1話 御巫の記述の謎
ジュンドの森で協力してくれたイールグ。彼とフォルに頼んで貸してもらったユグベーズ手記の写本。
アスティディアの国王への献上品だったからか、記述者ユグベーズの使う紋章が押されている。
ベッドの上で手記を読み終えたエレシェフィールは隣にいるフォルに抱きついた。
「わかんないよ。どうして姿が変わったの? それに元の世界って? ……わかんないよー」
全て読めても、謎が増えているだけ。フォルが手記をエレシェフィールの手から回収して収納魔法にしまっている。
泣きつくエレシェフィール。話を聞いているのか怪しい状態のフォル。フォルは左手でエレシェフィールの頭を撫でて、右手で書類を持っている。
「……エレ、悪いんだけど仕事付き合って。呪いの……とりあえず、話聞き行くよ」
「ふぇ⁉︎ う、うん」
エレシェフィールは急いで着替えをする。持ってはいるが読んだ事はなかったんだろうか。エレシェフィールの着替えを待つフォルが手記を読んでいた。
現在、ゼーシェリオンはルーツエングとイールグと買い物に行っている。ゼーシェリオンが帰ってきた時、エレシェフィールを探しに行くかもしれない。そうならないよう、書き置きを机に置いておく。ゼーシェリオンなら、ぎりぎり読めるだろう。
「……赤髪だけじゃわからないか」
「何が? 」
「なんでもない。それより支度できたんなら行くよ。急がないと、取り返しのつかない事になる」
エレシェフィールは全く理解していない。なんの説明もされないまま、どこへ行くかも知らされないまま、フォルが転移魔法を使った。
転移先は栄えている国。国全土が人の手を加えられている。記述には詳しく書かれていなかったが、景観がかなり考えられている。
防衛は結界魔法具を用いているようだ。国境の周辺の柱。そこに結界魔法具が付けられている。
「フォル、ちゃんと説明して欲しいんだけど」
「ごめん。先に用事を済ましたくて。さっきも言ったけど、急がないと取り返しがつかない事になりかねないんだ」
表情に出さないから分かりずらいが、今回は本当に焦っているんだろう。エレシェフィールは左手を動かした。フォルの右手を握る。
王国の中心にある巨大な建物。フォルはそこに向かっているようだ。エレシェフィールは、景色を眺めながらついて行っている。
「……噴水って場所どこにあるんだろ」
記述に書かれていた枯れた噴水。エレシェフィールはそれを探しているが見当たらない。
「王宮の敷地内にあると思ったよ。今はあの記述のように枯れているわけじゃないけど。水系の魔法具を取り付けて水で満たしているみたいだよ」
「さすがはあの世界管理システム製作者なの。尊敬。とっても尊敬。凄まじく尊敬。とっても素敵なの。エレもノーヴェイズ製も魔法具欲しい。出回ってないから買えないけど……あれ? そういえばあの不思議な女の子って誰なんだろう? 」
エレシェフィールはきょとんと首を傾げた。その前までの言動が原因だろう。無意識なんだろう。普段から一緒にいても気づけないほどの変化だが、フォルが不機嫌を顔に出している。
「……さぁね。そのうち答えが出るんじゃない。それより早く行くよ」
フォルが歩く速さを買えた。エレシェフィールは小走りでついていく。
巨大な影で覆われている場所。エレシェフィール達はその影に入った。
影の中にある円形に魔法機械の上にエレシェフィール達は立った。
「あれ? ここって誰でも入れるわけじゃないよね? 」
「うん。僕は仕事関係もあって、ルーから暗号を聞いてるから大丈夫だよ。ほんとおもしろいよね。身分を示すものじゃなくて暗証番号で行き来するなんて。忘れたらどうするんだろう」
フォルが暗証番号を入力している。円形の魔法機械が上昇した。
地上に影を作る巨大な建物の中にエレシェフィール達は入った。
アスティディア王国の王宮。王宮だというのにリブイン王国のような宝石をあしらった豪華な装飾は見られない。
