2話 雨
エレが俯いていると、フォルの右手が頭に乗った。撫でる手がいつも以上に優しいの。
「急に色々と言われて、大変になってるよね。ごめん、君が整理する時間を作ってあげられなくて」
口調も優しい。
「……フォルは……フォルだって同じじゃないの? 」
この件、多分手持ちの情報は、エレもフォルもそこまで変わらなかった。むしろ、エレの方が知っていたかもしれないと思う。だから、急に色々知ったのはフォルも同じのはずなの。
エレは、視線だけをフォルに向けた。
「仕事上必要っていうのもあるのかな。情報をまとめて推測を出す。そういうのは得意なんだ。君も知ってるでしょ? だから、大丈夫だよ」
お仕事だからは知ってるの。フォルは限られた時間と情報だけで、正解に辿り着かないといけない。そういうお仕事をしているの。ていうか、考えてみたらさっきから知った事、フォルの推測の答えだけな気がする。
穏やかな笑顔を見せるフォル。エレはそれを見て、落ち着きを取り戻したの。
「でも……リミェラねぇが呪いの聖女って」
まだ信じたくはないの。リミェラねぇは、不思議なところもあるけど、こんな多くの人達を傷つける事なんてしないの。
「本人の意思じゃないでしょ。そうであっても裏切りくらいよくある事。それより、必要な事教えるから協力して」
フォル、本当に平気そう。でも、どうしてなんだろう。平気そうに見えて、どこか危うい感じがする。
エレはフォルの事をほとんど知らない。だから、それが気のせいかどうかなんてわかんない。
とりあえず、返事。エレは頷いたの。
フォルが左耳のイヤリングに触れる。確か、ギュシェルの通信魔法具。
「呪いの聖女の魔法解呪。魔星を捕えるための魔法具製作。魔星に取り巻く瘴気の浄化準備。アディとイヴィを探す。ついでにゼロ達も。仕事の件はそのあと。これを他の誰かが先に呪いの聖女に接触するか、事が大きくなりすぎて、一般市民に隠しきれなくなるか。そうなる前に、全て解決しないといけない」
やる事多いの。しかも時間制限付き。フォルはどうしてこれをすらすらと言えるんだろう。
それに、これ時間制限あるならエレ達だけじゃむずかしいと思う。
「すでにヴィングジェアの……あの組織の連中が呪いの聖女を見つけている。僕がエルグにぃ様の命を選んでいると知ったらすぐに動くだろうね……全部、無駄になるかもしれない。でも……君のためには、あっちの命を聞く方がいいって理解してるけど……」
フォルが追い打ちをかけるように、絶望的状況教えてくるの。
それにしても、どういう事なんだろう。魔星の浄化が関係あると思うけど、無駄になるとかエレのためにはとか。わからない事ばかり。
組織だってわかってないの。知ってるのはヴィングジェアが全種族の頂点だとか言っている人達ってくらい。それでも、今は黙って聞いておくの。
エレを見るフォルの瞳。あの時みたいな迷いなんてなさそう。
「もう諦めようなんて思わない。君のためなんて言い訳使いたくないんだ。僕は僕のために、あの組織を敵に回してでも彼女を助け出す」
——だったら、時間稼ぎは任せて。僕も、君が諦めるとこなんて見たくないから。救う事を、最後まで諦めんな、フォル。
フォルの言葉に反応したかのように、エレにだけその声が聞こえたの。聞き覚えのある懐かしい声。でもね、一つ言わせて欲しいの。それ、フォルに言わないと意味なくない?
「フォル、時間なら大丈夫だよ。救う事、最後まで諦めないでだって」
仕方ないから教えてあげる。
「……ほんと、いつも……頼れる人いない時に……ありがと、任せるよ」
誰かなんて言っていないのに、フォルは誰かわかったみたい。エレもわかってるの。
「うん……雨? 」
ぽたぽたと雨粒が落ちている。そういえば、ここお外だった。王宮のお庭。
この国は気候管理を世界管理システムが行なってるから、雨が降る時は放送されるはずなのに。なぜかされてないの。
「魔法で……ってエレむりか。傘使うよ。アディとイヴィがこの国いるから探すよ」
フォルはできても、エレはできないの。魔法で雨を防ぐなんて。
「うん」
エレが頷くと、フォルが収納魔法から傘を出して、開いてくれた。一本の傘。エレとフォル——
フォルが左手で傘を持って、エレの隣にくるの。
フォルの左手がエレの二の腕に触れる。傘を持ってるから、棒部分当たってちょっと冷たい。
フォルは魔法があるからなのかな。エレが傘の中に入れるように、気遣ってくれてるみたい。
「もっと近くきな」
「……ふぇ……う、うん」
ほっぺぽかぽか。エレの様子なんて、お構いなしにフォルが歩き出すの。
エレ達は城下街で、ある人物を探すの。フォルのお話に出ていたアディとイヴィ。神聖の仲間。
城下街は広いから、何もなく探すのはむずかしい。エレは範囲が限られるけど、一方的に連絡できるからその方法を使えばいいと思う。とフォルに言おうとする。フォルのお洋服の袖をちょいちょいって引っ張って。
「使わなくていいよ。大体なら居場所わかってるんだ……エレ、その手」
手?
