなくて」


「……フォルは……フォルだって同じじゃないの? 」


 情報だけでいえば、今回の件エレシェフィールとフォルが持っていたものは変わらないはずだ。むしろ、エレシェフィールの方が持っていた可能性もある。

 エレシェフィールは視線だけフォルに向ける。


「仕事上必要っていうのもあるのかな。情報をまとめて推測を出す。そういうのは得意なんだ。君も知ってるでしょ? だから、大丈夫だよ」


 常に限られた時間の中で答えを出さなければならなかったからだろう。フォルの穏やかな笑顔を見てエレシェフィールは落ち着きを取り戻した。


 エレシェフィールは両手でフォルの右手に触れた。手袋越しにも伝わってくるその温もりを頬で感じる。


「でも……リミェラねぇが呪いの聖女って」


「本人の意思じゃないでしょ。そうであっても裏切りくらいよくある事。それより、必要な事教えるから協力して」


 本当に平気そうにしか見えない。だが、どこか危うさを感じるのはエレシェフィールの気のせいなんだろうか。フォルの事を全て知っているわけでもない。むしろ知らない方が多い以上、気のせいかそうではないか知る事はできない。

 

 エレシェフィールはこくりと頷いた。

 フォルが左耳のイヤリングに触れる。


「呪いの聖女の魔法解呪。魔星を捕えるための魔法具製作。魔星に取り巻く瘴気の浄化準備。アディとイヴィを探す。ついでにゼロ達も。仕事の件はそのあと。これを他の誰かが先に呪いの聖女に接触するか、事が大きくなりすぎて一般市民に隠しきれなくなるか。そうなる前に全て解決しないといけない」


 現在はどうにか隠しきれているんだろう。全てを短時間で終わらせようとすれば明らかに人手が足りなすぎる。いくらフォルであっても難しいんだろう。


 フォルが更に絶望的状況となり得る事を言う。


「すでにヴィングジェアの……あの組織の連中が呪いの聖女を見つけている。僕がエルグにぃ様の命を選んでいると知ったらすぐに動くだろうね……全部、無駄になるかもしれない。でも……君のためにはあっちの命を聞く方がいいって理解してるけど……」


 フォルが呪いの聖女の救済以外の目的がある。それは魔星の浄化と言われた時点でエレシェフィールも気づいている。そしてこの組織の命というのに逆らう事がどう繋がるのかも想像できてしまう。

 それでも、エレシェフィールは何も言わずフォルの言葉を聞く。


 フォルがまっすぐとエレシェフィールを見る。その瞳からは迷いが見られない。


「もう諦めようなんて思わない。君のためなんて言い訳使いたくないんだ。僕は僕のために、あの組織を敵に回してでも彼女を助け出す」


 ——だったら、時間稼ぎは任せて。僕も、君が諦めるとこなんて見たくないから。救う事を、最後まで諦めんな、フォル。


 エレシェフィールにだけ聞こえてくる声。以前も何度か聞いたあの声。


「フォル、時間なら大丈夫だよ。救う事、最後まで諦めないでだって」


「……ほんと、いつも……頼れる人いない時に……ありがと、任せるよ」


「うん……雨? 」


 ぽたぽたと雨が降り始めた。アスティディアでは気候管理を世界管理システムが行なっている。雨が降る時は必ず国中に音声で知らせられる。

 だが、その知らせはない。


「魔法で……ってエレむりか。傘使うよ。アディとイヴィがこの国いるから探すよ」


「うん」


 フォルが収納魔法から傘を取り出した。エレシェフィールはフォルの隣に行く。フォルの左手がエレシェフィールの二の腕に触れる。


「もっと近くきな」


「……ふぇ……う、うん」


 頬を赤くするエレシェフィール。その様子をお構いなしにフォルが歩き出す。



 アスティディアの城下町。エレシェフィール達は神聖の仲間を二人探している。連絡せずに見つけるのは困難だろう。

 エレシェフィールは一方的に連絡できる。その方法を使うべきか、フォルの服の袖を握る。


「使わなくていいよ。大体なら居場所わかってるんだ……エレ、その手」


「……ふぇ? 」


 エレシェフィールの手に赤い発疹ができている。痛みも痒みもない。気づいたのもフォルに言われた今。

 アスティディアに来る前に着替えをした。少なくともその時点で発疹はなかった。


 エレシェフィールは手を隠そうとする。だが、フォルに止められた。フォルが左手を動かすと、エレシェフィールの右手を握った。


「……この辺にいるはず」


「あっ⁉︎ いたの! アディ、イヴィ! 」


 赤髪の青年アディと色素の薄い青色髪の青年イヴィ。フォルが探していた二人。町中で歩いているのを見つけた。


「姫さん」


「愛姫様、お手が」


 イヴィが真っ先にエレシェフィールの手の発疹を見る。エレシェフィールは「大丈夫だよ」と笑顔を作る。


「雨に濡れたらこうなっちゃって。二人は大丈夫? 」


「ええ、我々は雨に濡れてないので」


 アディとイヴィは傘をさしていない。魔法で濡れないようにしているのだろう。


「ところで、この国は世界管理システムで天候管理してるのではないんでしょうか? あまり詳しくありませんが、放送なく雨は降らないのでは? 」


「そのはずだよ。あれが誤作動起こしたなんて事一度もないんだ。壊れたならノヴェが気付いてる。あの子がいない間に外部からの干渉があったか、直接侵入して設定変えたか。どっちにしても相当な腕がないとできない」


 エレシェフィールは周囲を見渡した。外で歩く人々は発疹に気づいていない。気づいていても気にしていない。その二択だろう。今の所混乱はないようだ。

 地面に溜まった雨水は普通の水にしか見えない。


 エレシェフィールは左手を傘から出した。


「エレ? 」


「……なんかちょっとぴりぴり。普通なら気づかない程度にぴりぴり。魔力ぴりぴり」


 エレシェフィールの感覚。わずかにだが電気を感じる。普通の人であれば気付かないほど微量なものだが。


「イヴィと傘持ってて」


「はい」


 エレシェフィールから手を離してフォルが左手の手袋を取る。魔法を解いたのだろう。フォルの左手が濡れて赤い発疹ができる。


「……微量に特殊な雷魔法を纏ってる。人にもよるんだろうけど、身体が弱い子供なら二時間程度で気絶するんじゃない? で、原因不明だと騒ぎ立てる。世界管理システムの不具合を疑う。王への不信感にもなってくるだろうね。回復魔法で治るけど、混乱を招くのは間違いないだろう」


 顎に左手を当てて淡々と言うフォル。エレシェフィールはフォルの方を見る。


「……混乱が起きた後に雨の影響をなくす奇跡の魔法師とかが助けるんじゃない? で、国民の信用はどこにいくんだろうね? 」


「……」


「……イヴィ、雨の成分解析しといてくれる? 連中の思い通りになるのも癪だ。どうにかしてやるよ」


 エレシェフィールはキラキラと目を輝かせる。その目でフォルをじっと見つめる。尻尾があれば高速で左右に振られているだろう。


 フォルが視線だけをエレシェフィールに向ける。何も言わずともエレシェフィールが考えている事など理解しているんだろう。すぐに視線を離した。


「エレ、君にも手伝ってもらうよ」


「はーい……ふっふっふ、フォルの近くでフォルのかっこいいところ観れるの。すきなの」


 両手で口を隠して小さく飛んでいる。


「……置いてくよ」


「やだー」


 フォルが一人で王宮の上、世界管理システムのある場所まで向かおうとする。エレシェフィールはてこてこと急いでついていく。

 優しく、強く、でもどこか脆く弱いその背中を追う。

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