歴史を残しておきたいのだろう。記録保存の魔法具が至る所に置かれている。壁には御巫が転移した村付近にあった素材を使っているようだ。
「いつも思うけど不思議だよね。歴史の記録の残し方。紙に残すんじゃなくて、魔法具や石板とかを使って残しているんなんて」
世界管理システムの内部。王宮全体。王国の中にも、残りやすい素材を使って歴史を綴っている。
「いるか、あの村の人達が元に戻った時に混乱しないように。何があったのか詳しく書いておきたいみたい……あれだと、望み薄な気がするけど」
「ふぇ? 」
「……エレ、もしあの村の人達のような魔物見ても絶対に浄化魔法は使っちゃだめだよ」
なぜ急にそんな事を言うのか。それを理解するよりも先に、嫌な想像をしてしまう。あの村の人達はもう——
「……一応、頭に入れといて。元に戻ったとして、こんな栄えた国を見たらびっくりしちゃうんじゃないかなって」
「……国王になっても、大切な人を助けても、ずっと村の事を思っているんだよね? びっくりはしちゃうかもだけど、その想いが通じればいいって思いうの……なんだか、他人事とは思えないから」
エレシェフィールもどこか大切に想っている場所があるのだろう。ギュリエンは大切。だが、その想いとは少し違う。もっと、別の場所。世界かどうかも怪しい場所。
エレシェフィールはそこをどこかなど思い出せない。
「あっ⁉︎ ごめん、会議が長引いて」
金髪の少年が奥から顔を出す。玉座の前まで走っているが座らない。
「久しぶり、ノヴェ。仕事で少し聞きたい事があるんだ。あの村で起きた事を君から詳しく教え……いくつか聞きたい事があるから教えて」
金髪の少年はかつて和泉と呼ばれていた。現在はノーヴェイズと名乗っている。かつてこの場所にあった村で起きた事件の当事者。
先ほどから何度も言っている時間の問題だろう。フォルが途中で言葉を変えた。
「いいよ」
「ありがと。なら赤髪の女性と女の子の特徴を教えて」
「腰上くらいまでの赤髪で左目は髪で隠れて見えなかった。身長は……ヒャク……ロクジュウナナからナナジュウくらい。あと……瞳の色が琥珀色に見えたけど、夕焼けでそう見えたのかもしれない。女の子の方は」
ノーヴェイズがエレシェフィールを見つめる。
「……エレに似ていた。外見も雰囲気も」
絶対にありえない。エレシェフィールは当時ノーヴェイズと会っていない。それどころか、エレシェフィールはあの頃一人で行動する事はほとんどない。そして何より、当時のエレシェフィールはノーヴェイズよりも一、二歳幼い程度。あの手記にはもっと幼そうに書かれていた。
だが、否定できない。早くなる鼓動。
「……間違いない、か……ノヴェ、噴水見せてくれない? 魔法具つけといていいから」
「うん」
立ち尽くしているエレシェフィールの左手に感じる温もり。引っ張られるまま噴水のある場所へ向かう。
噴水の周囲には花が咲いている。エレシェフィールは心を落ち着かせようと花を見ている。
「……水の中かな。エレ、おもしろいもん見せてあげるよ」
エレシェフィールは噴水を見る。フォルが噴水に魔力を注いでいる。水が放つ光が魔法陣の形となる。
「エレ、何かわかる? 」
フォルがエレシェフィールに視線を向けた。エレシェフィールは首を横に振る。目の前にある複雑な魔法陣は見た事がない。
「邪魔変魔法……これで確定か」
「……みゅ? 」
「……あの組織から命じられたのは呪いの聖女の抹殺。エルグにぃ様からは呪いの聖女の救済。これで確定でいいだろう。呪いの聖女はリミェラ」
ただでさえ回らない頭をさらに止める。エレシェフィールは瞳に涙を溜める。
「……言っとくけど、君がどうしようと変わらなかったよ。ゼロならどうにかできた可能性はあったけど、むりって決めつけすぎ。あの段階ならむりやり破壊すればいいのに」