「……ふぇ? 」
フォルに言われて右手を見る。赤いブツブツできてる。痛いとか痒いはないの。
いつからかもわかんない。少なくても、お着替えの時はなかった。
「……この辺にいるはず」
本当にわかっているみたいなの。歩いているのも迷いなし。
「あっ⁉︎ いたの! アディ、イヴィ! 」
赤髪と色素の薄い青髪発見。赤がアディで、色素の薄い青がイヴィ。
「姫さん」
「愛姫様、お手が」
二人も気づいたの。イヴィは真っ先にエレの手に気づいたの。エレは「大丈夫だよ。」って笑顔を作るの。
「雨に濡れたらこうなっちゃって。二人は大丈夫? 」
二人とも傘を持ってないの。手ぶら。
「ええ、我々は雨に濡れてないので」
うん。一応聞いたけど、見た目で濡れてないもん。本当に便利。その魔法。エレも使えるようになりたい。
「ところで、この国は世界管理システムで天候管理してるのではないんでしょうか? あまり詳しくありませんが、放送なく雨は降らないのでは? 」
イヴィは魔法具とか魔法機械詳しくないの。それでもおかしいって思うみたい。
「そのはずだよ。あれが誤作動起こしたなんて事、一度もないんだ。壊れたならノヴェが気付いてる。あの子がいない間に外部からの干渉があったか、直接侵入して設定変えたか。どっちにしても、相当な腕がないとできない」
フォルは詳しい。
歩いている人を見ると誰も気にしてない。気づいているのかすらわからないの。放送がないのに雨が降ったからって混乱がないのは、いい事だと思う。混乱になってたら大変だから。
お次は地面。溜まっているお水は、普通のお水にしか見えないの。
雨にもう一度触れれば、何かわかる気がする。エレは左手を傘から出したの。
「エレ? 」
フォルが何してるのって感じで、エレを見ている気がする。
「……なんかちょっとぴりぴり。普通なら気づかない程度にぴりぴり。魔力ぴりぴり」
これは立派な調査なんです。そう教えるために、ちゃんと普通の雨ではない部分を言うの。
「イヴィと傘持ってて」
「はい」
フォルがイヴィに傘を預けて、左手の手袋をとっているの。
魔法を解いたのか濡れている。濡れた部分が赤くブツブツなってる。
「……微量に特殊な雷魔法を纏ってる。人にもよるんだろうけど、身体が弱い子供なら二時間程度で気絶するんじゃない? で、原因不明だと騒ぎ立てる。世界管理システムの不具合を疑う。王への不信感にもなってくるだろうね。回復魔法で治るけど、混乱を招くのは間違いないだろう」
赤いブツブツ理由は不明。肌に炎症できてるのかな。
淡々と言っているフォル。どうしてそんな事をするのかまで教えてくれる。
「……混乱が起きた後に、雨の影響をなくす奇跡の魔法師とかが助けるんじゃない? で、国民の信用はどこにいくんだろうね? 」
「……」
どこになんてわかるよ。エレも同じような罠に嵌った事あるから。
「……イヴィ、雨の成分解析しといてくれる? 連中の思い通りになるのも癪だ。どうにかしてやるよ」
そ、それはまさか。エレは目をきらきら輝かせてフォルを見るの。こんな状況だけど、こんな状況だからこそ見れるものがあるの。
「エレ、君にも手伝ってもらうよ」
「はーい……ふっふっふ、フォルの近くでフォルのかっこいいところ観れるの。すきなの」
両手でお口を隠して小さく跳ぶの。喜び表現。
「……置いてくよ」
「やだー」
フォルに置いてかれないように、世界管理システムの場所へ向かうの。
優しくて、強くて、どこか脆いその背中を追うの。




